異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
午後、本日2回目の由良さんの検査に付き合うことになった私、陽炎。もしも何かあった時、私の力が役に立つ可能性があるため、太陽の姫に絡んだ内容は私が同伴するべきと判断されたからだ。出来るかどうかはさておき、分霊のような力によって緊急事態を回避出来るかもしれないとなれば、手伝うのは当然のこと。
今回はそこに諜報部隊も参加する。今までにない症例ということで、詳細なデータを取る必要があるとのこと。ここで得た情報が上に報告されると考えてもいいので、正直あまり悪いことにはならないでほしいと願っている。
あまり人がいるのも検査の邪魔になりかねないので、便乗するのは記録係の秋雲と青葉さんのみ。自分が検査されている様子を録画されるということで、由良さんはとても複雑な表情をしていた。
「その、お手柔らかに……」
「おかしなことはしないのでご心配なく! 広報活動とかではなく、あくまでも今後のための資料ですので!」
「ホントは文面だけの資料だけでいいと思うんだけど、今回の件ってば初めてのことだしオカルト要素多めだしで、諜報部隊も困っちゃってるんだよね。だから、残せるものは全部残しときたいのさー」
2人が言うこともわからなくは無いのだが、検査風景の映像はいるのかは少し疑問。こちらが虚偽の報告をするわけでもないのだが、証拠映像的なものはやはり必要なのだろうか。同期値上昇という異常事態であるのはわかるが。
由良さん自体、昨日まであった体調不良は若干鳴りを潜めてはいるが、本調子でもない。確実に体内に滞留している分霊の残滓か何かが影響を与え続けている。
「うちの鎮守府のことだ。編集してから上に出す映像はアタシが逐一チェックする。いいね」
「了解です! むしろこちらからお願いしようと思っていました。空城司令でしたら上にも話を付けやすい方ですし、お墨付きが貰えることが一番の信用ですから」
大将という地位もあるだろうが、うちの司令はその存在自体が結構強い位置にいるようだ。その下で戦う私達としてもありがたい限りではある。
「それでは始めますね。そこまで大掛かりなことではないのですぐ終わりますが」
ここからは速吸さんが先導。医療機器が絡んだ場合はもう速吸さん無しでは進むことが出来ない。
テキパキと事を進めていき、さっくりと同期値を検査。何をどうしたら計測出来るかはわからないが、苦痛も何も無く、ただただ機材を接続されて数値を見るのみ。大掛かりでも無ければ、時間もかからない。
「数値出ました。が……これはまた……」
大分渋い顔をする速吸さん。数値を見せられたことで、空城司令も渋い顔をする。つまり、前回計測の時からまた同期値が上がったということだ。
「あの、焦らされると由良も困っちゃう」
「察してるとは思いますが、朝から値が上がっています。それも、急上昇です」
由良さんはD型異端児と言っても同期値800くらい。私のマイナス値のような意味不明な値でも、夕立の8000のような異常過ぎる値でもない。800くらいと普通で考えれば異常だが、私達の中では中間くらいである。ギリギリ異端児というわけでもなく、酷過ぎるというわけでもない。
その由良さんの同期値がいくつかというと、なんと現状5000強。朝の計測の段階で既に3000近くを叩き出していたらしく、半日かからずに前回から約2倍という上がり方をしてしまっている。最初から比べれば文字通り桁違いになりつつあるわけだ。
「単純計算で、明日には万を越えます」
「上がり続けるとは限らないが、止まるとも限らないってことかい」
ペースが落ちていくのがわかればいいのだが、それを確認しようと時間をかけている間に取り返しのつかないところまで行ってしまう可能性がある。
「もし、ここから止まらず上がり続けたとしたら……」
「測定不能の値まで行く。つまり深海棲艦化だ」
最悪を想定した場合は、当然それが危惧されるだろう。D型の同期値は深海の艤装との同期値であり、深海に選ばれし者としての値だ。それが上がり続けるということは、私達と同じように最終的には
やはり『雲』による分霊は毒のようなもの。少し注ぎ込んだだけで由良さんの魂を侵食するかの如く拡がっている。
こんなことを突きつけられたら、いくら由良さんとて平静ではいられなくなる。私に分霊を許す程に、深海棲艦化を拒んだくらいだ。今の段階でそれを食い止める手段も見つかっていないのだから、余計に混乱を招く。
「提督さん……由良はどうしたらいいのかな。このまま指を咥えてその時を待つしかないのかな」
自分の置かれた状況が悲惨であることを自覚し、途端に震え出した。いずれ変わってしまうというのは、その場で終わった私達よりも確実に恐怖が付きまとうだろう。
「そんなわけにはいかない。そうなる前に治療する方法を見つけてやるさね」
出来ることなら、深海棲艦となった経験は持ってもらいたくない。元に戻すためには今のところ死しかないのだし、あの時の感情は全て覚えてしまっているのだからトラウマになる。目の前の仲間達が全員敵と思える経験は二度としたくない。
それに、由良さんは磯波や沖波と同じように、性格から豹変してしまいそうだった。元の性格がおっとりであればあるほど、正反対に持っていかれる気がする。
これを救えるのは、おそらく私だけ。しかし、慎重に行かなくてはそれこそ取り返しのつかないことになる。
分霊はダメだ。由良さんの存在を壊すことになり得る。だが、この力が何かの解決策に繋がる可能性も高い。
「……もう一度、チャレンジしてみていいかな」
意を決して、私の力での調査を申し出た。何もしないで時間ばかりを使っていたら、由良さんがダメになるもしれない。その前に精神的におかしくなってしまうかもしれない。深海棲艦化するくらいならと自ら……なんて考えたくない。
「昨日と同じことをやるってことかい」
「うん。一度出来たんだから由良さんの
自信があるといえば嘘になる。だが、やらなくては何も始まらない。
「由良はいいよ……昨日も言ったけど、深海棲艦になるなら、陽炎ちゃんに分霊された方がいい」
「それで由良さんが壊れたら、多分私が立ち直れない。時間がある内にいろいろと確かめたいなって」
「うん……由良で試してくれていいからね、ねっ」
人柱にしてしまうのは申し訳ないが、これにより由良さんが治れば最高。治せないにしても手掛かりが見つかれば良し。
「えーっと、話についていけないんだけど、ゲロ姉はどうなっちゃってるのかな」
話がどんどん進んでいくため、頭の上にハテナマークが出てしまっている秋雲と青葉さん。そういえば、私がどういう存在になったかは伝わっているが、分霊まで出来そうなことは伝えていない。
これについては上に報告する必要があるかもしれないので、簡単にだが説明する。秋雲も青葉さんも、それはそれは驚いた。もう艦娘とは言えない力を持ってしまったわけだし、それが現在最大の敵と殆ど同じモノなのだから当然と言えば当然。
「いやぁ、さすがの秋雲さんもビックリさー。ゲロ姉も神の類になっちゃったわけ?」
「いやいや、そんな大それたモノじゃないよ。どちらかといえばバケモノだから」
「邪神の対なんですし、正しい神様な感じはしますけどねぇ」
囃し立てられると途端に恥ずかしくなるから勘弁してほしい。私だってなりたくてなったわけじゃないんだから。選ばれたからには使える力はみんなのために使いたいと思うが、そこに私の意思なんて無かったし。
「とにかく、もう一度由良さんの中を」
「ちょい待ち。ゲロ姉」
由良さんに指を刺そうとしたとき、秋雲にタンマをかけられた。
「先にこの秋雲さんの中を見てみては如何かな」
「アンタの中を?」
「蝕まれてる由良さんの中と、まだ無傷な秋雲さんの中、比べてみてはと思ったのさ。由良さんのしか知らないなら、全部知っといた方がいいっしょ」
確かに、その言い分は正しい。私が分霊として中を確認したことがあるのは由良さんだけだ。それでわからないとは言ったものの、中が分霊未遂によってどう変わっているかは知らないのだ。
だったら健常者である秋雲を使って、正常を知っておくべき。秋雲は異端児でも無いため、差がわかるはずだ。
「司令、どう思う?」
「悪かないが、秋雲、本当にいいんだね」
「オッケーオッケー。こんなのネタにもなるし、ゲロ姉ならやらかすことないでしょ。身体張っちゃうよ」
どうも軽いノリだが、本人がここまで協力してくれるのなら、お言葉に甘えさせてもらおう。
「なら、覚悟しなよ。痛くは無いから」
「そいつはありがたい。ゲロ姉に心臓鷲掴みにされたら困っちゃう」
最後までおちゃらけてくれたので、割と軽い気持ちで指先を秋雲の胸元に添える。そして、全神経を集中して軽く押し込んだ。相変わらず当たり前のように指が入っていく。
「うわ、うわぁ、本当に入ってくる! 青葉さん録画してる!?」
「勿論ですよぉ! こんなの初めて見ますねぇ」
「ゴメン、ちょっと静かにして」
入れられるところまで入れようとしたら、それなりに深くまで持っていけたので、そこで内部を確認。こういうのは感覚的な部分を大事にした方が良さそうなので、ざっくりと指先に感じるものを調べる。
秋雲から感じるのは、昨日由良さんの中で感じたものよりは
「ん、良し。じゃあ次は由良さんを確認してみるよ」
「お願いね……」
秋雲から指を抜き、同じ指で今度は由良さんに突き刺す。昨日同じことをしているので、こちらは驚きは無い。目を瞑り、私に身を任せているような状態。
そしてわかった。由良さんの中にかなり強い
暗いのはわかるが、元凶が掴めない。暗いと表現しているのは、単純に視界が封じられるような感覚だからだ。中の様子が全く判断出来ない。手探りで何かないかを探り続ける。
「そうか……陽炎は今、
司令がボソリと呟いた。私はそんな大それたことをしてしまっているのか。
確かに、私や沖波に植え付けられた匂いは魂の匂いとも言える染みつき方をしている。太陽の姫や巫女の分霊も、私達の本質を穢すような行為、魂の陵辱だ。その指先で他者の魂に触れ、分霊という形で侵食するのだ。だから本質から変えられる。
今私がやっているのはそれと近しい行為。侵食はしないにしても、指先が魂に触れてしまっている。余計に慎重に行かなければならない。無茶なことをしたら壊れてしまう。
「対ならさ、ゲロ姉も分霊したら対消滅起こすんじゃないの? 汚れを洗い流すみたいにさ」
一理ある。太陽の姫は、私の攻撃に対して悉く回避を選んだ。あらゆることが対になっているため、ぶつかり合えば対消滅を起こす可能性がある。
だが、その影響で由良さんの魂に影響を与えたらどうする。侵食の消えた部分が穴になって残ってしまったら、侵食と一緒に壊れてしまったら、そもそも対消滅が起きなかったら。嫌な予感ばかりがよぎる。
「……陽炎ちゃん、自信を持って。由良なら……大丈夫だから」
由良さん本人からの言葉があっても、こればっかりは躊躇ってしまう。
「陽炎、思い通りになると思い込みながらやってみな。思い出してみなよ。海上移動訓練の時とかをね」
イメージの力、出来る出来るという思い込み。それが取り返しのつかない事態になってしまう可能性があるとなると、誰だって尻込みするだろう。
だが、やらなくては始まらないのも確かだ。行ける。行けるはず。秋雲の言う通り、私の分霊が太陽の姫の分霊を打ち消し合う可能性は0では無い。分霊されていない者に対して施したら、
「……ふぅ、わかった。試しにちょっとだけ
「うん、お願い……!」
中和のための分霊なので、分霊の儀とも考えない。私の力をただ注ぐ。汚れに洗剤をかけるかの如く、直感的に。
「んっ」
由良さんが声を上げた。何かが入ってくるのを感じたのだろう。魂の陵辱と対を成す、
巫女として活動し、磯波と夕立に手をかけたあの時と近しい感覚。だが、あの時の背徳の快楽は感じず、ただ由良さんを治療したいという気持ちでいっぱいだった。
だからだろう、確実に変化があった。指先から感じる由良さんの魂から、確実に穢れが取り除かれた。
「あ、あれ……身体が少し楽になったかも……」
「すぐにもう一度検査します。陽炎ちゃん、一旦中断出来ますか」
「大丈夫。本当に少し注いだだけだから」
由良さんから指を抜くと、速吸さんがすぐに由良さんの同期値を検査した。たった数分前に検査したばかりなのだから、普通なら同期値が変化するわけが無い。というか普通は変化しない。
だが、私の力の結果がここで確定する。
「同期値……3000……!? 落ちてます!」
私の分霊が『雲』の分霊を中和出来ることが判明した瞬間だった。
対となる者の力は、ぶつかり合えば対消滅するものと判明しました。太陽の姫も、無理に受け止めようとしないのは当然のことです。自分を消し飛ばす可能性がある唯一の力ですから。