異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

142 / 284
陰と陽の姫

 深海棲艦化から解き放たれた沖波だが、その後遺症として大きすぎるほどの罪悪感を抱えてしまった。今でこそ女神の力で蘇っているが、私、陽炎を殺しているという事実が、心を蝕み続けている。その上、同期値を引っくり返されてしまったため、今までの艤装は使えない。

 そのため、しばらくの間は自室に引きこもり、心の療養に入ることになった。自傷行為にも走ってしまったため、独りにすると危ないかもしれないと判断され、常に磯波が側につく。また、萩風や夕立も定期的に顔を合わせていく方針。

 しかし、私だけは名前が上がるだけでも顔色を悪くしてしまうほどにトラウマになってしまうため、もう少し落ち着いてから顔を合わせることにした。出来ることなら早く会いたいが、壊れてしまう可能性があるのなら仕方ない。

 

 沖波の検査が終わって少ししたところで、次は私の検査ということでしーちゃんからお呼び出しが入る。一緒にいた萩風と夕立は、沖波についてもらうことにした。夕立はあまりやんちゃしないようにと注意はしておく。

 

「女神の力で蘇ったと聞いていますので、検査は少し多めにさせてください」

「ん、了解。上から下までお願い」

 

 M型からD型に変化してしまった沖波も相当念入りに検査したらしいが、私はその逆、D型からM型に変化してしまっている可能性があるため、同じくらいに検査が必要だろう。私だって細かく知りたいし。痛いことじゃ無ければ好きにしてくれて構わないという程だ。

 というか、艤装の型を変えなくてはいけないという状況自体が前例の無いこと。検査自体が細かくなるのは当然のことである。私以上に他の者が気になることでもあるだろう。

 

「由良さんの検査ってしたの?」

「はい、沖波さんが目を覚ます前にやっていますよ。D型同期値の値がかなり上がってしまっていました」

 

 分霊未遂とはいえ、そういうところに影響が出てしまっているのはまずいため、今日から毎日何回か同期値を計測し、その傾向を確認していくらしい。日に日に値が上がっていくのなら、最終的に分霊が完了してしまうかのように蝕まれていると考えられる。

 もしそうなら、どうにかしてそれを治療する手段を考えなければならない。私なら何かしら出来るかもしれないが、それこそ慎重にならなくては由良さんが壊れかねない。

 

「何かあったら力貸すよ」

「よろしくお願いしますね」

 

 縁が深かろうが浅かろうが、この鎮守府にいる艦娘はみんな仲間なのだ。誰かが倒れたら誰かが救う。その精神で私も進んでいる。

 

 

 

 検査は言われた通り念入りに行われた。出来ることは全てやり、いろいろな機材を接続されては数値を端から端まで見られる。ついでにということで殆ど人間ドックに近いことまでやらされた。

 

 女神の力により蘇るという現象は、ここ数年間運営されている空城鎮守府でも初めての事態。命の心配になるような状況にまで持っていかないような作戦を立てているし、そもそも女神という存在自体がレア中のレア。国内にある全鎮守府でカウントしても、女神による蘇生という例は片手で数えられるくらいしかないのだそうだ。

 女神の存在はそれそのものが都市伝説みたいなものであり、それがいるからという理由で命を投げ捨てるようなやり方は固く禁じられている。私は豪運を掴み取ったに過ぎない。いや、運ではないか。私を見守っていてくれた母さんが、私のために力を使ってくれたのだから、あれは必然。

 

「身体検査の項目は、基本的には変わっていないですね。そのまま治療されたと言ってもいいと思います」

 

 速吸さんが数値を見ながら説明してくれる。艦娘として死んだ場合は戻ってこれないのだが、今回は例外だった。その分、何かしらの代償みたいなものがあってもおかしくはないと思ったものの、そういうことも無い。完全な死者蘇生である。

 強いて言うなら、女神が消えてしまったことが代償。私の命は、母さんによって救われたのだ。もう二度とこんなことは無い。でも、私の中に母さんが入っているような感覚もする。

 

「同期値ですが……はい、予想通りですね。D型同期値は測定が可能になっています。0です。代わりにM型同期値が測定出来ませんでしたが」

 

 今までとは完全に正反対。まさかM型同期値まで測定が出来なくなっているとは思わなかった。

 

「太陽の姫の対となる者として、M型異端児の()となったと考えればいいかもしれませんね。太陽の姫を『陰の姫』とするなら、陽炎ちゃんは『陽の姫』とでも言いますか」

 

 分霊まで出来てしまいそうだった辺り、陰と陽の関係としても割と間違っていないかもしれない。対となる者というのは性質からして映し鏡のようになっているのだと思う。

 

「暴君だったり姫だったり忙しいなぁ私」

「姫の方がまだ聞こえはいいだろう」

「いやいや、どっちもどっちだと思うよ? 祭り上げられるみたいで緊張感すっごい」

 

 空城司令にすらケラケラ笑われてしまった。事は重大だが、あまり重く考えないようにするという配慮が見て取れる。

 以前までの私とは違うが、ここでの生活そのものは今までのままだ。だから、接し方も今までと同じ。むしろ、何かをキッカケにした爆弾の爆発を考えなくて良くなった分、前よりも軽く付き合える。

 

「失われてますが、もう自爆装置は要らないと思います。ここから深海棲艦化は無いでしょうし」

「ああ、それはアタシも思っていた。ありゃただの精神安定剤だからね。使わなきゃ使わない方が良かったんだ。無くなっちまったのなら、それでいいさね」

 

 戦闘中に沖波に千切り取られたチョーカー(自爆装置)も、今の私には不要な物となった。失われたからといって、もう1つ作ってもらう必要は無い。もうあの恐怖に苛まれることは無くなった。

 太陽の姫に直に刺されても変化しなかったというのも大きい。M型をD型に変える分霊が効かないということは、私にはもう分霊という行為が一切効かないということに繋がるわけだし、何かの弾みで深海棲艦化する心配も一切無くなったわけだし。

 

「とはいえ、沖波が要求してきそうではあるがね」

「……だよね。うん、今の沖波の気持ち、痛いくらいにわかる」

 

 以前に私が通った道を、沖波も後ろから歩いてきてしまっているのだ。状況から心境まで、全てが殆ど同じ形で。だから、沖波の苦しみは私だって理解している。

 万が一またあの姿になってしまったらという心配は嫌でも頭をよぎる。またああなってしまった時は、すぐに死にたいと考えるのが順当だった。結果、精神を安定させる意味も込めて自爆装置を身につけていたい。私が前例を作ってしまっているのだから、要求するのも必然と言える。

 

 沖波がそれを選択した場合、私は止められない。私がそうしたのだから、止める資格が無い。むしろ、沖波の意思を汲み取ってしまう。その方がいいとさえ言ってしまいそう。

 

「要望されたら渡すことにする。沖波に判断してもらうべきだ」

「うん、その方がいいよ。欲しいって言ったら渡してあげてほしい。その方が落ち着けるのは私が実証済みだから」

「嫌な実証だ」

 

 事実、私がアレのおかげで落ち着けたのだから、そうとしか言えないだろう。

 

「ということで、陽炎ちゃんの検査はこれで終わりです。結果として、同期値が完全に逆転したこと以外は、全て前のままということになります」

「そいつは重畳。あとは艤装だね。D型艤装が何故動かせていたか、だ。整備班に調査してもらってるから、行こうかね」

 

 私の艤装は元々D型艤装。工場長がサルベージしてくれたという海洋資源みたいなものだった。それが大きく破壊された後、女神の力で修復されたわけだが、私の体質が正反対に切り替わった後も当たり前のように動いてくれていた。むしろ、前よりも動きがいい。

 あの時は私だけの艤装タイプなんて考えたものだが、詳細は知っておきたい。もしかしたら、勝手が違いすぎて整備が出来ないなんてことがあるかもしれないのだから。

 

 

 

 検査が終わったため、今度は私の艤装を調査中という工廠へ。いつもながら作業音が絶えない場所である。

 今は海底に沈んでしまった沖波の艤装のサルベージ作業に、作業員の半数以上が割り当てられていた。海底にはヒトミとイヨもいるらしく、明確な位置を確認した後に引き揚げるようだ。みんなで協力して回収しようと頑張っているので、作業も早い。

 

「おう、来たか。陽炎の艤装、調査しておいたぜ」

 

 その作業から少し離れたところで、整備長が私の艤装を磨き上げていた。調査の後、出来る限りの整備をして、今は仕上げというところか。少なくとも整備長がバラせたようなので、前々から仕様そのものは変化無しのようである。

 

「どうだった」

「驚いちまった。コイツはなんつーか、M型でもD型でも無ぇや。整備の仕方がおおよそ同じだからいいけどよ、中身がガラリと変わっちまってた」

 

 私の考えた通りだった。もうDとかMとかの型という括りに縛られていない、私だけの独自の艤装。言ってしまえば()()()()となるか。太陽の姫と対を成す、原理不明のオカルト艤装。

 整備の仕方も、外して磨いて同じように接続するというだけに留まっている。余計なことをしたら元に戻せなくなるかもしれないと危惧したそうだ。D型艤装を整備するときもそんな感じになる事は多いみたいだが、私の艤装は特に顕著。

 

「俺もここじゃあ最古参だが、こんな艤装は見たことねぇな。これが噂の『女神の再構成』ってヤツかい」

「ああ、陽炎はそこからさらに選ばれし者ってヤツだそうだ。この変化はここから先、一生見られないよ」

「そいつぁ嬉しいねぇ。技術者冥利に尽きるってもんだ」

 

 余程珍しいのか、私の艤装の整備をしているとき、整備班全員が作業を止めてでも中身を見に来たレベルらしい。後にも先にも見ることは無いと言えるくらいレア。

 しかし、私の攻撃が太陽の姫に効果的である理由は、艤装からは判断が出来なかったらしい。やはりそこはオカルト要素が入ってきているようである。映画とかでたまにある、祈りのこもった弾丸が効くみたいな、そんな感じか。

 

「これ以上の改造はちょいと難しいな。変に触るとおかしくなっちまいそうだし」

「それだけ完成された艤装なんだろう。下手に触るより、このままでいた方が強いってヤツだ。陽炎、アンタはそれでいいかい」

「うん、この前これで戦った時、今までにないくらい使いやすかったから、このままでいいよ」

 

 女神の再構成のおかげで、私にとって最高最善の艤装として修復されているのだろう。ここに追加するものはないし、余分なものもない。今この状態こそが、完成されたものなのだ。

 そういうところは深海棲艦みたいだなと感じてしまった。一度なったから何となく理解しているが、深海棲艦の艤装は生まれた段階で最高最善。

 

「戦いの中で壊れちまったら、うまいこと修復する。そのためにも内部の図面を起こしてるんだが、構わないよな?」

「ああ、それは陽炎のためにも必要だろうからね。だからといって無茶されても困るが」

「しないよ。命の大切さは多分私が一番わかってるから」

 

 私はここ最近で二度も死んでいるのだ。三度目なんて絶対味わいたくない。あんなに痛くて辛くて怖い体験はもうゴメンだ。

 

「こいつはいい艤装だ。なんつーかな、()()()()()()()がこもってるような、そんな力を感じちまう。陽炎のための、陽炎にしか扱えない艤装だ。大事にしてくれよな」

「……実際そうなんだと思うよ。女神の再構成だからね。世界の想いを背負ってるって思って、これからも戦っていくよ」

 

 なんとも重たい艤装である。選ばれし者として世界の想いを背負い、対となる者、太陽の姫を必ず撃破するのだ。それに、この艤装には母さんの想いだって入っている。母さんに修復してもらったのだから。

 それなら戦っていけるだろう。いくら重たい艤装でも、今の私なら背負っていける。大丈夫、私はもう折れない。

 

 

 

 これからの私は陽の太陽の姫として、戦場を駆けることになるだろう。この世界を守るため、せめて手が届く範囲を守り切るため、私は戦っていこう。

 




対となるのなら、陽炎だって太陽の姫。そろそろあちらにも明確な名前を与えなくてはいけませんね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。