異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
演習終了。残念ながら僅差で敗北という形になってしまったが、色々と学ぶことが出来て大満足な一戦だった。次に繋がる敗北なら大歓迎である。
私、陽炎は沖波と組んで動き、サウスダコタさんとアトランタさんを倒すことには成功したものの、アクィラさんとネルソンさんにやられる羽目に。2人倒した後に2人して負けるというプラスマイナスゼロという結果になったものの、個人的には悪くない戦果。
私も沖波も、今回の演習で大きな弱点を知ることが出来た。視界を塞がれると途端に脆くなるという弱点が露呈したのは大きい。
ただでさえ太陽の姫は水柱を攻防一体に使ってくる。視界を塞いでくることだってある。それが先んじてわかったのは本当に良かった。
「反省点いっぱいだなぁ。移動先に目が行っちゃうのか……」
「私は視界塞がれると予測出来なくなるから動けなくなっちゃう……」
演習終了後の休憩中、私と沖波は即座に反省会。ネルソンさんの砲撃に吹っ飛ばされて身体がギシギシ言っているが、その程度で済んでいるのでまだ比較的元気である。私は脚が少し軋むため、休憩しながらもストレッチでしっかりケア。この辺りは速吸さんにも教えてもらっている。
2人してアクィラさんに動きを止められた挙句、その瞬間に纏めて薙ぎ払われるという酷い終わりを迎えさせられているのは普通に反省案件。水柱なんかで足を止めていたら勝てるものも勝てないだろうに。
火力不足に関しては、仲間の手助けでどうにでもなるということがわかった。弱点かもしれないが、艦種として仕方ないところもある。これは私が囮になりつつ他の人に撃ってもらうとか、その逆をすることでお互いの弱点を補うことにしよう。今回の沖波のヘルプは、そういう点で完璧だった。今後もこうやっていきたい。
「でも、強くなれそうだね」
「うん、この演習参加出来て良かった」
沖波も私と同じように満足出来るものになったようだ。沖波にも弱点はあり、それがしっかりと露呈したことで明日に活かせる。まだ強くなれることを、心の底から喜んでいるようにも見えた。笑顔も戻ってきているようで何よりである。
演習は続き、私達の次は強行偵察部隊の別働隊候補が相手をすることになっていた。
その部隊には陸奥さんと霧島さんの他、天城さんと隼鷹さんまで名を連ねた重量編成。あちらでやたら出てくるという戦艦の姫級やレ級を視野に入れた編成である。そしてそこには夕立や磯波、萩風も候補とされている。今は夕立が参加中。あともう1人は木曾さん。
D型異端児は最悪の場合、『雲』による分霊の危険性があるのだが、強行偵察の別働隊であれば参加も可能と見做されているため、誰もが部隊の候補だ。今からの演習である程度全員が演習をこなすのだろう。
「やるのと見るのとじゃ、やっぱり違うよねぇ」
「本当にね……。ひーちゃんサウスダコタさんと1対1とか、よくやれたね……」
「ホントだよ。艤装振り回された時、死ぬかと思ったし」
演習を終えている私達は、今度はギャラリーとしてその演習を眺めている。実際にあの場に立つのと、遠目で見ているのとでは、感じ方も大きく違う。先程の弱点の反省をしつつ、取り込めるものがあれば全て取り込むという意気込みで観察させてもらっている。
一緒にギャラリーとして眺めているのは、夕立を除いた異端児駆逐艦。磯波と萩風は次以降の早いタイミングで演習に出ることが決まっているため、演習を見る目にも力が入っている。
「やっぱりアクィラさんが凄いね……一番後ろから戦場全部見てる」
私達の中でも特に観察力が高い磯波がボソリと呟く。こうして観察しているのも、戦場での全員の癖を覚えるためだ。常に全員分をアップデートして、サポートに役立てたいと意気込んでいた。
流石は異端児駆逐艦の天使、いろいろ私が歪めてしまったものの、根幹は変わっていない。裏方に徹するために努力を惜しまないその姿勢は健在だ。
戦場にいてもそれは思っていた。アクィラさんは基本的に一番後ろ。絶対に前に出てこないし、同じ空母のイントレピッドさんよりも後ろに控えている。
まさに司令塔と言える立ち位置から、艦載機まで使ってこちらの動きから癖まで何もかもを見透かしていた。あれだけじっくり見ているのだから、私や沖波の弱点を見つけてくれるのも当然だ。
「私はプリンツさんの動きが気になってました」
萩風としては、あの中でもプリンツさんの的確な身のこなしが注目ポイントのようだ。
一見あの中では地味な立ち位置にいると思われるプリンツさん。戦艦より火力が無いためか、ネルソンさんのサポーターとしての動きがかなり強め。
ネルソンタッチの一員であり、それを阻む雷撃を全て破壊することが基本的な動きのようだが、単体のスペックも普通に高い。私と沖波が参加した演習でも、五月雨と菊月の2人を相手取っていても普通に均衡を保っていた程だ。
「私とは戦い方がまるで違いますが……サポートをしながら自分でも戦える万能な立ち位置、憧れます」
「確かに……あの人すごいね。
「ですね。私は姉さんのサポーターを目指してますから」
最近は大分板についてきたと思うのだが、まだまだ向上心が強い。プリンツさんを参考に、自分のスタイルに落とし込みたいと意気込んでいた。こちらも頼もしい限りである。
そうこうしている内に、一斉射とネルソンタッチの撃ち合いが始まり、さらにはそこから分断されて戦艦同士の一騎打ちに発展したりする。
ネルソンタッチを止めるために、木曾さんがありったけの魚雷を放ったのだが、それを的確に止めるプリンツさんが少し怖いくらいだった。
「木曾さんの雷撃でもダメかぁ……プリンツさん凄いなぁ」
「最低限の破壊で誘爆させてるね……運良く爆発してるのもありそうだけど、それでも凄いよ」
「もうアレ止められる人いるのかな……」
そう思えるくらいにネルソンタッチの完成度が高い。雷撃で食い止めるというのがそもそもの間違いなのかもしれないが、一斉射すら潜り抜けてきた実績があるので、どう止めればいいものやら。
とはいえ、あれは味方の技なのであって戦場での脅威ではない。あれが敵対していなくて本当に良かったと思う。
「うわ、陸奥さんとネルソンさん相討ち!?」
「霧島さん勝ちました! でも相当やられていますね……」
一斉射とネルソンタッチのぶつかり合いは互角のようなものだったのだが、一騎打ちでも互角。お互いの最大戦力の戦いは苛烈で、流石に殴り合いとまではいかないまでも、至近距離での戦艦主砲の撃ち合いという壮絶なものとなった挙句、お互いボロボロになった状態で相討ち。
逆に霧島さんとサウスダコタさんは、最初の演習の焼き直しのような近接戦闘へと発展。一度ならず二度も敗北したからか、霧島さんはサウスダコタさんの戦術をしっかりと学習していたため、今度は逆に辛勝。
「すご……やっば……語彙力失う」
「私達の演習より激しいよね……大型艦同士のぶつかり合いだからかな」
「かもしれない」
そして航空戦。イントレピッドさんのとんでもない量の艦載機を、天城さんと隼鷹さんの連携攻撃でどうにか食い止めているのだが、それをアトランタさんがことごとく撃ち墜とすという酷い状況になっていた。艦載機の天敵が相手だと、空母はここまで機能を停止させられる。
だからだろう、夕立がいの一番にアトランタさんを狙いに行った。久しぶりに見せる狂犬っぷりを遺憾無く発揮し、食い破るかの如く猛攻。結果、どうにか勝利を収めていた。
しかし、圧倒的物量差は簡単には引っ繰り返すことが出来ず、制空権は常にあちら。鷲の目は演習中常に機能し続けていた。
「ああ……そのまま押し潰されていくね」
「惜しかったよね……」
結果、演習は僅差で敗北。最終的にはやはりアクィラさんが無傷という結果になった。イントレピッドさんまでは行けたのだが、そこからがまた難しいという状態。
なかなか勝てないが、いいところまでは来ている。私も含め、みんなが強くなっているのが実感出来た。
ここからは次々と演習が繰り返された。私も2回目をやったりして、短期間で成長出来ている。それでも常に僅差で敗けているのは、あちらの地力が最初から相当上の方にあるからだと理解させられた。私達が戦々恐々としていたレ級相手にも臆さず突っ込むような人達なのだから、激戦の経験数も私達とは違うのだろう。
「はぁー、疲れた。もう脚があっつい」
「明日のこともあるから、ちゃんとケアしないとね」
演習では脱力回避と『蜃気楼』を何度も使っているので、脚への負担はかなりのもの。お風呂とマッサージとその他諸々で明日に引っ張らないようにしなくては。
「お疲れ様。よく見させてもらったわ」
夕食前の休息中、話しかけてきてくれたのは五十鈴さん。勿論龍田さんもいるのだが、そこは海防艦のみんなも一緒にいる。明日のために交流を深め続けているようだ。
「たはは、負け試合ばっかりだったけどね」
「充分すぎるわ。貴女のあの深海雨雲姫みたいな回避も直に見ることが出来て良かった。明日現場で遭遇する可能性があるのよね。映像と直で見るのとは全然違うもの」
他の者の演習も自分の糧にしている辺り、五十鈴さんも向上心が非常に高い。
「ここの艦娘は実力者揃いね〜。流石は空城大将の管理下なだけあるわ〜」
龍田さんも演習を見続けて感心していた。あのネルソンさん率いる外人部隊に、敗けているとはいえ僅差まで持っていけているということがそもそも凄いことだと褒めてくれた。
「占守達もすごいっしゅか?」
「ええ、すごいすごい。対潜部隊として、うちに欲しいくらいよ〜」
「龍田姉ちゃんに言われたら、なんか嬉しいぜー!」
占守と大東はやたら龍田さんに懐いた様子。龍田さんはやんちゃな子供をあやすのがとても上手な気がする。
逆に松輪は五十鈴さん側。龍田さんが怖いとかそういうのでは無さそうだが、気を許しやすいのは五十鈴さんだということのようだ。
「かげろうおねぇちゃん……かっこよかったです」
「あはは、ありがと」
松輪に言われたらやる気が一気に充填される。明日に向けての力はこれだけでも増すものだ。
「でも、演習を見ているだけだと深海日棲姫と対となる者って感じはしないわよね。どちらかといえば、深海雨雲姫と似たような者って感じ」
「あー……まぁそっちの方が近いかな」
戦力を
「分霊は本当に限られた時、それも治療にしか使わないから、それ以外だとあっちと似たような感じになるのは仕方ないと思うよ」
「なるほどね。なら、貴女の真の力は見ない方がいいってことね」
「察してくれて助かるよ」
分霊を使うことはもう無いと信じたい。強いて言うなら『雲』の治療くらいか。わざわざ殺すことなく、太陽の姫からの穢れを払う事ができれば、あの状態から人間に戻す事が出来るかもしれないのだから。
戦場でそんな余裕があるかはわからないので、今までのように命を奪うことでの治療が優先される可能性はある。無理に分霊で治そうとして、自分が危険な目に遭ったら意味がないし。
「なら、これ以上は詮索しない。見せろなんて口が裂けても言えないわ」
「そうしてくれると助かる。ただでさえ、この力が大本営の耳に届いて面倒臭いことになってるってのに」
「ああ……大本営の一部ならそういうこと考える輩もいるわよね。心中察するわ」
この問答から、五十鈴さんはこちらの味方だと改めて確信した。別に心が読めるとかそういうわけではないのだが、建前ではなく本心で私と苦労を察してくれているように感じたからだ。松輪が比較的懐いているというのもある。
最初に疑ったことを申し訳なく思う。真夜中の電話で少しピリピリしていたのかもしれない。自分のことだから余計に敏感になってしまっていた。
「じゃあ、明日はよろしく。背中を預けるから、背中を預けなさい」
「うん、よろしく。強行偵察、絶対に成功させよう」
「五十鈴達がいるんだもの、大船に乗ったつもりでいなさい」
これは期待出来る。明日が上手く行く流れになってきた。
やれることはやった。あとは、明日に向けて身体を休め、当日を迎えるだけだ。
演習は終わり、ついに強行偵察の時が来ます。