異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
翌日、援軍到着の日。今日からは一気に忙しくなることが予想される。私、陽炎も出来る限りの訓練をし、その場で最高最善の動きが出来るように努めるつもりだ。明日に強行偵察に出るということなので間に合わない可能性は高いが、足腰を鍛えるのはギリギリまでやっておきたいところ。
朝、あまり眠れていないようではあるものの、随分とスッキリした表情の空城司令としーちゃんが朝礼を開いた。深夜の連絡を完全に言い負かすことが出来たようで御満悦気味。二度とその理由で電話がかけられなくなるくらいにコテンパンにしたらしい。
「これで多少はあちらも陽炎のことをとやかく言ってくることは無くなっただろう。調べたいのはわかるが誰が渡すかってんだい」
「私は行きたくないしね。ここで骨埋めるつもりだから」
「そいつは嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
所属の異動というのは稀にあるらしいのだが、それは鎮守府同士の合意の上というのが前提条件である。強制的に奪い取るなんてことが出来るようになったら、強い艦娘の奪い合いになるのは目に見えている。
それをタイミングを見計らって同意そのものを奪い取ろうとしているのだ。そんな輩が許されるわけがない。それがいくら大本営であっても、許されることではないだろう。
今は私がここから離れるわけにはいかないし、離れるつもりもない。私だってそれなりの時間をここで戦ってきたのだから、ここの誰もを真に仲間だと思っている。
そして、それは司令もわかってくれているはずだ。私の攻撃が一番効果的であることがわかっているのだから手放すわけがないし、少なくとも私のことを心配していろいろと話してくれている。
「こちらからも打って出てやろうとは思っているがね。そろそろ動き出せそうだ」
悪い顔の司令。隣でしーちゃんも苦笑していた。この顔の司令は本格的にエグいことをするらしい。あちらのやり方が陰険なのだから、こちらも同じようなことをしてやればいい。やられる覚悟もなしにやってもらっても困る。
「まぁ、アンタ達は心配しなくていい。アタシが絶対に何も起こさせないからね。今は太陽の姫のことを考える方が先決だ」
ここまで力強く言うのだから私達だってそれを信じて先に進むしかない。司令が言う通り、今は目の前の脅威である太陽の姫をどうにかする方が先決だ。人間同士のいざこざなんて、後回しでいい。
「予定通り、呉内がこちらに向かっている。前回と同じように、今日は顔合わせと現状の説明に使い、本格的な任務開始は明日からだ。それまではいつも通りに過ごしてほしい。ギリギリまで鍛えるのはいいが、疲れを明日に残すんじゃないよ」
いよいよ本番が明日へと迫ってきている。少しずつ緊張感が高まってきたが、私はいつも通りで進めていこう。
朝礼から少しして、ついに援軍到着。前回の6人だけではなく、潜水艦と対潜部隊の増員が来るということで、搬入される艤装も少し多め。
私も縁があるというのと説明が手っ取り早いということで、出迎えに参加させてもらった。
「久しぶりだね。元気にしてたかい」
「ああ、おかげさんでな」
元気そうな呉内司令。その隣に控えるアクィラさんも変わらないようで何よりである。チラリと私の方を見たとき、少し驚いたような顔をしていたがすぐに気を取り直して小さく手を振ってくれた。
おそらく私の髪を見たことで驚いたのだと思う。私のことが何処まで伝わっているかは知らないが、前に見た時とは少し変わってしまっているのだから無理もない。
「おう、陽炎。話は聞いている。えらい目に遭ったみたいだな」
「うん……本当にいろいろあって」
「
映像とは、おそらく私が変わり果てる瞬間の映像。あれからそれなりに時間も経っているのだし、編集されて報告に使われたのだろう。つまり、どの鎮守府もここで起きた事件を全て知っているわけだ。
呉内司令は面識があるから、その映像を見ただけでも私達が巻き込まれた張本人であることがすぐにわかったようだ。逆に、私達のことを知らなければ見てもわからないくらいに加工されているようで安心。
「カゲロー、大丈夫? また後から話を聞かせてもらえる?」
「うん、アクィラさんは話しやすいから、是非聞いてほしい」
またお風呂で話を聞いてもらうのもいいかもしれない。アクィラさんはそういうところを結構気にしてくれているみたいなので、私以外にも沖波とかは話した方がいい人かも。
と、ここからはゾロゾロと援軍が雪崩れ込んでくる。いの一番に入ってきたのは、それはもうこの機会を楽しみにしてきたであろうサウスダコタさん。敷地に入るなり、キョロキョロと周りを見回していた。何を探しているのかはすぐにわかる。
「霧島と演習したいのはわかるが、今は我慢してくれないかい。まずは説明がいるだろうに」
「キリシマとは約束したからな! 午後からは1発やらせてもらうぞ!」
「明日に響かなけりゃ何をしてくれても構わないよ」
相変わらずである。でも、久しぶりにこれが見れるのはとても嬉しい。サウスダコタさんのこのテンションは、見ていて元気になれる。
「カゲロー! お前には一度負けているからな。キリシマの後に演習させてもらうぞ!」
「うえ、マジ……? あ、でもサウスダコタさんにも私の新技、受けてもらわなくちゃ」
「お、いいじゃないか。力試しは大好きだぞ! 次は負けないように鍛え上げてきたからな!」
最後の詰めとして、殆ど戦ったことがない人とぶつかり合えるのはいいかもしれない。時間が無くても、何かがわかるかも。理解していれば、ぶっつけ本番でも意識して解決することが出来る。
サウスダコタさんは手練れの戦艦だ。相手にとって不足なし。もしかしたら脱力回避に対しても対策を講じてきているかもしれないし。
「まったく。もう少し落ち着けないのかダコタよ」
「楽しみだったのはわかるけど、誰も逃げはしないわ。
続いてネルソンさんとイントレピッドさんが中へ。こちらも相変わらず。優雅な佇まいだが何処か抜けているネルソンさんと、母性が突き抜けているイントレピッドさん。頼りになる艦隊旗艦と、この段階では最強とすら言える空母である。
「お前達だってここに来ることを楽しみにしていただろう」
「それは否定せんよ。そのために我がNelson Touchもさらに磨き上げてきたのだからな」
「私達もやる気十分で来ているんだもの。それに、みんなとも会いたかったしね。
強行偵察にもやる気十分といった感じ。特にネルソンさんはあの必殺技をさらに強化してきたのだと意気込んでいる。あのレ級を一撃の下に葬り去った渾身の技、ネルソンタッチをまた見ることが出来そうだ。
「……
「テンション低いよアトランタ。あ、カゲロー、
「夜通し走ってきたようなものだから気分が悪いだけ……」
そして巡洋艦の2人。対空の鬼であるアトランタさんと、ネルソンタッチの片翼であるプリンツさん。かたやダウナー、かたやハイテンションとわかりやすい2人である。
「今日は新しい子も連れてきたからね。しかも、片方は私の同郷なの!」
「そうなんだ。じゃあ、また外人さんかな」
「そうだよ。はい、ご挨拶してー」
プリンツさんに言われてやってきたのは2人。制服ではなく私服ということは、この2人は潜水艦である。どちらも色白で、私達よりも歳下なイメージ。1人は初めて来る鎮守府に興味津々という感じでそこら中に目をやり、もう1人はその様子をハラハラとした表情で眺めている。
静かな方とやかましそうな方、そして潜水艦。まるでヒトミとイヨを見ているようだった。あの2人ほど上下関係がしっかり出来ているわけでは無さそうだが。姉妹ではないことは一目瞭然だし。
「UIT-25! 愛称はウィー!」
「U-511……ユーとお呼びください……」
やはり潜水艦は独特なネーミングのようである。
「この子達は呉内のとこの子なのかい?」
「ああ、経験は積んでいるから心配はいらねぇ」
見た目によらず、この2人も潜水艦としてそれなりの手練れなのだと呉内司令は話す。それこそ歴は私よりも当然長く、危険な任務もこなしているのだとか。さすがは潜水艦、見かけによらない。
「今回は諜報部隊の潜水艦が何度向かっても辿り着けなかった海底の調査だ。本当に危険な任務なんだが、構わないのかい?」
「んー、危ないのはどんな時でも一緒だし、ラスボスの調査とかワクワクするし、だいじょーぶ!」
「ユーも……大丈夫です。やり遂げます……」
空城司令からの質問にこの返答。危うさはあるものの、実力者であることはわかる。精神的には見た目通り幼いようだし、ここは先任である光の双子に任せた方がいいかもしれない。
そして最後。対潜部隊として呉内司令が別の鎮守府から呼び寄せたという艦娘。人数はこちらも2人。
流石にラスボスの本拠地を強行偵察すると聞いて、自分のところの艦娘を多く送り込んでくる者はいないだろう。代わりに、ちゃんとしたスペシャリストを派遣してくれたらしい。
「五十鈴です。対潜、対空なら五十鈴にお任せ。今回は対潜と聞いて援軍を買って出たわ」
「龍田よ〜」
少し気の強そうな軽巡洋艦の五十鈴さんと、のんびりとした軽巡洋艦の龍田さん。どちらも対潜のスペシャリストであり、今回の任務にはうってつけの存在だそうだ。
そして一番重要なところ、本当にこの2人が
実はこれ、先んじて空城司令と呉内司令が内密に連絡を取り合っている。私達の鎮守府、というか私という存在が、大本営からも変に狙われていることは、呉内司令も承知の上で別の鎮守府からの援軍を連れてきているのだ。
その上で、この2人は連れてこられたということは、呉内司令が信頼の置ける相手からの援軍と見ていいのだろう。そうでなかったら、そもそもこんなところには来ていないだろうし。
いや、むしろその立場を活かしたスパイの可能性は無いだろうか。最初から疑ってかかるのはよろしくないのだが、少しだけは警戒が必要である。この2人を疑うということは、呉内司令を疑うことにもなる。
「貴女が噂の陽炎ね。見た目はただの駆逐艦だけど、何が違うのかしら」
「そんなに話が行ってるの?」
「そりゃそうでしょ。
早速五十鈴さんに絡まれた。やはり私の存在は誰もが知っていることらしい。その力を持つのが陽炎であるというところまで。
確か、空城司令と青葉さんが話している時に、戦力を
「始まりの襲撃の首謀者、えーっと、確か
「あ、太陽の姫にも名前付けられてたんだ」
「呼称が無いと面倒くさいでしょ。資料にも残しにくいし」
太陽の姫、改め、深海日棲姫。それが今後の呼称のようだが、多分ここでは太陽の姫で統一されると思う。今更変えるの面倒だし。
「見せることになるかはわからないけど、私も敵と同じ力みたいなの持たされちゃって」
「分霊、よね〜。施した者を自分の配下にすることが出来る力」
龍田さんもズイと私に近付いてきた。詰め寄られているように見えるので少し怖い。
「それと、才能の無い子を艦娘に変えることが出来るかもしれないっていう力よね〜?」
「ああ、そんなこと言ってたわね。同期値を弄ることが出来るんだっけ」
「出来るけどやらないよ。その子の意思を吹っ飛ばすことになるし」
少しだけ強く出る。ここでしっかり意思を見せておかないと、万が一この2人がスパイだったりしたときに厄介だ。
「面倒な力なのね〜」
「それは私も思う。でも、このおかげで太陽の姫のせいで苦しんでる仲間が救えたから」
「なるほどね、使いようってことね」
それで納得してくれれば今はいい。
これで増援は全員受け入れた。総勢10名。これだけ増えれば、強行偵察も上手く行くだろう。そのまま太陽の姫を倒すことも出来るかもしれない。
今回はルイでもごーちゃんでもなくウィーであり、ろーちゃんではなくユーです。まだ日本人に帰化していません。呉内司令のところは外人部隊なので。