異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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雲散霧消

 強行偵察任務中、やはりと言っていいのか、本拠地に辿り着く前に『雲』が現れた。これは出撃する前から予想していたことだから驚きは無い。

 しかし、以前見たときとは見た目が違っていた。身体や艤装が所々溶けており、そのせいか艤装そのものも一部変形している。まるで、身体がその力に耐えられていないような、崩壊していっているような、そんな危うい力を身につけてしまったかのようだった。

 

「ココニ来タコトヲ後悔サセテアゲルワ。オバカサン!」

 

 その言葉とともに、『雲』からの攻撃が始まった。今回は分霊なども考えず、ここにいる者を潰そうとしているのがわかる。私以外にもM型異端児がいるのだから、その全てはここで始末したいだろう。

 特に沖波は、一度あちら側に行ってからまたこちら側に戻れた者。『雲』にしてみれば、私と同じ裏切り者みたいなものだ。余計に気に入らない存在になるだろう。

 

「諜報部隊は突き進んで! アイツは本隊で決着をつける!」

「了解であります。この場は任せた!」

「行カセルワケガ無イデショウ。私ノ仕事ハ貴女()の始末。誰一人トシテ、主様ノ元ヘハ行カセナイ」

 

 フッと『雲』の姿が薄れたかと思いきや、既に神州丸さんの側へと近付いていた。回避行動の素早さを活かした高速移動。殆ど私の『蜃気楼』と同じ動きだった。襲撃してきた2回では見せなかった、能動的な攻撃の姿勢。

 流石の神州丸さんも会話の流れから自分が狙われるだろうと予測していたようで、この速度で近付かれてもしっかり対応し、砲撃も当たらず手も届かない場所に退避していた。

 

 今までが遊びだったというのもあるのかもしれないが、明確な殺意をここまでぶつけてきているのは初めてだ。巫女としての天命を全うしようと、本来出せる力以上のそれを出そうとしているのか。

 

「貴女ニハ借リガアルモノ。分霊モシテヤラナイ。ココデ死ンデモラウワヨ」

「それは困る。本艦はやらねばならぬことがある。ここで死ぬわけにはいかないのだ」

「ダケド、ココハ海ノ上。貴女言ッテイタワヨネ。陸ノ者ダッテ。ココハ貴女ノ場所ジャナイ」

 

 初めての『雲』の襲撃の時、神州丸さんは誰にも捉えることが出来なかった『雲』の回避能力を無視して、その腕を掴むことに成功している。ある意味『雲』の天敵とも言えた。

 しかし、それは海の上ではなく陸の上。陸の上では何者にも負けない能力を持っていても、ここではその力を発揮出来ないのだ。そうなると、神州丸さんでも『雲』には手間取ることになるだろう。むしろそこを狙ってきたか。

 

 神州丸さんがやられてしまったら意味がない。諜報部隊は必ずここで本拠地に向かってもらわなくてはいけないのだ。なら、ここで動くのは本隊。そして、今の雲に追い付けるのは、おそらく私。

 

「やらせない!」

 

 私も即座に動き出す。部隊の連携がどうとか言っていられない。動けるものが即動かなければ、大変なことになり得る。

 

「『陽炎』、貴女ハ必ズ殺セト主様ガ仰ッテイルノ。私ハ命ニ代エテモ貴女ヲ殺スワ」

 

 私の高速移動にも対応され、神州丸さんからすぐさま離れる『雲』。そのままいてくれれば、突撃から渾身の蹴りの予定だったのだが、同じ動きが出来るというのなら回避を選ぶに決まっている。

 そして、離れながらも両脇腹に備え付けられた主砲を、その場にいる私も含めた諜報部隊に向けて放ってきた。相変わらず威力がとんでもないのだが、速射力も上がっている。私はまだいいかもしれないが、回避するのにもなかなか難しい程に。避けられないわけではないが、全員逃げ惑うレベルの乱射で、一気に戦場は混沌と化していく。

 

「回避せよ! これはまずい!」

「逃ガサナイ。ココデ全員オシマイ」

 

 撃ちながらも再び姿が薄れる。まるで雲が風に乗って散っていくようにその場からいなくなった瞬間、再び神州丸さんのところに現れ、その首を掴み上げていた。元々私よりも回避性能は熟練されているのだから、あれくらい出来てもおかしくないのはわかる。

 とはいえ、その高速移動の質は私と似たようなもの。脱力回避ではなく、おそらくあの雲型の艤装がそれを可能にしているのだ。陸での回避は私と同じと見てもいいと思うが、海上では自分の持ち味を全力で使ってくる。

 

「ぅぐっ!?」

「貴女ガ最初。借リハ返スワ」

 

 主砲が全て神州丸さんに向く。そのまま撃たれれば確実に上半身と下半身が真っ二つになってしまうだろう。普通の駆逐艦主砲でも致命傷になりかねないのに、威力が駆逐艦のそれではないため、何とか回避出来たとしても掠っただけで致命傷の可能性大。

 ならばまた私が動くしか、と思った瞬間だ。私よりも早く、動き出すものがいた。それは速度でも何でもない。ただただ経験則から手が動いていたと言っても過言ではない者。

 

「そこはダメです!」

 

 神州丸さんに主砲が放たれる前に、五月雨が『雲』に向かって主砲を放っていた。狙いは神州丸さんを掴み上げる腕にピンポイントに。撃とうとした瞬間には直撃という最高のタイミングで放たれていたため、さすがの『雲』も神州丸さんを放さざるを得なかった。おかげで神州丸さんは、首は絞められたとはいえ無傷に近い。分霊もされていないようだった。

 神州丸さんをここでやれるかもわからない状態で無理矢理撃つより、回避しておいた方が確実に上手く行くと判断したようである。おそらく私でもその選択をしていた。優先順位は高い方かもしれないが、『雲』の実力からして、後回しにしても問題ないと考えてもおかしくはない。慎重に堅実を取る。

 

「貴女ハ……!」

「そうしてくると思ってました。だから先に狙います!」

 

 放れた位置すらも狙って五月雨は主砲を放つ。経験則から『雲』の行動を想像して、何処まで離れるかまで考えていた。しかし、それはいつもの擦り抜けにより回避される。

 そして、五月雨と同様に『雲』を終わらせるために即座に動く者がもう1人。五月雨と共に、鎮守府の古参である菊月である。

 

「もっと見せろ。この菊月の『心眼』で、貴様のその回避術を見抜いてやる」

 

 五月雨の砲撃を擦り抜けるように回避した『雲』を凝視。私でさんざん訓練した、脱力回避の攻略法。それに、菊月はアクィラさんからも私の攻略法を全て聞いており、さらには諜報部隊が以前に録画した戦闘の動画を何度も確認していた。

 残りは直にそれを確認することで、動体視力の範疇に収める。映像だけではわからないことが多いし、実際『雲』はあの時よりも強化されているのだ。想定以上が出て当然なのだから、ここで計算を補正する。

 

「なら、いっぱい見させたげるさー! みんなでバカスカ撃っちゃえ!」

「私も撃ちます……!」

 

 菊月の心眼のために、回避を何度もさせる。そこで動き出したのが、諜報部隊である。秋雲と磯波が2人がかりで『雲』を狙い撃ち、なるべく逃がさないように連射。

 当然だが、その砲撃は逃げ道潰しもしっかりしている連射だ。無闇矢鱈に撃っているわけではない。直接狙う秋雲と、その周囲を狙う磯波。そこに五月雨も加わって、役割分担がちゃんと出来ている。

 

「ホンット、嫌ナ子達! 私ニハ、『雲』ニハ何モ当タラナイ!」

 

 しかし、本人が言う通りどれだけ撃っても本当に全てが擦り抜け、さらには姿が掻き消えるような錯覚すら起こしながらも、一番厄介だと判断した五月雨に一気に近付く。

 2人がかり、いや、もっと多くの仲間達が集中砲火しているのに、お構いなしに擦り抜けてくる。高速移動ではなくただ回避に専念するだけで、こうまで当たらない。こればっかりは五月雨と同じで蓄積された経験だろう。

 

「貴女、一番気ニ入ラナイ!」

「速いのはわかってたけど、こんなにっ」

 

 神州丸さんの時とは違い、擦り抜けて近付いた瞬間に砲撃体勢。回避する暇すら与えず、即殺の姿勢。

 だが、これは私にもわかっていた。この状況で一番危険視するのは五月雨だと。だから、誰もが五月雨を守るために動き出す。

 

「貴女はっ、ここでぇっ!」

 

 そこに飛び込んだのは萩風だ。より自身を鍛え上げ、より艤装を強化して、私の知らぬところでも強く強く成長していた萩風は、アームの主砲で殴り付けるかのように強烈な砲撃。

 あくまでもその主砲は駆逐艦のものであるため、火力そのものが上がっているわけではない。しかし、萩風自身の勢いとタイミングが完璧だったおかげで、本来以上の威力が出ていた。火力も速度も違うその渾身の一射は、狙いも殆どブレておらず、五月雨を撃とうとしていた『雲』の腹に猛スピードで向かっていく。

 

「貴女、相当恨みを買ってるんだからね。ねっ!」

 

 さらにそこに由良さんが重なる。萩風が突撃する後ろから、五月雨を守る一撃。隙間を縫うようなその砲撃は、五月雨を狙う主砲をピンポイントで破壊するためのもの。

 

 萩風は『雲』により人生が破壊されている。由良さんは『雲』により分霊未遂を受けている。ここにいる中では、奴に対して怒りと憎しみが強い2人。

 特に萩風は、自分の全てを奪った『雲』だけは許せないだろう。治療が出来ればそれを引っ張るようなことはしないだろうが、今は張本人が目の前にいる。力任せの攻撃に転じてしまうのも無理はない。

 

「ッタク、多勢ニ無勢ネ。私1人ニ何人使ウノヤラ」

 

 その攻撃も回避しつつ、それでも五月雨に対して砲撃。経験則からその方向を予測して回避はするものの、脇腹に掠ってしまう。並の威力ではないそれが掠めただけでも、身体には大きな衝撃が走ってしまったか、五月雨が僅かに顔を顰めた。

 

「大丈夫! もっと追い込んで!」

 

 血は流れているが、五月雨は臆さない。この程度では戦意を失うわけがない。

 

「何人でも使うよ。ここで潰しておかないと、アンタはまだまだ調子に乗りかねないからね」

「ですねぇ。ここで終わってもらわないと、青葉達の仕事が増える一方なんですよぉ」

 

 回避先を狙うのは衣笠さんと青葉さんの艤装姉妹。強行偵察本隊と諜報部隊を合わせた複合部隊でも、おそらくこの2人が最大戦力になる。主砲の火力も私達とは段違い。しかし、それも当然のように擦り抜け。

 萩風による近距離の砲撃もダメ。由良さんの艤装狙いの砲撃もダメ。火力をさらに上げた衣笠さんと青葉さんの砲撃もダメ。

 

 集中砲火を受けてもその全てが擦り抜けるとなると、正直私よりも回避性能は高い。おそらく『蜃気楼』以上のものだ。雲が散り、霧のように消え去る、まさに雲散霧消の如きその回避性能。

 

「イイ加減、コチラカラモチャントヤラセテモラウワ」

 

 回避に専念しているわけでなく、回避先からしっかりこちらを撃ってきている。その狙いはとんでもない精度というわけではない辺り、基本的なスペックが回避に特化しているのだと思う。

 いわゆる生存性能だ。より長く生きてもらわなくては困るということ。私もそうだし、沖波もそうだった。太陽の姫の巫女は、やたら回避性能に特化させられている。故に、私達なら『雲』のその砲撃も全て潜れる。進みながらの回避だって出来る。

 

「っし、潜る! 沖波、行ける!?」

「行ける。行く。あれなら避けられる!」

 

 私は『蜃気楼』による直進、沖波は『空』の回避からの直進で、徐々に距離を詰めながらの砲撃を繰り出していったが、それでも砲撃性能は据え置きのため、『雲』はそれを全て回避。

 嫌なことに『雲』としては私達の行動は予測済みのようではあるが、その対策が出来ているわけではないので、お互いが当たらない砲撃を延々繰り返しているだけに。不毛な戦いではあるが、こちらには数がいる。

 

 それに、これだけ回避させているのだ。そろそろ『心眼』が覚醒する。

 

「見えたぞ。ようやく」

 

 1発だけ放たれた菊月の砲撃が、『雲』の艤装、腰掛けているクッションに直撃した。どれだけ撃っても回避されていた砲撃が、初めてハッキリとしたダメージに繋がった。

 

「ッ」

「それだけ何度も見ていれば、この菊月ならばもうわかる。貴様の動きは読み切った」

 

 直撃してもまだ艤装が失われたわけではない。クッションに直撃したとしても、軽く傷がついた程度で砲弾は弾んでから海の底へと消えていった。

 本当に残念なことに、菊月の主砲では火力がまだ足りなかった。回避性能が尋常ではないのに、艤装そのものも見た目とは裏腹に強固なせいで、ようやくダメージを与えたとしても破壊まではいかない。

 

「ダメージは無いかもしれないが、もう回避させないぞ。まだ何か小細工があるなら出してみろ」

 

 流石にこの場で種明かしをするようなことはしない。『雲』がそれを聞いて対策してきたら困る。

 

 

 

 その時、『雲』は確実に顔を歪ませた。本当の敵は、目立つ私達ではない。菊月だったのだ。

 あの擦り抜ける回避は菊月が封じてくれる。ここからは、私達の番だ。

 

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