異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
手持ちの主砲の命中精度は修正せず、そのままの状態で実戦訓練を開始した私、陽炎。初めての訓練では、相方として戦ってくれた五月雨のおかげで勝利することが出来たが、私は砲撃を一切当てることが出来ず、ただただ逃げ回るしか出来なかった。動いている相手に当てれるようにならなければ、戦場ではある意味がない。
そこからは同じチームやらチーム内を変えて実戦訓練を繰り返した。夕立や菊月ともチームを組んで、今自分が出来ることを身体に叩き込む。
いくら照準を合わせたら確実に当てられるからといっても、的が動いているのだからその動きを予測しなければいけない。それを予測するのは、当然私だ。結局のところ、私が強くならなければこの力も宝の持ち腐れとなる。
「陽炎、ホントに当たらないね」
「こっちは頑張ってるんだって」
夕立にすら苦笑される始末である。回避に関しては実戦も交えて身体に叩き込まれているため、割とどうにかなっているのだが、それでもガムシャラに突っ込んでくる夕立と違って、菊月と五月雨の砲撃は的確に私を撃ち抜いてきた。私のクセももう見抜かれてる気がする。私がわかっていないというのに。
おかげで、今の私はペイント塗れである。私のチームの敗北は、大概が私の轟沈判定のせい。初心者だって言っているのに集中砲火が酷い。私が穴であることは私自身が理解しているとはいえ、もう少し手心というか。
「備え付けの方は凄いね。ちゃんと意識しないと狙い撃たれちゃう」
「でも動いてたら当たらないっぽい。陽炎、その時の位置にしか撃たないんだもん」
暗にちゃんと次の行動を予測してから撃てと助言してくれている。出来たら苦労しない。
「陽炎、お前は目に頼り過ぎている。心の眼で見るのだ。その場ではない。次の次を読め」
菊月の助言は少しわかりづらいが、言いたいことは夕立と同じだ。こちらが動いているのと同じであちらも動いているのだから、先を読めと。
「夕立的には手持ちの方が厄介だと思ったなー。備え付けの方は動いてれば当たらないけど、そっちは何処に飛んでくるかわかんないもん」
手持ちの主砲による牽制も、今はあまり役に立っていない。動きながらだと尚のこと照準がブレる。そのおかげで物凄く弾が
乱れる手持ちと正確な備え付けという組み合わせは、自分で考えていた以上に有効な戦術に思えた。あえて精度を直さないというのは何とも言えないし、戦っている内に精度も良くなっていくかもしれないが、今はこのままで行こう。
「じゃあ午前中は終了で〜す。お風呂入ってご飯食べてね〜」
阿賀野さんに言われ解散。ペイント塗れの私は一刻も早くお風呂に入りたかった。別に匂いがするとかそういうわけでは無いのだが、ちょっとドロドロして気持ち悪い。海上移動訓練でびしょ濡れになるのとはまた違った不快感。
私だけでなく全員が何処かしらにペイントがへばりついていた。一番少ないのは五月雨だが、よりによって腰よりも長い髪に付いてしまったため、私以上にお風呂を希望していた。
「もっと鍛えないとなぁ……」
「陽炎ちゃん、頑張って! 私も手伝えることは手伝うから!」
五月雨の応援が嬉しい。涙が出そう。さすが最古参、心遣いがありがたい。そもそもが心優しい子なのだろう。
「その前に髪洗うの手伝おうか」
「あっ……うん、それはホントお願い。自分で伸ばしておいて言うのはアレだけど、こうなると結構大変で……」
だからといって切る気は無いらしい。これはこれでトレードマークだそうで。艤装の影響で青い髪に染まっているが、それがまた綺麗なものである。ここまで長い髪すらも染め切ってしまう艤装の影響というのが少し怖い。
「乾いてはなんだ、早く行こうか」
菊月に促され、私達はそのままお風呂へ直行。いつも以上に時間がかかったものの、いつもとは違う経験が出来て楽しいものだった。何度か髪を切れと思ったのは仕方ないと思いたい。
午後も午後で同じように実戦訓練を繰り返す。参加しているメンバーは変わらないため、何かしら変化してきてもいいと思うのだが、なかなか上手くいかない。回避に気を付けると砲撃出来ず、砲撃に気をつけると回避が疎かになる。
「だぁー! 上手くいかない!」
午後の敗北回数が2桁を超えた辺りで一旦休憩とされた。今度はおやつ休憩と言いたいところだが、本当にちょっとの休憩。15分後に再開。
さっきお風呂に入ったというのに、もう至るところがペイント塗れである。塗る場所が大分少なくなってきたと言えるくらい。
「ま、まぁ、初日だし仕方ないよ。私だってそうだったもん」
「ああ、この菊月も過去そうだったのだ。初日で出来れば選ばれ過ぎというものだろう」
今までこの鎮守府で、実戦訓練初日からしっかり動けて勝ちを掴んできたような者は1人もいないらしい。夕立すら、戦闘センスが抜群でも最初はペイント塗れになっていたという。それに、戦場に出るまでに1ヶ月かかったというのだから、こうなって当たり前。
センスと経験は違う。どれだけ天才的な技術を持っていたとしても、実際に戦場にいた時間があまりにも差が開いている。
「も少し軽い気持ちでやった方がいいね〜。焦っちゃダメダメ、最初はみんなそういうものだよ☆」
阿賀野さんも同じことを言う。むしろ最初の方がトントン拍子で行き過ぎなのだ。連続で最速記録を塗り替えたことで、私自身も調子に乗っていたのかもしれない。
「阿賀野さん、客観的に見て私の何処に問題があるかわかる?」
こういう時は素直に聞こう。自分でわからないのなら他人ならわかるはず。それに、訓練に参加していたみんなならいざ知らず、完全に外から様子を見続けていた阿賀野さんなら何かしらヒントをくれるはずだ。
「ん〜、阿賀野的には、経験少なすぎててんやわんやっていう風にしか見えないかな」
ごもっともである。さっき自分で考えたことを、そのまま口にされた。誰が見てもそう見えるのだから、私が思っている以上にそうなのだと思う。
「いろんな人と訓練して、いろんなことをやってみるべきなのかもね〜。陽炎ちゃん、やれることいっぱいあるんだよ? 魚雷もそうだし、爆雷も対空砲火もあるからね」
「索敵もあるよ。電探は難しいから早いうちに覚えた方がいいかもしれないね」
「タービンによる加速も学ぶべきだろう。最速で海を駆け抜ける愉しみを知るといい」
覚えることがいっぱいだ。艦娘としてまだ一歩しか進んでいないということを実感する。
「今日はこのまま続けてもらうけど、明日からは違う訓練も取り入れてもらおっか。木曾ちゃんの雷撃訓練とかね」
「それ確か沖波がハードって言ってたやつ」
「そうかもね〜。木曾ちゃんそういうの大好きだから力入れちゃうんだよね〜。でも流石に初心者に物凄くハードなことしないよ。多分」
不安になる言い方ではあるが、砲撃訓練とはまた違った訓練になるはずなので、新鮮な気持ちで挑めるだろう。
砲撃訓練でスランプに陥っているというのなら、別の訓練で気持ちを切り替えることは大事だ。手持ちの主砲が当たらないから備え付けの主砲の訓練を始めたときのようなもの。そもそもやることそのものを変えてしまえば、大きく気分転換出来るだろう。気分転換先でもスランプに陥ったら目も当てられないが。
「はい、じゃあ休憩おしま〜い。陽炎ちゃん、頑張って経験積んでね〜」
「頑張るよ。自分で選んだ道だからね」
「その意気その意気☆」
その後もみんなからボコボコにされたのは言うまでもない。特に夕立。ここぞとばかりにバカスカ狙ってきて、本当に余すところなくペイント塗れにされた。
夕食前のお風呂に入る前に、あまりにもペイントでベタベタだったせいで、工廠で一度洗浄されるレベルだった。ペイントで足跡が付くほどだったのだから仕方のないことだろう。流石にこれには夕張さんも苦笑。
実戦訓練を始める最速記録にもなったようだが、ここまでベタベタにされたのも記録的とのこと。名誉なことの後には不名誉なことも付けられる。
阿賀野さんは事後処理があるらしく、駆逐艦4人でお風呂へ。即座に私の洗浄が始まる。なんかすごく迷惑かけてる気分。
「ホント容赦なさすぎ……」
「陽炎が弱いのが悪いっぽい」
悪びれなくニコニコしながら言い放つ夕立。一番私に砲撃してきたのはやはり夕立である。同じチームの時以外は確実に私を狙ってきた。
「仲間として戦ってよくわかったけどさ、アンタ普通に天才だわ」
チームとして菊月と五月雨を相手にしている時によくわかった。夕立は天才のそれである。私のために砲撃しか攻撃手段を用意されていない実戦訓練だったが、それでもその立ち回りは熟練者のようなそれだった。
センスと経験は違うと考えたものの、夕立はセンスで経験を凌駕しようとしていた。何しろ伸びがおかしい。経験トップの五月雨も、1対1に持ち込まれると突如として拮抗し始める。見たことを即座に覚えるというか、勘が良すぎるというか。それでも五月雨に軍配が上がる辺りはまだまだなのかもしれないが。
「ふふーん、陽炎が来るまでは記録保持者だからね」
「主砲は3回で慣れたんだっけ?」
「ぽい! 魚雷も1日で覚えたっぽい!」
恐ろしい成長速度だ。戦闘に関しての天才なのがよくわかる。
「だが、索敵が弱すぎる」
「お菊ちゃんそれ言わない!」
「本当のことだろうに。電探を覚えるまでにどれだけかかった」
菊月に言われてぐぬぬと苦虫を噛み潰したような表情になる夕立。電探とはさっき言っていた索敵のことか。敵が何処にいるかとかを探す装備だったか。
あれは戦闘に関係ないといえば関係ないか。誰かに探してもらって、そこに突撃するというのが夕立のスタンスのようである。自分で探せるようにしておけと。
「タービンと缶使った速力アップの訓練も苦戦してたよね」
「ぽいー……誰にだって得意なのとそうじゃないのはあるの!」
海上移動に苦戦していたというくらいなのだから、あれが速くなったらまたコントロール出来なくなるのもわからなくはない。自転車には乗れるようになったけど、だからといってすぐにバイクに乗れるわけではないみたいな。
「とはいえ不思議だ。異端とはいえ、夕立のその戦闘に特化した才能は何処から来ている。正直羨ましい」
「お菊ちゃんそういうの好きだもんね。特別な能力みたいなの」
「うむ。選ばれし者、カッコいいじゃないか」
やはり厨二か。歳としては届いてないくらいだと思うが。
「んー、でも、夕立の場合はここに来るまでの生活が影響してるかもしれない」
「そうなの? それって話せること?」
「気にしてないし、話しても大丈夫だと思うから」
そういえば他人の裏事情って殆ど聞いていない。沖波のような幼馴染みならまだしも、夕立はここで出会った赤の他人だ。それに鎮守府という空間自体が秘密主義な部分もあるし。本名禁止というくらいなのだから。
「夕立ね、7年前くらいに大怪我したんだよね。深海棲艦に襲われたの」
「襲撃に遭っていたのか」
「うん。その時にママも死んじゃって。で、パパに育ててもらったんだけど、その、ね。ママが死んだことでパパもすごくストレス溜まっちゃってて、その後はお察しっぽい」
私のような孤児ではなく片親が残っていたが、その親と襲撃の余波でおかしくなってしまったということか。ストレスから来るお察しと言われて思い浮かぶことなんて1つしか無い。
夕立のこの天才的な戦闘のセンスがその影響で芽生えたものなのだとしたら、何とも皮肉なもの。好戦的な性格も、そんな過去が作り上げたものだと思うと少し悲しいものに思える。
「なんやかんやあって、ママの方のお爺ちゃんに引き取られて今に至るっぽい。ここに来る前までは学校にも通ってたし、お友達も沢山いたっぽい。パパがちょっとアレだっただけ」
「……ごめん、なんか聞いちゃいけないことだったかも」
「気にしてないって言ったでしょ。だからいいよ」
そんな話をしても笑顔のままでいられる夕立を、私は尊敬した。私もいろいろあったが、夕立ほどではない。孤児院で楽しく暮らしていたのだから。
「しんみりした話はおしまいっぽい! へいへいゲロちゃんマッサージは如何っぽい?」
「ちょっ、変なところ触らないでよ!」
「女同士だから気にしなくていいっぽい。あ、ゲロちゃん意外とおっぱいあるよね。夕立の方があるけど!」
空元気というわけでは無いようである。後ろ暗い過去があっても、夕立は今を明るく楽しく生きているのだから、こちらがマイナスに見るのは間違っているだろう。
みんなで楽しく生きていけるのなら、過去なんて今は振り返らない方がいい。だが、艦娘をやるための原動力でもあるので難しいところである。
夕立って改二になる前はいいとこのお嬢さんに見えるので、両親のことパパママ呼びしてそうという浅はかな考え。