異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
太陽の姫の猛攻は、止められるようなものでは無かった。次々とやられていく仲間達。致命傷は何とか避けていたものの、戦場にいても戦えなくなるほどに傷付く者達が多い。磯波、萩風、阿賀野さん、夕立と倒れていき、私、陽炎も沖波を護るために奮闘したのだが、届かず。そして……。
「私ハ太陽ノ姫ノ巫女……日ノ光ニテ染マル者、『空』」
太陽の姫による分霊が施されてしまい、沖波は太陽の姫の巫女、『空』として生まれ変わってしまった。最悪な展開だ。太陽の姫の思い通りに事が進んでしまっている。
すっかり変わり果てた沖波は、その変化の快楽でビクンビクンと震えながらも、私達のことを無視するように太陽の姫の方を向き、恭しくスカートの裾を摘んでお辞儀した。
「
あれ程までに敵対していた太陽の姫を、仕えるべき者として認識し、心の底から跪いていた。
もうあの沖波は私の知る沖波ではない。太陽の姫により、その存在そのものを書き換えられた、似た姿をしている深海棲艦なのだ。あれを倒さなければ、沖波を取り戻すことが出来ない。一度死を迎えさせることで、元に戻すことが出来る。だが、一筋縄では行かない事くらい、やる前からわかっている。
「ンッフフ、仲間ガ増エタワ。主様ノ素晴ラシサヲ知ッテモラエテ、私モトテモ嬉シイ」
「フフ……拒ンデイタノガ馬鹿馬鹿シクナル清々シサデス。今マデゴメンナサイ、雲。コレカラハ私モ、巫女トシテ我ガ神ニ尽クシテイキマスネ」
あの沖波が『雲』とも仲良くしている姿が歯痒い。今までの友好関係などもう忘れてしまったかのように、こちらに視線を合わせもせずに楽しんでいる。
もうあの沖波は一度殺すしか無い。私の時のように。この先の罪を犯させるわけにはいかないのだ。元に戻れたとしても取り返しがつかなくなる。私であれだけ苦悩したのに、沖波が耐えられるかわからないのだ。
絶望に打ちひしがれているだけじゃダメだ。私が奮い立たなければ状況は好転しない。ただでさえ、今この戦場にある仲間達が次々と倒れているのに、まだ動ける私が動かないでどうする。
「っ……沖波ぃ!」
奮い立たせて沖波を狙い撃つ。私の方を無視しているのだから、卑怯だろうが関係無い。隙だって突くしズルいことだっていくらでもやってやる。
「……煩イナ。我ガ神ト話シテイルンダカラ、黙ッテテクレナイカナ」
しかし、こちらをチラリと見た瞬間に背中の主砲の全てが私に向き、一斉射。私の撃った弾をも呑み込んで、私に全てが放たれていた。明らかな殺意が乗った砲撃は、親友だったことも何もかも忘れたかの如く、力の限りを撃ち尽くして私を滅ぼそうとしてきた。
その時の視線は、至福の時間を邪魔する者として、完全に軽蔑する目。元の沖波からは考えられない、他人を見下す視線。私には怒りや憎しみすら乗っていそうな程に鋭い視線だった。
沖波からの砲撃は脱力回避により全て回避する。しかし、前に進むことが出来ないくらいの密度で撃ち続けられたため、嫌でも下がらざるを得なかった。
その時にはもう私に興味を失ったように鼻で笑い、再び太陽の姫に向き直っている。言い方は悪いが、媚びるような表情で太陽の姫に寄り添う。
「我ガ巫女、空ヨ」
「ハイ、何ナリト御命令ヲ、我ガ神」
「貴様ノ真ナル目覚メノタメ、貴様ノ手デ、憂イヲ断テ」
私の時と同じだ。最愛の者を自らの手で殺めることにより、巫女として完成する。しがらみを全て取り払い、不安要素を全て取り払うつもりだ。ああなっても後ろ髪を引かれるようなことがあっても困るのだろう。だから、自ら決別させて全てを捨てさせる。
私の場合は父さんだった。沖波の場合はどうなる。おそらくそのために誰も殺していないのだろうし、ここで仲間を皆殺しにさせる算段か。
「力ヲ振ルエ。貴様ハ我ガ巫女、
「カシコマリマシタ、我ガ神。シカシ、私ノ一番ノ憂イハ……貴女様ノ巫女トナリ得ル者、陽炎ナノデス」
ここにいる最愛の者として選ばれたのは、私だった。おそらく一番関係が深いのは私になるだろう。幼馴染みだし、ここ最近は私の側にいてくれることも多かった。私を元に戻すために、業を背負ってくれたのも沖波だ。
だからこそ、今の沖波にはとっては私という存在が一番のしがらみになっている。私を消すことが完成に近付ける。それを太陽の姫が許すかはわからない。理由はわからないが、奴は私も欲しがっている。
「貴女様ノ御慈悲ヲ否定スル愚カ者ヲ、コノ手デ八ツ裂キニシタイノデスガ、ヨロシイデショウカ」
それ程までに私の存在を憎んでいる。私は太陽の姫に見初められているのに逆らう者。泣いて喜ぶ程の栄誉を踏み付けるのだから、死んで然るべきとなっている。それだけ太陽の姫を心酔するように変えられてしまったのだ。それが堪らなく悲しい。
私だってあの時はおかしくなっていた。皆殺しすることが太陽の姫のためになると思い込んでいたくらいだし、今の沖波も同じ感情を持っているはずだ。陥れることが愉しくなっている。しかも、私の時とは違って今は太陽の姫の前なのだから、漲るほどにやる気満々だろう。
「痛メ付ケル程度ニスルガイイ。奴ハ
しかし、太陽の姫の解答はコレである。あくまでも私は生かしておきたいらしい。特別とは何だ。私自身がわかっていないところで何が起きている。
「ソウデシタカ。出過ギタ真似ヲシテ申シ訳御座イマセン。陽炎以外ハ全テ排除致シマス。全テガシガラミデスノデ」
「構ワヌ。モウ一人ノ選バレシ者ハ、我ガ堕トス。他ハ貴様ノ好キニセヨ」
太陽の姫の次の狙いは衣笠さんだ。衣笠さんもM型異端児、つまり世界に選ばれし者。殺すのではなく引き込む方向で事を進めようとしている。むしろ殺しては面倒なことになると言わんばかりだ。
自分が狙われていると理解しているため、この間にも衣笠さんは重傷の磯波と萩風を拾って工廠方向に撤退していた。自分の身の安全もそうだが、磯波と萩風はすぐに入渠しなくてはいけないくらいに危険だ。
つまり、今この戦場に残されている中で、まだ戦えそうなのは私と由良さんだけ。阿賀野さんと夕立は酷い怪我ではあるがまだ立ち上がっている。しかし、そのまま戦闘をしては危険な状態であることは変わらない。
「我ガ巫女、雲ヨ。奴ラヲ追エ」
「了解デス、主様。選バレシ者ヲ献上致シマショウ。他ハ排除デスネ」
「ソレデイイ。分霊モ好キニシロ」
撤退する衣笠さんを追うため、下がっていた『雲』が動き出す。私達のことなど放っておいて、工廠に向かってしまった。沖波も大事だが、あちらも重要だ。未だに『雲』の対策がしっかりと組み上がっていないのだから、為す術も無くやられる可能性だってあり得てしまう。
「行かせるか!」
「貴女ノ相手ハ私。我ガ神が痛メ付ケテイイト仰ッタンダカラ」
私が『雲』を追おうとした瞬間、沖波が私に向けてありったけの砲撃を放ってきた。全てが並ではない火力であり、掠るだけでも大ダメージを受けてしまいそうな程。
まだ脚の方は大丈夫だ。初月インナーは破れてしまっているため、サポーター効果は半減してしまっているが、痛みはまだ無い。その砲撃は全て回避して『雲』に向かおうとしたが、進行方向に太陽の姫による水柱が立ち昇ったことで妨害された。奴はあくまでも私と沖波の戦いが見たいらしい。
「沖波ぃ……!」
「私ハ『空』。ソノ名前デ呼バナイデクレル? 吐キ気ガスルノ」
私の接近に対応して魚雷まで放ってきた。回避方向を突発的に変えなくてはいけないので、脚への負担が激しくなる。流石は親友、私の弱みをよく理解しているじゃないか。腹が立つ程に。
「アンタは! 私の親友の沖波でしょうが!」
「元、デショウ。貴女ナンテ友達デモナンデモナイ愚カ者。アア、マタ我ガ神ノ巫女トシテ屈シテクレレバ、友達ニ戻レルカモネ」
回避しながら砲撃に打って出るが、紙一重で避けられる。全てがそれだ。私の脱力回避、陽炎の揺らめきのような回避でも無ければ、『雲』の扱う雲隠れ、擦り抜けとも違う。『空』と名乗るだけあり、攻撃は
巫女にはその名に因んだ回避能力が与えられるように思えたが、沖波もそうだった。すり抜けるような回避では無いが、とにかく当たらない。
「屈シテヨ、私ノタメニ。マダ友達デイタインデショ。太陽ノ姫ノ巫女、『陽炎』」
「私は艦娘陽炎だ! 太陽の姫の巫女じゃない!」
撃てども撃てども全てが空を切る。そしてあちらの砲撃は脱力回避によりすり抜ける。戦いは進まないが、私は消耗させられる一方だ。ジリ貧なのは自分でも理解している。
しかし、一縷の望みに懸けて回避し続ける。必ず逆転の一手が隠されている。万能な戦力なんてあり得ない。
「っぽい! 夕立はっ、まだやれるからぁ!」
その回避合戦に横槍を入れてくれたのは、傷だらけの夕立である。太陽の姫からの砲撃を喰らったことで艤装は半壊し身体中も血だらけだが、気力だけで立ち上がって沖波に向けて砲撃を入れてくれている。勿論私には当たらないように。
これで戦力増強と言いたいところだが、夕立は限界が近い。それに、何かあったら太陽の姫が動き出しかねない。今は沖波の動きを見ているようだが、何をしでかすかわからないのが太陽の姫だ。突然分霊に動き出すなんてことだってあり得る。それだけは確実に避けなくてはいけない。
「貴女ガ先ニ死ニタイノカナ、陽炎ノ犬メ」
「っはは、オキ、夕立のことそんな風に思ってたっぽい? そういうの聞けるの結構嬉しいかな」
「何余裕ブッテルノ? ソンナ血塗レデ、何ヤッテモ当タラナイクセニ」
深海棲艦化により性格が変わってしまうのはわかるが、沖波に関してはこれが本音かどうかもわからないため何とも言えない。わざと煽るような嫌味でネチネチ責めているようだが、夕立はそんな言葉を聞いてもお構いなしに砲撃を繰り返す。
しかし、消耗は歴然としていた。いつもの夕立の精度ではないし、連射能力も落ちているのは確か。血を流し続けているせいで、常に命を消費し続けてしまっている。入渠せねば、このまま死まで見えるほどに。
「阿賀野もぉ、まだまだやれるんだよねぇ!」
その逆側からは阿賀野さんの砲撃。本来持つ主砲の1基は破壊されてしまっている上に、基部すらバチバチと火花が散っているが、残っている分で応戦してくれていた。
まだやれるなんて嘘であることがすぐにわかった。身体もまともに動かない可能性だってある。それだけのダメージを受けてしまっている。
「貴女モ邪魔ヲスルンダ。死ニ体デ何ガシタイノ」
「何ってそんなの決まってるでしょ。悪い子にぃ、お仕置き!」
艤装が破壊されていても無反動で撃ち続けているのは流石としか思えない。長く続けているからこそ、身体が完全に覚えている。
そして、阿賀野さんも沖波を
「ッチッ、イイ加減、鬱陶シイ! マトモニ戦エナイノニ、シャシャリ出テコナイデ!」
2人からの砲撃を回避しながら私に攻撃していたが、それがそろそろ癇に障ったようで、舌打ちしながら感情的に周りにばら撒いた。回避するのも一苦労な乱射に、私はどうにか脱力回避で何とかするが、夕立と阿賀野さんにはかなり厳しい状況である。
「夕立ちゃんは由良が助けるから!」
「了解!」
そのタイミングでまだ無傷に近い由良さんが動いてくれていた。近い夕立を引っ張ってくれたため、私が阿賀野さんの救出へ。無理矢理にでも回避させるしかなく、スピードに任せて射線から押し出すくらいしか出来なかった。
その衝撃だけでも阿賀野さんは消耗を重ねてしまうのだが、まだ死んでいないのだからマシ。しかし、そろそろ撤退をしなくては、本格的に命に危険が及ぶ。艤装のおかげで痛みは最小限にされているが、体力の消耗はどうにもならない。
「阿賀野さん、退いて!」
「いやぁ、退きたいんだけどねぇ……実は海の上にいるのが精一杯だったりするんだよね。航行はギリギリだけど、逃がしてもらえるかなぁ」
タハハと笑いながら言うが、笑い事ではない。ダメージが大きすぎる。余裕そうな表情とは裏腹に、出ている血の量がまずいことになっている。
これは退避してもらわなくては困る。いるだけで巻き込まれてしまうのだから、少しでもここから離れていただきたい。それこそ太陽の姫に邪魔されそうだが。
「ドウセ動ケナインデショ。ナラ死ンデ。ココデ死ンデ。今スグ死ンデ。私ノシガラミ達ハ、ココデ消エテモラワナクチャ」
そんなことさせない。誰も死なない。必ず沖波を救うんだ。私のために業を背負ってくれた沖波を、私の手で救うんだ。恩を返すんだ。
その時の私は気付いていなかった。私の中に小さく、本当に小さく、