異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

141 / 284
沖波の後遺症

 結局、夕立の入渠など全てが終わるまで、午後全てという程の時間を使うことになった。入渠が最初に終わったのは磯波で、そこからすぐに夕立を入渠させ、さらにはそこから調査部隊も帰ってきて怪我人を治療。

 調査でかなり深入りしたという潜水艦姉妹がまた怪我を負っていたが、その時には萩風と阿賀野さんの入渠が完了していたのですぐに入渠が出来た。他の怪我人も応急処置で耐えてもらい、ドックが空き次第入ってもらうという形に。そういう意味では、今の鎮守府は酷い有様である。

 

 その間に、おおよそ全員に今回の戦いの状況が知れ渡ることになった。太陽の姫が直々に襲撃してきたこと。沖波が分霊されてしまったこと。由良さんの分霊未遂による体調不良。そして私、陽炎の覚醒。

 今後のことを決めていく必要もあるが、今は全員休息が必要であることは確かだ。結果、何もかも明日に回すことにした。諜報部隊の調査結果も重要だが、今は誰もが消耗している。とりあえず今は全部後回し。司令としーちゃんは今回の件を上に報告しなくてはいけないようで、まだ休めないらしいが。

 

「沖波ちゃんの入渠が終わるの、明日になりそうだって……」

「だよね。一度死んでるわけだし、私もそうだったし」

 

 夜、いつも通り私の部屋に異端児駆逐艦が集まったのだが、沖波はいない。夕立はつい先程入渠が終わったところ。

 

 沖波の入渠はまだまだ時間がかかると聞いている。巫女にされた私の入渠も丸一日かかっているので、沖波も同じくらい時間が必要だろう。そうなると、明日の午後くらいになるか。

 太陽の姫の巫女から元に戻るのは、分霊の分霊から元に戻るのとわけが違うようである。身体に負担がかかりすぎだ。沖波も私のように髪に影響が出るなりしているかもしれない。

 

「沖波さん……大丈夫でしょうか」

「大丈夫じゃなくても、私達が支えてやんないとね。私を支えてくれたんだから、沖波だってきっと開き直ってくれるよ」

 

 萩風の心配もわかる。私もドン底の状態だったわけだし、沖波は特に優しい子だ。あの振る舞いをしてしまったという事実が、心を蝕み続けるだろう。笑顔を取り戻すまで時間はかかるかもしれない。

 後遺症が心に残ってしまう可能性もあるので、そこはもう見てから考えるとしか言えない。私のように外見だけの影響であることを祈る。

 

「で、夕立は何してるわけ」

「ゲロ様の匂いが変わってるから確かめてるっぽい。由良の言ってた通り、なんかすごく安心する匂いっぽーい」

 

 夕立は変わらず私に抱きついてクンカクンカしているが、由良さんの言っていた通り、何処か安心する匂いに変化しているとのこと。今までのようなガッツクような嗅ぎ方ではなく、味わうような嗅ぎ方とでもいうか、とにかく今までよりも優しめ。

 夕立のそれを聞いたことにより、磯波もおそるおそる近付き抱きついてくる。この子は本当に遠慮しなくなった。萩風は苦笑しているだけでそこまではしてこないものの、私もしたいという視線は感じる。

 

「なんだろこの安心感、ママみたいな感じっぽい」

「そうかも……ずっと側にいたくなる安心感かな……」

 

 私自身が母さんの力添えで復活したからかもしれない。だが、同年代から母親みたいな扱いを受けるのはちょっと。

 由良さんは私が分霊出来るかもしれないというところは隠してくれている。そうでなければ、夕立と磯波は分霊を所望してくると思うから。萩風すら自重しなくなるかもしれない。そんなことされたら私だって心が折れてしまいそうになる。

 

「姉さんはもう別物なんですね。同期値検査はしたんですか?」

「まだだね。今日はほら、すごくバタバタしてたし」

 

 そこがどうなっているかは気になるところ。今まで0だったM型同期値が跳ね上がっている可能性は高い。D型同期値がどうなっているかも気になるところ。それは明日以降に調べてもらおう。

 

 

 

 そして翌朝。入渠中の沖波の側には、空城司令がついてくれている。私の時もそうだったが、まずは司令が2人きりで話をし、その間はしーちゃんが上手く手を回して誰にも会わないようにして検査を開始する。

 今の沖波は誰とも顔を合わせたくないだろう。私もそうだった。それに、私以上に太陽の姫に心酔してしまったのは、おそらく大きすぎるトラウマとなっている。その状態で殆ど殺されたも同然な私が顔を合わせるのはまだ早いと思う。

 

「沖波さんが目を覚ましました。ですが、今は刺激が強すぎると思うので、陽炎さんの面会は控えてもらいたいです」

 

 案の定である。朝食後、みんなが集まっている場でしーちゃん直々に言われてしまった。予想よりも早かったのは、元々の同期値とかが関係するのかもしれない。私はおそらく沖波よりもM型同期値の値が高かったのだと思う。

 沖波からの被害を最も受けたのは私。悪態をつかれたのも、攻撃を受けたのも私。さらに言えば、女神の存在が無ければ私はあの場で死んでいたのだ。他ならぬ沖波の手で。これは私の時にも無かったこと。幸いにも私は、巫女にされてから、攻撃こそすれ殺すようなことはしていない。だが沖波は違う。

 そういう意味では、沖波は太陽の姫の指示である『憂いを断つ』が達成出来てしまっているのだ。より深く堕ちてしまっていてもおかしくはない。心には大きなヒビが入っているだろう。

 

 そんな私と顔を合わせるなんて、精神的なダメージが大きすぎる。今まで親友とも言える幼馴染みだったのに、あれだけのことをしてしまったことで、沖波は確実に悔やんでいる。特に沖波は中から外まで変わり果ててしまっていたので、悔いが激しい。

 私は気にしていないと言っても納得出来るものではない。それは私自身が経験しているのだから、沖波の気持ちは痛いほどわかるのだ。

 

「わかった。でも、そのうち顔を合わせなくちゃいけないんだから、その時は容赦なく行くよ」

「それで大丈夫です。とにかく今は精神状態が難しいので」

 

 あの時の全ての記憶が残っているせいでかなり錯乱しているようで、自傷行為にまで走りそうになったらしい。それは流石に空城司令が食い止めたようだが、そんな精神状態で私の顔なんで見てしまったら、それこそその場で壊れてしまいかねない。

 今だけは距離を置く。少しだけでも落ち着いたところで顔を合わせる方がいい。それが沖波のためになるのなら、私はいくらでも待とう。出来ることなら、沖波から私に会いに来てくれるのがベスト。

 

「少しの間は自分の部屋で療養してもらおうと思います。なので」

「沖波の部屋には近付かない。声も聞こえないようにする。私だって沖波が傷つくところ見たくないし」

「ご協力感謝します。あと、D型異端児の方に協力してもらいたいことがありまして」

 

 沖波相手に一番当たり障りのない相手となると、磯波が適任か。磯波自身が分霊から解き放たれた時、沖波が側にいてくれたのもあるし。

 

「沖波さんの魂の匂いを確認してもらいたいんです。太陽の姫の巫女にされたということは、陽炎さんのように魂の匂いが出来上がってしまっているのではないかと思いますので」

「あ、では、私がお手伝いします」

 

 やはり磯波が前に出る。愚痴を聞いてもらった恩を返したいというのが本音の様子。少し力強く、自分の意思を出してきていた。

 磯波は磯波で沖波には大きな信頼を置いている。性格的にも相性がいいようだし。

 

「では、現在検査中なので、磯波さんは医務室に来ていただけますか」

「はい、大丈夫です」

「陽炎さんは、沖波さんの検査が終わった後に検査をお願いします。こちらから連絡しますので」

「ん、了解。私も自分の身体のことが知っておきたいからね」

 

 今日の予定は私も検査でいっぱい。世界に選ばれし者というのがどんな体質に変化してしまったのかは、私自身はともかく、今後の作戦にも影響する可能性があるもの。そこに分霊の件なども入ってくるため、早急に知っておきたい。

 

 このこともあってか、諜報部隊の調査結果はもう少し後に開示されることになる。おそらく午後。司令が先んじて話を聞いておくくらいはしていそうだが、まだまだゴタゴタしている現状、落ち着いて話すには時間が必要そうである。

 

 

 

 夕立と萩風を側に置いて自室で待機して検査の時間を待つこと小一時間、部屋の外から少しバタバタと聞こえてくる。私と沖波の部屋は比較的近い方なので、おそらく検査を終えた沖波が部屋に帰ってきたのだろうということがわかった。磯波としーちゃん辺りが部屋に運んでくれていると思う。

 本当なら部屋から出て対面したかった。何も気にするなと慰めたかった。安心させるために抱きしめたかった。だが、今の精神状態では沖波が激しく拒むだろう。錯乱して自傷行為にまで及んでしまったのだ。なら、沖波をこれ以上苦しめるわけにはいかない。

 

「姉さん、私が確認してきます」

「ん、お願い」

 

 萩風が部屋から出て行くと、すぐに沖波の部屋に入っていった音。沖波自身の声は聞こえてこなかったが、あまり穏やかでは無さそうな雰囲気。夕立も気になって立ち上がりそうになったが、さすがに引き止めておいた。この子が行くと、余計におかしなことになりかねない。今は高いテンションよりも、ゆっくり話せる相手だ。

 

 少ししてから萩風が戻ってくる。だが、沖波の現状を知ったことで、あまりいい顔はしていなかった。小さく溜息を吐いた後、意を決したように話し始めてくれる。

 

「……しーちゃんさんに聞いてきました。沖波さん、M型の同期値が0になっていたそうです」

「そっかぁ……代わりにD型同期値が測定不能になってるってことだよね」

「はい……太陽の姫に分霊されたことで、全てが引っくり返されています」

 

 深海棲艦化した者のD型同期値は全員が全員測定不能な値になってしまっている。それは元々がM型異端児である沖波も例外では無かった。私がそうだったのだから、沖波がそうなっていてもおかしくない。太陽の姫の分霊はそれだけ強力なものであり、在り方そのものに作用してしまう程。

 ということは、今まで使っていた艤装ももう使えないかもしれないわけだ。分霊されたことで海底に沈んでしまっているため、今日明日くらいでサルベージされるとは思うものの、それ自体を装備することが出来ない可能性が高い。あれはM型艤装なわけだし。

 

「外見への影響も出ていました。姉さんと同じように白髪が交じっていた感じです」

「これはアレかな、太陽の姫の力が強すぎて後遺症がここまで出ちゃってるってことでいいのかな」

 

 元々艤装からの影響で少しおかしな色合いになっていた沖波の髪だが、さらに後遺症による影響が出てしまったことで、私と同じようにメッシュが入ってしまったようだ。

 

「それと……匂いなんですが」

「うん、どうだった」

「姉さんよりは控えめですが、やはりありました。D型異端児を狂わせる匂いだと思います」

 

 太陽の姫の巫女として手に入れてしまった魂の匂いは、沖波にも植え付けられてしまっている。今近くにいる磯波はヤラれている可能性が高い。夕立も嗅ぎたそうにウズウズしていたので、立ち上がらないように押さえておく。

 相変わらず私より控えめという発言。これはもしや、素のM型同期値の値に比例しているのだろうか。そうなると、私の元々の同期値はいくつだったのだろう。

 

「じゃあさ……精神的な方は?」

「……相当参っているようです。ずっと震えていましたし、私達とは目も合わせられませんでした。磯波さんの時もそうでしたし、私もそうでしたが……深海棲艦となっている時の性格が今とあまりにも違うと、ショックが大きくて……」

 

 太陽の姫の巫女『空』は、沖波とは正反対な暴力的な性格をしていた。口調も荒々しく、人を見下すような視線を何度もしてくるような敵。沖波ならまずやらない表情ばかりだった。

 だからこそ、今は同じ目に遭った磯波が傍にいるのだろう。そういう面で慰められるのは、磯波くらいだと思う。私や夕立では触れられない傷だ。

 

「姉さんの話題は出すだけでも顔色が悪くなります……仲間を殺してしまっているという事実がどうしても……」

「ゲロ様生きてるっぽい」

「女神のおかげだからね……そうじゃなかったら死んでたよ」

 

 やはり私への行為が特に心に残ってしまっているようだ。名前が出てもダメなら、姿なんて今は絶対見せられない。

 

「今はそっとしておきたいんですが、独りにすると何をするかもわかりませんので、磯波さんが常に側にいることになりました。私も定期的に話を聞いていこうと思います」

「夕立もたまに見に行くっぽい」

「うん、よろしく。面会出来るようになったら教えて」

 

 メンタルケアは2人に任せることにした。しばらくは夜も沖波について一緒に眠るとのこと。その方がいい。私も完全に開き直れたわけではないが、覚醒のおかげで随分と精神的にも安定した。

 私に気をかけていた分、今は沖波にかけてほしい。沖波が安定するまでは、付きっきりでもいいと思う。そして、安定してきたら、改めて私が顔を合わせたい。それが今の沖波のためだ。

 

 

 

 沖波の後遺症は私達以上に酷いものになっている。これを支えていけるのは私達だけだ。

 




陽炎だけが面会出来ないという悲しい事態ですが、異端児駆逐艦の絆はそう簡単には切れないはず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。