異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
ついに強行偵察任務が開始された。私、陽炎はその中でも本隊に属し、他の仲間達の切り拓いてくれた道を突き抜け、諜報部隊と共に太陽の姫の本拠地に乗り込むことになる。
おそらくそこでは太陽の姫が出て来ない可能性はあっても、『雲』の妨害は確実にあるだろう。それをどうにかするのが私達本隊の仕事だ。強行偵察というのだから、無理矢理にでも本拠地に行く。そのための障害は排除しなくてはいけない。
「移動しながらでも艦載機飛んでるね」
「前のことがあるからね。こうやって出撃中に回り込まれて鎮守府襲撃されたら堪ったものじゃないし」
目的地に向かっている間、先行して進んでいる部隊の空母は全員が艦載機を発艦させていた。特にアクィラさんは念入りに飛ばし、自分の周囲に漏れが無いようにしている。
それもこれも、以前調査部隊が向かっている最中に迂回されて鎮守府を襲撃されたということがあるからだ。その時は誰もが酷い目に遭っているわけで、警戒しないわけが無かった。潜水艦隊もしっかり海中を監視している。
「今回は流石に鎮守府襲撃は無いでしょ」
秋雲がボソッと呟く。
「理由は?」
「太陽の姫が千里眼的なモノを持ってるとして、こっちの行動が全部見えてるなら、今は鎮守府よりこっち狙うでしょ。ゲロ姉だけでなく、世界に選ばれてるM型異端児が全員ここにいるんだから。自分が太陽の姫と同じ立ち位置にいるのならそうする。まず確実にゲロ姉を潰したい」
ごもっともである。太陽の姫は天敵である私を一番敵視しているのはわかっている。自分の手で始末しなくてはいけないと、私自身に公言してきたくらいだ。そう考えているのなら、私のいる場所に現れるのが当然。
私が本拠地に向かっているのなら、迎え撃つと考えるのが一番妥当か。わざわざ移動するまでもなく、
「そういう意味では、今から行くところはヤバいだろうね。M型異端児は皆殺しにするつもりで来るでしょ。もう分霊とかも考えないかもね」
「太陽の姫自体が出てくるかもわからないけど」
「それもあるねぇ。何か事情があって、本拠地から動けないとかね」
例えば、M型異端児すらも堕とすことが出来る分霊にはやたら力を使うとか。消耗した力を回復するために沈没船の中に篭っているなんてことも考えられる。むしろそうであってほしいくらいだ。
調査を一歩ずつ進めていくことで、着実に勝ちに近付いた方がいい。多少長引いても、慎重に行けば確実にやれるのだ。
まずは沈没船の素性。これが一番大事。これは潜水艦隊に任せる。そして、こちらでも太陽の姫や『雲』が何者かがわかればありがたい。本人に聞いたところで何も話さないのはわかっているため、やはり撃破することによりそれを知ることが手っ取り早い。
「まぁ出てきた奴を倒せばいいでしょ。それが一番早いよ」
「ゲロ姉いつからそんなに武闘派になったの」
そんなつもりは無いのだが。やっぱり恨み辛みが蓄積されているのかもしれない。
しばらく進んで、以前の南方棲戦姫の巣の辺りに到着。ここで一旦休憩。渡された戦闘糧食による少し早めの昼食で腹ごしらえをして、全力で任務に当たる。
私達が辿り着いた時、先んじてここに辿り着いていた別働隊と支援艦隊は、既に昼食を終えて出発の準備をしていた。潜水艦隊は流石に海中で食べるわけにはいかないので、海上に姿を現している。戦闘糧食も防水加工バリバリ。
「ここまで敵影無し。本拠地で待ち構えてるみたいね」
空母全員による周囲の哨戒でも、一切の敵影は無し。アクィラさんという最高の保証があるのだから、私達の見落としで鎮守府を危険に晒すようなことはしていないようである。
つまり、敵は本拠地の防衛に戦力を集中しているということだ。これだけの人数を揃えていても、苦戦を強いられるのは今からでも予想出来る。今まで私はこの戦場に出たことは無いのだが、鎮守府に戻ってくる仲間達の状況からして、相当な状態なのは理解出来た。
「では行くか」
「ええ。私達は先に行くわ。まず海上艦を蹴散らして、進路を拓いておくから、安心してきてちょうだいね」
一番の重量部隊が先に戦場に向かうことで、やれる限り戦場を荒らし続ける。その後に潜水艦隊と対潜部隊が切り込み、沈没船への道を突き抜ける。そしてトドメが私達だ。それだけの道が拓いているのだから、海中だけでなく海上の状態も調査出来る。
本拠地の真上に行くのだから、それはもう酷い攻撃を受けることになるだろう。それでも、元々いる敵防衛部隊を突破した後なのだから、多少なりは軽くなっていると信じている。
2部隊が出撃して少しして、今度は対潜部隊と潜水艦隊が出発することになるのだが、今はあちらが戦闘を開始しているであろうタイミングを見計らっていた。
激戦の中を突き抜けるのは、どんな部隊であれ控えておきたいところなのだが、それに加えて対潜部隊は海防艦を含む超軽量部隊とも言える。訓練を積んだことで、尋常ではないスタミナと子供ならではのすばしっこさを備えていても、何処もかしこもが燃え盛るような戦場では何が起こるかわからない。
「出来れば、戦闘の音が聞こえてきた方がいいんだけど」
「そうね〜。始まったってところから突っ切りたいわよね〜」
戦闘開始直後に突っ込むことが一番危険だ。誰もが十全の力を持っている戦場なのだから、最大級のドンパチが繰り広げられるのは必然。なるべく確実に情報を取りに行くなら、少し落ち着いた後の戦場を潜り抜けるべき。
「始まりました」
ここで、偵察のために艦載機を飛ばしている大鷹から、先行した部隊の情報を得る。どうやら防衛線との激突が始まったようだ。
と言ったそばから一斉射であろう爆音が私達にまで届いた。防衛戦の最初に現れたものが、既に一斉射が必要なくらいの相手であると窺える。
「じゃあ、ここからが本番よ。子供達も大丈夫ね?」
「だいじょーぶっす! こんな音で怖がる占守達じゃないっしゅ!」
「いつでも行けるぜ姉ちゃん達!」
戦場の音が聞こえてきても、占守と大東は気合が入りまくっている。松輪も、無言で自分を奮い立たせているのがわかった。
「んじゃあ、イヨ達も一気に行くよ。目指すは沈没船! 出来れば中まで確認!」
「せめて……素性がわかればいいね。それでは……」
「
「
潜水艦隊も頃合いを見て海中へ。目的地は沈没船。私達では絶対に手が届かない、太陽の姫の素性を明らかにする何かの元へも向かう。海中もいつも以上の猛攻になるだろうが、今回は対潜部隊という仲間も得たことで、より深いところにまで手が届くはず。
これで残されたのは、私達本隊と諜報部隊のみ。全ての道が拓かれるのは、もう少し後。腹拵えももう少し。もう仲間達は全員水平線の向こう側。それでもここにまで届く戦闘音が、どうしても緊張感を高めさせる。
最後の私達は、みんなが切り拓いてくれた道を突き抜けるのみ。露払いがあっても邪魔が入るかもしれない。それはそれで私達が蹴散らせばいい。
時間だ。戦闘音は苛烈を極めているが、止まることは無い。音だけで緊張感が増していくものの、気合も充分だった。みんながここまでやってくれているのだ。私達だって追随しなくては。
「もう良いでありますか」
「うん、みんな大丈夫っぽいね」
神州丸さんと衣笠さんが最後の打ち合わせ。これが終われば会話も難しいかもしれない。
敵本拠地中心部に辿り着いてからやることは、海上海中同時の一斉調査。その間、私達が迫り来る敵を何もかも粉砕する。
「では、参ろうか」
「了解。みんな、覚悟決めてよ!」
ここからが本当の始まり。休息により回復したことで、鎮守府を出たときくらいの消耗に感じ取れた。新品同様の私と言った感じだ。ここまで来るのに戦闘が無かったのも大きい。
だからこそ、最初から全力全開で突撃出来る。そしてそれは私だけでは無い。ここにいる全員が同じだ。ならば、必ず成功する。
「先行は予定通り、本隊に任せる。我々は後を追う形で、戦場を駆け抜ける」
「よーし、じゃあ、突撃ーっ!」
衣笠さんの鬨の声とともに、全員が一気に最大戦速にまで持っていく。ここまで来る時は温存していたので、ここまでの速度は出していない。
目まぐるしく変わる景色の向こう側に、ついに戦う仲間達の姿を捉えた。そこはもう地獄の様相だった。話に聞いていた通りレ級の姿もあったものの、正直それはもうどうでもいい。それに交じって戦艦の姫や空母の姫まで鎮座していた。レ級よりも強敵であろう姫級が数体。人数を揃えていても苦戦は必至。
陸奥さん達別働隊と、ネルソンさん達支援艦隊が、強引に敵の群れの中に道を作ってくれているのが見て取れた。多勢に無勢も覆すほどに激しい戦闘を繰り広げ、無理矢理にでも押し返している。
対潜部隊もそこかしこに爆雷を投げ続けていた。私には見えないが、海中も悲惨なことになっていることが窺える。そこを狙われてしまうものの、そこは対潜部隊とはいえ海上用の装備だってある。大鷹の航空隊を筆頭に、子供達の奮闘を邪魔させないように保護者一同が踏ん張っていた。
「来たか
「ネルソン余所見すんな!」
「ハッハー! わかっている。こんなに腕が鳴る戦場は初めてだ! アレだな、以前プリンツが言っていたムソーというヤツだな!」
まだまだ余裕がありそうなネルソンさん。サウスダコタさんのツッコミも物ともせず、ありったけをぶちまけていた。目の前にいる敵を全て薙ぎ倒しても次々と湧いてくる深海棲艦だが、むしろそれを楽しんでいるかの如く次々と撃破していく。
「こっちも大丈夫よ! 貴女達には指一本触れさせないから、行って!」
「私の計算上では本拠地までは無傷で行けるわ! 突き進みなさい!」
陸奥さんと霧島さんも、一斉射をしながら声援をくれた。あくまでも露払いという仕事になってしまうが、おそらく私達が今からやること以上にハードな戦いになるだろう。全方位の攻撃を全て注意しながらの戦いは、普通以上に神経を使う。
「キヌガサ、
「了解、気をつけるであります!」
「近付き過ぎたらまずいってことね!」
艦載機によりいち早く本拠地の情報を手に入れてくれたアクィラさんからの忠告。それは、今まで確認されたことがない現象のオンパレードだった。海水の変色と、破壊されていないのに出来ている渦潮。これも太陽の姫の力かもしれない。あまりにも強大な力が、海そのものに影響を与えてしまっているのか。
「潜水艦隊も進めてるわ! だから、貴女達も!」
「ひっどい数の潜水艦もいるから、ちゃ〜んと皆殺しにしておくからね〜」
龍田さんの物騒な発言もあったが、対潜部隊もしっかりとお役目を全うしてくれている。潜水艦隊が沈没船により近付けているのなら万々歳だ。
「よし、行くよ!」
これならば全員無傷で抜けられる。そうなれば一気に本拠地だ。
しかし、そう簡単には行きそうに無かった。やはり本拠地、あちらの全戦力が集中する場所。どんな敵だって現れる可能性がある場所。
「コレ以上、行カセルワケナイデショ」
その防衛線を抜けた先、そこにいたのは『雲』。自らが最終防衛線と言わんばかりに鎮座していた。
しかし、以前に見たときとは少し様子が違う。艤装の一部と思われる雲型のクッションや、本体そのものが
そしてもう1つ、明らかに異質な部分。胸の部分が妙に抉れ、その中身、骨や明滅する何かが見えてしまっていた。身体が溶けているかのようになっているのが、そこには色濃く影響してしまっているのだろう。
私達が改造を受けるように、『雲』もあの時から何かしらのことをされているのかもしれない。私達が改なら、奴は『壊』か。身体がその力に耐えられていないような、崩壊していっているような、そんな危うい力。
「ココハ、主様ノオワス、
私と沖波の姿を見て、呆れたような笑みを浮かべた。当て付けのような言葉に苛立ちが湧き上がりそうになったが、そこはグッと堪える。
「アンタはここで終わらせてやる。救ってやるから」
「救ウ? 私ヲ? ……何ヲ言ウカト思エバ」
鼻で笑った後、今までに無いくらいの眼で睨み付けてきた。
「ココニ来タコトヲ後悔サセテアゲルワ。オバカサン!」
強行偵察は『雲』を倒さなければ進められないようだ。ならば、ここで叩く。ここで終わらせる。ここで救う。
私にはその力がある。この力、深海日棲姫と対をなす力、陽の太陽の姫の力は、そういう時のために使うのだ。
深海雨雲姫は、壊になってからスペックアップするという偉業を成し遂げた初めての深海棲艦。ちゃんと壊れて?