異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
対潜部隊と潜水艦隊の演習が終わった後は、休憩を終わらせたサウスダコタさんがさっきよりもやる気を漲らせて演習再開を望んできた。実際、今日の午後は演習を繰り返してお互いの力をしっかり見極めるというのが課題である。
そして私、陽炎としては、新たに得た2つの技、『蜃気楼』と『屈折』の弱点が見つかってくれると嬉しい。見つからずとも、より強い者と戦うことで洗練できると尚良い。
「では、余がまた貴様らの相手をしてやろう。光栄に思うがいい」
演習は先程みたいな1対1ではなく、ちゃんとした部隊と部隊のぶつかり合いになる。
あちらはネルソンさんを旗艦とした6人。ネルソンタッチの脅威と、全空母で見ても屈指の搭載数を誇るイントレピッドさんの空爆が恐ろしい重編成。こちらの航空隊はアトランタさんがことごとくを墜としてしまう。攻撃にも防御にも隙らしい隙が見当たらない。
そして言うまでもなく、一番警戒しなくてはいけないのは
「こちらは……うん、ちょっと小粒だけど、今度の強行偵察の部隊だから、よろしく」
こちらの部隊の旗艦は衣笠さん。随伴として私と沖波、五月雨、菊月、初月と、ほとんど水雷戦隊みたいなもの。あちらには戦艦も空母もいるというのに、火力が大分低め。
これには理由があって、今回の強行偵察で『雲』が出てきた時のことを考慮している。私と沖波、そして旗艦の衣笠さんはM型異端児ということで、分霊を回避出来る。残りの3人のうち、五月雨と菊月は、『雲』対策をほぼ万全にしている状態。そして初月は防空である。道を拓いたところで空はどうにもならないため、初月に担ってもらう算段。
磯波は太陽の姫に対して攻撃が効くかもしれないが、唯一の二重の異端児であるせいで分霊も効いてしまうため、残念ながらこちらの部隊からは外れることに。代わりに、別働隊に参加することにはなりそう。
「あたし、仕事潰されてるんだけど」
「それはたまたま。軽量部隊での速攻での突撃も考えてるから。諜報部隊だって一緒に行くわけだしさ」
こちらに空母がいないため、アトランタさんは必然的に仕事の1つが無くなる。別に狙って空母を抜いたわけではなく、今回はたまたまこの部隊で向かうからだ。
本番のための連携を鍛えたいわけで、アトランタさんの事情は申し訳ないが無視。ある意味作戦勝ちみたいになってラッキーとしておこう。それでもアトランタさんは普通に地上も撃ってくるのだからどっこいどっこい。
「まぁ構わぬ。Small sizeだろうが余は容赦しないのでな。Whatever you do, do with all your might」
「んん?」
「こちらの言い回しだと、アレだ、獅子は兎を狩るにも全力全開というヤツだ」
また不思議な言い回しをしてきた。これにも磯波は反応していただろうか。
とにかく、こちらが軽量部隊であろうが躊躇なく全力でやってくれるらしい。それは好都合だ。前回の援軍のときは一矢報いることは出来たものの、基本的にはコテンパンにされている。今回はそうならないようにしたい。せめて互角まで行きたい。
いつものように間合いを取り、始まりの合図が出るまで向かい合う。あちらは既に先頭にネルソンさんが立ち、サウスダコタさんとプリンツさんがその後ろで構えている状態。最初からネルソンタッチしますよと言っているようなもの。
「うわ、アレどうする」
「どうするも何も、避けるしか無かろう」
菊月の言う通りなのだが、ネルソンタッチは突撃しながら猛烈に砲撃をしてくる強烈な必殺技。以前は正面から魚雷により止めようとしたが、プリンツさんがすかさず魚雷を破壊することで進路を拓いてきた。弱点らしい弱点もないのなら、やはり避けるしか無いだろう。
問題は避けた後。部隊を分断させて各個撃破するというのもネルソンタッチの目論見の1つである。そして、前回と同じなら、サウスダコタさんは即座に私を狙ってくる。もうそれを引き起こして、一騎討ちに出た方がいいかもしれない。
「僕が空母2人の空襲を食い止める」
「出来るなら衣笠さんも三式弾で援護しよう。だから、あの本隊やるのは、残った4人でお願いね」
「じゃあ私と沖波でサウスダコタさん行く。五月雨と菊月でプリンツさん行ける?」
「ん、その方向でとりあえずやってみる」
一応の作戦立てはしていくが、おそらくそんなにうまくはいかないだろう。そもそもネルソンさんのことを考慮していないし、空襲だって止め切れるかわからない。そしてアトランタさんは完全にフリーなので、横槍は確実に入る。
「ま、旗艦がこんなこと言うのもアレだけど、みんながその時その時でやれることやっていこう」
「あはは、それしか無いよね、うん」
「我々は
その時その時で臨機応変に対応する、みたいなものか。確かにそう考えれば私達は遊撃隊と言えるかもしれない。状況に応じて標的を変え、戦術を変え、勝利を掴むために臨機応変に動く必要があるわけだ。いつもそうしている気がしないでもないが、今回は特に顕著であると考えよう。
「僕がやるべきことは変わらないがな」
「それは仕方ない。防空駆逐艦には期待してるから」
「緊張させないでくれ」
小さい笑いも起きたことで、より気が解れた。いい感じに力も抜けたし、十全の力で演習に臨める。死が隣にいるわけでもないし、緊張感は必要ない。最低限の舞台に上がれた。
そして、演習開始の合図。その瞬間である。
「Nelson Touch」
やっぱり。合図が出た瞬間にネルソンさんの艤装が変形。本来ある隙も、開始直後にさっさと実行することによって帳消しにしてきた。そもそも艤装の変形速度も前に見た時より速くなっている。
「Intrepid squadron, attack!」
さらに、イントレピッドさんの航空隊も同時に発艦。強力な攻撃を同時に繰り出され、まずどの行動を選択するのが得策かが判断出来なくなる。しかし、もたもたしているとネルソンタッチの直撃もあり得るので、すぐに行動に起こさなくては。
「沖波、行くよ!」
「う、うん!」
最初は予定通り、沖波と組んで行動。突撃してくるネルソンさんを見定めて、確実に避けられるところにまで駆け抜ける。そして五月雨と菊月は逆方向へ。ネルソンタッチの思惑通りになってしまっている気がするが、もうこれは仕方の無いこと。
それと同時にイントレピッドさんからの空爆も開始。最初から避ける道を塞がれるという、最初からネルソンタッチありきの航空隊運用。どうせ横に避けられるのだから、最初から行けないようにしてやれば当たるだろうという豪快な姿勢である。
「空爆は僕に任せろ!」
それは初月がどうにか抑えてくれる。毎度お馴染みの降ってくる爆弾に向けての対空砲火により、致命傷だけは防ぐように頭上のものだけは確実に破壊してくれる。
航空隊の数は減らずとも、必要最小限の労力で道を切り拓いてくれている。ならばその間にその根っこの部分を切る。
「ネルソンタッチを潰すよ!」
衣笠さんは突撃してくるネルソンさんからあえて回避せず、真正面から砲撃を連射しながら魚雷まで発射。少しでも速度が落とせれば戦いやすくなるのは目に見えている。正面は威圧感が半端なく、すぐにでも逃げ出したくなる程だろうが、衣笠さんは臆さない。
「プリンツ!」
「
案の定、魚雷はプリンツさんが処理したため、突撃は速度を落とすことが無かった。相変わらずネルソンタッチに特化した編成。簡単に止まらない暴走列車そのものである。
前と同じならここでサウスダコタさんが単独行動をして各個撃破を狙ってくる。同じように動いてくるくらい単純な人ならまだ簡単なのだが、流石にそうは行かない。
「ひーちゃん回避!」
しかし、先に反応したのは沖波。声と同時に砲撃音。ネルソンタッチに注目してしまうが、先程も考えた通り、アトランタさんがフリーなのだ。横槍は当然入れてくる。
気付いた時にはもう放たれた後。沖波には『空』の回避があるのである程度は予想出来ていたのだろう。だから声をかけてくれた。ならば、ここで脱力。
「チッ、気付かれた」
アトランタさんの舌打ちが聞こえる。沖波はしっかりと紙一重で完全回避し、私は脱力回避による擦り抜け。気付いてしまえば当たらない。それが私達だ。
「磨きがかかっているみたいだなカゲロー!」
だが、ここでサウスダコタさんが突撃してきていた。ネルソンタッチを途中で抜け出しての各個撃破。逆方向ではプリンツさんが同じように動き、五月雨と菊月に向かっていた。ネルソンさんはそのまま衣笠さんと初月を相手取っている。
分断後の各個撃破の段階に入っていた。1人でも2人を相手に取れるくらいの実力と自信があるからやれる戦法だ。しかもこちらにはアトランタさんまで来てしまっているのだから、やられる方は堪ったものではない。
「もっと出来るよ。今は沖波もね!」
ならば、ここで新技披露の時間。サウスダコタさんがこちらに主砲を向けたタイミングを見計らい、脱力から更なる高速移動へ。その場に残像を残すかの如く、無意識下での移動により、既にサウスダコタさんの隣へ移動していた。
「
放った時にはもう遅い。隙だらけのサウスダコタさんを真横で見ることになる。これで狙い撃てば当たるはずだ。
しかし、サウスダコタさんは驚愕の後に笑顔を見せていた。一番最初に脱力回避を喰らっているのは、他ならぬサウスダコタさん。その弱点となり得るところだって、その時から研究しているのではないか。『雲』のことも知っているわけだし。
「お前の弱点はオミトーシなんだ!」
ここで私が砲撃を放つ。確実に当たるルートを狙った。艤装に阻まれないように、生身の見えている腹に向けて。だが私の弱点とサウスダコタさんは言った。このタイミングで何が。
「駆逐艦の砲撃は、
なんと、
私の弱点、それは駆逐艦ゆえに火力が低いこと。どれだけ整備班の人にチューンナップしてもらっても、最大火力というのは戦艦どころか軽巡洋艦にも及ばない。故に、
それを見越していたサウスダコタさんは、最初から砲撃を受けるつもりでいた。代わりに、受けてもダメージを受けないように、マストで弾くという荒技に、文字通り打って出たのだ。駆逐艦の主砲よりも火力があったら、マストがひしゃげていたか、打ち切れずに喰らっていたかのどちらかだろう。駆逐艦の火力の低さが仇となる。
「悪いなカゲロー! お前の技は見破った!」
「ま、マジかぁ……ちょっと想定外」
あんなもの、戦艦の膂力が無けれは出来ないことだろう。とはいえ、相手によっては私のこれは効かないというのがよくわかった。回避ではなく防御に特化しているものそのものが、私の弱点なわけだ。
そしてサウスダコタさんは、こちらに向けてまた主砲を構えた。そのまま受けるわけにはいかないため、すぐに力を抜く。菊月の時のように、回避そのものを止められるということはない。あくまでも避けた後を見据えているのがサウスダコタさんだ。
「相変わらずとんでもない動きだな! だが、それがアタシに当たらなければ意味がないぞカゲロー!」
ならば、打ち返せない砲撃を放つまでだ。
サウスダコタさんの砲撃はしっかりと脱力回避をして、一旦間合いを取る。そして、こちらから反撃の一撃。いや、二撃。まずは手持ちの主砲による砲撃で回避を誘発させる。
「
「『屈折』」
回避した方向にねじ曲げる二撃目。砲撃同士がぶつかり合い、回避された砲撃が吸い込まれるようにサウスダコタさんの方に曲がる。
「ぬおっ!?」
「うっそでしょ!?」
それを咄嗟に自らの艤装でガード。先程言われたように、私の砲撃は戦艦にしてみれば軽い。それが屈折させるためにぶつかり合ったことで、さらに軽くなっている。普通でも阻まれるくらいなのに、ガードされてしまったら尚更ダメージにならなかった。
むしろ想定外にすらついてきたサウスダコタさんが恐ろしかった。『蜃気楼』ならまだしも、『屈折』は初見だ。動体視力とかそういうのとはまったく別物の何かを感じた。あれか、野性的直感か。サウスダコタさんは夕立と同じタイプかもしれない。
「今のは危なかったぞカゲロー!」
「普通に渾身の技なんですけど!?」
危なかったで済まされては困るのだが。
だが、弱点は露呈した気がする。硬い相手には敵わないという、駆逐艦なら切っても切れないところが。
駆逐艦故の火力不足。これが陽炎の弱点です。対応されてしまうと途端に脆くなる。