異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
翌朝、鎮守府内の心配事が片付いたおかげか、とても気持ちよく目覚めることが出来た私、陽炎。久しぶりに異端児駆逐艦が全員集合した状態で眠ったからか、悪夢なんて見なかった。相変わらず夕立は抱きついてきてるし、ここぞとばかりに磯波も私のところに来ているしで、少しだけ以前の日常が戻ってきたかのようだった。
そして問題の沖波。スッキリと目覚められたということは、沖波も魘されるようなことは無かったようである。私が鈍感で、実は横で魘されていても気付かなかったと言われたら申し訳ないが。
「ふぁ、おはよぉ」
私が目を覚ました時には磯波や沖波は既に身支度中である。夕立の拘束は相変わらず。今日は脚まで絡めてガッチリホールドである。少し久しぶりの添い寝になったわけなので、こうなってもおかしくないかもしれないが。
「おはようひーちゃん。すごくグッスリ眠れたよ。ストレスも無くなったみたい」
「良かった。その……まだ嫌悪感とかある?」
「少しだけ。でも、違和感程度になってるから大丈夫だよ」
笑顔はまだぎこちないままではあるが、本人の言葉は信じる。現状維持で過ごして、私に慣れていってもらうしかない。やれることはやったのだ。ここからは良くなるだけ。悪化することは無いはず。
「夕立、起きな」
「ぐえ」
背中で押し潰し、夕立も起こしておく。私は今からやらなくてはいけないことがあるのだから。
「やばいっぽい。ゲロ様の匂い、前よりも安眠効果あるっぽい」
目は覚ましたようだが、私の背中から離れようとしない。むしろべったりくっついてクンカクンカと匂いを嗅ぎ回している。慣れたものだが、鼻息がくすぐったい。
「M型になったからかな」
「わかんないけど、なんかママに添い寝してもらってる感覚っぽい。寝ようと思えばこのまま寝られる」
「起きろ」
このままだと本当に二度寝しかねないので、無理矢理振り払って拘束を解いた。夕立に抱きつかれたままでは、私も身支度が出来ない。
拘束が解けたところで、まずは沖波の魂に触れさせてもらう。かなり強引な分霊による治療だったので、何かの間違いが無いかどうかはここで確認しておきたい。
「うん、私が見る限り、昨日と同じ。大丈夫、何も変わってないよ」
「そっか、良かった」
昨日もそうだったが、沖波の魂は一際綺麗だ。やはり元々がM型異端児、世界に選ばれた者なだけある。特に沖波は、この鎮守府でもM型同期値がトップでもあったし、それが影響しているのだろう。
そうなると、太陽の姫と対を成す私の魂はどんな感じなんだろうか。つい最近までは多分真っ黒だったのだろうが、今やD型の同期値は完全に0となっているし。
「姉さん、インナーはもう使わないんですか?」
「ああ、そうだね。匂いで他人を狂わせるようなことも無くなったし、一旦卒業かな」
身支度をしていくうちに萩風に問われる。昨日もそうだったが、今日も初月インナーではなく、本来のスパッツを選択。これも太陽の姫の呪縛から逃れた証みたいなものだ。
今までは私の魂の匂いのせいでD型異端児に迷惑をかける可能性があったが、もうその心配もない。夕立みたいに気分を落ち着かせるために嗅ぎに来られる可能性は一応考えてはいるものの、やはりこちらの方が
とはいえ脱力回避で脚を痛める可能性がまだあるため、そうなった時はまたサポーターという形で使うかもしれない。
「D型のままだったら沖波に使ってもらおうかと思ったんだけどね。その辺りも治ってよかったよ」
「そもそもサイズ合わないよ。胸とか。胸とか……」
自分で言って落ち込むんじゃない。
とまぁ和やかな雰囲気で朝が始まった。ようやく取り戻した、まともな関係性だ。せめて鎮守府で過ごす時くらいは、ずっとこんなやりとりをしていきたい。
私と沖波のいざこざが終わったことで、改めて太陽の姫の本拠地への襲撃についてのことが再開される。その会議をするため、朝食後に全員が集められて朝礼が開かれた。
現状では、光の双子が沈没船を発見したものの、近付くだけで猛烈な抵抗をされるということが判明している。そもそも戦艦の姫級やレ級が毎回のように出てきている時点で、あの場所に秘密があることはわかっていることだ。
そのせいで、ここ数日は調査は一時中断。対策を考えるために諜報部隊が日々頭を悩ませている状態。今日もおそらくあちらへの調査任務は行われない。
「海の中も相当カッチカチだよ。いや、むしろこっちの方がしんどいかも。上から爆雷来るわ真正面から魚雷飛んでくるわ」
イヨがボヤくように話す。あの海域を調査している時の一番の被害者は、沈没船に一番近付くことが出来る潜水艦である。どうしても見られたくないのだろう、レ級すらも潜水艦を排除することに専念する程だ。
ならあれは一体何なのだろう。本拠地だろうとは思うのだが、それ以上に重要なものなのだろうか。中に何かがあるとでも。
「その件だが、その船が何かというのは物部にも連絡はしているが、こちらでも調べている」
「……由来とかわかれば、攻略法も見出せるかも……?」
「ああ、その通りだ。奴はオカルト要素が大きいからね。どういう存在かがわかれば、有効打が考えやすい」
とはいえ、防衛線が異常なのは周知の事実である。有効打が見つかったところで、それを超える数の敵がワンサカ湧いてこられたら、勝ち目があっても届かない。結果的にジリ貧になる。
やはり人数が足りないのだ。ここまで大事になる戦場なんてそうそう無いと思う。各鎮守府に艦娘を散らばらせている方針もわかるが、今回の敵は侵略者の大ボスみたいなもの。一鎮守府の力だけでは、攻略がかなり難しい。
だからいろんなところに力を借りている。今もここにいてくれている諜報部隊もそうだし、現在準備中の呉内司令率いる外人部隊もそれだ。あちらの数の暴力には、こちらも精鋭を全力投入せざるを得ない。
「呉内の部隊はもう少しで準備が出来るそうだ。早けりゃ明日、遅くても数日中に来られるらしい」
「メンバーは前と同じですか?」
「今のところは替えるとは聞いていないね」
それを聞いた霧島さんは少し表情が歪む。おそらくサウスダコタさんのことを思い出したのだろう。
メンバーが替わらないということは、
「潜水艦! イヨ達だけだと足りないから潜水艦追加で!」
「イヨちゃん……静かにね……」
「姉貴だって酷い目に遭ったじゃん! なら、海の中も多い方がいいって。あと対潜部隊も絶対欲しい!」
最前線の中の最前線に突っ込んでいるだけあって要求は多い。情報を確実に得るためというのもあるが、当然ながら命が大切だからというのもある。
敵の大群に対して潜水艦2人というのは、多勢に無勢にも程があるというもの。敵の攻撃がある程度分散すれば、生存確率は上がるだろう。集中攻撃したら他の者がすり抜けて本拠地に近付くのだから、攻撃がバラつくのは自明の理。
そして、敵潜水艦も厄介だとイヨは言う。潜水艦同士の戦いなんて、直線的で砲撃よりも遅い魚雷が真っ直ぐ突っ込んでくるだけなので、基本は回避可能。しかし、それが四方八方から来るとなれば話は別。逃げ道確保に精一杯になり、結果的に爆雷に被雷する羽目になる。
ならば、海上からの対潜部隊も必要だろう。ヒトミとイヨを沈没船に近付かせるためにも、その道を開くための戦いをしなくてはいけない。
「話はしてみるが、期待はするんじゃないよ」
「やったぁ! これで確実に近付けるよ!」
「……感謝します。その分……お役に立ちますので」
まだ増員がわからないのに大喜びのイヨ。ヒトミも少しテンションが上がったように見えた。
「で、今後の部隊だが、現場で太陽の姫とエンカウントする可能性も大分上がってきている。そうなった場合、攻撃が通る通らないの問題が出てくるだろう。話を聞いている感じ、奴はM型異端児の攻撃だけは避けたそうだね」
「うん。衣笠さんの攻撃を避けたくらいだからね。多分そういうことなんだと思うよ」
前回の直々の襲撃の際、太陽の姫がしっかりと回避したのは、私と衣笠さんの攻撃だけだ。共通点は、M型異端児であることだけ。私はあの場でそちら側になったので、途中から効くようになったというのが正しいか。
「M型異端児の攻撃だけが効く。だが、M型異端児は太陽の姫に分霊を狙われる。えらく危険な状態だ」
沖波がビクンと震えたのがわかった。その実害を受けているのは沖波のみ。どうしても嫌なことを思い出してしまうのだろう。
私が治療したからといって、沖波に分霊の耐性がついたわけではない。また太陽の姫に爪を刺されれば、『空』に変えられてしまう可能性は高い。そういう意味では、戦場に出られなくなるくらいのトラウマを持ってしまったと言っても過言ではない。
「実質、奴の天敵は陽炎ただ1人ってことでいいのかい」
「多分……そうなるのかな。私は太陽の姫の分霊が効かなかったから。やられかけたけど、跳ね返したんだよね」
「その代わりにあちらさんも陽炎を殺すことに躍起になってくるわけだ。余計危険だねぇ」
効かないとわかった瞬間に沈めろと指示を出したくらいだ。今の太陽の姫にとって、私はこの世にいてはいけない存在という認識になっているはず。それはお互い様である。
「天敵を増やせりゃいいんだが、それはまずいんだっけか?」
「私が分霊したら誰でもM型異端児になれるんだと思う。でも、分霊が効かなくなるかはわからないし、太陽の姫の対となる者ってアイツが言うくらいだし、多分同じ感じになっちゃうよ。意思を塗り潰して私の部下っていうか、
「ああ、さすがにそれはダメだ。誰のためにもならないね」
理解してもらえてありがたい。手段を選ばないというのなら、まず確実に鎮守府に所属する全員に分霊を施すことになるだろう。だが、それで分霊が効かなくなるかどうかはわからない。私があちらの巫女を分霊により横取り出来る可能性があるのなら、その逆だってあり得るわけだし。
そもそも、意思を塗り潰してまでやるのは良くない。元に戻せる可能性が限りなく低いわけで、事が済んだ後でも私の部下というのが本当にダメ。一時の勝利のために人生を潰すのは、それこそ太陽の姫と同じになってしまう。それは私が嫌だ。
「だけど、M型異端児は確実に出ないとダメだと思う。危険かもしれないけど、攻撃は通ると思うし」
「ああ、その通りだ。勿論部隊には全員組み込ませてもらう。陽炎、衣笠、沖波。この3人は決戦の要として、戦場の中心になってもらうよ」
流石に松輪を前線に立たせるのは気が引ける。そのため、今呼ばれた3人が中心となる。
沖波は今の精神的に厳しいかもしれないが、否定をしなかったので出撃したいという気持ちはあるのだろう。なら、メンタルケアをして前に出られるようにしてあげたいところ。
「磯波はどうなんだい。M型の同期値は異端児のはずだが」
「あの時は……その、真っ先に狙われたので……」
「ならアンタの素質も見透かされているかもしれないね。出てもらうよ」
「……はい。私も……太陽の姫が憎いので、戦場に出られるのはありがたいです」
一応M型異端児の素質がある磯波もメンバー入り。世界にも深海にも選ばれている唯一の存在として、その場を引っ掻き回せるか。
「とはいえ、まずはあの場がどういう場かを調べなくちゃならない。無理せず、奴の正体を探ることを優先する。今回は誰も触れられちゃあいけない戦いだ。あまり時間はかけたくはないが、慎重に行こう」
それが一番だ。太陽の姫に触れられたら、その場で巫女にされる可能性もある。あちらも手段を選ばないなら、手当たり次第に分霊をしてもおかしくない。
そしてその脅威は何も太陽の姫だけではない。まだ『雲』が残っている。当然だが『雲』は救出対象だ。いつも通り撃破するか、私の分霊が効果的ならそれで、人間に戻してやりたい。『雲』だって被害者だ。
「今は出来ることをやっていくよ。ありがたいことに、向こうは手の内を一部見せてくれたんだ。訓練にも気合が入るってもんだろう。じゃあ、今日も1日頼むよ」
ここからがこの戦いの本番になるだろう。私という対抗策が出来たことで、勝ち目が無いということは無くなった。まずは奴が何者かをしっかり調べていきたい。
戦いは次の段階へ。太陽の姫への対策を練ることと、沈没船の正体調査。鎮守府でも調査しているということで、それに触れているのは勿論しーちゃんです。