異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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あの経験を糧に

 最終決戦に向けた準備が再開された鎮守府。潜水艦姉妹が発見した沈没船についての調査が裏で進められていく中、私、陽炎を含むM型異端児は、対太陽の姫の要として練度を高めていくことになる。自分がそちら側に属することになるなんて夢にも思わなかった。

 

 その前に、まずは沖波が艤装を扱えるかの確認。つい最近までは同期値が反転させられてしまっていたため、装備すら出来ない状態だったが、私の治療によりM型異端児へと戻る事が出来たため、その辺りも元に戻っているかを見ておかなくてはいけない。

 これでやっぱり艤装が動きませんでしたなんて事態になったら、先にその対策を考えなくてはいけない。体質がコロコロ変わってしまったことによる弊害なんて言われたらお手上げみたいなものだが。

 

「ちゃんと装備出来ましたね。この前とは違います」

 

 先に工廠に来たのは私と空城司令、そして当事者の沖波。夕張さんに用意してもらい、みんなに見守られる中、いつものように艤装を装備した沖波。幸いなことに、そこもしっかりと治療されたようである。例外とか出なくて本当に良かった。

 

「艤装自体は先日もそうでしたが、完全にサルベージしてます。()()()()()から何も変わっていません」

「それなら、艤装関連も完治したと言えるか」

 

 夕張さんが説明している間に、沖波はそのまま海上へ。装備だけ出来て動けないなんてことはなく、私達の知る沖波と同じ動きが出来ていた。

 あの戦闘の前の状態に全て戻っている。感覚を忘れているわけでもあるまいし、劣化は無いようなものだった。

 

「どうだい沖波」

「はい、思い通りに動くみたいです」

 

 これで本当に元通り。太陽の姫の巫女『空』の痕跡は全て消滅し、艦娘沖波が帰ってきたと言える。どうしても頭の中にはいろいろな感覚が残ってしまっているが、それは私達でケアしていけばいい。

 

「体調はどう? 朝は大丈夫そうだったけど」

「うん、その辺りも大丈夫。こうしてても普通だよ」

 

 精神的な問題で本調子ではないかもしれないが、行動に支障は無いようだ。訓練も参加出来そうとのこと。

 あの時のトラウマで、攻撃という行為が出来なくなるなんてことも考えられたが、その辺りは沖波には根付いていないらしい。精神的な負荷は全て私への感情に持っていかれていたということか。

 

「それじゃあ訓練になるわけだが、沖波、アンタはやれそうかい」

「大丈夫です。私も強くならなくちゃいけないのはわかっているので」

 

 精神状態はまだ完治とは言いづらいものの、沖波は艤装が装備出来たこともあって、やる気は充分だった。

 

 実際のところ、後遺症が私への嫌悪感だけだったおかけで、長門さんのような太陽の姫への忠誠心は微塵も残っていないらしい。そのため、あんな状態でも太陽の姫に対しては憎しみを募らせていたそうだ。物騒な言い方ではあるものの、そういうところは私と同じ気持ち。

 太陽の姫の巫女にされた私と沖波は、おそらく人一倍憎しみを持っていると思う。人生そのものを滅茶苦茶にされた私より、沖波はまだ控えめだとは思うが、それでも交友関係をズタズタにされかけたのだ。しかも理由が完全に私利私欲である。巻き込まれた時点で恨んで当然。

 

「それに……もしかしたらまだやれるかもしれないので、それを早いところ訓練しておきたいと思って」

「何をだい」

()()()()()()()()を」

 

 沖波、いや、太陽の姫の巫女『空』の技である紙一重の回避。全ての攻撃が()()()()という凄まじい技ではあるのだが、それは深海棲艦の身体能力があればこそ出来る可能性がある。

 私もそうだが、身体への負担がとんでもない。私だって脱力回避を使い続けたことでその場で倒れる羽目になった。とはいえ、何処に負担がかかるかというのは事前に知っておけば対策は出来るか。そもそも使えるかというのもあるが。

 

 あの時のことを持ち出してきたからか、空城司令が少し渋い顔をしたものの、そのやる気は認めて、技のための訓練を認めた。

 

「……わかった。陽炎、今日はアンタが監督してやってくれ。相手はもう用意してあるからね」

「衣笠さんと夕立だよね」

 

 何かあった時は、私が沖波を止める役を仰せつかった。一応『空』に勝っているという実績があるし、艦娘の身でも空を切る回避方法がガンガンに使えた場合、それに対応出来るのは現状私のみ。

 大丈夫だと思うが、万が一の時のことは基本的にいつも気にしておいた方がいい。私もそうだが、絶対に何も無いとは言えないのが現状なのだ。

 

「よろしくね……大丈夫だと思うけど」

「私がいたら沖波が安心出来るってなら、監督だろうが相手だろうがやるよ」

「うん、ありがとう」

 

 嫌悪感は違和感にまで落ち着いてくれているおかげで、私が側にいても不安定では無くなっている。むしろ、違和感払拭のために今まで以上に距離が近め。今まで顔も合わせなかった分を取り戻すかのようでもあった。

 

「相手もしてほしいな……あの時に私に当ててきた()()()()()の種明かししてもらわなくちゃいけないし」

「ああ、そうだったね。戻ったら丁寧に教えてあげるって約束してたっけ」

 

 あの技はまぁ誰かと演習するときにでも見せながら種明かしをしよう。おそらく、『雲』撃破にも有効な技だ。教えれば他の誰かも出来るかもしれないし。

 

「じゃあ、訓練を頼んだよ。アタシゃ双子が発見したっていう沈没船のことを調査したいんでね。しーや諜報部隊の子達が頑張ってくれているが、手が多い方がいいだろう」

「了解。お互いにやれることをやっていく感じで」

 

 私がやれることは戦力増強だ。今はそれに専念していこう。

 

 

 

 沖波の訓練の相手をしてくれるのは、衣笠さんと夕立。M型異端児である衣笠さんは、強化最優先の人材だ。夕立は単純に駆逐艦の中でもトップクラスの実力であるために選ばれている。

 

「ふっふっふ、オキの相手はこの夕立っぽい!」

「この子が聞かなくて。気持ちはわかるけどさ」

 

 仁王立ちで待ち構えていた夕立に、苦笑する衣笠さん。沖波の相手をまずやりたいと、待っている間にずっと言っていたそうだ。

 あの時の沖波は『空』だったし、夕立自身がボロボロの状態だったとはいえ、夕立は沖波を前に撤退を選択させられているというのが心残りだったらしい。正直八つ当たりに近い気がしないでもないが、夕立はこういうことを言い出したら聞かないため、衣笠さんも手を焼いた模様。

 

「とりあえず1対1で。私は監督役頼まれてるからさ」

「オッケー。オキ、やるっぽい! 夕立としてはリベンジっぽい!」

「あの時の戦いはあんまり思い出したくないんだけど……」

 

 沖波としては辛い過去なのだが、夕立はお構いなしである。腫れ物扱いをされる方が落ち込んでしまう可能性もあるが、あまり触れすぎるのもよろしくない。沖波は多分そこまで触れない方がいいタイプだと思う。

 しかし、そんなことを言いながらもあの時に使っていた技を今でも使えるか確認すると言い出したのだから、沖波は前向きだ。私の説教が効いたかななんて自惚れたことを考えてみたり。

 

 そして演習開始。私は衣笠さんと遠目で2人の戦いを眺めることになった。監督役ということは、第三者の視点で2人の戦い方を確認して、何かしらのアドバイスが出来ればする。

 

「うわ、すごいね夕立。相変わらず真正面から容赦無いなぁ」

「沖波の手札わかってるんだもんねぇ。そりゃあんな撃ち方にもなるよね」

 

 衣笠さんが感嘆の声をあげながら観察。主に夕立側を見ているようだが、確かに凄まじい猛攻から始めている。逃げ道を無くすかのように移動先を封じる場所を狙っていた。

 沖波があの空を切る回避をしてくるという前提で撃っているのがよくわかった。紙一重になんてさせないと最初から対策済み。

 

 沖波はそれでも全て()()()()()()()()()。艦娘の身でありながら、動きだけなら『空』の模倣が出来ている。私の脱力回避とはまた違った超絶回避。隙間を縫っているというよりは、飛んでくる位置を予測して既に回避が済んでいるというイメージ。仲間からの砲撃なら尚のこと回避がしっかり出来ている。

 身体の動かし方、力の入れ方と抜き方は、あの時の記憶が残っているのだから可能だ。それに身体がついてきてくれるのなら良し。ダメなら諦めるというのが基本。沖波の場合は身体がちゃんとついてきてくれている。

 

「当たらないっぽい!?」

「出来る……ちゃんと出来てる……!」

 

 回避の力というよりは、予測の力。身体よりも頭を使っている感じか。元々冷静な沖波なら、今その場で熱くならずに全て予測することも出来るかもしれない。紙一重で避けることを知っている夕立の砲撃だからこそ、逆に予測しやすそう。

 あとは身体能力になるわけだが、紙一重ということは必要最低限の動きで終わらせるということにも繋がるわけで、体力の消費はそれなりに抑えられているように見える。実はかなり万能なのでは。

 

「わ、すごい。沖波が押し始めた」

 

 回避しながらの攻勢に出る。避けては撃ち、夕立の猛攻を少しずつ止めていく。乱射されるから余計に考えることが増えるわけで、それを止めるための砲撃をすることでさらに体力の消費を抑えていこうという算段だろう。

 その作戦は見事に上手く行き、最初の猛攻はどんどん抑えられ、夕立も回避が少し多めになってきている。攻撃回数が減れば、その分回避に頭を使わずに済むので、沖波的には効率がいいだろう。

 

「ぽいっ、ぽいっ!」

 

 しかし夕立も負けてはいない。最初から持っている天才的な身体能力で、沖波のその猛攻を確実に回避していた。あくまでも艦娘がやれる範囲での回避なので、沖波との対比がわかりやすい。

 並べて見てみると、沖波の回避が普通では無いことがわかる。撃つ前には回避が終わっているために、撃ったところで当たらない。連続使用も可能と来た。意味合いは違えど、脱力回避に近しいインチキ回避術である。

 

「あー、わかっちゃった。オキ、次は当たるかもしれないよ」

 

 だが、撃つ前に避けているようなものなので、想定外に飛んできたものには弱い。例えば私のブレ弾みたいな。

 それをすぐに思いついたようで、夕立はわざと()()()()()砲撃をし始めた。反動を抑えるのではなく、反動に身を任せた砲撃。そのせいで、本来狙っている場所とはズレた位置に飛ぶように。

 予測出来ないものには弱い。それが今の沖波の弱点。それを即座に夕立は看破していた。演習でも手を抜かず、相手がどうであれ全力で叩き潰す方針はやめない。だから自分の弱さがわかる。演習相手には最適な強敵だ。

 

「夕立ちゃん、そういうところ本当にすごいね」

「ふふん、オキもすごく強くなったっぽい。相手してて楽しいよ!」

 

 結果的に、沖波は普通の回避と『空』の回避を織り交ぜる形での戦いになる。その時その時に判断して、どちらが最適かを瞬時に判断。だがそれは、想定していたものよりも遥かに過酷な戦い方であることを身を以て知ることになったようだ。

 

「あー、あれは結構キツそうだね」

 

 先に気付いたのは衣笠さん。その後、私も気付いた。夕立の猛攻を回避し続けている間に、沖波の脚がモタモタとし始めている。その場でどちらの回避を使うかを判断するということは、予測の幅が格段に上昇しているということ。頭と身体、両方同時に使っていることにより、負荷が一段と激しい。脱力でどうにかしている私とは違い、疲れという形で如実に現れてしまっていた。

 深海棲艦の身体ならフィジカルの部分も馬鹿みたいに強化されるので、あれだけ動きまわっても消耗らしい消耗はしていなかっただろうが、艦娘の身ではすぐに消耗し切ってしまった。体力消耗を軽減するための技なのに本末転倒。

 

「オキ、体力なさすぎっぽい」

「ち、違う、これ、倍以上の疲れが」

「問答無用っぽい!」

 

 そして結局、夕立の猛攻は最後まで止まらなかったせいで、沖波は1発貰うことに。結果、その演習は夕立の勝利ということで終了となった。

 

 

 

 1回の演習でゼエゼエ言ってしまっている沖波。とはいえ、自分の弱点が如実に現れてくれたおかげで、今後の訓練方針が決まったとも言える。演習は演習で必要だが、さらなる体力作りも必要だ。また速吸さんの特訓が待っていることだろう。

 

「なるほどね、狙い撃ちタイプなら余裕で勝てるんだ。でも、お構いなしの乱射はちょっとしんどいのかな?」

「みたいです……予測出来るのは全部避けられるんですが……今の夕立ちゃんみたいに()()()()()()()()()()()()は大きく回避するしかなく……それでいつも以上に体力を使う感じです」

 

 衣笠さんと一緒に自身の特性を的確に分析し、次に繋げる沖波。あんなことがあっても、それを糧にして成長しようとしているのだ。私も負けていられない。

 




沖波の新たな技、『空』の回避。狙いを定めてくる相手には無類の強さを発揮する代わりに、下手くそ相手だと無力になるという本来とは逆の動き。
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