異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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蜃気楼と屈折

 M型異端児に夕立を加えた4人で延々と演習を繰り返し、午前中は終了。全員が勝ったり負けたりを繰り返し、ペイント塗れになっていた。

 私、陽炎も例外ではないのだが、他よりは少ない。脱力回避のさらに上、蜃気楼の動きは出来るものの、あれはいつもの脱力回避以上に脚への負担が大きい。以前よりは鍛えられたものの、繰り返しやればガタが来る。そこをきっちり狙われた。

 やはり脚には何かしらのサポーターが必要かもしれない。また戦場のど真ん中で動けなくなっては困る。

 

「ひーちゃん……脚大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。お風呂入れば治るからさ」

 

 私の脚の負傷には沖波も思うところがあるため、やたら心配してくる。脱力回避と高速移動の使いすぎで傷めたときが、まさに『空』との戦いの最中だった。そのせいか、沖波としてはどうしても気になってしまうようだ。

 あの時は本当に何も考えずに使い続けていたからダメだったのだが、今は限度を考えているし、しっかり休息も取れている。現に今、自分の脚で工廠に戻れているのだから問題ない。

 

「いやでも凄いねあの動き。膝にも負担かかるよあんなの」

「それにしっかり対応してくる衣笠さんは何なの」

「いやぁ、一応菊月に聞いてたからね。その時からまたタイミングとか変わってるから、自分なりに昇華したよ。『雲』対策も兼ねてるしさ」

 

 今回の演習では衣笠さんに一番苦戦した。事前に『雲』対策の件を菊月に聞いていたらしく、それを私に当て嵌めて演習をやっていたらしい。だからと言って、私の脱力回避を動く前に潰してくるのは菊月以来なので驚いたが。

 衣笠さんもM型異端児、勿論『雲』からの分霊は効かない。対太陽の姫だけならず、対『雲』としても中心人物になるだろう。私に対してここまでやれるのだから、本番でも期待出来る。

 

「でも、あの残像みたいなの残すのは追い付けないよ。今はちょっとお手上げ」

「まぁアレはほら、私にもそれ相応の負荷がかかってるからさ」

「それも倒せるようになれば完璧ってことだね」

 

 そうしたら私はもっと使いこなせるようにならなくてはならない。まずは脚への負担を減らすサポーターの発注。今のところは初月インナーで十分か。匂いの心配はもう無いが、脚のサポーターとしての効果は期待出来る。セパレートタイプだし下のタイツ部分だけ使うのもアリだ。午後からはそうしよう。

 ゆっくりかもしれないが確実に私達は強くなっている。太陽の姫との決戦までには完璧に仕上げたいところだ。

 

「その前に()()()()()も攻略しないと……」

「あれ、敵がやってくると思う?」

「やってこないと思う。あんなのゲロ様にしか出来ないもん。お手上げっぽい」

 

 私特有の必殺技、曲がる砲撃。約束通りちゃんと種明かしをしたが、いつも自信満々な夕立ですらこの発言。ちょっと私も満足感。

 私だってみんなのやることが出来ないものばかりなのだから、これくらいの誰にも模倣されないような必殺技くらい使わせてもらわなくては。

 

 

 

 午後からはメンバー変更。夕立は離脱し、私としては少し因縁の相手、菊月が参加する。

 当然夕立は駄々を捏ねたが、仕事として今度は萩風の特訓であると聞くと目の色を変えてそちらに向かっていった。萩風の成長も夕立としては楽しいらしい。D型異端児仲間として、後輩を面倒みたいようだ。

 

 実は菊月の参加は私がお願いした部分もある。それを望んだ理由は、みんなが納得してくれた。司令も納得してくれたので、この対戦が実現したわけだ。

 

「この菊月を使いたいとは、陽炎、何か目的があるのか」

「まぁね。()()()()をお願いしたくてさ」

 

 脱力回避の弱点をいち早く見抜いたのは他ならぬ菊月である。あの後に演習をする機会が無かったというのもあるが、私はその時点では菊月に勝てていない。今の私ならどこまで通用するかを知っておきたかった。それに、通用するにしても、すぐにひっくり返される可能性もある。

 実力を過信したくなかったため、菊月を使って私の今の力の何処に抜け道があるかを知っておきたかったのだ。それだけ菊月の『心眼』には信頼を置いている。

 

「よかろう。初見になるわけだが、見抜いてやる」

「助かるよ」

 

 ギャラリーには衣笠さんと沖波もいる。あらゆる方向から私の技を見てもらって、欠点を探してもらいたい。

 欠点が見つかって負けるのなら、今以上に成長が見込める。欠点が見つからないのならそれは完成として、次の戦術を考えられる。どちらに倒れても私のためになる。

 

「ならば加減はいらぬ。全力でかかってくるがいい」

「そうさせてもらうよ。私、菊月には勝ててないから」

「まだ譲らんよ」

 

 本当に譲られない可能性があるから困る。だが、さすがにここいらで一度勝ちをもぎ取っておきたい。

 

 いつものように一定距離を空けてから演習開始。立ち上がりはいつもゆっくり始まる。菊月からの砲撃は、相変わらず嫌らしい場所を狙ったもの。特に今回は私の手の内をある程度知っている状態からの始まりなので、最初から脱力回避を牽制するかのように足下を狙ってくる。

 脚から力が抜けるという脱力回避の弱点を初めて突いてきたのは菊月なのだから、そもそも回避をさせない方針での攻撃に出ている。それは困るが、幸い普通に避けていられるので、少しずつ少しずつ間合いを詰めていく。

 

「早速、見てもらおうかな……!」

 

 脚から脱力するいつもの回避とは違う。脚だけでなく、全身から一気に力を抜いた。全身から力を抜いた代わりに艤装から力を注ぎ込まれた力の塊になったような錯覚を覚える。

 そして、陽炎の如く揺めき、牽制のための砲撃すらもすり抜け、菊月の横へと移動した。菊月の主砲は、今の私から見れば完全にあらぬ方向を向いている状態。いつもの脱力回避とは質が違うことに気付いたようで、あの菊月も目を見開く。

 

「……『蜃気楼』か!」

「私もそう思う。陽炎も蜃気楼も近しいものでしょ」

 

 やはり、私が移動する前のところにまだ照準が残っている。残像が残っているかのように、今の一瞬だけは翻弄出来ていた。

 

「隙あり!」

「そんなものは無い」

 

 すかさず砲撃を放ったが、菊月には紙一重で避けられてしまった。撃つ直前には私の方に目が来ており、そして撃った瞬間には避ける方向を計算して、今実際に避けている。殆ど沖波の『空』の回避に近いことを、持ち前の動体視力だけでこなしてしまっている。

 沖波は予測で目で見ていないところまで避けてしまうが、予測不可能なところには弱い。対する菊月は、見えないところからの不意打ちには弱いが見えているところからなら即座に判断して回避する。あと言っては悪いが小柄だから的が狭い。おそらくそこも活かしている。

 

「この菊月に当てたければ、もっと後ろに行くんだな」

「ご忠告どうも!」

 

 返しで放たれた菊月からの砲撃は、再び脱力回避により擦り抜け。今度は蜃気楼ではなく通常版。こちらの方が負荷は軽い。初月インナーがある今なら気にならない程度にまで抑え込まれている。

 だが、こちらは菊月にはもう効かない。今回は大丈夫だったが、避けようとした瞬間に脚を狙われるという弱点も既に看破されている。

 

「それなら、もう1つを出させてもらうよ」

「全部出せ。この菊月が、全て看破する」

「頼むよ。むしろ看破して!」

 

 回避しながら菊月に向けて手持ちの主砲からの砲撃。ブレ弾ではあるが、今回は一味違う。今の存在になってから成長した私の、新たな技。

 

「ブレ弾は大きく回避すれば」

「いや、もう()()()()()()()()

 

 その時、手持ちの主砲と同時に備え付けの主砲も放っていた。手持ちよりも砲撃音が少し小さめに変化しているそれは、私の意思を艤装が汲み取って完全に再現する最高の相棒。

 その命中精度は他の追随を許さない。私が意識してしまえば、艤装がしっかりとそれを判断して確実に撃ち抜く。それが()()()()()()()()()()

 

「『屈折』」

 

 ブレ弾に精密射撃がぶつかり、そこから急激に砲撃の方向が変化し、菊月が回避した方向へと曲がった。急カーブとは言わないが、紙一重で避けようとしたら確実に直撃するであろう不意な変化。

 菊月は大きく避けようとした瞬間だったが、曲がるとは想定していなかったため、その砲撃は二の腕に直撃した。

 

「なっ……!?」

「さすがにこれは1発目には回避出来ないよね!」

 

 そしてそのまま『蜃気楼』。一撃喰らったところでもこちらを狙ってきた菊月だが、狙いを定めた先には私はもういない。2つの技で翻弄し、私は菊月に触れられる程にまで接近していた。

 

「……参った。これはこの菊月にも想定外だった」

 

 これにより菊月が敗北を認めた。もう苦笑するしかなかったようだ。

 

 

 

 演習後、今の戦いの中でわかったことを教えてもらうのだが、総じて()()()()()()()()であった。原理はわかれど、再現が出来ない。あの夕立ですらお手上げと言った、私にしか出来ない渾身の必殺技。

 

「砲撃を砲撃で捻じ曲げたのか」

「そう。手持ちと備え付けだと弾速とか砲撃音とかが違うみたいで、やれるかなって思ったらやれたんだよね。思い込みと自信は必要だねぇ」

 

 これが曲がる砲撃の正体だ。自分の砲撃に自分の砲撃を当てることにより、本来狙っている方向から別の方向に曲げる。さすがに直角に曲げることは出来ないものの、回避方向に対して曲げることくらいは出来る。

 私の腕だけでやっているとは思っていない。これは私の一番身近で頼れる相棒の力。世界に選ばれ、太陽の姫の対となる者へと覚醒した私にもついてきてくれた、私のための艤装の力を最大限に活かした必殺技だ。

 

「あれは真似出来ないよ。外から見てても意味わからなかった。撃った弾が菊月に吸い込まれるように曲がったんだよ」

 

 衣笠さんもお手上げ的な発言。主砲を2つ持っていてもそうはならないだろうというのが素直な感想らしい。現に出来ている。現実を見よう。現実離れしていても。

 初めてこれを喰らっている沖波も、疑問ばかりである。午前中に種明かしをしても、ずっとハテナマークが浮かんでいたくらいだ。

 

「もういろんな人の技の模倣みたいなものだけどね。魚雷撃ち抜く夕立とか、敵の砲撃に自分の砲撃当てて逸らした由良さんとか」

 

 私の持つ技は、この鎮守府で学んできたことを全て活かしたものだと自負している。私はこの鎮守府で戦ってきたからこんな成長を遂げられた。

 菊月に説明した通り、『屈折』は夕立や由良さんを参考にした部分が大きい。脱力回避だって本を正せば加古さんからの教えを忠実に再現した結果生まれたもの。そしてトドメは、陸奥さんや木曾さんから教わったイメージの力と、霧島さんから教わった出来るという自信。

 

「これの弱点を探すのか。骨が折れそうだな」

「頼むよ菊月。私の成長のために」

「いいだろう。直に受けたからな、次は外からの目で見たい」

 

 どんな目からでもいい。私の持つ物に何かしらの欠点が無いかは早急に知りたい。強くなるためには、自分1人だけじゃダメだ。言い方は悪いが、使えるものは全て使って、さらなる高みへ。そうすれば、あの太陽の姫にだって届く。

 

「さすがは選ばれし者ということか。もう殆ど人間離れしているな」

「全部この子のおかげだよ」

 

 そう言いながら艤装を指差し、軽く撫でる。最初は従わせてしまい、次は察してくれるようになり、巫女から解放されても異端児としての性質が正反対になってしまってもずっと私の背中を守ってくれている。最初から頼れる相棒だったが、ここ最近はますます頼れるようになっている。

 この艤装のおかげで私はここまで来れている。最後までついてきてもらいたい。私も大切に使うから。

 

「じゃあ、続けるか。選ばれし者を超えることが出来れば、この菊月にも箔が付くというものだ」

「ついこの前まで勝てなかったんだけどなぁ」

「それは今とは違う。深海に選ばれし者から世界に選ばれし者へと変化した陽炎は全くの別物だ。全く……羨ましい限りだ」

 

 厨二出てる厨二出てる。

 

 

 

 ここから午後全てを使い演習を繰り返した。今回は初見というのもあったので、菊月の目を以てしても弱点らしい弱点は見つからなかったらしい。

 出来ることなら何かしら見つけてもらいたいので、今後もお願いしようと思う。いざという時は伊良湖さんにも出張ってもらうか。

 




陽炎の新たな技、『屈折』。敵の砲撃に自分の砲撃をぶつけて回避はよくあるけど、自分の砲撃に自分の砲撃をぶつけて捻じ曲げるはなかなか無いかなって。
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