異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
私、陽炎が演習をしている間も、その裏側では太陽の姫の調査というのは続けられていた。戦いを優位に進めるためには、奴らの情報はどうしても欠かせない。
調査のための出撃は現在中断中。近付けば近付くほど、酷い数の敵が溢れ出してくることで、謎の沈没船をこちらの目から隠そうとしてくるため、戦力をさらに上げてから強行偵察に出る方針で決まった。
そのため、援軍として来てくれることになっている物部提督の部隊到着までは、資料などであの沈没船についてを調査し続けている。司令やしーちゃん、諜報部隊が総出でいろいろなデータを漁っているが、なかなか見つからないというのが現状らしい。
「いやもうホントに厄介。アレが沈んだのが10年以上前って想定すると、始まりの襲撃よりも前に沈没してるってことだよね。なのに全然、痕跡すら見つかんないの」
夕食の時間。相席していた秋雲が間宮さん特製アイスを頬張りながらボヤいていた。ひとまず年代から当たりをつけて沈没船の素性を調査しているようだが、全くヒットしないらしい。
「船が沈んだっていうなら、何か事件になっててもおかしくないんだよ。イヨ達は直に見てるけど、遠目でもそれなりに大きいかなってのはわかったんだもん」
「でも……本当に何も出てこない」
秋雲と同じように頭を休めるための甘味に舌鼓を打つ潜水艦姉妹。しかし、出てくるのは愚痴が多め。探せる資料は全部目を通しているはずなのだが、該当しそうな事件がまるで出てこないらしい。
言われてみれば確かに、どんな船かはさておき大きな船が沈没しているのなら、それが表沙汰になってもおかしくないはずだ。それこそニュースで取り上げられたり、新聞に書かれたりとされ、資料として今も残されているはず。
「その船ってのはどんな感じなの?」
「イヨが見た感じ、結構大きめな客船に見えたんだよね。姉貴は?」
「私も……そんな感じ、かな。豪華客船……というわけじゃないけど、貨物船では無かったと思う。でも、偽装してるとかは無くはないし……」
考え出したらキリがないだろう。客船に見えたところで中身が改造されている可能性だってあるし、ただしく客船かもしれない。こればっかりは調査しなくてはわからないこと。もしくはゼロ距離まで接近して中を見るか。
これは潜水艦にしか出来ない仕事だ。私達は海底までの潜水なんてどうやっても出来やしないのだから。スキューバダイビングとかで潜ったとしても、まず海底にまでは辿り着けない。そもそも艤装すら装備出来ないのだから、あの海域に巣食う深海棲艦に成す術なくやられるだけ。
「これさぁ……もしかして誰かの
秋雲が突拍子もないことを言い出した。ここまで情報が無いとなると、考えられるのは情報封鎖なのではないかと勘繰り出した。
「ここまで探して見つからないってのは流石に疑っちゃうよ」
「だからってその方向に行く?」
「漫画なら確実にそっち方面でしょ」
とはいえ、その考え方を否定出来ないのも確かである。見つからなすぎて、誰かが故意に隠していると考えてしまうのも当然かもしれない。そして、そう考えると情報が無いことにも納得が行く。
じゃあ今度はなんで隠してるんだという話になるわけで。何処の誰が何のために沈没船の存在を闇に葬ろうと考えるのか。沈没した理由に何かあるのか、そもそも船に何かあるのか。
「遠目だけど、割とその船綺麗な形だったんだよねー。船底に穴が空いただけっていうか、船体爆破みたいなことにはなってなかったんだよ」
「原形はそれなりに残ってた……よね」
例えば嵐に煽られて転覆したとしても、船体が粉々になるようなことはあまり無いと思う。何処かにぶつかって座礁したとかならともかく。それでも2人の言い方としてそれなりに綺麗だったと言うくらいなのだから、沈没船の割には綺麗なのだろう。だったら天候とかの要因では無さそうか。
それを考えるのは私の仕事では無いかもしれないが、考えてもよくわからなくなってきた。何故沈んだのかから、どうやって沈んだのかになってしまいそう。
「ともかく、いろいろ考えてみないとね。うちの司令にも連絡は行ってるし」
「あ、そっか。定期的に連絡してるんだっけ」
「モチのロンよ。ゲロ姉のこととかも、もう上に行ってると思う」
それはそれで不安要素ではある。青葉さんも危惧していた、
それは司令がシャットアウトしてくれると言ってはくれている。何事も無ければ私はそれで構わないのだが。
「そんなことに時間使うくらいなら潜水艦送ってくれって話だよねー。あの沈没船ガッツリ調べられるってのにさー」
「……誰か来てほしいね」
やはり潜水艦への負荷は高い。今回は特に重要な位置にいる。たった2人では心細いだろうし、難易度が跳ね上がるし、良いことが1つも無いように思える。
「陰謀がガチなら、潜水艦は厄介者として」
「怖いこと言わないでよ。ただでさえストレス溜まる仕事してんだから」
「……敵が増えるのは嬉しくない」
こんなところで別方面の敵が増えるとか考えたくなかった。今は太陽の姫のことだけを考えておきたい。あれだけでも厄介なのに。
翌日、今日の予定も私は演習。菊月に弱点を見つけてもらうのもあるし、単純に練度を上げていくのも必要。もっともっと強くならないと、太陽の姫を撃破するのは難しい。
その分、仲間達と協力をしているわけだが、個人的な実力も必要である。ある程度やったら今度はチーム戦などで連携を鍛え上げていく必要もあるだろう。演習と言ってもいろいろとあるものだ。
しかし、今日は朝から少し雰囲気が違った。いつもなら朝食の時は食堂にやってくる司令としーちゃんが、なかなか現れなかったからだ。
どれだけ忙しい時でも朝だけは必ず顔を見せるのに、今日はそれが無い。そのため、私達は少し騒ついていた。
「私、ちょっと見てくるね」
そこで立ち上がったのは最古参である五月雨。艦娘の中では空城司令と一番付き合いが長い五月雨なら、お呼びが無くても執務室やら私室やらにも気兼ねなく入っていけるらしい。
「あたしも行くかね。
「隼鷹さん、私そこまでじゃないですよう!」
「いやぁ、とりあえず提督のことたまにお母さんって呼ぶのやめてからな」
五月雨が顔を真っ赤にして抗議しているが、戦場ではドジをしないが、普段の生活ではやらかす傾向があるので、五月雨ならやりそうだと誰もが思ったであろう。私もそうだった。
ひとまず司令のことは五月雨と隼鷹さんに任せておこう。みんなで押しかけても迷惑だろうし、少数で突撃するのがベスト。
で、少ししてから2人は司令としーちゃんを連れて戻ってきた。大事に至ってなくて安心したものの、2人とも何処か寝不足なような顔をしているのは誰が見ても明らか。
「すまないね……まさかアタシが寝坊するだなんて」
「面目次第もございません……」
2人してしょんぼり。いつも休み無く働いているような2人なのだから、たまにはこういうことがあってもいいと思うのだが、この鎮守府が設立されてから一度もこんなことが無かったという。
こうしていても明らかに眠そうにしているのだから、ここは休んだ方がいいと思うのだが、鎮守府のトップがこんなことで倒れて堪るかと今日の業務も普通にこなすと言って聞かない。
「何があったんです? 殆ど寝てないように見えるんですけど」
五月雨の疑問も当然である。ここまで具合の悪そうな司令は今まで見たことがない。
「いや……ね。深夜に大本営から電話があったんだよ。アタシとしーで対応していたんだが、あっちが言っても聞かなくてだね」
「大本営から?」
「ああ……陽炎のことでね」
合点がいった。昨日秋雲からも聞いているが、私の力のことが上に報告されたことで、問い合わせが殺到したのだろう。
「やれこちらに寄越せだの、もっと細かく調べろだの、うるっさいのなんの」
「あの時間に連絡をしてきたのも、こちらが疲れているタイミングを狙ってのことでしょう」
大本営の中でも末端にいるような輩らしいのだが、やはり予想通り私の力を有用に使おうとする者達から電話突撃されたらしい。しかも、疲れが溜まった業務後、全て終わった後で後は眠るだけという一番思考能力が低下しているタイミング。押せば勝てると思ってだろう。
どんな力を持とうと、私はこの鎮守府所属の艦娘であり、空城司令の部下だ。司令があちらの言うことを聞くと判断した場合は、私の意思など関係なしにあちらに連れて行かれただろう。艦娘とはそういう立場であり、それを承知してここにいる。
「まったく、アタシが部下を手放すわけないだろうに。そもそも奴らは異端児のことをいい目で見ていなかったような奴らだ。そのくせ、使えると思った途端に掌を返してきやがった。そんな奴らに、陽炎を渡せるもんかい」
同期値が異常となったら疑問視するのは当然だ。それこそそういう輩は、少しでもおかしなところがあったらバケモノみたいに見てくるような人間かもしれない。
だが、私の力は深海棲艦との戦いを一気に優位にする可能性があるものだ。当たり前だが試してはいないものの、少なくとも同期値に作用する力であることは間違いない。艦娘を増やし、敵の人海戦術を上回る人海戦術が可能になる奇跡の力だ。使えるものなら使いたいと考えるのは私にだってわかる。
「そういう輩は、使えるだけ使った後に、今度は陽炎が危険分子だっつって排除しようとするだろうよ。それだけは絶対に許さない。だから、陽炎の身柄はアタシが絶対に守るから安心してくれ」
「私だけじゃどうにも出来ない問題みたいだし……お願いするしかないよね」
私の身柄は司令がちゃんと守ってくれると保証してくれる。前々からずっとそう言ってくれているのだから、100%の信頼が持てる。
「ゲロ様は誰にも渡さないっぽい! ここでみんなで太陽の姫と戦うんだから!」
「そうです。姉さんはここから離れてもらったら困ります。私が護りますから」
ここで声を荒げたのは夕立とまさかの萩風。連れて行かれるということは私が鎮守府から離れるということに他ならないわけで、それを嫌がって私に抱きついてきた。
私の意思はここのみんなと同じで、この鎮守府で太陽の姫と決着をつけることだ。だから安心してほしい。
「何かあったら徹底抗戦する。皆、アタシの考えに賛同してくれるかい。間違っているならここで言ってくれ」
戦いを早く終わらせるのなら、私の身柄を大本営に渡して、私は自分の意思も他人の意思も関係なしに指示を聞き、戦力増強をし続けるのが一番だろう。戦いの中でなら、そちらが正しいかもしれない。
だが人としてならそれは絶対に無い。私にだって意思があるし、他人にだって意思がある。好き勝手やっていいことではない。元に戻せる保証も一切無いというのに。艦娘を消耗品として考えているのでは無いか。
だからだろう、仲間達の意思は1つになっている。諜報部隊も同じだ。私はこの鎮守府で戦い続ける。大本営になんて行かない。他の鎮守府にも行かない。ここで、仲間達と共に全てを終わらせるのだ。
つまり、全員賛同。誰もが空城司令についていくと決めた瞬間だった。
「これ……昨日話してたことと繋がったりしないよね。嫌だよそんなの」
ボソッと秋雲が呟く。昨日話していたことといえば、沈没船の情報が全く出てこないこと。
「沈没船のこと?」
「ほら、もしかしたら誰かが隠してんじゃないのって言ってたっしょ。それが実は大本営でさ、証拠隠滅のために早く太陽の姫倒してほしいとか、そういうのあったりして……」
シーンと静まり返った。流石にそれは突飛すぎる。漫画にしても出来過ぎな気が。
しかし、ここで大きく反応したのはしーちゃんだった。少し考えた後、全て納得したように手を叩く。
「その線でも調べてみます。大本営は海を守るために活動しているという前提がありましたが、なるほどそもそもの原因が大本営の可能性があることは考慮していませんでした」
「全然あり得るじゃないか。戦いを早く終わらせようとこんな手段にまで出てこようとしてきたんだ。秋雲、お手柄だよ」
「え、えーっ、割と冗談のつもりで言ってたんだけどーっ!?」
冗談が本当だったりするから怖い。瓢箪から駒とはまさにこのことである。
ここから調査が別方向に進んでいくことになる。ただし、この予想が本当だった場合、前にも後ろにも敵という状況になり得る。
ただでさえ太陽の姫だけでも厄介なのに、大本営まで敵になったら目も当てられないのだが。
沈没船の謎解決編へ。秋雲の考えた漫画みたいな考えが、果たして正解か否か。