異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
「阿賀野ね、陽炎ちゃんの手持ちの主砲、そのままの精度でもいいと思うの」
翌日の訓練の始め、先んじて呼び出された私、陽炎に連日で訓練を見てくれる阿賀野さんから提案が伝えられる。
私の主砲2つは、精度の高い備え付けと精度の低い手持ちの2種類ある。そのうちの後者、精度の低い方は、どうしても的の中心を撃ち抜くことが出来ずに困っていたところである。
それを阿賀野さんは、訓練せずにそのままでいいのではと言い出した。当たらない砲撃に何か意味があるのだろうか。
「え、でも当たらないんだよ?」
「掠めることは出来るでしょ? 的は動いてるんだから、そっちの方が当たるんじゃないかな〜って☆」
言われてみれば確かに。それに、当てる対象は的よりも大きな物である可能性はある。むしろ、備え付けの主砲がやたらと当たってくれるので、そちらを本命にして手持ちを牽制に使う方が戦い方としてはいいのかもしれない。
掠めることに特化した逃げ場を無くす手持ちと、確実に敵を仕留める備え付け、それをしっかりと使い分けることが出来るようにした方が良いのではないかと言われた。
「うん、その方がいいかもしれない。私はそういう戦術の方がいいってことだよね」
「阿賀野はそう思うな〜」
「それ、阿賀野さんが思いついたの?」
目を逸らされる。なるほど、助言をしてくれた人がいるわけだ。
「勿論当てられた方がいいと思うけど、多分陽炎ちゃんは実戦の中での方が覚えられるんじゃない? って提督さんが言ってたんだよね〜」
私の実情を一番わかってくれているのが空城司令だ。その人の助言なら、何も考えずに従うのが良さそうである。下手をしたら私よりも私がわかっているかもしれない。
当たり前だが一昨日海上移動が出来るようになり、昨日砲撃性能に特異性があることが見つかって、もう実戦訓練なんてことはまず無い。怒涛の展開である。
「と、いうことで〜、陽炎ちゃんは今日から実戦訓練だから頑張ってね☆」
「了解。頑張りまーす」
「2対2のチーム戦でやるから、他の子が来るまで待っててね。も少ししたら来るからね〜」
この説明があるから私は少し早めに呼び出されているため、少しだけ待機。早いと言っても十分程度のため、ちょっと待っていればすぐにやってくる。
「あ、来た来た、こっちだよ〜」
阿賀野さんが呼んだのは私に合わせてか全員駆逐艦。そのうちの1人は夕立である。戦闘のセンスが駆逐艦随一であることはさんざん聞かされているため、初めての実戦訓練にとんでもない奴をぶつけてきたのと舌を出しかける。チーム戦ということなので夕立が味方になってくれることを少しだけ祈る。
そして残りの2人は異端児ではないが、私や夕立とは比べ物にならないほどこの鎮守府に貢献し続けてきた古参の2人であった。
「チーム分けは、夕立ちゃんには菊月ちゃん、陽炎ちゃんには五月雨ちゃんがついてもらうね〜。良かったかな?」
「構わぬ……この菊月が夕立を出来る限り手綱を握ろう」
「は、はい、大丈夫です! 陽炎ちゃんはお任せください!」
夕立につく菊月は、火力が低い代わりに燃費の良さを売りにするという駆逐艦。とはいえこの鎮守府では熟練者だ。素人の私ではおそらく足元にも及ばない。喋り方がアレなのはまぁそういうお年頃だからと考えておこう。艤装の影響で髪が白銀に染まったことを隠れて喜んでいたという話も聞いているし。
私についてくれる五月雨は、艤装の型番としては夕立の妹にあたるらしい。そして、この鎮守府の最古参である。立ち上げ当初からこの鎮守府を支えており、そのおかげか駆逐艦トップクラスのレベルなのだが、ドジも多いとのこと。本人は否定しているものの、そこが少し不安。
「こんなに早く陽炎と勝負出来るなんて思ってなかったっぽい」
「お手柔らかに頼むよ。私、まだ素人だからさ」
「ちょっと聞けないっぽい。夕立結構楽しみにしてたからね」
本当に好戦的な性格。これが元々なのか艤装の影響なのかはわからないが、少なくとも素人の私にも全力で向かってくるらしい。堪ったものでは無い。
「夕立、お前が突っ込みたがるのは理解している。ならばこの菊月がその道を拓いてやる」
「さっすがお菊ちゃん、夕立のことよくわかってくれてるっぽい」
「お菊言うな。何処かの人形みたいだろうに」
あちらは分担まではっきり出来上がっているようである。対してこちらは、そもそも戦闘のせの字も知らない私。作戦やら分担やらは五月雨に任せるしかない。
「どうすればいいかな」
「そうだね……うーん……多分夕立ちゃんは陽炎ちゃんを集中して狙うだろうから、手持ちの方で牽制しながら狙い撃つしかないと思う。私が菊月ちゃんを抑え込めればまだ……」
何とも弱気。少なくとも私は動きながらの砲撃が初めてになるので、その辺りはサポートしてもらいたい。
「それじゃあ、阿賀野が合図したら始めるから、準備してね〜」
今回はチーム戦。お互いに通信出来るインカムまで用意してもらえた。なんだか少しワクワクする。初めてやることというのは緊張感も激しいが、それ以上に楽しさも感じてしまうものだった。
艤装を装備した後、所定の位置に立ち合図を待つ。インカムには阿賀野さんの声も聞こえるようにされているため、全員に一斉に通知が届くという仕組み。私の声は五月雨にしか聞こえず、その逆も然り。夕立と菊月の声は私達には聞こえない。
ルールは簡単、チームの両方が沈んだ判定になった時点で終了。武器は主砲のみというルールまで付けられた。魚雷は私が訓練していないためである。そして、時間判定は一切無し。決着がつくまでやり続ける。
当たり前だが、主砲に装填されているのは昨日的当てに使っていたペイント弾。艤装で身体が強化されていても、当たれば結構痛いとのこと。
『はい、じゃあ位置についたかな?』
阿賀野さんの声が耳に響く。緊張感が高まる。訓練は訓練でも相手のいる訓練。楽しみだなんて言いながらも、しっかり筋肉は強張っている。
『陽炎ちゃん、深呼吸深呼吸』
「そ、そだね。すぅー……はぁー……」
五月雨に言われて呼吸を整えた。落ち着けるわけではないが、幾分か頭の中は冷えたと思う。
『それじゃあ、始め〜』
緊張感の無い阿賀野さんの合図で、緊張感しかない実戦訓練スタート。阿賀野さんに言われた戦法をぶっつけ本番で試してみる戦い。上手くいくかはわからないが、今私が出来ることで全力でぶつかるしかない。
主砲を握る手が汗ばむのがわかるが、手袋のおかげでグリップが滑るとかそういうことは無い。いつでも100%の力が出せるはず。それが命中しないという精度なのだが。
『やっぱり突っ込んできた』
先程聞いていた通り、夕立が真正面を突っ切ってきた。それを追うように菊月が主砲を構えてこちらに向かってくる。
私の両手持ちの主砲は珍しいのか、夕立も菊月も片手持ち。砲身が夕立は2つだが菊月は1つ。差はそれくらいか。五月雨も持っている主砲は夕立と同じもの。当たれば当然酷い目に遭う。
『陽炎ちゃんは夕立ちゃんを迎撃』
「はいよ、当たるかわからないけど!」
手持ちの主砲を夕立に向けて構え、砲撃。昨日さんざん撃ってきたのだから、反動には多少慣れている。狙いは夕立の腹の辺りだが、当たり前のようにそこからブレ、ペイント弾は腕に向かう。
そんなところへの砲撃なんて、身体を傾ければ簡単に回避出来るだろう。夕立はニコニコしながら回避し、そのタイミングでこちらに主砲を向けてきた。撃つ方は訓練していても避ける方は初めてだ。とにかく逃げるしかない。あんなスタイリッシュに回避出来るのなら最初からやっている。
「うっへ、そりゃ避けなくちゃダメだよね!」
『焦らず行こ。止まり続けたら的になるだけだから、ずっと動き回って!』
「了解ー!」
ただでさえ動きながらの砲撃をやったことが無いというのに、昨日の今日でコレとは。命を懸けているわけではないとはいえ、当たりたくないという気持ちは常に駆け巡る。
夕立の砲撃は咄嗟の判断で回避することが出来た。撃った後はどうしても動きが止まってしまうため、もう少し軽やかに砲撃がしたい。
『菊月ちゃんも来たよ!』
そこに菊月の砲撃まで重なってきたからさあ大変。1つなら見てから避けることが出来ても、2つ目となると目が追いついていかない。避けられるイメージを瞬時に想像して、その通りに動く必要がある。これに関しては無意識も何もない。ちゃんと考えないと動きようがない。
「初心者に! 寄ってたかって!」
「戦場では誰もそんなことは聞いてはくれぬ。お前の都合などお構いなしに撃ってくるだろうさ」
「お菊ちゃんの言う通りっぽい!」
あちらの声が聞こえる程にまで近付いてしまっているため、避けるのも一苦労ではある。
幸い2人とも私の視野に入っているため、全速力で逃げ回れば砲撃を喰らうことはない。直線上に立たないようにジグザグに動きながら、回避に専念。素人の私でも回避くらいは出来るらしい。こんなでもあちらさんは手を抜いてくれている可能性も否定出来ないが。
そもそもみんな初心者の時代があるというもの。初めての実戦訓練なら、みんなこうなって然るべき。あの夕立にだってこういう時代があったはず。出来ないのは私だけじゃない。
「ええい! 離れてくれないかな!」
手持ちの主砲で夕立をまた狙い撃つ。正確には咄嗟に撃ったのでまともな照準ではないのだが、多少は動きを止めることは出来るはず。
『援護するよ』
そのタイミングで五月雨も撃ってくれた。私が処理出来ない菊月に牽制。おかげで菊月は徐々に夕立から離れていき、私への砲撃がしづらくなっている。チームなのだから相方に頼るのが手っ取り早い。
五月雨は残しておいて私に集中砲火を浴びせるというのが相手の作戦のようなので、五月雨は基本フリーになっている。私は回避に専念して、時間を稼ぎつつ五月雨に撃ってもらうというのも良さそう。それだと私の砲撃訓練にはならないが。
「サミーはホント上手っぽい! なら、夕立1人でも陽炎やっちゃうよ!」
「やめてくれないかな!」
「嫌だっぽーい!」
菊月からの援護が無くなったことで、夕立の砲撃が一層激しくなる。本当に戦闘のセンスが異常であることを身を以て体験させられた。私の回避のパターンをどんどん覚えていき、逃げ道が次々と失くされていく。私が必死に撃っているにもお構いなしに、超速で学習している。
「なら……!」
最初に阿賀野さんに言われていた戦法をここで使う。今は考えてから使うので回避が疎かになりそうだが、やれる時にやらないと訓練にならない。
少しだけ回避行動をやめ、向かってくる夕立に手持ちの主砲の照準を合わせる。本当なら動きながらそれが出来ればいいのだが、今はこれでもいいからやってやる。
「当たらないっぽい!」
撃つ前に対応してきた。引き金を引く瞬間には既に照準からズレており、当たらない場所からこちらに狙いを定めている。
そのタイミングを見計らって、今度は備え付けの主砲を動かす。夕立が回避した方向は
「当たって!」
手持ちの主砲を撃ち放つと同時に、備え付けの主砲も放つ。これまでに無い反動が身体を襲い、ちょっと吐きそうになったが何とか堪えた。
手持ちの一の矢を避けさせ、備え付けの二の矢を当てる。拙いながらも戦略としては出来上がったる気がした。
「んふー、甘いっぽい!」
しかし、それも避けられる。結局のところ、今いる位置に照準を合わせただけなので、撃った後の位置は考えていない。的が動き続けているのだから当たるわけが無かった。
「でも凄いよ陽炎! 初めてでここまでやれるんだもん!」
2撃同時の反動で動きが鈍くなっているところを狙われる。あ、これは避けられないなとすぐに理解出来た。だがそれを受け入れるわけにもいかない。訓練でも足掻いて足掻いて、勝利を掴み取る。
「この……!」
「終わりっぽい!」
『陽炎ちゃん、ちょっとバック』
不意に五月雨の声が耳に響く。私と夕立の戦いを外から見ている五月雨だ、これは指示のままに動いた方がいい。そんなに頭に血を上らせたら、勝てるものも勝てなくなる。
このほんの一瞬の判断が功を奏した。言われた通りに下がった瞬間、夕立の胸元にペイント弾による花が咲いていた。
「ぽい!?」
「この演習はチーム戦だからね。悪いね夕立」
私が夕立と小競り合いをしている間に、五月雨が菊月を抑え込んでいたようだ。さすがは最高レベルの駆逐艦、技術が半端では無い。
これにより初めての実戦訓練は勝利で終わった。全て五月雨のお陰ではあるものの、学ぶべきことが沢山見つかったのは嬉しいところ。これからの自分に活かすことが出来そうだ。
空城鎮守府の初期艦は五月雨。菊月も初期の段階で建造された艦娘となります。戦闘中はドジをしないドジっ子サミーと、厨二っぽさが漂うお菊が、この鎮守府の駆逐艦としては重鎮になりますね。