異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
激戦続く強行偵察、私、陽炎が属する本隊と諜報部隊は、全ての砲撃を雲が散るかの如く擦り抜ける『雲』の回避能力に苦戦していたが、菊月が類稀なる動体視力によりそのタネを見破ってくれた。
奴に気付かれるわけにはいかないので口に出すことは無かったが、おそらく菊月の読みでは、『雲』が座る雲のようなクッションがそのタネの中心。あんな冗談みたいな形状でも、奴にとっては重要な艤装なのだろう。あの艤装のスペックのおかげで、意味がわからない回避能力を手に入れていると見ていい。
しかし、回避しようとした瞬間に艤装を撃ち抜こうとしたのだが、その強固な守りに食い止められてしまう。傷はついたものの、ビクともしなかった。
「貴女ガ一番厄介ナノネ。ナラ、最初ニ始末シテアゲル」
「やってみろ。この菊月は貴様なんぞに屈しないぞ」
今この時から、『雲』は菊月を一番の天敵であると見做したようだ。周りにまだまだ仲間達がいるのに、というか目の敵にしていた神州丸さんがこの場にもいるのに、最初のターゲットとして認識した。その瞬間、姿がブレる。
しかし、先程も菊月が言った通り、高速移動をしようとした瞬間に腰掛けている艤装を撃ち抜いた。相変わらず弾かれたものの、撃ったことにより高速移動をキャンセルしている。動き出そうとした瞬間を的確に攻撃し、足止めを確実にした。
そしてその瞬間を誰も見逃さない。タイミングとしては一手遅れているようなものなのだが、動き出す瞬間にブレーキをかけさせているので、それでもこちらの攻撃は間に合う。
「菊月さんはやらせませんから!」
即座に動き出したのは萩風だった。やはり今日は一味違う。相手が相手だからか、気合の入り方が普通ではなかった。あまり良くない感情が沸き立っているようだが、ちゃんと仲間を守るという信念が一番最初に来ているのなら、何も文句はない。今も菊月を守るために先んじて攻撃を開始したわけだし。
とはいえ、あの殴り付けるような砲撃には、怒りが込もっているようにも見えた。どうしても感情的になってしまう相手なのだから、それも仕方ないこと。
「邪魔ヲシナイデネ、裏切リ者」
「貴女こそ、私達の邪魔をしないで!」
雲が散るような回避を菊月に止められるからか、普通の回避で萩風の砲撃をさらりと躱した。力を使わずとも、単純な回避性能が高いのは既に実証済み。むしろ力を使っていないことで攻撃に転じやすくなっているほどだった。
お返しの砲撃を萩風は必死に躱しながら、殆ど殴り合いのような砲撃合戦。それでも菊月の邪魔はしないようにある程度の間合いは取っている。そのおかげで、『雲』は十全の力を出せずにいる。
「……今か」
だがここで、神州丸さんが現状把握。『雲』が菊月を警戒しつつも萩風の怒りの猛攻を受け流しているということは、諜報部隊が完全にフリーになったことに気付いた。
本来そちら側の部隊に属する萩風がこれではあるが、最低限、本来の諜報部隊である3人がこの先へ進むことが出来れば、強行偵察の任務は進められる。
「我々は本来の仕事に戻るぞ!」
「了解ですぅ! 秋雲ちゃん、行きますよぉ!」
「りょーかい! 諜報班だけで先行する!」
神州丸さんの意図を汲み取ったか、3人が一斉にこの戦場から離れるために動き出す。今回の目的はあくまでも調査。『雲』に妨害されるのは想定していたわけだし、そのために強行偵察の本隊として私達の部隊が『雲』を完全に妨害する。
「初月、諜報部隊についていってあげて!」
「了解だ。ここに僕の仕事は無いようだからな。諜報部隊の護衛につく!」
本隊からは初月を派遣。『雲』が駆逐艦であるが故に、防空の必要が無く、むしろここから離れて調査をしている時の方が危険である。なら、初月には諜報部隊の随伴となってもらい、先に進んだ方がいい。
そうしても残りは8人。菊月のおかげで足止めもしやすく、『雲』をある程度縫い付けることが出来るはずだ。
「主様ノトコロニ行カセルワケニハ」
「行かせるんだ。貴様はここで相手をするんだよ」
神州丸さんが動き出した途端に高速移動で妨害しようとしたが、当然それは菊月が対応。
ついには艤装だけではなく、腰掛けていることで前に突き出た脚にまで狙いを定めている。艤装だけならダメージが無いと力押しをする可能性があるため、火力不足でもダメージが入りそうな生身を狙い始めた。これにより、さらに確実な足止めが可能になる。流石にそれは回避されたが、今までの2回以上にそこから移動させない攻撃となった。
より嫌らしく、どうあっても先に行かせないという信念をぶつける。そして『雲』の心を揺さぶることが出来れば完璧。神州丸さん達を諦めて、ここで戦うことに専念してくれれば良し。
「コノ……」
そこから動けないと判断した途端、一転攻勢を仕掛けてくる。攻撃は最大の防御と言わんばかりに砲撃をばら撒き、離れざるを得なくされる。この砲弾の雨の中、突き抜けることが出来るのは私と沖波だけ。
先程は結果的に不毛な戦いを繰り広げることになったものの、流れはこちらに来ている。ならば行くしかあるまい。
「一撃だけでも、入れる!」
ここで『蜃気楼』による高速移動から、『雲』の真後ろに回り込み、サウスダコタさんとの演習で繰り出した移動即座の脚狙い。『雲』の場合はあのクッションか。備え付けの主砲ならこの動きをしても照準は合わせられる。
今までならまず確実に回避されていただろう。しかし、その回避をしようとした瞬間に菊月からの一撃が入る。
「ダメだと言っているだろう。この『心眼』の前に、貴様の力はもう通用しない」
結果、私の砲撃もそのクッションに直撃。私の主砲も火力が足りないか、傷を付けるだけで終わってしまう。見た目に反して硬すぎる。
奴を倒すには、やはり艤装を避けて本体を狙うしかない。だが、艤装も狙わないとあの回避ばかりをされて先に進まない。人数を揃えてもこれなのだから、本当に難敵。
「嫌ナ子……! デモイイワ。貴女達ヲ始末シテ、後カラアチラモ葬ッテアゲルワ。ソレガ貴女達ノ望ミナンデショ?」
「わかってるじゃないか。だが、貴様はいくつか間違っているな」
天敵である菊月の方を向いた瞬間、ここに残った者全員が『雲』に向けて攻撃の姿勢に。勿論私も、『雲』に対して備え付けの主砲も手持ちの主砲も構えていた。
「我々は始末されない。あちらが葬られることもない。ここで貴様が敗北して、戦いは終わるんだよ」
8人がかりの一斉射。殆ど逃げ道はなく、いつもの回避をしない限りはこの数の砲撃は捌き切れないはず。そしてその回避自体は菊月が封じている。これなら
だが、相手は太陽の姫が長年使い続けた巫女。そして、それがさらに改造された状態。艤装や身体の一部が溶け出す程にまでなってしまっているのだから、今まで見せてきた以上の力を突然発揮してきてもおかしくない。
だからだろう、『雲』からは負けが全く見えなかった。この期に及んでも、まだ更なる力を発揮出来るような、そんな雰囲気を醸し出していた。
「終ワラナイ。私ハ太陽ノ姫ノ巫女『雲』。最モ長ク付キ従イ、ソノ姿ヲ隠シ、オ守リスル者。ココデ終ワッテハ、ソノ名ガ廃ルワ。主様ノタメニ、マダ生キルノ」
瞬間、『雲』を中心として大きな水柱が立ち昇った。私達の放った砲撃はその水柱を突き破ることになったのだが、それによって立ち消えた時には『雲』の姿はそこには無い。
「
深海棲艦として活動させられていた萩風だからすぐに察した。深海棲艦特有の、私達には絶対に出来ない力、
巣が深海にあるのだから、海上艦だろうが関係なく、潜水艦のように潜ることが可能なのは、萩風が駆逐水鬼だった頃から知っていたはずだ。実際、私達の手が届かない海中に撤退していったことがあるのだから。
「殆ど予備動作無しで潜ることが出来るのか。萩風、深海棲艦ってどれくらいの時間潜れるの?」
「無限ではないです。でも、巣に戻るまでの時間は余裕で行けます」
どれだけの速さで潜ることが出来るのかはわからないものの、ざっと考えて十数分と言ったところか。だが、その間は攻撃が出来ないようなものらしい。海上艦なのだから、その辺りは海上でしか出来ない。主砲を放ったところで何も起きず、強いて言えば魚雷が使える程度とのこと。
つまり、戦場で潜るのは本当に緊急の手段。敵が手に負えないため撤退するか、この潜水によって
「敵が突然潜るとか経験無いよ……」
「そりゃそうでしょうよ」
経験則から先読みまでしてしまう五月雨も、この事態は初めての経験。何処から現れるかわからない敵に、ほんの少しだけ焦りを感じているように見えた。
五月雨だけじゃない。こんなことが戦場で起こることがまずありえないのだから、緊張感に包まれる。
「神州丸さん達を追おう。出来ることならみんなで纏まって動きたい」
「あっち行ってる可能性だってあるもんね。すぐに合流しなくちゃ」
ここで激戦が繰り広げられると思って先に行ってもらったが、いきなり姿を消されたらそれを疑うのが普通。私達を先に始末すると言いながらも、やはり大事なのは太陽の姫の防衛。向かえるのなら向かうはずだ。
潜水自体は殆ど奥の手のようなものらしく、何度も使うような手段ではない。それをここで使ったくらいなのだから、最善手を選び取るに決まっている。
「全員、警戒しながら進むよ! 360度全部警戒して!」
「こういう時に鷲の目が欲しいなぁ」
最大限に警戒をしながら、ゆっくりと神州丸さんの向かった方に進もうとした瞬間だった。
「先ニ始末スルト、言ッタワヨネ」
いつの間にか『雲』が菊月の真横に現れていた。それこそ空に雲があるのが当たり前のように、消えたと思えば当たり前のように別の場所に
そして、その爪が深々と胸に突き刺さっていた。だが、血は流れていない。まさか。
「分霊ノ儀、執リ行ワン」
「ぐぅっ!?」
真っ先に菊月を狙ったのは『心眼』を潰すためでもあるだろうが、その力を認めざるを得なかったというのもあるだろう。ならば、
そんなことやらせるわけにはいかない。分霊未遂で終わらせて、すぐに治療してしまえばまだ間に合う。
「その手を放せ!」
「コノ子ニ当タッチャウワヨ?」
撃とうとした瞬間、よりによって分霊中の菊月を盾に使ってきた。この期に及んで小狡い手。それ程までに追い詰められているのか、それとも元々そういう性格なのかは定かではない。太陽の姫のためになるのなら、どんな卑劣な手段を使っても罪悪感すら無いのだろう。
このままでは手遅れになる。私達のような苦しみを、もう他の者が知ってはいけないのだ。だから、盾なんて知ったことではない攻撃をしてやればいい。それなら、私が出来る。
「いい加減にしなよ」
砲撃。だが、『雲』からしたらあらぬ方向へと放たれたものに思えるだろう。撃とうとしたが仲間を盾にされたため、嫌でも攻撃を逸らしたかのように見えただろう。当然、そんなわけがない。
「『屈折』」
その砲撃は、菊月に当たらない角度から急激に曲がった。直角とは言わないが、確実に分霊をやめさせる一撃。直撃といかなくても、そのおかしな挙動を見せた砲撃は、『雲』を動揺させるには充分だった。それだけの間があれば、みんなが動ける。
「ナニ……!?」
「その子を早く放しなさい」
曲がった砲撃の直後、冷めた表情の由良さんが、盾にされた菊月を避けるように魚雷を放っていた。意味のない攻撃に見えても、あの由良さんがやったことだ。当然意味がある。『雲』の真横を通過しようとした瞬間に、まるで夕立の如くその魚雷を撃ち抜き、大爆発を引き起こした。
「ウクッ……!?」
そしてその爆発により立ち昇った水柱に紛れて、萩風が接近していた。水柱を突き抜けて突撃する様は、もう駆逐水鬼と同じ。トラウマを吹っ切り、自らの力へと変え、今ここでそれを活かす。
「早く、放してぇ!」
アームを伸ばして主砲で殴り付けると同時に、そのまま撃ち抜いた。カードされていても分霊なんてしている余裕なんてない。
菊月を捕らえている状態ではあの回避も出来ないだろう。殆ど同じことが出来る私だからわかる。あれはあくまでも自分だけが生き残るための技だ。何処ぞの漫画ではあるまいし、掴んだまま動くだなんて不可能。
「ッアッ!?」
結果、『雲』は吹っ飛ばされることになり、菊月から無理矢理放されることになった。まだ艤装が落ちていないところから、分霊は終わりきってはいない。まだ艦娘のままだ。髪の色がアレだから何処まで進んでしまったかはわからないのが厄介だが。
「すぐに菊月を治療する!」
「お願いね。その間に、由良達が『雲』をどうにかしておくから」
私はある意味戦線離脱。菊月の治療は最優先。侵食は進む一方なので、魂の穢れを取り払わなくては。