異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
私、陽炎の特性であるマイナス同期値により、艤装の扱いが他と違うということが判明した。艤装を手懐ける本来の艦娘とは逆に、艤装を
手持ちと備え付けの主砲の精度の違いはそこにあることも理解出来る。手持ちの方はつまり、私がただ下手だからというところに落ち着いた。明日からも砲撃訓練を繰り返すことになるだろう。実力でやらないといけない部分なのだから、訓練あるのみである。
私の性質については、あまり大っぴらに公表されることは無かった。艦娘として活動する上では、現状そこまで重要視することでは無いだろうと判断されたためである。
訓練の段階が変わったりする程度で、アレが出来てコレが出来ないというわけでもなく、質が違うだけで艦娘としては何ら変わらない。この体質だから艦娘がやれないというわけでもないのだから、普段通りの生活を続ければいいだけだ。
「あれが正解だったんだ」
「みたい。マイナス同期値の特性だってさ」
夕食の時に磯波には説明した。あの時一番近くで見ていてくれたのは阿賀野さんと磯波だ。その2人には説明しておく理由がある。
夕食はたまたま異端児駆逐艦4人で集まれたので、その場を借りて磯波に話しておいた。夕立と沖波も私の話を聞くことになったのだが、それはもう驚いていた。同じことをやっているのに根っこの部分が違うのだからこうもなろう。
「結局手持ちの主砲は私のヘタクソだっただけっていうね」
「そんな事ないよ。あれはあれで器用だし……」
あれには磯波も苦笑以外が出てこないようである。今日の訓練では結局最後まで真ん中
「手懐けるじゃなく従わせる……なんか凄いね」
「ホントねー。陽炎もしかして女王様っぽい?」
艤装を従わせるのだから女王と来たか。無意識のうちに支配するだとか、自分のやりたいようにコントロールするだとか、どんな暴君か。
相変わらずの夕立の言葉選びセンスに、磯波が破裂しかける。今回は何とか耐えられたようだ。食べてる途中に噴き出されたら、正面に座っている私がえらい目に遭う。
「配下の艤装にあれやれこれやれーって命令するっぽい」
「さすがにそこまで横暴じゃないと思うんだけど……」
沖波がフォローしてくれるが、海上移動に成功したときは命令してしまっていたかもしれない。何せ無意識、意図せずに支配をしてしまったのではないかという仮説も挙がっているくらいだ。
正直な話、このことがわかってから自分が何なのかがわからなくなってきた。去年まで何も無かったのに突然現れた特異性が、普通の艦娘とは一線を画しているのは自分でも怖い。
「でもでも、だからって陽炎がめっちゃくちゃ強いってわけじゃないよね? まだまだ夕立の方が強いっぽい!」
「そりゃあ私は一昨日艦娘になったばかりのド新人だし、戦闘経験も無いヒヨッコだからね」
「ふふーん、なら夕立の勝ちっぽい! 先輩だもんね。まだまだ後れは取らないっぽい!」
こうやって夕立が私のことを対等に見てくれているのがとても助かる。自分に対する恐怖心が薄れるようだ。
「あはは、ならすぐに追い抜いてやらないと」
「簡単には追い付かせないっぽい!」
いいライバルに恵まれた。こうやって多少競い合うくらいの方が成長出来る気がする。目標が設定しやすい。
まずは夕立と並び立てるところにまで行かなくてはいけない。時間はかけてもいいとは思う。焦らずじっくり訓練していく方がいい。だが、あまり遅くなると夕立が増長しそうなので、なるべく早く終わらせたいところ。
「私も応援してる。また一緒に訓練する時があると思うから」
「勿論私も。手伝えることがあったら手伝うからね」
磯波と沖波もサポートしてくれると言ってくれた。本当にありがたい。持つべきものは友である。
お風呂に入って後は寝るだけ。夕食の後にそのまま一緒にお風呂に行ったからか、夕立が相変わらずマッサージを施してくれたおかげで、筋肉痛もお風呂で大分緩和された。
一日中砲撃をし、途中からは検査やら何やらで精神的にも疲労しているため、大分眠気が来ていた。海上移動訓練を丸一日やっていた昨日よりも疲れているのは、やはり自分の特性がわかったからだろうか。
「ふぁあ……眠い眠い」
「本当に眠そうだね」
沖波に苦笑された。今はお風呂上がりで、食堂で少し休んでいるところである。
就寝時間まではまだまだ時間があるため、誰かと暇な時間を過ごすのが定番なのだが、その場所は大概が食堂。間宮さんと伊良湖さんもこの時間だと業務が終わっており、談話室代わりに開放されていた。私と沖波以外にもちょくちょく使っている人はおり、思い思いに雑談に花を咲かせている。
「気疲れしちゃってるんだと思う。いろいろありすぎてさ」
「そうだよね……ここ数日、大忙しだもんね」
マイナス同期値が判明し、翌日にここに所属出来たかと思えば、トントン拍子で艦娘の道を歩いている。午前も午後も動きっぱなし。その分、身になっているとは思うものの、疲労は着実に蓄積されているのだと思う。
「お疲れ様です、陽炎さん、沖波さん」
「あ、しーちゃん、お疲れ様ー」
机に突っ伏すようにうだうだしていると、空の食器をトレーに載せて持ってきたしーちゃんが食堂へ。ちょっと行儀は悪いが、そのままの体勢で手を振った。
未だに制服姿なところを見る限り、ついさっきまで秘書業務をやっていたようである。お風呂もまだなのはわかるが、もしかして夕食も食べていないのだろうか。片付ける手際がいいところを見ると、こういうことも日常茶飯事なのかも。
「しーちゃんさん、ご飯はここじゃないところで食べたんですね」
「はい、おかげさまで。間宮さんが執務室に運んできてくれました。提督もその時一緒に食べていますよ」
その空城司令は整備長と話をすると工廠に行ったらしい。話をすると言っても、業務的なことはそこそこに晩酌をするというのが本音だそうだ。しーちゃんはそういう場には付き合うことはないようで、このままお風呂に向かうとのこと。
だがその前に、これも何かの縁だと思いちょっとしーちゃんと話をすることにした。しーちゃんも快諾してくれたので嬉しい。流石にこのままなのはどうかと思ったので、身体を起こして姿勢を正す。
「陽炎さんとはこうやって顔を突き合わせて話すのは初めてですね」
「だね。適性検査の時にちょっと話しただけだもんね。あの時も業務的な話だったし」
もう仕事が終わっているからか、しーちゃんも雰囲気が軽い。若干疲れた顔をしているが、丸一日仕事をしていたらこうもなるか。私達と違ってデスクワーク専門なのだから、疲れ方が違うだろうし。眼鏡もそのせいじゃ無かろうか。
「やっぱり提督秘書って忙しい?」
「そう……ですね。やることは多いです。うちの提督は優秀ですから」
笑顔で語るしーちゃんからは、空城司令への信頼がこれでもかと伝わってきた。他人の感情なんてわかるはずが無いのだが、これだけはすごくわかる。心酔しているというほどではないが、秘書として寄り添うことを苦と思っていない、むしろ喜んでいる表情である。
「しーちゃんさんの主な仕事って、デスクワークですよね」
「そうですね。艦隊運営の書類整理、艦娘のデータの取りまとめ、データ入力は提督がパソコンが苦手だからという理由で全て私がこなしています。あとは鎮守府外部とのやり取りも全て私がやってますね。それと時間管理も。あまり根を詰めるとお体に障りますからね」
つらつらと出てくるが、正直その仕事量は普通じゃないように思えた。戦場に出なくても、そこは戦場。空城司令もしーちゃんも、私達とは違うところで戦っている。主に内部、私達の手が届かない場所で。
「すごいね……この鎮守府が出来てからずっとそうなの?」
「基本的にはそうなりますね。私が外部とのやり取り、提督が艦隊運営を1人で。艦娘全員の命が提督の手の上にあるんですから、緊張感は私の比ではないでしょうし」
確かに。実際戦うのは私達かもしれないが、その作戦を立てるのは全て空城司令。私達の命を優先し、最大限の戦果を得るための最高最善の策を練ることは、私達とは全く違う方向で多大なストレスに繋がっているだろう。
私達を生かすも殺すも空城司令次第。たった1人で全員分の命を背負うという提督業は、生半可な人間には出来やしない。私には到底無理な話だ。孤児院で子供達と生活していても手綱が握れない時の方が多かったというのに。
「今は陽炎さんのことの調査もしていますよ。不安になるんじゃないかと提督が話していました」
「不安かぁ。うん、やっぱり少しはね。私しか無い力っていうのは自分でもちょっと怖いし」
「前例が無いことであるのは確かですが、原因究明は必要ですから。いろいろと過去の資料を漁っているところです」
自分でもわからないことを調査してもらえるのは嬉しいことである。私もその当時の記憶が無いせいで詳しく話せないし。
強いて言えるのは、昨日見た夢。深海棲艦に襲われる瞬間の記憶が蘇ったことくらい。とはいえ、両親と逃げ出そうとした瞬間に夢は終わってしまったため、まだわからないことだらけだ。あれが全て思い出せたらまた変わってくるだろうか。
「安心してください。提督なら必ず原因を突き止めますし、何事もないように事を運びます。陽炎さんはこの鎮守府の一員ですから、提督は必ず手を差し伸べます」
「うん、頼りにしてる。私も何かあったら必ず話すから」
「はい、当事者の言葉が一番信頼性が高いですから。協力してもらえると助かります」
今は私だけかもしれないが、同じようなマイナス同期値の艦娘が他に現れないとも限らない。普通の異端児とは違うのだから、私という前例を作っておきたいのは確かだ。
それなら私も協力しよう。私自身も私のことが知りたいし。
「お仕事の話はやめにしましょう。もう業務は終わっていますしね。というわけでちょっと世間話を」
ここからはただの雑談。しーちゃんがどういう人かを知るいい機会である。
「とはいえ、私から話せることなんて何も無いんですけどね。毎日ここにいて、提督の秘書を続けているだけですから。それに、私自身の立場として話せることも大分限られています」
「なので、他の人の話を聞くのが好きなんです。私は外の世界をあまり知りませんから、いろいろと聞きたいです」
「そっか。じゃあ今日は私の住んでいた孤児院のことでも話そうかな。沖波も5年前まで住んでてね」
「ああ、幼馴染みなんですよね。滅多に無いことですよ。鎮守府でそういう相手と出会えるなんて」
そこからはずっと孤児院のことを話した。沖波との思い出なんかも交えながら。
しーちゃんはそれはもう楽しそうに話を聞いてくれるので、こちらも話が止まらなくなる。何というか、相槌が上手いというか、話していて気持ちがよかった。
しばらくして、しーちゃんはお風呂に行かなくてはと退席。沖波と2人残される。
「なんか不思議な人だね、しーちゃん」
「だよね。艦娘じゃないんだけど、なんて言えばいいのかな、
沖波の言いたいことはなんとなくわかる。話を聞く限り、しーちゃんは私達とは違うただの人間。同期値もM型D型共に0で艤装も動かすことが出来ないとのこと。なのに、仲間というイメージがすごく強い。
秘匿されている部分にその辺りの謎が詰め込まれているのかもしれないが、先程も思ったように深追いは禁物。そもそも調べるといってもどうやればいいのかわからないし。資料室で調べられるようなことではないだろう。
「実は引退した元艦娘とかだったりして」
「あはは、そういうのもあるかもね」
憶測が飛び交うが、そのどれもが確証のないただの想像だ。どれであってもしーちゃんはしーちゃんだし、仲間であることは変わらない。
「ふぁあ、じゃあ寝よっか。しーちゃんと話が出来たからいろいろスッキリしたけどね」
「それはよかった。じゃあ、おやすみ、ひーちゃん」
「ん、おやすみ、おっきー」
周りに誰もいないことを確かめて、ちょっとだけ禁止事項。これなら気持ちよく眠れそうだ。
しーちゃん艦娘説はありますよね。実は信濃の『し』だったりしないかなって。まぁ信濃はイラストもあるのであの子ではないですが、眼鏡だし。