異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
大本営からの睡眠妨害により寝不足気味だった空城司令としーちゃんは、せめて午前中だけでも休んでもらうことにした。ちゃんと休んでいるかどうかの確認のため、五月雨が部屋の前を陣取るという強行にまで出ている。
疲れた頭で何かあった場合、陣頭指揮なんて出来やしない。ましてや、今からやることは沈没船の調査だ。余計に頭を使うような内容なのだから、しっかり身体を休めていただきたい。
その間は所属する艦娘も休息の時間とされた。さすがに上に立つ者が休息中に、下の者が独断で動くのはよろしくない。哨戒任務に出ることも、万が一外で何かが起きてしまった場合、誰も責任がとれないのだから、鎮守府で大人しくしておくのがベストである。
私、陽炎はというと、突然のお休みということで身体をしっかり休ませることにした。相方は沖波。私への嫌悪感を晴らす時間にも当てているのだが、もうほとんど無いようなものなので、結果的に2人でまったりとお茶をする時間に。
「突然のお休みになっちゃったね」
「ひーちゃんはちゃんと脚を休めておいた方がいいよ。昨日もずっと使い続けてたんだし」
そういう意味ではありがたいお休みになったかもしれない。今でこそ疲れは無いように思えるが、自分で感じていないだけで負荷は蓄積されているかもしれない。以前の『雲』対策の訓練の時も、2日続けてやり続けたことで、翌日に影響が出る程の負荷になっていたし。
昨日は丸一日演習をしていたのだから、その時と同じようになっている可能性があってもおかしくないのだ。なら、今日はしっかりと身体を休めておくべき。また速吸さんにマッサージをお願いしてもいいかもしれない。
「はー、今日は青葉さんに録画してもらおうかなって思ってたんだけどね」
「ふふ、勉強熱心だね」
「そりゃあね。私の手で決着がつけられるかもしれないんだから」
この鎮守府の中では、私が一番奴に因縁があるだろう。こんな身体になっているのもそうだが、そもそも両親の仇なのだ。出来ることなら私がトドメを刺したい。
「無茶だけはしないでね。私はひーちゃんのこと応援してるけど……だからって命を懸けるようなことは」
「しないよ。死にたくないから」
「それなら良かった」
当然、生きて勝利することが絶対条件だ。仇討ちの気持ちはとても大きいし、私の人生を滅茶苦茶にした恨みもあるが、それで命を散らしてしまうのはよろしくない。生きていてこそ勝利だろう。
それこそ、艦娘の心得。破壊者ではなく守護者。自分だって護る中に入れてもいいのではないか。というか誰だって死にたくはない。
「そっちはどうなの? 大分薄れてきた?」
「うん、ありがたいことに。違和感も大分無くなってる。分霊のおかげかな」
すっと自分の胸元に触れる。私が分霊をした場所に触れ、噛み締めるように目を瞑る。
魂の穢れを払うために、かなり強引な手段で無理矢理分霊を執り行った。一切の黒ずみも無くなり、綺麗な魂に戻っていることを確認している。今日の朝も念のため視たが、あの時から変わらない魂で安心した。分霊による悪化は見えない。
「治療は心に影響は無いんだよね」
「長門さんはそうだったね」
「でも、私には届いた……やっぱり太陽の姫の分霊は質が違うのかな」
まぁそう考えるのが妥当だろう。本家本元の分霊は精神にも及ぼす穢れと考えるのが妥当。それなら尚のこと分霊で治療出来て良かった。
「それとも……ひーちゃんがしてくれたから、かな」
「私はおっきーのこと絶対に救うって気持ちでやったからね。思いが通じたのかもしれないね」
「オカルトだけど……うん、私はすごく嬉しい。ひーちゃんに治してもらえたこと、すごく感謝してる」
やっとぎこちなくない笑顔を見せてくれた。まだ難しいかもしれないが、私の前では素直な気持ちを表に出してほしい。
そんなこんなで、午前中はまったりさせてもらえた。沖波との関係は完全に修復され、むしろ大きな喧嘩をしたようなものなので、絆はさらに深まったかのように思える。
幼馴染みであり親友である沖波と一緒にいられる時間は、私にとっては癒しの時間となった。
そして午後、司令としーちゃん復活。半日でも寝れば回復するものである。随分とスッキリした顔で昼食後にみんなを集めた。何やら話したいことがあるらしい。
「寝る前にちょいと物部にも伝えておいたんだ。秋雲が考えた陰謀論の方針でも調査を頼むってね」
「わお、手が早ーい」
寝る前にしっかりと仕事をしている辺り、流石としか思えない。今回の集会は、その調査の結果を全員に伝えるためのようだ。まだわずか半日しか経っていないのだが、それで何処までわかったのだろうか。
「私も、出来る限り手を回しておきました」
しーちゃんはしーちゃんで何やら手を回していたらしい。失われた戸籍を新たに作ったり、太陽の姫対策の初月インナーを用意したりと、しーちゃんのコミュニティはどうなっているのだろう。しかも鎮守府から出ていないのに、そこまで調査出来る実力は一体。
「で、だ。これがドンピシャかもしれない」
「え゛」
最初に陰謀論を唱えた秋雲が一番酷い反応を見せた。冗談のつもりだったのに、何やらキナ臭いことになってきた。
「まずはアタシ、というか物部の調査結果だね。半日だけとはいえ、よく調べてくれているよ。短時間の調査でわかったのは、
そもそも存在しないではなく、
現在はその事件の出元を調査中とのこと。どう調べればその辺りがわかるのだろう。自分の足で稼げる情報なんて高が知れていると思うのだが。
「私の方はまだ情報までは無いのですが、その手に詳しそうな協力者を募りました。まずは手近なところでは、顔が広く、我々に快く協力してくれそうな人、工場長に連絡を」
「ああ、そいつはいい。あのおっさんなら何か見つけてくれるかもしれないね」
しーちゃんはここでなんと工場長の名前を出してきた。
工場長といえば、私達が哨戒ルートで領海をグルッと一周する際に、必ず目に入る工場を管理している人だ。うちの鎮守府の整備長とは古い友人とのこと。
なんでも、情報通とまでは行かないものの、その業種からいろいろなところに顔が利くらしい。別の工場とも話はするし、なんならその界隈では全員顔を知っているくらいの知名人でもあるのだとか。
申し訳ないが、そこまでの人とは思っていなかった。ぶっちゃけてしまうと、私の中のあの人は、小さな町工場の社長さんというイメージだった。人は見かけによらない。
「アタシらだけじゃ限界があるからね」
「はい、私にも限界がありますし。それでもいろいろ手を出しているので、少々お待ちを」
相変わらず、しーちゃんのコネは止まるところを知らない。
「とはいえ、隠蔽されているってことがわかっちまったんだ。最悪を考えるなら、大本営の誰かが裏で手を引いている。深海棲艦とつるんでるとは言わないが、
「つまり……?」
「
沈没船が太陽の姫の本拠地であるのは間違いなさそうなのだが、大本営が何かしたせいで沈没したというのなら、確かに因果関係はあるかもしれない。そもそも深海棲艦がどうやって生まれるかがわからないので何とも言えない。
始まりの襲撃を受けた私が言うのもなんだが、深海棲艦という生物は、少なくとも前例が無い状態でいきなり現れた。そこからいろいろな憶測や妄想が繰り広げられ、何もかもが『諸説ある』でうやむやになっているのが現状。その全てがふわっとしたものである。
「アタシの憶測だが……あの太陽の姫も
当然この場は騒つく。特に太陽の姫を目にしている私達は、あれが人間とは到底思えなかった。
持っている力とかそういうのは一旦置いておくとして、見た目がほとんど異形なのだ。骨のような両腕も然ることながら、奴には下半身が無かった。艤装に支えさせている感じはしたが、ほとんど浮いているようなもの。そんな人間この世に存在しない。
その状態で分霊やらよくわからない水柱による防御、極め付けは後背から放たれる出所不明の砲撃。全てが一線を画している。
「それは……確かに否定は出来ませんね。肯定もしづらいですが」
「陽炎という存在が今ここにいるのなら、対となる者も似たような存在と考えるのが妥当だ。そもそも世界が抑止力を人間から選んだってのが引っかかる。太陽の姫が突然何処かから現れたというのなら、世界も同じように生み出すんじゃないかい」
確かに、あの太陽の姫が何らかの形で突如生まれた亡霊みたいなモノだったら、それに対抗するものも人間から選ぶのではなく突如生まれた守護者みたいなモノになってもおかしくない。
太陽の姫自身も言った通り、私は奴の『対となる者』。性質は正反対としても、在り方は同じと考えるのは妥当。それこそ私と同じように、太陽の姫も『何か』に選ばれている可能性がある。天使と悪魔がいるのなら、私とは反対側の何かに。
「で、だ。大本営の誰か、もしくは全員が、
まだかなりふわふわしている仮説ではあるが、私という存在がその仮説の正当性をいくらか強めている感じはする。力を持つ人間がいるのは、あちらも力を持つ人間だから、というのは、考え方として間違ってはいない。
「勿論、大本営を最初から疑ってかかるのは良くない。あちらだって正義の心から戦いを早く終わらせたいと考えているだろうからね。戦いが長びきゃ、その分被害者は増える一方だ。それを食い止めるために手段を選ばないとなったら、陽炎の力に頼るのは自明の理ってもんじゃないかい」
「かもしれないけど……」
「ただし、ちゃんとした説明が無いことと、わざわざ深夜にアタシに連絡を取ってきたってのがいただけない。あちらに裏があるとしか思えないだろう」
説明しないのは何か疚しいことがあるからと考えるのが妥当。そうでなければ、ちゃんと説明してくるはずだ。
私の力を使いたい理由だって、ちゃんと順序立てて説明してくれれば多少は靡くかもしれない。納得のいく理由なら、私だって頭ごなしに否定なんてしないし。
「とにかく、今は調査だ。大本営に裏があるってのなら、そいつを探る。それだって太陽の姫対策に使える可能性がある情報だからね」
なんだかどんどん根深いところに潜っている感覚である。
ここで解散。通常業務に戻ることになる。私は演習になるのだが、先程の話が頭から離れない。
太陽の姫も私のように選ばれてあの姿になってしまったのだとしたら、なんとも救われない者であると思えてしまう。同情すら生まれそうだった。
「ひーちゃん……大丈夫?」
そんな私を察したのか、沖波がすぐ側に来てくれた。体調が悪いとかそういうのではなく、単純に落ち込んでしまったというのが正しい。気落ちしてしまっているというのが正しいか。
「うん、大丈夫大丈夫。ちょっと太陽の姫のことが気になっただけ。倒さないといけない存在なのは間違いないけど、ちょっと可哀想かもしれないって思っちゃった」
「……そうかもね」
「でも、私の親の仇であることは変わらないから。どんな理由があれど、全然関係無い人を殺して回るのは間違ってる。私は人生そのものが壊されちゃってるし。だから……だから、ちゃんと倒すよ。もしかしたら、私達と同じで死ねば元に戻れるかもしれないしね」
逆に完全に手遅れの可能性だってあるのだが、そこは口に出さない。
「うん、わかった。私もお手伝いする。M型異端児として」
「よろしくね。多分私だけじゃ無理だからさ。私には仲間がいるんだから、全部使ってアイツをどうにかするよ」
少し気持ちがブレたが、最終的な思いは変わらない。私は太陽の姫を倒す。あらゆるところに迷惑をかけている対となる者を、この世界から消すのだ。
しーちゃんのコネは内部外部あらゆるところにありそうです。鎮守府イチの情報網。