異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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忘却された過去

 翌日から私、陽炎は砲撃訓練ではない新たな訓練を始めていくこととなった。阿賀野さんの案で、砲撃訓練だけでなくいろいろな訓練をして経験を積んでいく方針になったからだ。

 こんなに早い段階からいろいろやっていくということがまず無い。1つのことに集中してマスターしていくというのが本来の訓練のやり方なのだが、私の場合は特殊すぎる。艤装がイメージ通りに動き過ぎるため、知識と経験を優先させた方がいいと判断されている。阿賀野さんの思い付きだったが、空城司令が正式に受諾したようだ。

 

 そのため、朝食後にまず執務室へ。本来なら何も考えずに工廠で砲撃訓練の続きなのだろうが、やることが変わるために聞いておかなくてはわからない。

 

「わかっていると思うが、今日は砲撃訓練では無いことをしてもらうよ。まずある程度経験させた方がいいと聞いているからね。狭く深くより、広く浅くの方がアンタにはいいようだ」

「なんかごめんなさい。普通の足並みにならないみたいで」

「アンタを一番効率よく使える方法がこれだったってだけさね。アタシらも納得してるから気にするんじゃないよ。ガキは大人に甘えときな」

 

 ケラケラ笑う空城司令。空城司令が言うのだから、素直に甘えさせてもらおう。

 

「前例が無いことをやってくってのは、提督冥利に尽きるってもんさ。アンタは一流の艦娘に鍛え上げてやるから覚悟しときな」

「うん、よろしくお願いします」

「まずは経験だ。学ぶことは多いよ」

 

 勉強が嫌いというわけではない。孤児院でもいろいろ教わったし、子供達に教えることもあった。あの頃とは全く違うとは思うが、私個人としてはここでの勉強は楽しみだったりする。眠くなることはあるかもしれないが。

 

「で、本題だ。今日の訓練だが……今日は休みにするよ」

「へ?」

「何素っ頓狂な声出してんだい」

 

 訓練するつもり満々でここに来たのだが、突然の休み。こんな声だって出る。意気込みが変な方向に飛んで行ってしまった。

 

「アンタはここに来てから連日訓練してるだろうに。艦娘と言っても人間なんだ。休日くらいあるに決まってるだろうに」

「そりゃそうだけど、えらく突然過ぎて」

「3日に1回は休みを与えるよ。精神的なコンディションも万全で無くちゃ戦えないだろうに」

 

 疲れ果てた状態でなんて戦いにならないだろう。悩み事とかがあってもよろしくない。今日1日を休日にあてて、心身共にしっかりと休ませて明日からの訓練に挑めと、空城司令は言っているわけだ。

 とはいえ、鎮守府で休むとはどうすればいいのだろう。当然だが、鎮守府は最前線に立つ艦娘達の拠点。最高の状態で戦えるようにコンディションを整える場ではあるのだが、娯楽施設なんて存在しない。

 

「休日って何するの……?」

 

 素直な疑問。なんかワーカホリックみたいな物言いになってしまったが、ここでの休日がわからないという意味で。

 

「そうさね、例えばアンタの幼馴染みの沖波なんかは、資料室で本を読んでいるね。資料といっても、あそこは図書室のような場所だ。みんなで持ち寄ったり取り寄せたりで娯楽誌が増える一方だよまったく」

 

 なるほど、そういうのもあるのか。確かに本を読むのはいいかもしれない。

 孤児院では1冊の本を回し読みしたりするのが常。男の子と女の子で欲しい本が違ったりするから結構大変だった。私も少年漫画や少女漫画を読んだりしたものである。

 

「磯波なんかは、鎮守府の中に花壇を持っていてね。花を育てているよ」

「そういうところ、磯波に似合ってるなぁ」

「休日だって言ってんのにトレーニングしてる奴もいる。心の休息なんだって言ってたから許さざるを得なくなっちまった」

 

 休日の楽しみ方は人それぞれ。鎮守府の敷地内でなら何をやってもいいわけだ。それが戦いに関わることだって構わないと。

 

「休日は好きに過ごしゃいい。アタシゃ余程のことが無い限りは咎めないよ」

「そっか、わかった。じゃあ適当に休むよ」

「ああ、そうしとくれ。明日の訓練はその間にこっちで帳尻合わせておく」

 

 というわけで突然の休みとなってしまった。鎮守府に来て初めての、完全にフリーな時間。どうやって過ごそうか。

 

 

 

 まず思い付いたのは、最初に空城司令に言われた資料室とは名ばかりの図書室。夕立に案内してもらった時にさらっと流されたくらいなので、中を見るのは初めて。多分夕立はこういうところが苦手なのだと思う。

 少し大きめな両開きの扉を開くと、独特な雰囲気の空間。本棚が所狭しと並び、奥にそれを読んで過ごすための座り心地が良さそうな椅子が配置されていた。

 

「こんないっぱいの本見るの初めて……」

 

 田舎者のようにキョロキョロ見ながら中を散策する。

 基本的には資料室という名前の通り、今までの深海棲艦との戦いを纏めた資料が本棚にギッシリ詰まっている。それこそ、10年前の始まりからつい先日にあったような戦いの記録まで細かく区分されていた。探そうと思えば、私が巻き込まれたあの始まりの襲撃の資料もあるかもしれない。

 

「……もしかしたら……あるのかな」

 

 興味が出たので、始まりについて探してみる。夢で本当の一番最初、海の向こうにいる群れくらいは思い出したが、それ以外は夢を辿ってもまるで思い出せない。ならば、資料を読めば何かピンと来るものがあるかもしれない。

 別に完全に思い出したいわけではないのだ。両親が侵略者に殺されたという事実があるのだから、詳細はいらない。だが、今日は休みだから時間的に余裕がある。本当に興味本位。

 

「……これ、かな」

 

 年代別に分けられていたため、始まりを見つけるのは簡単だった、その中でも一番端にあるようなもの。深海棲艦という言葉が世界に知れ渡る前の段階の資料がそこにあった。

 10年も前の資料だからか、本そのものが大分古い。それでも丁寧に使われているのか、装丁に傷一つ無かった。それに倣って私も懇切丁寧に扱う。

 

「私の住んでた街のこと、書いてあるのかな……」

 

 破らないように丁寧に、それでも普通よりは速く、ペラペラとページをめくっていく。私の受けた仕打ちが、何かしらここに書かれていることを望んで。

 本当に始まりの襲撃なのだから、本の中でも最初の方に書かれているだろうとタカを括っていた。そうしたら案の定である。

 

「あった……!」

 

 当時の深刻な状況が記載されている項目を発見した。私の住んでいた街以外にもいくつかの街が襲撃されていたらしく、そのうちの1つとして。

 当時は当たり前だが想定外の襲撃であるため、詳細な写真などは残されていなかった。書かれているのは被害の大きさ程度。当時のニュースや新聞でも大々的に取り上げられたはずなのだが、その当時は解析すら出来ない未知の生命体による侵略だったため、今ほど詳細なことは書かれていない。

 

「まぁそうだよね……あの時は大混乱だっただろうし」

 

 ただ一方的に破壊されたのだ。残せる資料すら燃え尽きてしまっているかもしれない。どんな深海棲艦が侵略しに来たかすらも残っていなかった。

 わかるのは被害地域と被害者の数。私の住んでいた街はというと、

 

「……生存者1名……」

 

 勿論これは私のことだ。それ以外は全員が殺されてしまった。私の両親も、当時の友人も、近所のおじさんやおばさん、お兄さんやお姉さん、何もかもが。幸せだった日々がこの1日で全て消し飛ばされてしまっている。

 何が辛いって、この記事などを見てもその時のことが全く思い出せないことだ。自分で記憶に蓋をしたとしても、自分で蓋がこじ開けられないのはどういうことだ。夢として断片的に思い出していくしかないのだろうか。

 

「……ぐすっ」

 

 それが一番悲しかった。忘れていたいと思ったことかもしれないが、いざ思い出したい時に思い出せないのは辛い。艦娘になったことで知っておきたかったが、今の私には無理のようだ。

 溢れそうになった涙を手で拭き、心を落ち着かせる。溢れ出る感情は、悲しみ以上に怒りだった。どんな理由があるかは知らないが、理由があったところで虐殺は許せない。その被害者として、最後の生き残りとして、私は仇を討たなくちゃいけない。

 そして問い詰めたい。人の言葉を話せるのなら、何故侵略しているのか、何故何もかもを破壊しようとしているのかを、直に聞きたい。

 

「ダメダメ、しんみりしたら出来ることも出来なくなっちゃう」

 

 心を休めるための1日でいきなりストレスを感じてどうする。余計に気疲れしてダメになってしまうだけだ。

 どうせならもっと身になる資料を読んだ方がいい。戦術書みたいな今出来ないことが出来る様になるような本とか。あとはそれこそ心を休ませるために娯楽誌を読むか。

 

「あら、先客ですか」

 

 などと独りごちていると、資料室の扉の方から声が。

 

「陽炎ちゃんでしたか。おはようございます」

「おはよう天城さん」

 

 正規空母の天城さん。この鎮守府ではまだ比較的新しい方の配属らしいが、それでも相当な実力者らしい。

 その天城さんも異端児。私や夕立と同様にD型の同期値で異常値を叩き出したことにより空城司令に拾われた経歴を持っている。阿賀野さんのように僅かに上回る程度らしいのだが、異常値は異常値。

 

「どうかしましたか? 目元が……」

「えっ、あ、ううん、なんでもないよ」

「なんでもなくは無いですね。……なるほど、過去の資料を」

 

 慈悲深い笑みを浮かべて私を抱き寄せる。私がどういう気持ちかわかっているかのように撫でてくれた。この歳になってこんなことされたことは無いので、なんだか気恥ずかしい。

 

「辛いことを思い出しちゃったようですね」

「……ううん、逆。思い出せないことが辛い」

 

 おおよそ戦闘に向かない着物姿の天城さんだが、その豊満すぎる()()がやけに目立っている。抱き締められれば、嫌でもそれに触れることになるわけで。お風呂で触れた阿賀野さんや、積極的に触れてくる夕立、あとは一度お風呂で一緒になった戦艦の2人とは比べ物にならない母性の象徴が、私を包み込むようだった。

 

「父さんと母さんが殺されたときのことが、全然思い出せないの。資料を見ても、何も思い出せないの」

「そうですか……それだけショックだったんでしょう」

 

 いいこいいこと私の頭を撫でてくれる。それだけでとても落ち着く。こうされているからか、何故だかつらつらと心が口から出て行くようだった。私は誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。天城さんはそういうところが話しやすいように思えた。

 

「すごく思い出したいわけじゃないの。でも、いざ思い出せないと辛くて……」

「無理しない方がいいです。あまり考えすぎると、心が押し潰されてしまいますからね。でも、忘れろとは言いません。心をしっかり持ちましょう」

 

 より深く抱き締められる。着物越しでも柔らかさがわかり、まるで赤ん坊に戻されたみたいに落ち着く。

 

「うん、今は思い出さないようにする。まだまだ私は弱いもん。もう少し強くなったら思い出すために頑張ってみる」

「それでいいでしょう。もし何か悩み事があったら、私が話を聞きますよ」

 

 まるで先生のような包容力。これは異性どころか同性にもモテそう。

 

「ありがと。なんか恥ずかしいところ見せちゃった」

「いえいえ、陽炎ちゃんはまだ子供なんですから、大人に頼ってください」

「それ空城司令にも言われたよ。ガキは大人に甘えろって」

「あの人らしいですね」

 

 気分が落ち着いたため、天城さんから離れた。少し名残惜しいと思ったのは気のせいだと思いたい。

 

「天城さん、元は先生か何かだった? すごく話しやすい」

「前歴は保育士をしていました。そこで見初められてこの世界に。保育士も艦娘も、子供を守るための仕事ですからね」

 

 命懸けになるのは二の次になっているのが恐ろしい。だが、子供好きであることはよくわかった。信念がそちらに向いている。

 

「すごいね、私とは逆の信念だ」

「陽炎ちゃんは……その、復讐ですか」

「その気持ちが無くは無い」

 

 天城さんが少しだけ悲しそうな表情に。そして離れたところを引き戻されてまた抱き締められる。またあの豊満なそれの感触。

 

「あまり心を引っ張られないでくださいね。そういう気持ちは無茶を呼びますから」

「わかってる。死ぬ気は無いから」

「それならいいですが……さっきも言いましたけど、何かあったら私とお話ししましょう。私はお休みをいただいた時、比較的ここにいますから、悩みがあったらここに来てください。私から行ってもいいですから」

 

 やけに心配してくれるが、それは子供全員に向けての感情なのだと思う。

 

 

 

 結果的に午前中は天城さんと資料室で読書という形の休みになった。1人でいたらもっと落ち込んでいたかもしれない。近くに人がいるというのはこうも落ち着けるのかと、改めて実感した。

 




そんな天城さんも、戦闘中はキャストオフ。それを見た時陽炎は何を思うか。
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