異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

136 / 284
訪れる限界

 太陽の姫に分霊を施されてしまったことにより、太陽の姫の巫女『空』となってしまった沖波との戦闘は続く。まともに動けるのは私、陽炎と由良さんのみ。夕立は傷だらけで、阿賀野さんは動くのも難しいかもと言い出してしまっている。

 

「マズハ死ニ損ナイノ阿賀野サン、貴女カラ殺ス。何ガオ仕置キダ。動ケモシナイデ口バカリ」

「へっへへ、やれるもんならやってみなよ」

 

 強がりであることは一目瞭然である。今すぐにでも撤退してもらわなくては、入渠でも手遅れになりかねないほどの怪我だ。航行自体は出来るにしても、ここから退くのはかなり難しい。

 なら、私が守りながらでも撤退してもらうか。しかし、太陽の姫は沖波のことを見ているだけでそこにはいる。沖波の手が足りなくなった時、何かしらのちょっかいを出してくるかもしれない。事実、衣笠さんを追う『雲』を私が止めようとした時、水柱によって妨害されたのだ。

 

 間髪入れずに阿賀野さんに向けて全砲門による砲撃を放った。沖波も動くことが難しいことを理解して即座に狙っている。考えるまでも無く、一番簡単だからだ。

 

「やらせるかっての!」

 

 脱力回避による高速移動で阿賀野さんの側へと駆け寄り、強引に突き飛ばす。位置がちょうど良かったか、撤退ルートの方に押し出せたのは良かった。

 代わりに私がその砲撃の射線上に立つことになったが、さらにもう一度脱力回避をすることで全て回避。そこから前進して沖波の眼前まで突っ込み、一撃必殺の砲撃を放つものの、やはり空を切る。

 

「『陽炎』、貴女ハ早ク諦メテ我ガ神ニ屈シナヨ。友達ニ戻リタインデショ? 馬鹿ジャナインダカラ、考エレバドチラガ自分ノタメカワカルコトナノニ」

「ふざけたこと言ってんじゃないよ。誰がこんなクソ能面の下につくか馬鹿」

 

 本人の前での侮蔑で、沖波が明らかに苛立ったのがわかった。やはり、深海棲艦化させられたことによって太陽の姫への忠誠心が異常に高められているのがわかる。奴から直の分霊である巫女なのだから、そうなってもおかしくはない。私だってそうだったのだから。

 だからこそ、そこを突く。巫女とて元は人間。沖波に至ってはついさっき変えられたばかりだ。人間らしさは他よりも残っている。故に、精神攻撃が効くと見た。

 

「アイツは私の親を殺してる仇なんだ。そちらこそ、馬鹿じゃないんだから、ちょっと考えればわかるでしょ。私が従わないことくらい」

「本当ニ愚カ。蜘蛛ノ糸ヲ垂ラサレテルノニ自分デ千切ルナンテ。寵愛ヲ受ケル価値ナンテ無イ」

 

 こうなると沖波の相手は私だ。あちらは私を痛め付けることが目的。太陽の姫的には死んでも別に構わないくらいで言っていたものの、出来る限り手駒にしたいとも言っていた。

 あの沖波のことだ。あんなことを言いながらも、太陽の姫の言葉を忠実に守り、私を半殺し程度で留めるつもりだろう。太陽の姫に反発する私は、沖波の中では敵以上に気に入らない存在だろうから、痛め付けるのも苦ではないし、もしかしたら気持ち良くなってしまうかもしれない。

 

 これ以上やらせたら、戻って来れなくなる可能性がある。ただでさえ短時間の深海棲艦化でも忠誠心という後遺症が夕立と磯波に残ってしまっているのだ。沖波を元に戻せたとしても、酷い後遺症が残る可能性は充分にあり得る。

 すぐにでも救いたい。あの心優しい沖波に戻ってもらいたい。業を背負ってくれた沖波だからこそ、私の手で救いたい。沖波を殺す業は、私が背負えばいいから。

 

「あのクソ能面からの寵愛なんて、こっちからゴメンだ! かかってこい沖波ぃ!」

「……気ニ入ラナイ。我ガ神ノ寵愛ヲ無下ニシテ、ソノ態度。ヤッパリ私ノ一番ノ憂イハオ前ダ! 陽炎!」

 

 わざと大振りに砲撃をし、沖波には私しか見ていない状態にする。太陽の姫を罵りまくって怒り狂わせれば尚良し。私も大分消耗しているが、夕立や阿賀野さんよりは全然マシだ。まだ戦える。

 この間に由良さんに他の2人を運んでもらいたかった。戦場に私1人になってしまうが、ここにいる方が危ないというのなら私がここで食い止めてやるしかない。太陽の姫の横槍さえ無ければ、すぐにでも向かえるはずだ。

 

「逃サヌ」

 

 だが、私の思惑は太陽の姫には筒抜け。由良さんの足下から水柱が立ち昇り、かち上げられてしまった。今まで何度も見せられていたが、あの原理だけは意味がわからない。

 さらには後光のような砲撃。空中でどうにか出来ないのは由良さんも同じであり、その状況だと艤装を盾にして被害を最小限にするしかなくなる。だが、今までそれを受けてきた全員が、最小限を目指していたにもかかわらず、全員が大怪我を負ってしまっているのだ。

 

 しかし、由良さんは一味違った。これまでの怪我人の行動を教訓にしていたのだ。

 

「由良だって、ここの艦娘なんだからねっ! ねっ!」

 

 空中で身を切り返した瞬間、太陽の姫の砲撃に対して砲撃を放った。()()()()()()()()()()()()()()

 由良さんは今までの傾向を全て見ていたのだ。太陽の姫の砲撃は殆ど一定。タイミングなどはあるかもしれないがその全てが一斉射であり、喰らった4人からの統計だけでそれが容易に読める程に。故に由良さんは最初から決め打ち出来ていた。

 結果的に、由良さんの砲撃は太陽の姫の砲撃に擦り、致命傷となる方向から少しだけズレた。無傷とまではいかないが、今までのように再起不能になるほどのダメージは受けていない。そして見事に着水し、近かった夕立の側へ。

 

「夕立ちゃん、逃げられる!?」

「夕立はだいじょーぶだからっ、あがのん引っ張ってあげてほしいっぽい!」

 

 夕立だって消耗は激しい。だが阿賀野さんよりはマシと判断して、夕立は自力で撤退する。阿賀野さんは本格的にまずいため、由良さんの介助でその場から何とか撤退。

 それをさらに邪魔しようとしたようだが、由良さんはその都度うまく回避して、阿賀野さんを戦場から離してくれた。そこまで離れたら興味が無くなったようで、太陽の姫は邪魔をやめる。

 

「ゲロ様ぁ! 後からまた来るから耐えるっぽい!」

「あいよぉ! 私ゃ、この馬鹿をここで元に戻してやるから!」

 

 太陽の姫は私と沖波の戦いに手出しはしてこないだろう。沖波のしがらみを消すことと、特別らしい私の行く末をここで見届けるだけだろうから。神故に傍観。絶対的な力を持つからこそ、下々の小競り合いはただ見るだけ。

 私達の戦いが終われば、どう転ぼうが太陽の姫はそのまま鎮守府に攻め込んでしまうのだろう。選ばれし者(M型異端児)には分霊、それ以外はしがらみを消すために皆殺し。

 

 沖波に殺されてしまったらそれでおしまい。沖波に半殺しにされたらまた分霊を施され、陽炎から『陽炎』へと変えられる。私がギリギリで勝てたとしても、太陽の姫が動き出して分霊を施される可能性がある。

 だから、私は負けるわけにはいかない。どのような形であれ、負けはそのまま終わりを意味する。ギリギリの勝利もあまりよろしくない。2度目の深海棲艦化とか反吐が出る。

 

「元ニ戻ス? コノ私ヲ? ソコマデ消耗シテ?」

「そうだよ。アンタは私を殺すって業を背負ってくれたんだ。今度は私が背負ってやる。アンタを殺して、沖波を取り戻す!」

 

 幸いにもこちらの艤装は万全な状態だ。消耗しているのは本体の私だけ。ならばやれる。

 手持ちのブレ弾、備え付けの精密射撃、そして魚雷まで組み合わせれば、どうにか出来るはず。身体も使って頭も使って、最善手を全て掴み取る。たったそれだけでいい。

 

「私の全部、くれてやるよ! クソ能面についたこと、後悔させたらぁ!」

 

 第一の矢はブレ弾。全て空を切るだろうが、私にだってどうブレるかがわかっていないのだから、大きく回避せざるを得なくなるはずだ。沖波とだって演習をしたことがあるのだから、それくらいあちらも理解している。

 

「ソックリソノママ返シテヤル! 半殺シジャ足リナイ! ココデ死ネ!」

 

 逆に沖波は回避しながらも全ての主砲を私に向けていた。私よりも多く、密度も火力も高い砲撃を連射してくる。私の砲撃すらも呑みこみ、私の行動を全て無にする程の攻撃である。

 あちらの攻撃は当然ながら知らないものではあるが、脱力回避で何とか回避しきれてはいる。擦りもしない代わりに、脚への負担はガンガン積み重なっていくが。

 

「このっ」

 

 ブレ弾が呑み込まれるのは仕方ない。だから、回避した直後に第二の矢、精密射撃。空を切り、回避された方に瞬時に照準を合わせて撃ちまくる。それすらも回避されるが、そこへブレ弾を交ぜることで、タイミングを崩していく。

 

「効カナイ!」

 

 しかし、そんなことお構いなしに乱射を続け、あちらのペースに持っていかれる。火力の違いがあまりにも顕著。沖波とは思えないくらいに強引で雑な攻撃だが、だからこその隙が見つかるはずだ。

 そしてそこにぶち込む第三の矢、魚雷。沖波からの砲撃を起爆剤にして、目潰しにするかのように空中で爆破。

 

「コノ……ッ! 小賢シインダヨ!」

 

 爆風を吹き飛ばす程の乱射。ああなってしまっても、沖波は沖波、接近戦は無い。代わりに本来以上の火力を手に入れてしまってるのだからタチが悪いが。それでも、隙は作れる。

 あちらは出来なくても私には接近戦が出来る。脱力回避の応用、そのままダイレクトに蹴り込む渾身の一撃。沖波の砲撃を全て回避して潜り込み、その鳩尾に向かって一気に踏み出す。

 

「甘イ! オ前ノヤリ方ハ全部知ッテルンダカラ!」

 

 それすらも空を切る。さすが沖波と言ったところか。私のやりたいことは、()()()()()()()予測されてしまっていた。脱力回避も全て見せているのだから、わからないはずがない。

 だが諦めない。沖波を救うためには、もっと無理をしなくてはいけない。それに時間をかければ援軍はきっと来る。それまでは私が全力を出し続けなくてはいけないのだ。

 

 だから、避けられた瞬間を狙って、もう一度踏み込んだ。その速さを維持しながら、逆側へと跳ぶ。陽炎の如く、揺らめいた後にもう一度揺らめく。

 

 

 

 しかし、それは叶わなかった。二度目の踏み込みの瞬間、()()()()()()()()()()()

 

 

 

「嘘……でしょ……」

 

 沖波と戦い始めてから、常に脱力回避を使い続けていた代償だった。そうなる前に初月インナーが破れてしまっているため、脚のサポーター効果は期待出来ない。そんな状態なのに、必要以上に使い続けてしまったのだ。私の脚は限界を既に超え過ぎていた。

 踏み込むことすら出来ず倒れ込んでしまい、何も出来ず終いだった。脚が熱い。ジンジンと痛み、少しでも動かすと激痛が走るレベル。折れているとは思わないが、ヒビは入っているかもしれない。

 

「……何ソレ。アレダケ(ノタマ)ッテソレ?」

 

 撃つわけでもなく、ゆっくり近付いてくる。脚の負荷のせいで、立ち上がることすら出来なくなった私の側まで来た沖波は、徐に私の脚を踏みつけた。艤装のサポートがあっても、その激痛は酷いものだった。

 

「っぎっ!?」

「大方、何度モ『陽炎』ヲ使ッタセイデ負荷ニ耐エラレナクナッタンデショ。艦娘ノ、人間ノ身体デ、崇高ナル我ガ神ニ与エラレタ力ヲ、使イコナセルワケガ無イ」

 

 何度も何度も踏みつけられ、ヒビだけでは止まらず、確実に折れた音がした。もう本当に立ち上がれなくなった。

 

「分霊サレレバ傷ハ治ルンダカライイヨネ」

 

 一番小さいであろう主砲が私に向き、そして放たれた。それでも巡洋艦の主砲くらいの火力はあり、私の艤装は半壊。浮力を失ってしまったところを、髪の毛を掴まれて無理矢理起こされた。手を離されたら水没が確定した状態。脚も折られたため、自分の身体を支えることすら出来ない。

 むしろ艤装が半壊したことで、本来抑え込んでくれている痛覚が戻ってきてとんでもない痛みになっている。だが、絶対顔に出してやらない。それこそあちらの思う壺。

 

「素直ニ従ッテイレバ、コンナコトニナラズニ済ンダノニネ。ヤッパリ馬鹿ハオ前ダヨ陽炎。正シイノハ全部我ガ神」

 

 心底侮蔑して嘲笑してくる沖波。こんな顔は見たくなかった。

 

「モウオシマイ。陽炎ハ再ビ『陽炎』ヘト至リ、私達ノ仲間ニナッテクレル。今マデノ行ナイヲ後悔スルダロウネ。ソウシタラ私モ、恨ミッコ無シデオ友達ニナッテアゲル」

 

 そのまま私の身柄は太陽の姫の方へと運ばれる。援軍はまだ無い。この戦場には私しかいない。期待出来るとしたら、変えられた瞬間に首の自爆装置を起動してもらうことくらいだ。

 

「オット、忘レテタ。私ニ教エテタモンネェ。マタ変エラレタラ、容赦無ク殺シテモライタイッテ。ソレハ許サレナイ。深ク深ク反省シテモラワナクチャ」

 

 徐に私の首筋に手を伸ばしたかと思いきや、チョーカー(自爆装置)を千切り取られた。分霊のための鋭利な爪の前では、これすらも容易く破壊されてしまう。

 これにより、私が救われることも無くなったわけだ。かつて無いほどの絶望感に苛まれる。

 

 いや、まだだ。私は諦めない。こんなことで、私達の友情が終わるなんて嫌だ。業を背負ってもらった結果がコレだなんて、なんて因果だ。

 もう太陽の姫なんてどうでもいい。怒りも憎しみも二の次だ。こんなにも哀れな姿に変えられてしまった沖波を、とにかく救いたかった。もうそれだけしか私の頭の中に無かった。救うんだ。絶対。

 

 ギシギシ言いながらも主砲が動き、沖波の方を向く。撃てるかもわからない。それに、これだけ音が鳴っていればあちらにも気付かれているだろう。

 

「マダ懲リナイノ?」

「……懲りる懲りないの問題じゃあ、無いんだ。私は、アンタを……『沖奈(オキナ)』を……救いたいだけだからね……」

 

 不思議と笑みまで溢れた。対する沖波は、明らかに怒りが顔に滲み出た。そりゃそうだろう、今の姿になって沖波という名前にすら嫌悪感を覚えているのに、()()()()()()()()で呼んでやったんだから。

 

「……我ガ神、陽炎ヘ分霊ヲ。コノママデハ、私ガ耐エラレソウニアリマセン」

 

 神の御前だから何とか耐えているようである。このまま面と向かって話をしていたら、太陽の姫の思惑を沖波の手で潰してもらえると思ったのだが、残念である。

 

「ヨク抵抗シタ。我ガ巫女、陽炎。貴様ノ力、シカト見セテモラッタ。ヤハリ貴様ハ特別。我ガ手元ニ置カネバナラヌ」

 

 やっと動いたと思った主砲はしっかりと破壊された。これで対抗する術が無くなる。本当にこれで終わり。艤装は動かない。身体も動かない。痛みで感覚も薄れてきた。

 私が死ぬ前に分霊が施されるのだろう。そうなれば、ここまでの怪我も全て治り、再び人類の敵としての私が生まれてしまう。そんなのは嫌だ。

 

 何より、沖波をこのままにしているのが一番嫌だ。救いたい。せめて目の前の親友だけでも。

 

「貴様ハ再ビ、我ガ熱ニテ現レル、陽炎トナレ」

 

 その長い爪が伸びてきて、そして、

 

「分霊ノ儀、執リ行ワン」

 

 私の胸へと突き刺さった。

 

 

 

 私の中の鼓動が、私にも気付くことが出来るくらいにまで大きくなっていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。