異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
ネルソンさん率いる増援艦隊との演習中、私、陽炎の渾身の必殺技である『蜃気楼』と『屈折』がサウスダコタさんに破られた。その原因はどちらも、駆逐艦故の火力不足である。
回避技である『蜃気楼』は、言ってしまえばただ避けるだけ。その後の攻撃は普通の攻撃なのだから、完全に隙を突く一撃だとしてもそれに反応さえされれば意味が無い。実際、サウスダコタさんは私の砲撃をマストで打ち払うというトンデモ技で回避してきた。
だが、『屈折』は回避したと思いきや当たるという類の技だ。火力の低さにより、ただガードされただけで何も変わらなかった。ある意味直撃しているのに、相手が戦艦だからという理由でダメージ軽微という結果に。
戦艦相手でなければダメージになるかもしれないが、相手はインチキたっぷりの深海棲艦だ。あの駆逐水鬼ですら、艤装が尋常では無い硬さだった。他の深海棲艦、特に今後相手にする連中は全てがそうだろう。
「火力不足とか痛いところ突かれすぎなんだけどさっ!」
結果的に、艤装に阻まれたことでサウスダコタさんにちょっとしたダメージしか当てられていない。駆逐艦が戦艦を喰うには、艤装を擦り抜けた本体を狙い撃つしか手段がない。前回勝てた時もそれだった。
しかし、今回のサウスダコタさんは一味違う。最初から警戒してきている。私が
これを乗り越えられれば、次の戦場でも勝率がグンと上がるはずだ。なんてありがたい演習。最後の最後にこんないい経験が出来るとは。私も自然と笑みが溢れていた。
「お前の相手はアタシだけじゃ無いぞ!」
「わかってるよ!」
勿論それはわかっている。一緒に行動していた沖波は、私にサウスダコタさんが向かってきた時点で狙いをアトランタさんに集中しているのだが、あちらは私にまで照準を合わせて撃ってきているのだ。沖波が躱した後の流れ弾もあり、私は2人からの攻撃を受けることになる。
さらに言えば、こうしている間も空爆は終わっていない。イントレピッドさんの数の暴力とも言える膨大な艦載機と、その隙間を縫う的確な攻撃を決めるアクィラさんの艦載機は、戦場を飛び交いあらゆる場所に爆撃している。勿論私の真上にもいるわけで、流石の初月も全てを対応することが出来ていない。
「悪いが先には行かせないからな。今アクィラの方を見ただろ」
「うわ、バレてる」
ならば鷲の目を先に潰そうと考えたものの、そこもお見通しだったようだ。というかおそらくアクィラさんの入れ知恵。こうなったら誰もが鷲の目を潰そうと考えると先に教えていたのだと思う。
「だが、お前には攻撃が当たらない。なら、ここで睨み合いといこうじゃないか」
「お断りなんだけど!」
ここで脱力回避からの高速移動。むしろ『蜃気楼』の応用でサウスダコタさんを擦り抜けて後ろへ。今そこにいると見せかけつつ、その隣を通過した。これは菊月との演習で言われたことを参考にしている。当てたければもっと後ろに行けという言葉だ。
火力が足りないのなら、頭を使って切り抜けるしかない。私はそういうところに関しては天性のものを持っているわけでもないのだが、仲間達の教えを全部使っていけば勝利を手繰り寄せることくらいは出来るはずだ。
そして、真後ろに回ってから振り返って生身が見える隙間を探す。一瞬で判断出来るほど私の動体視力は良くないのだが、明らかに狙いやすい場所は見つけた。頭と、脚だ。それ以外の部分は、戦艦の馬鹿デカい艤装に阻まれて隙間すら見えない。
流石に全身が艤装に包まれている深海棲艦なんていないだろう。今後戦うことになる太陽の姫も『雲』も、しっかり生身部分があった。高速移動で隙を窺いながらそこを突くのが一番の戦術になるはず。
「っらい!」
そこで備え付けの方で砲撃。狙いやすさは脚の方が段違い。うまく当たれば転倒させることが出来るので、まずはそちら。実弾なら致命傷にもなるはずなので、狙いとしては確実にいい場所。
「当たるかよ!」
後ろに回り込んだのに即座に回避行動に移れるサウスダコタさんは一体何なのだ。結構近くから撃ったつもりなのだが、それこそ沖波の『空』の回避よろしく、紙一重で避けている。ここで跳んでくれればまだチャンスはあったのだが、そうそう上手く行かないものである。
ならば、もっと生身が露呈しているところから狙ってみるのはどうだ。サウスダコタさんの場合は、そう、真正面。どんな艦娘でも大概そうだが、鎧だの甲冑だので正面を守っている者はまず見たことがない。なら一番通用するのは避けない正面なのでは。
「ダコタ、
ここまで考えたところで、ネルソンさんからのお呼び出しがかかってしまった。単独行動にも限界有りとされたか。いや、むしろ2回目のネルソンタッチの可能性もある。
ネルソンタッチからの各個撃破に、私達は全員耐えることが出来ていた。プリンツさんに対して五月雨と菊月をぶつけたのも大正解で、無傷とは言わずとも擦り傷程度で済んでいる。逆に衣笠さんはネルソンさんを引き受けていたので大苦戦。ギリギリ均衡を保とうとしてくれていたが、それでもダメージは受けている。
「悪いなカゲロー、タイマンはまた後からだ!」
ここでチャンスを逃すわけにはいかないのだが、この期に及んで空襲が激しくなった。あちらが安全に集まれるように、イントレピッドさんとアクィラさんが艦載機を散らしてきている。
集まられたら余計に厳しい。戦艦2人と重巡1人とかネルソンタッチが無くても厄介な組み合わせだ。
「いや、ここから逃がさない。サウスダコタさんだけでも倒しておきたい!」
ここでもう一度高速移動。狙いは先程考えた、サウスダコタさんの真正面。生身を一番大きく見せている腹。
回避技ではあるものの、これが移動の手段にも使えることは今まででさんざんやってきていること。当然負荷は大きいが、背に腹はかえられない。実際、戦場でもこれを何度も繰り出さなくてはいけない時が来るだろう。そのためにも足腰はしっかり鍛えたい。
「ぬあっ!? 真正面だと!?」
「これだけ近付けば、ガードとか出来ないでしょ!」
もう目と鼻の先。主砲を突き付ければそのまま触れられるくらいの距離。ここまで来たら、艤装による防御なんて出来やしない。ついでに主砲が回る限界にも来ているから砲撃も無い。サウスダコタさんを巻き込みかねないから空爆も無い。
なるほどこれが最善の一手。高速移動により手が届く程にまで近付き、一撃を入れる。これだ。
「させない!」
だが、ここまで来て私は1つ頭から抜けていたことがあった。私の砲撃もガードしてしまうくらいに強固で大きな艤装が両脇腹の下から出ているわけで、ここでサウスダコタさんが身体を回した場合、この艤装がモロに私を薙ぎ払うことになることを。
勿論その選択肢を採るだろう。仮に私の砲撃が直撃したとしても、艤装による薙ぎ払いは止まらない。それでは意味がない。というか演習とはいえ艤装が直撃したら普通ではなく痛い。
「ちょっ、それはダメじゃない!?」
大急ぎで脱力回避。瞬間、さっきまで私がいた場所を唸りを上げた艤装が通過した。あんなの車に轢かれるみたいなものだ。いくら艤装を装備しているにしても、ダメージは免れない。
「っぶなぁ!」
「それはこっちのセリフだカゲロー! 真正面とはやってくれへぶぅっ!?」
と言った瞬間、サウスダコタさんの顔面にダミーの弾が直撃していた。
私は撃っていない。脱力回避を延々とし続けただけだ。砲撃するタイミングも今は無かった。
「ごめんなさいサウスダコタさん。これ、団体戦の演習なので」
その砲撃を放ったのは沖波。アトランタさんの砲撃を全て回避し、合間合間にこちらをチェックしてくれていたらしい。そして、大きな隙が出来たこのタイミングを見計らい、渾身のヘッドショットである。
「……何やってんだアトぉ!」
「コイツ、ホント全然当たらないんだって!」
私がサウスダコタさんと熾烈な攻防を繰り広げている間、沖波もアトランタさんと1対1を繰り広げていた。そして、その攻撃の全てを回避し切ったようである。流石としか言いようがない。体力消費が抑えられるとはいえ、流石の沖波も少しお疲れの様子。アトランタさんはその数倍は疲れているようだが。
「サンキュー沖波!」
「大丈夫! ひーちゃん今度は」
「勿論!」
そこから一気に『蜃気楼』によりアトランタさんの眼前へ。いくら狙っても当たらない沖波を相手にしていたからか、少し冷静さを欠いていたアトランタさんなので、近付くことは容易だった。こうなったら小細工もいらない。
当然反応もされる。近くであろうがアトランタさんは私に狙いを定めて砲撃を放ってきた。だが、それも脱力回避し、その砲撃を潜りつつ真横に立った。止まった瞬間にもう一度使うようなものなので脚への負荷は当然重いが、まだやれる。
「ちょっ!?」
「ゴメンね。チーム戦だもんね」
そして砲撃。大分近かったため、回避させる余裕も与えず、横っ腹に直撃。これでアトランタさんも終わり。
「くっそー……2人ともインチキ回避すぎる……」
ここまで来てよくわかった。弱点は仲間に補ってもらうというのが一番手っ取り早く、確実だ。自分1人で乗り越えるのが難しい。だが、2人、3人といれば容易く乗り越えられる。今のがそれだ。
私だけならサウスダコタさんは倒せなかったが、その隙を横から突いてもらえば倒せた。今のアトランタさんもそうかもしれない。沖波だけでは回避し続けるだけだったが、そこから私が横から入ったことで一撃。
「っし、これで2人目……!?」
「ひーちゃんすぐに逃げて!」
油断していたわけではない。だが、アトランタさんも倒したことで少し息を吐いたのも間違いなかった。その瞬間を狙われた。
私の上の空が暗くなっていた。そこには、イントレピッドさんが発艦させた艦載機が、群れをなしてやってきていた。つまり、このまま回避出来るかわからない程の爆撃が降ってくる。
「まっず……!」
間髪入れずに爆弾の雨が降ってきた。これは本当にまずい。着弾地点を予測する暇もないため、どうにかその爆撃の範囲から逃れるために再三の高速移動。脚への負荷は最高潮に。
移動先は沖波の側だ。ここからはちゃんとツーマンセルで動いた方がいい。
「大丈夫!?」
「まだ大丈夫。折れるようなことは無いから心配しないで」
やはり、あの時の戦いのトラウマか、私の脚への負担を極端に気にしている節がある沖波。だが大丈夫。大分蓄積されてはいるが、まだ動けるし戦える。
イントレピッドさんの艦載機は、私と沖波を追うように向かってくる。他の者はもう見向きもせず、先にやらなくてはダメであると言わんばかりだった。それはそれで光栄なのだが、堪ったものでは無い。
ならもう本体を狙うしかないじゃないか。と、イントレピッドさんの居場所を探したのも束の間、それを隠されるかのように私と沖波の周囲に水柱が立った。
「えっ!?」
「ごめんねカゲロー、弱点わかっちゃった」
その声はアクィラさんだった。つまり、今の水柱もアクィラさんの仕業。私達を直接狙うのではなく、わざと外して視界を塞いできた。多分。
「カゲロー、移動するときにそちらの方しっかり見ちゃう癖があるのよね。なら視界を塞いだら、動けないんじゃないかしら」
何も否定出来なかった。移動先がちゃんと見えていないと、『蜃気楼』どころか脱力回避すらままならない。そしてそれは沖波もだった。想定外に弱いという『空』の回避は、視界を潰されると全ての攻撃が想定外になるため、途端に脆くなる。
強引に突き破ればいいのだが、それでもすぐに動けるかと言われれば違う。視界が塞がれたことで一瞬でも躊躇いが生まれてしまった。
そしてその効果はモロに出た。水柱をぶち抜くように放たれた砲撃により、私と沖波は纏めて吹っ飛ばされる羽目に。
「ぎゃあっ!?」
「ひゃあっ!?」
水柱が晴れた後、私に向かって砲撃を放ってきたのがネルソンさんだとわかる。あちらの仲間達をいなしながらも、しっかりこちらを狙ってきた。いや、アクィラさんからの合図があったのか。
今までの戦闘は全て鷲の目に見られている。そのせいで隙を全て把握されていた。見事としか言えなかった。
「沖波、大丈夫……?」
「大丈夫じゃないかな……2人揃ってリタイアだね……」
私と沖波は敗退。2人倒した後に2人抜ける状態に。
結果的に、この演習は僅差で敗けることになった。だが、学ぶことも多かった。明日の強行偵察にも活かせることがいくつもあった。
1つわかったのは、仲間の存在は偉大だということである。弱点は仲間に補ってもらおう。それでいい。
> 全身が艤装に包まれている深海棲艦なんていないだろう
アンツィオ沖棲姫という超例外がいることを、陽炎はまだ知らない。