異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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対となる者

 女神(母さん)の力により、死にかけの状態から完全復活を遂げた私、陽炎。今の私は本来の力、世界に最初に選ばれた者としての力が蘇り、太陽の姫の抑止力として覚醒している。今なら負ける気がしない。

 だが、太陽の姫は二の次だ。この力で私は、沖波を救う。親友を取り戻すために全力を尽くすのだ。

 

「何処だ……何処だ……!」

 

 浮力を取り戻した艤装で急速浮上していく。艤装を破壊されたことで随分と沈んでしまったようだが、全く苦しくない。これも女神(母さん)が施してくれた治療の賜物かもしれない。この海中での呼吸は今だけの特典みたいなものだとは思うが、このチャンスは活かしていかねば。

 

「……いた!」

 

 最後に見た沖波の足を確認出来た。多分さっきよりも鎮守府に近付いている。太陽の姫は動いていない。私が本当に始末出来たかの確認のために留まっていた。神の割には用心深い。

 私自身が太陽の姫の対となる者なのだとしたら、奴がそう考えるのも無理はないか。私だけは確実に終わらせておかねばならない存在として、徹底的に魂を凌辱することで配下に据えるか、存在そのものが消滅するまで消すかのどちらかになるはずだ。前者がダメだったから後者を選んだようだが、残念ながら私は蘇った。

 

 私の行動は太陽の姫に筒抜けかもしれない。だが、そんなこと知ったこっちゃない。太陽の姫より沖波の方が大事なのだ。沖波が鎮守府で痴態を晒す前に、私が決着をつけてやらなくては。

 

「沖波ぃ!」

 

 勢いよく海面に飛び出し、その背に向けて主砲を構える。突然の登場で沖波は驚愕の表情を浮かべたが、そのまますぐに嫌悪感を露わにしてきた。

 

「何デマダ死ンデナイ!? 何デ艤装ガ元ニ戻ッテル!?」

「私ゃまだアンタを救ってないんだ! まだまだ死ねないね!」

 

 私の砲撃は空を切るが、私は止まらない。力が漲る。沖波を救うために、私は今まで以上の力が発揮出来る。

 

「ナラ、マタ殺シテアゲル。許シテクレト言ワレテモ絶対ニ許サナイ。後悔ノ中死ネ!」

 

 背中の主砲が私に向けられた。集中砲火ではなく、逃げ道そのものを全て消し飛ばす一斉射。潜ることが出来ないように足元も、横に回避出来ないように両サイドも、全て埋め尽くすように。さすが親友、対策はしっかり考慮済みだったわけだ。

 私の脱力回避、陽炎の如き動きは結局のところ、力を抜くことで艤装のサポートを最大限に受け、超高速で動く技。だからその移動方向を抑えられると途端に回避が出来なくなる。それが伊良湖さんや菊月にやられた回避キャンセルだ。だから、沖波は私の進路となりそうな場所を全て潰してきた。普通より主砲を大量に持っているから出来る裏技みたいなもの。

 

 さっきまでは最低限生かして分霊するという大義名分があったため、沖波自身も手を抜いていたところがあるのだと思う。だが、今は太陽の姫が直々に私を沈めろと言っているのだから、手を抜く必要は無い。全力の殺意を私にぶつけてきた。

 ならば私も全力で沖波を殺すしかない。死ななければ救われない。そして死ねば、元に戻れるのだから。死の恐怖を知ることになるが、巫女として生きていくよりはマシだ。それに、異端児駆逐艦は全員がそれを知っている。慰めることだっていくらでも出来る。

 

「もう死なないよ。私はアンタを救うために、元の沖波に……ううん、『沖奈』に戻ってもらうためにここに立ってるんだ」

「ソノ名デッ、呼ブナァ!」

「それに、母さんが見てくれてるんだからさ、もうカッコ悪いところは見せられないんだよね!」

 

 脱力。自然体の私となり、一気に全身から力を抜いた。菊月に指摘された脚から抜けるというのも、今この時に修正が出来ていた。腕も、脚も、身体も、全ての力を抜いたことで、私は満たされた()()()となったような錯覚を覚えた。

 

「死ネェ!」

 

 爆音とともに全砲門から放たれた。当たればひとたまりもなく、避けることも出来ないくらいの密度。だが、それは私にはもう効かない。私はその名の通り陽炎。ゆらりとゆれて、誰にも触れられない者。深海に選ばれし者としての力であり、世界に選ばれし者としての力でもあった。

 力を抜いたことで、選ばれし者の力が何たるかを理解出来た。今までの比では無い揺らぎ。そして、それはもう潜るとか躱すとかそういうレベルでは無くなっていた。それこそ、『雲』のすり抜けに近い。

 

「残念でした」

 

 その場にいると思って撃った時には、私はもう別の場所。沖波の隣。

 

 おそらく沖波は私を撃ったつもりでいた。でも、私には全く違う場所を撃ったように見えた。力を抜いた時点で殆ど無意識に、その場所まで移動していたからだ。

 艤装のアシストもこれまで以上だった。女神(母さん)の治療と同時に修復された艤装は、今の私に対応されている。もうM型とかD型とかそういう話ではないのかもしれない。私だけの艤装タイプ。だから、ここまでの無茶が平気で罷り通る。

 

「エッ……!?」

 

 沖波の知る脱力回避とは性質が変わっている。ただ無意識に速く動くだけじゃない。()()()()()()()と錯覚させる、陽炎、いや、『蜃気楼』の動き。

 

「アンタを殺す業は、しっかり私が背負う。アンタが私を殺した業を背負ってんだから。それが親友ってもんだよ」

「何勝ッタツモリデ」

「勝つんだよ。ここで、必ず」

 

 即座に砲撃。今の沖波のスペック的に、どのタイミングで撃っても全てが空を切るのだろう。必要最低限の動きで、全てを紙一重で避ける。砲撃なんて基本的には直線で単調なものだ。その方向さえわかれば、誰だって避けられる。沖波の場合は、それが極端に早いだけ。トリガーを弾いた瞬間にはもう回避が終わっていると見てもいい。しかも、それがどんな攻撃でも、どれだけの数でも。

 そう考えれば、おそらく沖波は私や『雲』よりも当てやすい相手だ。砲撃を潜るなんてこともしてこないし、ましてやすり抜けてくるようなこともない。

 

 だから、当て方だって思いついている。そしてそれは、今なら出来る気がするのだ。不思議と自信がある。

 

「私ハオ前ノコトガ手ニ取ルヨウニワカルンダ。忌々シイ記憶ダケド、一緒ニイタ時間ガ長イカラ。ダカラ、ソンナ攻撃ハ当タラナイ。ソノ前ニ殺シテヤル。我ガ神ガソウシテイイト言ッタンダカラ!」

 

 主砲があらゆる方向を向き、また私の逃げ道を潰しつつ、一斉に砲撃を放つことで私をどうにかしようとしている。先程よりも範囲が広く、より回避がしづらくなっているだろう。1発1発が致命的な火力であるため、その全てをちゃんと回避しないとどうにもならない。

 私がたった1人で立ち向かっているから、こんな雑になっているのだと思う。狙い撃つなんてしていない。そこら中に撃ちまくって、どれかに当たれば終わり。それで戦いが終わると思っているのだろうか。私の煽りで怒りが頂点にまで達しているのでは。

 

 それはそれで戦いやすくていいが。

 

「イイ加減ニ死ネッ」

「そういうわけにはいかないんだよ」

 

 その時には既に眼前。元々いた場所に私の姿を残しつつも、私の本体はもう移動した後。

 あれだけの主砲を備えていても、手が届く位置まで近付くと射程範囲外になる。内側にまで砲塔が旋回しないから。

 

「マタ……!?」

「孤児院の頃、こんな喧嘩はしたこと無かったよね。すごく新鮮だけど、残念だよ」

 

 勢いそのままに、力いっぱいビンタ。流石にグーで殴る勇気は無かった。殺す必要はあるのだけど、とりあえず1発。それだけでも相当な威力があったのだろう、大きく吹っ飛ばされて海面を転がる。

 沖波をこういう形で引っ叩くのは、出会ってから初めての事だ。孤児院の時にも一度も喧嘩をしたことがない。それだけ仲が良かったのだ。数少ない同性の同年だったし、とにかく気が合ったから。

 

「ッ……コノ……ッ」

「もう終わりにしよう」

 

 手持ちの主砲で砲撃を1発。今の沖波ならこんなもの簡単に避けてしまうだろう。だが、もう避けさせない。

 

「ソンナ砲撃如キ……ッ!?」

 

 回避しようとした瞬間、私の砲撃は突然、()()()()()()()()()()()()()。その弾は沖波の腕、分霊のために与えられた長い爪の装甲を抉り、血の花を咲かせる。

 

「ナンデ!?」

 

 沖波には私が何をしたかわからなかっただろう。撃つタイミングは今までと全く同じ。手持ちの主砲はブレ弾専用なのでどう飛ぶかもわからない。だから少し大きめに回避していたはず。それでも当たった。いや、意図して当てた。

 

「次、もう片方の腕」

 

 2発目。当然沖波は回避を選択。しかし、またもや回避した方向に砲撃は曲がり、もう片方の腕を撃ち抜く。これで両腕を封じた。今までやる機会は無かっただろうが、沖波から分霊を奪った。

 

「何ヲ、シタ!?」

「自分で考えな。その前にアンタを終わらせてやる。こちらに戻ってきたら、タネを懇切丁寧に教えたげるよ」

 

 3発目。今度は腹を狙って。勿論回避されそうになるが、回避した方法に曲がり、横っ腹を抉る。

 私が堕ちた時、やられた順に撃ち込んでいる。最初は間宮さんに両腕。次は沖波に腹。ここまで来たら沖波はもう瀕死だ。同じ攻撃を受けた私だから理解している。あれを受けたらもう動けない。

 

「ック、コノ……ッ!」

「我ガ巫女、空。退ケ」

 

 ここで堪らず太陽の姫からの指示。流石にここまで来たら見ているだけではいられなくなったようだ。沖波へ撤退の指示を出した瞬間に、あの後光のような砲撃が私に向かって飛んでくる。

 

「アンタは黙ってろ! しゃしゃり出てくんな! これはこっちの話だ!」

 

 だが、今までの私と違うのは奴もわかっているはずだ。そんなものに当たってやるわけがない。その砲撃をすり抜け、太陽の姫に砲撃を撃ち込む。

 今の私はM型異端児と同じ性質も持ち合わせているはずだ。そうだとしたら、衣笠さんの時と同じように、この砲撃は確実に避ける。もうあの水柱で止められるようなこともない。

 

「我ガ巫女……イヤ、我ノ()()()()()()、陽炎ヨ。貴様ノ覚醒ハ我ノ落チ度デアル」

 

 案の定、私の砲撃は回避していた。やはり、M型異端児の攻撃は、太陽の姫に対して何かしらの効果があると見た。

 

「そう思うなら今は帰れ。アンタに構ってる暇は無いんだ」

「ナラヌ。貴様ヲ野放シニシテオクワケニハイカヌ」

「ああそうかい。でもね、沖波は絶対に渡さない」

 

 足下から水柱が立ち昇る。また私の体勢を崩し、空中に浮かせてから集中砲火を浴びせようという魂胆か。そうはさせない。

 

「馬鹿の一つ覚えだねぇ全く!」

 

 足下に魚雷を放ち、跳びながらそれを撃ち抜いた。水柱が立ち昇る前に私自身の魚雷を爆発させることで、それそのものを発生させないようにした。主砲と同じで、魚雷も太陽の姫にとっては不都合な何かがあるのだろう。

 

「ここから出て行けぇ!」

 

 出鼻を挫きつつ、今度は魚雷を太陽の姫に放つ。今はこの場から離れてくれればいい。倒せるかどうかはさておき、今はとにかくこの場から消えてもらいたい。沖波を元に戻すこともままならなくなる。

 それに、今は鎮守府では『雲』が暴れ回っている可能性が高いのだ。そちらも救援したい。太陽の姫を撃破するより、仲間達のピンチを救うことの方が大事なのだから。

 

 さすがの太陽の姫も、私の暴れっぷりに一歩退いた。他の仲間達の攻撃は、主砲も雷撃も水柱で全て止めていたが、私のに関してはそれが出来ないためにそうなってしまうようだ。理由は後から考える。今はあんな奴を構っていられない。

 

「沖波、待たせたね。もう終わらせよう」

「私ハ……我ガ神ニ(ハベ)ラナイトイケナインダ……オ前ナンカニ……ヤラレテ……」

 

 太陽の姫を撃退しようとしている後ろから攻撃してくることもなかった。両腕が潰れ、腹を抉られたら、もう撃とうという意思すらも無くなってしまうものか。

 

「もうやめよう、沖波」

 

 両腕、腹と来たら、次はもうトドメ。その胸を貫くように砲撃。その一撃はもう回避すらされずに直撃した。貫通まではしなかったが、明らかに致命傷となった。

 沖波が血を吐きながら蹲る。私も知っている感覚、死の感覚だ。

 

「ごめんねおっきー。アンタを殺した業は、私が背負う。だから、今は寝てな」

 

 命の灯火がゆっくりと消えていく。もう指先から塵へと変化し始めていた。それでも意識を持っているのだから、巫女というのは恐ろしい。おそらく私も、今の沖波と同じような状態になっていたと思う。自分が塵になっていくところはわからなかったが。目の前が真っ暗になっていったから。

 

 そんな感覚を親友に与えることが苦痛だった。これが業を背負うということ。沖波は私よりも先にこの感情を受け入れて、落ち込む私を叱咤してくれたのだ。なら、私も背負わなくては。

 毅然とした態度で、だが、出そうになる涙を堪えて沖波を見つめる。この瞬間を太陽の姫に邪魔はさせない。

 

「死ヌッテ……コウイウ事……ナンダ……ナニモ……見エナクナル……ンダネ……」

「……そうだよ。私も知ってる。次に目が覚めた時は、たっぷり慰めてあげるからさ」

 

 

 

 虚な目で、そのまま『空』は息絶えた。

 

 さようなら『空』。おかえり『沖奈』。

 

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