異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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元通りに

 いろいろとあったが、ようやく沖波の治療が完了した。太陽の姫により澱んでいた魂は、私、陽炎によりシミ一つない状態にまで中和している。澱みのせいで黒ずんでしまった部分は分霊を埋めるかのような処置にはなっているが、元々M型異端児である沖波には支障が無いはずだ。

 私の分霊が終わったということで、少し離れて待機していた速吸さんが医務室に到着。そのまま沖波の同期値を計測してくれる。予想ではこの処置により、D型異端児にされていた沖波はM型異端児に戻っているはずだ。

 

「D型同期値は0。M型同期値は以前より少し大きいですが、2500程で止まっていますね。元に戻ったと言っても過言ではないでしょう」

 

 私の分霊の影響でM型同期値が若干上がってしまったようだ。おそらくこれが、()()()()()()の結果なのだと思う。

 沖波の魂に、太陽の姫の断片が一部でも残っているのが嫌だった。奴の力だから、ほんの少しのシミからでも沖波に悪影響を与えてしまうかもしれないと思ったし。それでも沖波に妙な影響を与えていないようで一安心である。

 

「そいつは良かった。沖波、数値はこうだが、自分ではどう思う」

「そうですね……疲れはあるんですけど、妙にスッキリしている感じはします。ひーちゃ……陽炎ちゃんへの嫌悪感は殆ど残っていません」

 

 私の分霊では心の問題は解決出来ないのは実証済みなのだが、沖波の場合は分霊の時にいろいろあったからか、少し影響が出ていたようだ。本音をぶつけ合い、嫌悪感を持っていた状況を沖波自身が拒んだことがいい影響になったのだろう。そうとしか思えない。

 明らかに態度に出ていた今までとは違い、私を前にしても平然と出来ている。だが、()()ということは、嫌悪感が完全に払拭されているわけではないようだが、それも時間で解決出来るだろう。

 元々私達は親友同士、子供の頃はいつも一緒にいたし、今だって同じ部屋にいるくらいは出来る。この関係は自然に治っていくはずだ。それこそ、一晩グッスリ寝たら終わりとか。

 

「なら、明日の朝イチに艤装の確認もしようか。M型に戻ったのなら、今までの艤装が装備出来るはずだからね」

「はい……ご迷惑をおかけしました」

「迷惑だなんて思っちゃいないよ。陽炎も言っていたが、アンタにゃ何も罪が無いんだ。それはアタシら全員の意思だからね。気にするんじゃないよ」

 

 こればっかりはどうしても罪悪感が付き纏う。私も振り切るためにはそれなりに時間を使った。これに関しては、私達が側にいてあげることでケアしていくのが良さそうである。私の時のように。

 

「じゃあ、今日は解散としよう。長門、アンタもすまなかったね」

「いや……私としてもよく出来た方だと思う。少しだけ、対人関係に自信が持てた」

 

 今回のMVPはどう考えても長門さんだ。裏で駆け回ってくれたおかげで、ここでの作業がスムーズに出来た。最後はドタバタになってしまった感じにも思えるが、アレだけ騒いでいても誰もここに駆けつけなかったのは裏で手を回しておいてくれたおかげ。

 それもこれも、長門さんが吹っ切れ始めたおかげだ。私も感謝しかない。

 

「戦うことが出来ずとも、皆のために動くことは出来るんだな」

「ああ、その通りだ。アタシもアンタに艦娘として仕事をしろとは言わない。ここでやりたいことをしてくれりゃいいんだ。食堂の手伝いも様になってきたみたいだしね」

「まだ料理は出来ないがな」

 

 長門さんがクスリと笑みを溢したように見えた。長門さんがここに所属してから初めての表情。その瞬間に立ち会えたことが、一番嬉しかった。

 

 

 

 時間としてはもう夜。夕食を終えた後だったため、あとはもうお風呂に入って寝るだけ。医務室でのことは全て終わったので、私と沖波は先んじて撤収させてもらうことになった。長門さんは少し司令や速吸さんと話があるとのこと。メンタルケアの面で話があるとかだろうか。

 ということで、2人でお風呂。昨日まででは考えられなかった状況である。時間が少し遅い時間のため、周りには誰もおらず、大浴場に2人だけ。なんだかすごく贅沢をしているような感覚である。

 

「体調はまだ良くない感じ?」

「そう……だね。まだ気怠いかな。ストレスで熱っぽかったから、それがまだ残ってるんだと思う」

「じゃあ、今日はゆっくりグッスリ寝ないとね」

 

 沖波はスッキリしていると言っていたものの体調不良が残っているため、今晩はグッスリ眠ってもらうことにした。誰にも邪魔をされず、何事もなく熟睡出来る環境で、最後の疲れを癒してもらいたい。

 

「ひーちゃんの部屋で寝ちゃ……ダメかな」

 

 そうしたらこれである。私としては嬉しいのだが、本当に沖波はそれで落ち着けるのだろうか。ついさっきまで激しい嫌悪感を持ち、治療により大分払拭されたかもしれないとはいえ、さっきの今で大丈夫だろうか。

 

「大丈夫? 無理してない? 嫌悪感は無くなりきってないんでしょ?」

「そうだけど……今はそれが正しいって思えるから。何でだろうね……ひーちゃんに分霊してもらったからかな」

 

 私が指を突き刺した胸元に触れて、すっと目を瞑った。あの時の感覚を思い出しているのか、苦笑するかのように表情が崩れる。

 

「あれだけ嫌だ嫌だと思っていたのに、分霊をしてもらったら嫌な気持ちがだんだん薄れていったんだ。今でもあの時の気持ちは少しだけ残ってるけど……あの時とは全然違う。こうやって素直に話せるもん」

 

 まだぎこちないが、私にも笑顔を見せてくれるようになった。もう睨み付けてくることもないし、目を逸らすこともない。普通に話もしてくれる。多少の()()()は残っているとしても、明らかな嫌悪感を見せるようなことはない。

 本来の笑顔を取り戻せるまでは、私は沖波と親身に付き合っていきたい。それが沖波にとって鬱陶しいものだったら困るが。うまいこと付かず離れずで。陸奥さんみたいな揉め方はあまりよろしくない。

 

「ありがとうね、ひーちゃん。このモヤモヤする気持ち、きっと振り払うから。出来れば……側にいてほしいな」

「おっきーが望むなら、私はそれを叶えるよ。そういうのが親友ってもんだと思うから」

「……あはは、あんなことした私でも、そう言ってもらえると助かるよ。いざという時は、また分霊して。定期的に魂を見てもらえると嬉しい」

 

 それは正直やるつもりではあった。数値上では元に戻った扱いではあったが、完璧に治っているとは限らない。機械で計測出来ること以外に何かあるかもしれない。それを視ることが出来るのは私だけなのだ。みんなのためにも、この魂の確認はしていくべき。沖波はとりあえず明日の朝にでも1回やっておこう。

 

「ここだけは残っちゃったね」

「これは……うん、ひーちゃんと同じ後遺症なんだと思う。身体に出るのは勘弁してほしい……かな」

 

 ここまで治療は上手く行っているが、唯一後遺症として残ってしまった部分がある。私と同じで、髪に白のメッシュが入ってしまったことだ。特に沖波の髪は艤装の影響で不思議な色合いをしているのに、そこに新たな色が交じってしまったため、遠目で見ると少しだけ違和感がある。

 魂の洗浄は出来たとしても、肉体に表れた後遺症は取り払えなかった。それだけは申し訳ない。完全に元通りとはいかなかった。

 

「でも……大丈夫。あの時のことを忘れられなくしてくれる後遺症なら、私は受け入れるよ」

 

 私への嫌悪感が大分払拭されたことで、今度は罪悪感の方が上回ってきている。

 

「ごめんねひーちゃん……こんなことになっちゃって」

「いいんだって」

「ひーちゃんの治療のおかげでやっと謝れる。さっきまでは……なんで罪悪感なんて持たなくちゃいけないんだって気持ちもあったから」

 

 そういう方向でも今の罪悪感が刺激されてしまっているのだろう。一度私を殺しているという事実がどうしてものしかかってしまっている。

 先程までは罪悪感を上回る嫌悪感のせいで、謝罪以上に苛立ちの方が大きかった。嫌いな奴を殺したことを何故悔やまなくてはいけないのかと。だが、正気に戻った今、沖波はその全てが罪悪感としてのしかかってきている。

 

「大丈夫。奇跡があったとはいえ、私は生きてるんだから」

「でも、奇跡が無かったら……」

「もう起きた後なんだから、偶然でもなんでもなく必然なんだよ。私はあの場所で死ぬべきじゃなかったって、世界が認めてくれたんだ。生きておっきーを救えってね」

 

 だから女神(母さん)があの場に舞い降りたのだと思う。成すべきことを成すために、ここで倒れてはいけないよと。おかげで私はこうしてまた沖波と仲良く話が出来ているのだ。

 女神の前例は他に無いわけでは無いと聞いている。私以外にも同じように女神の奇跡により死を乗り越えた者がいるのだと思うと、その子達はどんな子なのかが気になるものだ。

 

「ありがとう……ごめんね」

「もう謝らないでよ。次謝ったら引っ叩くよ」

「……それは嫌だなぁ。もう痛いのはゴメンだよ」

 

 少しは冗談も通じるくらいには回復しているようで何よりである。

 

 

 

 お風呂から上がり部屋に戻ると、待ち構えていたかのように異端児駆逐艦の面々が揃っていた。沖波の部屋ではなく、私の部屋で。

 

「やっぱり、2人でこっちに来たっぽい!」

 

 その予測をしていたのは夕立のようだ。相変わらず勘がいい。

 

「みんなに御触れが出た時点で、姉さんがちゃんと沖波さんを治してくれるのだと信じていました」

「夕立ちゃんがね……絶対2人で帰ってくるからって」

 

 萩風と磯波も、私達が治療を終えて仲良く帰ってくると信じて疑わなかったようだ。そこまで信用してもらえるとは。

 

「オキ、もう大丈夫? ゲロ様のこと嫌いじゃない?」

「……うん、もう大丈夫。まだちょっとだけ残っちゃってるけど、自然と無くなっていくと思うから」

「割と強引な方法で治療しちゃったから、私としても心配ではあるんだよね。だから、明日の朝にまた沖波の魂を見せてもらうつもり」

 

 こうやって部屋に5人で集まるのは、何だか久しぶりに思えた。実際は1日2日のことなのだが、1人で眠ること自体が少し寂しく感じるくらいだったし、この環境に慣れすぎている感じもする。

 私も大分開き直ってきたし、誰かの温もりがないと眠れないとかそういうことも無くなっている。悪夢も振り払うことが出来たのは大きい。もしかしたらそれも女神(母さん)のおかげかも。

 

「じゃあ、これでまた元通りっぽいね」

「そうだね。全部元通りだよ」

 

 ここの人間関係は、太陽の姫が現れる前の状態まで戻ったと言える。感極まったか、夕立が沖波に飛び付いた。いつもは私にやってくることだが、今回は主役の沖波に。

 だが、クンカクンカと鼻を鳴らした後にスッと身体を離した。そしてもう一度顔を近付け、身体中を舐めるように匂いを嗅いでいく。

 

「オキの匂い、無くなってるっぽい」

「あ、そうなんだ……M型に戻ったからかな」

 

 そういえば、それだけは私にはわからないことだった。D型異端児にしかわからない、巫女特有の魂の匂い。つい先程までは沖波にも染み付いてしまっていたそれは、夕立曰く残り香も無いらしい。

 それを言われたからか、磯波も沖波の匂いを嗅ぎに行き、その匂いが無いことを確認した。2人に同じことを言われたらそれはもう確定事項。

 

 私の分霊で綺麗さっぱりにしたことがそこにも影響を与えていたのだろう。おそらくだが、しっかりと消した魂の黒ずみが匂いに繋がっていたのだと思う。

 長く澱みに浸かっていた長門さんや萩風の魂には無かった辺り、やはり太陽の姫の分霊はそれそのものの質が違う。巫女にされたら、死んだ後に元に戻っても魂に遺恨を残すほどに強烈で凶悪、そして厄介。

 

「本当に元通りなんだね……改めて、ありがとう、ひーちゃん」

「どういたしまして」

 

 まだぎこちない笑みではあるが、沖波は少しずつでも元気になってくれている。明日になれば体調不良も無くなるだろう。私と一緒にいることでストレスを感じてしまうようなら少し困るが。

 

 

 

 これでようやく、前に進める。沖波と一緒に。元通りの関係で、次の戦いへ。沖波をここまで苦しめた太陽の姫への憎しみは、今まで以上に膨れ上がっていた。

 




長々続いてきた沖波を巡る話はこれで終了。関係性は元に戻り、鎮守府全体としても次の戦いに進むことになります。本来の目的、太陽の姫の撃破のために。
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