異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
強行偵察前夜。就寝時間はいつもよりも早めとされた。全員が一丸となって実施する戦いであり、もしかしたらこれでそのまま終わる可能性もあるのだ。緊張感もあるが、それで眠れないとかはもう無い。ちゃんと眠れるように、その辺りも考慮した夕食まで用意されていた。
私、陽炎は演習を終えた後、出来ることを全てやっておいた。速吸さんのマッサージや、薬湯での急速回復で負担がかかっていた脚も万全。明日に疲れを引っ張らず、万全の態勢で向かう事が出来る。
さらに、今回は緊張感で眠れないなんてことが無いように、事前にイントレピッドさん手製のホットミルクまでいただいてしまった。おかげで身体はポカポカ。気持ちよく寝られそうだ。
「美味しいご飯も食べられたし、アクィラさんに話も聞いてもらったし、さっきはホットミルクで身体も温めたし、眠気もちゃんとある。これはもう勝ったも同然だね」
「ぽい。そして夕立達にはゲロ様の匂い。完璧っぽい!」
部屋では相変わらずの5人集合。心を落ち着かせて明日に挑むなら、いつもと同じように過ごすのがいい。それにD型異端児である3人は、私の魂の匂いによりさらに心が落ち着くというのだから、この状態で一晩明かすのが一番望ましい。
相変わらず夕立は私のベッドに潜り込んできている。今回は磯波も躊躇なく来た。もう本当に一切の抵抗を見せない。
私達はアクィラさんに話を聞いてもらい、いろいろとスッキリさせてもらった。やっぱりストレスというのは定期的に吐き出さなくてはダメだ。ただ話すだけでも、こうも気持ちが穏やかになれる。話したことがかなり悲惨な内容だったため、アクィラさんもちょくちょく言葉を無くしていたが。
「明日はみんなで出撃だからね。こんな大掛かりな戦闘なんて無かったんでしょ?」
「うん……艦娘の殆どが出撃するのは初めてかな……」
現在鎮守府にいる艦娘の約8割が出撃するというとんでもない戦いになっていた。そのうち増援は13人。今までとはあまりにも規模が違う戦い。
夕立は別働隊、磯波と萩風は諜報部隊に組み込まれる形で出撃することが決まった。まさかの駆逐艦総動員である。代わりに、巡洋艦の方々の一部は、鎮守府防衛のために臨戦態勢でのお留守番となっている。鎮守府防衛班は食堂の3人まで含めて僅か7人である。
私達が出撃している間に、万が一鎮守府が襲撃されるなんてことがあったら困る。そんなことは無いと言い切りたいのだが、『雲』が今までに2回も襲撃に来ているのだから、警戒しない理由が無いのだ。それでも大分少数ではあるのだが。
「すごい戦いだよ。やっぱり、深海棲艦の親玉みたいなものだからかな」
「かもね。やれることは全部やるってのがよくわかるよ」
それだけ人数を使って、ようやく中心部に辿り着けるというくらいだろう。それでも敵はまだいる。太陽の姫もそうだが、『雲』も残っているのだ。最低限、そのどちらかを引きずり出して撃破したいところ。
「これだけ準備したんですから、勝てますよね」
「当然。明日で全部終わらせるつもりで行くんだから」
全員が意気込み充分。当たり前だが負けるつもりなんて無い。負ける気もしない。それだけの準備をしてきたのだ。私達は勝ちに行く。
そして朝。全員が気持ちよく目覚める。あの夕立ですら、私が押し潰すまでもなく目を覚ましていた。気がはやっているわけでもなく、
しっかり着替えてみんなで部屋を出ると、何というか若干ひりついた空気を感じた。ここにいる殆どの者が出撃するのだから無理もない。今までだってこちらから攻め込むことはあったが、ここまででは無かった。
「何だか空気が重く感じるね」
「こんなに大きな戦いは初めてだからね……」
昨日は無かった緊張感。前日と当日ではここまで違うか。あの南方棲戦姫の時以上だった。
「今日は忙しくなるね。みんな、勝って帰ろう」
「当然っぽい。夕立はもう負けないから」
だが、それに押し潰されていたら勝てるものも勝てない。むしろ緊張感を活力にして、より自分を盛り上げていく。絶対に負けない。このまま勝つ。そういうイメージをしていけば、その運命を手繰り寄せることが出来るはずだ。
これだって霧島さんの教えを今も参考にさせてもらっている。出来る出来るというイメージは常にしておくべき。自信が無いよりあった方が周りを鼓舞することだって出来る。
「
ちょうど私達と同じくらいのタイミングでネルソンさんが部屋から出てきた。あちらも準備万端。最高のネルソンタッチのために誰よりも早く眠ると聞いているし、寝不足とは無縁の人。
「ネルソンさん、おはようございます」
「おはよっぽい!」
「うむ、貴様達、いい顔をしているな。今日はよろしく頼むぞ」
相変わらず豪快な人だ。緊張はしているものの、普段と変わらないでいられた私達を見て笑い飛ばした。多分この人には緊張というものがない。当たり前のように出撃して、当たり前のように勝って帰るというのが日常なのだ。
言うなれば、私が霧島さんに教えてもらった勝てるイメージを持つというアレを常に行なっているのと同じ。自信満々に生活しているから、大概のことが上手く行く。
「各艦がその責務を全うすることを期待する。貴様達にも、なっ」
言いながら拳を突き出してくる。何をしたらいいか一瞬わからなかったが、夕立がその拳に自分の拳も打ち付けたことで、なるほどと理解出来た。まるで少年漫画のような意思疎通。闘志を表現する簡単な挨拶みたいなもの。
ならばと私も夕立を真似て、ネルソンさんの拳に拳をぶつける。磯波や沖波、萩風もおずおずと私の真似をしてコツンと拳を当てる。
「よしっ! 貴様達の意志を受け取った。今日の戦場でも、余がNelson Touchを決めてやろう。貴様達は何の心配も要らない。泥舟に乗ったつもりでいるがよい!」
「それ沈むっぽい」
磯波破裂。そんなに自信満々に放り込まれたら私達だって驚く。相変わらず日本語を何処か間違った覚え方をしているのは何なのだろう。多分犯人はプリンツさんなのだが。
磯波が復活するまでに少し時間を要したが、それまでに緊張感はすっかり無くなっていた。まさかそれを狙ってネルソンさんはわざと言っているのでは、いや、それは無いか。本人は至って真面目だし。
朝食を終えたらそのままみんなが工廠へ。今回は一斉に出撃することになるため、今までに見たことのない人数が集まることになっていた。整備班の人達も大忙し。全員が艤装を装備するだけでも一苦労。
ギリギリまでメンテナンスしてもらった艤装を装備して準備完了。合図があればもう出撃出来るという状態。何だかいつもよりも軽くさえ思えた。そんなはず無いのに。
「こいつは壮観だね。工廠に全員集まることなんて早々無いよ」
「ああ、全員艤装を整備しているしな」
全員の準備が出来たところで、空城司令と呉内司令が全員の前に。今回は眠たそうな顔をしていなかったので、深夜に電話がかかってくるようなことは無かったようだ。口撃で撃退しているだけある。
というか、作戦当日まで狙ってきたら、いよいよ陰湿という言葉だけでは表現出来なくなる。この強行偵察任務が終わったら、次は大本営を相手取った戦いが始まりかねない。
「皆わかっていると思うが、今回の任務は偵察だ。敵本拠地がどうなっているかを確認し、あわよくば敵陣を破壊する。だが、あくまでも偵察が目的だ。いつも言っていることだが、一番重要なのは生きて帰ることだからね」
今回は今まで以上に危険極まりない任務。偵察と言いつつも、ラスボスが現れるかもしれない海域だ。そのまま沈没船に引っ込んでいてくれるならまだしも、私という超弩級の邪魔者が現れるのだから、余程のことが無い限り何かしらの攻撃をしてくるに決まっている。
太陽の姫自身が出てこなくても、『雲』が現れる可能性は非常に高い。だからこその強行偵察部隊。『雲』に効果的で、対策もしっかり積んでいる者達が選出されている。勝ちに行くために。
「ガッツリ調べてこいとは言わない。まずいと思ったら撤退を選択することはまずいことでも無いんだからね」
「何も成果を得られなかったとしても構わねぇ。いざとなったらまた来りゃいい。命を粗末にするよりは、手間をかける方が数倍マシだ」
偉人の言葉に、帰ればまた来られるという素晴らしい言葉があるそうだ。本当にその通り。無理してちょっとした成果のために命を落とすくらいなら、帰って立て直した方が本当に欲しい成果が得られるだろう。
「まぁ、あまり時間はかけない方がいいね。よし、任務開始だ! 皆、気合入れなよ!」
話はそこそこに、1人ずつ海へ。流石にこの大人数の出撃なので、部隊はある程度分散して出撃することになる。分散と言っても本当にバラバラに行くわけではなく、別働隊と支援艦隊が先行し、その次に対潜部隊と潜水艦隊、そしてそれを後ろから追う形で本隊と諜報部隊が向かう。
「では我々が先行させてもらおう。ムツよ、また貴様と肩を並べて戦えること、余は嬉しく思うぞ」
「私もよ。ネルソンタッチと一斉射で、敵を全部蹴散らしてやりましょ」
「うむ。仲間の道を拓くのもビッグセブンの務め。力の限りを尽くそうではないか!」
先行部隊である別働隊と支援艦隊が出撃。重量編成で先に戦場に到着し、そこから敵陣を強引に切り開く。
「ゲロ様、また後で!」
「うん、そっちはそっちで頑張って!」
「ぽーい!」
夕立はここに含まれているので、私達とは完全に別行動。現場でまた顔を合わせることになるだろうが、夕立は律儀にこちらに手を振ってきた。相変わらず、戦闘となると目の色を変える。
まだ水平線の向こうというわけではないが、続いて対潜部隊と潜水艦隊。こんな大きな戦いに出ることになるのは初めてのようだが、海防艦の3人は震えることも臆すこともなく、まるで遠足に行くかのように海に出た。
「いいですか、今回の戦いは」
「潜水艦は全部吹っ飛ばすけど」
「死ぬくらいなら逃げるっしゅ」
「い、いのち、だいじに!」
大鷹の号令とともに、子供3人が教えを復唱。『いのちだいじに』は絶対条件。大人が死ぬのだって大問題だが、こんな子供達が死ぬことは以ての外。艦娘という役割を得て、本人達が覚悟を決めているとはいえ、命を散らせとは絶対に言わない。
その光景を五十鈴さんと龍田さんも穏やかな表情で眺めていた。この2人なら子供達に怪我すら負わさずに全てこなしてくれると信じられる。
「イヨ達には当てないでよぉ?」
「わかってるわ〜。でも、万が一の時はちゃ〜んと貴女達が避けるのよ?」
「大丈夫……です。柔な潜水艦では無いですから」
潜水艦隊も潜る前に最後の声かけ。本来相対するような2つの部隊だが、今回は連携しての対潜である。そのためか、潜水艦隊と常に話が出来るように、五十鈴さんと龍田さん、それに大鷹にも、潜水艦の声が届く通信機が託されていた。
「じゃあ、対潜部隊出るわ!」
「潜水艦隊も出ます……ここからは潜りますので……」
潜水艦一同は海の中へ。同時に、対潜部隊も出発。
そして最後。私達本隊と諜報部隊の出撃の番。ここまで来ると流石に緊張感が否定出来ないが、大きく深呼吸した後、軽く頬を叩いて気合を入れ直す。
今回、潜水艦隊と同様に重要な部隊だ。私達の調査結果が今後を左右する。
「なんやかんや、部隊は違えど姉妹3人同じ出撃だねぇ。ゲロ姉、萩姉、よろしく頼んまーす」
「アンタは軽いねぇ。ガチガチよかマシだけどさ」
「これくらいの気持ちの方が戦いやすいのさー。それに、諜報部隊の任務は情報を得ること。事が済んだらトンズラだって厭わないからね」
なんて言いながらも、秋雲は最後まで戦ってくれそうである。武装も万全、最新鋭。
「ひーちゃん……生きて帰ろうね」
「当然。私はまだまだ生きたいんだから」
せっかく母さんに繋いでもらった命なのだ。こんなところで粗末に使うわけには行かない。生きることでその恩を返すのだ。
「じゃあ行くよ! 本隊出撃!」
「諜報部隊も出撃であります。行くぞ!」
これより向かうは激戦区。始まりの襲撃を起こしたラスボスの本拠地。これで戦いが終わるのか、はたまた別の問題が現れるのか。それはもう神のみぞ知る。
強行偵察本隊:衣笠、陽炎、沖波、五月雨、菊月、初月
強行偵察別働隊:陸奥、霧島、天城、隼鷹、夕立、木曾
強行偵察支援艦隊:Nelson、Aquila、South Dakota、Intrepid、Prinz Eugen、Atlanta
諜報部隊:神州丸、青葉、秋雲、由良、磯波、萩風
対潜部隊:五十鈴、龍田、大鷹、占守、大東、松輪
潜水艦隊:伊13、伊14、UIT-25、U-511
鎮守府防衛班:加古、阿賀野、夕張、速吸 (間宮、伊良湖、長門)