異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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司令の戦場

 太陽の姫が元々人間であり、そうなってしまった原因が大本営にあるのではないかという疑惑が浮上した。それなりに大きな船が沈んでいるのに、その情報が()()()()消されていたという事実が確認されたからだ。

 今でも諜報部隊の長である物部司令が裏側で調査してくれているし、しーちゃんが工場長などの顔が広い人物に手を回して情報収集を続けている。最初から大本営を疑ってかかるのはよろしくないが、少しでも疑問があるのならそこを突くべき。

 

 調査に関しては、いくら太陽の姫の対となる者である私、陽炎でも手が出せないため、今は出来ることをしていく。今私に課せられているのは、太陽の姫との最終決戦に向けて練度を高めることだけだ。

 新たな技である『蜃気楼』と『屈折』に磨きをかけ、その時のために私は強くなる。それがこの戦いを終わらせるために必要なことなのだから。

 

「ふぃー、おしまい!」

 

 午後の演習はこれで終了。今回は私の希望通り、青葉さんに戦闘風景を録画してもらいながらの演習となった。諜報部隊の目を使って弱点らしい弱点を発見してもらうという算段である。諜報部隊は『雲』の戦闘も研究してくれているため、いろいろと今後に役立つ情報をくれると思う。

 とはいえ、初めて見せた2つの技は、秋雲も青葉さんも目を丸くしていた。『雲』とほぼ同等のすり抜けはまだマシ。自分の砲撃に自分の砲撃をぶつけて角度を変える芸当は、これだけ情報に明るくても初めて見るとのこと。

 

「ゲロ姉、そりゃあ秋雲さん達にもいろいろしんどいさぁ」

「これの解析はちょっと骨が折れそうですねぇ」

 

 秋雲と青葉さんは引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「今はいっぱい使って洗練させればいいんじゃないの? むしろ使いまくって足腰鍛えるのが一番いい気がする」

「この菊月も秋雲の意見を推そう。その間に攻略法を考える」

 

 今回も付き合ってくれた菊月だが、こんなことを言いながらも『屈折』にそろそろ対応してこようとしてきているから恐ろしい。来るとわかっていれば避けられるかもしれないとは本人の談。なんという動体視力。

 

「オッケー。確かに下半身強化は必要そうだもんね。サポーター使ってても脚に負担が大きいし」

「そうそう。あんだけおかしな動きしてたらぶっ壊れてもおかしくないんだからさぁ。筋トレならアレっしょ、陸奥さんと霧島さんに弟子入りっしょ」

「まぁフィジカル鍛えるなら戦艦の2人だねぇ」

 

 より洗練させるのなら、足腰の筋力やらそもそもの基礎体力やらを鍛えるのが一番手っ取り早いだろう。演習は演習で必要だろうが、そういうところでも自分を鍛えていきたいところだ。

 

 

 

 夕食も終わり、後はお風呂という段階で、司令がまた全員を一堂に集める。昼食後の集会とは違い、現在調査中の内容が進んだという連絡ではなく、もう片方、むしろ本題の方が進展する連絡。

 

「少し急だが、呉内の部隊が明日来てくれることになった」

 

 それは確かに急だが、近日中に来るという話だったので、何も問題はない。緊急で来れなくなったというよりは全然マシだ。

 

「滞在期間は今回は最初から決められている。呉内自身は2日だが、艦娘は5日だ。だから、その間に強行偵察に出る。そのまま決着をつけられるかはわからないが、まず確実に今の状況を変えていくつもりだ。覚悟しておきな」

 

 力業になるだろうが、最低限本拠地のある海域の調査がある程度終わることを祈る。太陽の姫自身が現れるかもしれないし、そうでなくても猛攻は免れない。調査だけで終わってしまう可能性だってある。

 だが、今の戦況を進展させることは出来るはずだ。沈没船の謎もまだ解けていない状況ではあるものの、勝てば本来の目的は達成出来る。あの場所は何なのか、だ。

 

「増援の件だが、呉内がうまく人員を集めてくれたそうだ。イヨ、喜べ」

「えっ、じゃあ!」

「潜水艦の増員が見込める。とはいえ、出せて2人という話だ」

「充分!」

 

 念願の潜水艦の援軍。2人で辛いものを4人にして何処まで行けるかはわからないが、単純計算で2倍。やれることが確実に増える。言い方は悪いが、1人だけでも沈没船に触れられるくらいに近付くことが出来れば、今まで以上の情報を手に入れることが出来るだろう。倍になれば、成功率だって倍になるはず。

 

「対潜部隊は!?」

「そっちはうちでも用意するが、呉内が声かけしてくれたみたいだ。アタシと縁が無い鎮守府からも引っ張ってきてくれるそうだよ」

「やったー! それなら絶対上手く行くよ!」

 

 イヨ大喜び。強行偵察が成功する確率を少しでも上げるため、いろいろな鎮守府が協力してくれているとわかった。

 何せ、始まりの襲撃の中心となっている深海棲艦との戦いだ。この戦いに勝利したら、今も続いている戦いの終わりが一気に近付く可能性だってある。どの鎮守府も、この戦いは注目していることだろう。

 それに、ここまで大きな戦いなのだから、手柄が欲しいと考える鎮守府もあるのでは。部隊に1人でも自分のところの艦娘が入っていれば、おこぼれに与れるとか思っていそう。

 

「予定通り、M型異端児を中心に据えた強行偵察部隊をこちらでも考えておく。大規模作戦だ。部隊も相当数出すから、全員選ばれるつもりで考えていてくれ」

 

 前々から言われている通り、私は絶対に前線に出ることになる。まず確実に集中砲火を受けることになるだろう。あちらからしてみれば、私は最優先で排除しなくてはいけない存在だ。私達が太陽の姫を終わらせたいと考えるのと同じで、あちらは私を早く終わらせたいと思っているはず。

 それならそれで構わない。そうなってもいいように鍛え上げてきたのだから。むしろどれだけでも撃ってこいと思える程である。バッチコイ。

 

「以上。アタシらはアタシらで調査を裏側でやっていく。アンタ達は強行偵察のことだけを考えてくれりゃいい」

「こちらの調査結果がどうであれ、太陽の姫の撃破は目下の課題ですから」

 

 もしこれが大本営の尻拭いだったとしても、太陽の姫を倒さなくてはいけないことは何も変わらない。

 そんな事態を引き起こした何者かを糾弾するのは必要だろうが、それは私達のやることでは無いだろう。というか出来ない。そういうところは司令に任せるしかない。

 

「諜報部隊も、今は物部に任せて任務のことを考えておくれ。次は今までより更に危険になる可能性が高いんだからね」

「了解した。我々も戦力として働けるように尽力させていただきましょう。今度こそあの場所を調査してやるのであります」

 

 諜報部隊も意気込んでいる。特にイヨ。新たな潜水艦の増員は喜ばしいことらしく、ヒトミと一緒に笑い合っていた。

 潜水艦はキーパーソンになることが間違いないのだ。強行偵察でも、私達全員で潜水艦の調査をサポートする形になるかもしれないくらいだ。

 

「じゃあ、まずは身体を休めておくれよ。万全な態勢でやらなくちゃいけないからね」

 

 これで解散。と思いきや、五月雨が司令の方へ。

 

「今日も深夜に電話がかかってくる可能性がありますよね」

「あー……そうかもしれないねぇ。否定は出来ない」

「提督としーちゃんは別室で寝ちゃダメですか?」

 

 また無理矢理起こされて寝不足気味にされても困る。今日だって午前中に寝させたくらいなのだ。あちらの都合でこちらの運営に支障をきたされるのは流石に気に入らない。

 

「本当の緊急連絡が来た時に対処が出来なくなる。それに、あちらからの連絡をアタシが取らなかった場合、立場が悪くなるのはアンタ達だ。それは避けなくちゃいけないだろう」

「でも……」

「かまやしないさね。もし次同じようなことが起きたら、むしろあちらから切りたくなるくらいに説教してやるつもりだよ。常識も知らない奴が上に立つんじゃないってね」

 

 少し五月雨は不服そう。司令を心配するのはわかるが、本人の言う通り、ここで連絡を受けなかった場合は信用問題に関わる。そういうところも込みでやってきているのだからタチが悪いのだ。そりゃ五月雨だって嫌な顔をする。

 

「アタシらはこんなことじゃやられない。非常識な連中を後悔させてやる。むしろアタシ的には、今晩もかけてきてもらいたいくらいだよ」

「無理してません?」

「してないしてない」

 

 子供に説明するように優しい表情で、司令は五月雨の頭を撫でていた。やはり鎮守府設立からずっと付き合ってきた仲というのは深い。五月雨も臆さずズカズカと踏み入っていくし。

 

「アタシらの戦場はこっちなんだ。アンタ達は正面の敵と戦っておくれ。後ろの敵はアタシらに任せな」

「……わかりました。でも、何かあったら今日みたいに朝でも休んでもらいますから」

「そうさせてもらいたいのは山々なんだがね。明日は朝イチから呉内が」

「休んでもらいますから」

 

 かなり強めに押し込んだ五月雨。笑顔だが少し怖い。心配してのことなので、いつも以上に押しが強く、司令もタジタジ。しーちゃんも苦笑である。

 

「わかったわかった。呉内もその辺りはわかってくれるだろう」

「いざという時は、大人の方々に説明をお任せします。そういう時のために情報共有は常日頃からしているのですから」

 

 コンプライアンス的に司令が表に出なくてはいけないだけで、話をするくらいなら艦娘だけでも出来る。私達だって説明しようと思えば説明できるのだ。

 呉内司令なら、その辺りの事情は汲み取ってくれるだろう。率先して協力してくれるようなあの人は信用出来るはず。

 

「だから、アンタ達はまず身体を休めることだ。大本営に関してはアタシらに任せな。戦場は頼りっきりなんだからね」

「わかりました。提督が崩れたら私達も崩れちゃうんですからね。その辺り忘れないでくださいね」

「当然だろう。アンタ達を守るのはアタシの仕事だ。この鎮守府の責任者としてね」

 

 本当にそこは任せるしかない。だが、協力が必要なら惜しみなく力を貸そう。

 実際は私の存在が今の問題を引き起こしているので、私としてはもう少し積極的にそちらにも関わっていきたいものだが。

 

「ほら、さっさと今日を終わらせな。五月雨だって強行偵察部隊に選出するかもしれないんだ。余計な心配は無用だよ」

「余計じゃないですよう」

「アンタの気持ちは充分受け取った。アタシゃ簡単には負けないから心配するんじゃない。ここがアタシの戦場なんだからね」

 

 何も艤装を背負って深海棲艦とやり合うだけが戦いではない。司令のように、鎮守府を管理し、私達の存在を守ることだって戦いだ。だから、ここで上からの重圧に屈しないのも戦い。

 司令の戦いは、身体に痛みを伴わない分、精神的にダメージを負い続ける別のベクトルで辛いものだ。私達が代わってあげることも出来ない、司令にしか出来ないこと。五月雨がここまで強く出るのもわかる。

 

「改めて解散だ。さっさと寝るんだよ。明日からもっと忙しくなるからね」

 

 それだけやってもまだまだ強気でいられる司令は、本当に頼もしい存在だった。寝不足なんていう状態を見るのは初めてだったが、もうそんなものも感じさせない。

 この人の下なら、鎮守府も安泰だと素直に思える。大本営が余程ズルい手を使ってこない限り。いや、司令ならそれすらも乗り越えてしまいそうだ。目には目をとこちらも同等なことをやりながら、あちらに文句を言わせない状況を作って上からボコボコにしそう。

 

「ホント頼りになるなぁうちの司令は」

「何言っても全部実現しちゃいそうな勢いあるもんね」

 

 沖波も私と同じことを考えていたようである。というか、おそらくここにいる者達は全員同じことを考えていたと思う。

 そんな司令の手伝いが出来ることが私達の誇りだ。ここでなら艦娘という過酷な仕事も、気持ちよく続けていくことが出来る。

 

 

 

 結局その日の夜も、大本営から嫌がらせのような連絡があったそうだが、昨日のことも纏めて文句を言い続けて、言い返すことが出来ないくらいに言い負かしたらしい。あの司令に口で勝つことが出来る者がいるのだろうか。

 とはいえ、またあったということは、余程早く決着をつけてもらいたいらしい。もしかしたら調査していることもあちらに勘付かれているのかもしれない。

 




次回、久々にあの人達が登場します。もう寝るそんとか、ウミノモズクとか、また何か言葉を残してくれますかね。
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