異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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錆色の海域

 回避の瞬間を狙った一撃が入ったことで、そのまま押し込むことに成功。驚異の回避能力を発揮していた艤装を破壊し、最後は萩風による渾身の一撃によって、ついに『雲』との戦いに決着がついた。

 

「……モウ……私ハダメナノカシラ……」

 

 震える手で、萩風にやられた傷口に触れる。相当な強化をされていたようだが、ガードすることが出来ずに生身の胸に喰らってしまったら、それはもう耐えられない一撃となっただろう。

 ただの一撃では無く、主砲で殴り付けると同時に砲撃も放つという二撃必殺の攻撃。元々が駆逐水鬼であった萩風にしか出来ないような、ある意味やられたことをやり返すことにもなった。

 

「ソッカ……モウダメナンダ。主様ニ……イイトコ見セラレルト思ッタノニ……残念ダワ」

 

 最後まで太陽の姫のことを思いながら、命の灯火は消えていく。最後は諦めたように萩風の顔を見た。トドメを刺した萩風は、少し複雑な表情をしていた。

 

 萩風だって私や長門さんのように最愛の者を自分の手で殺めた過去を持ち、そこから5年間を深海棲艦として生きる羽目になっていた。その原因が全てこの『雲』にある。『雲』に住んでいた街を滅ぼされ、たまたま目に留まったことで分霊を施され、最後は最愛の者すら殺すことになり、今や戸籍すら無い世界に存在しない人間になってしまっている。恨みも憎しみも人一倍だろう。

 だが、『雲』も萩風と同じように太陽の姫に利用されているだけの元人間。自ら軍門に下ったわけでもないだろう。そういうところは被害者なのだ。だから、これだけされても同情の気持ちも出てきてしまう。

 

「……私モ……貴女ノヨウニナルノカシラ」

「おそらく。貴女も元々が人間なら、私のように艦娘になるでしょうね」

「ソウ……ソウナンダ……主様ニ……迷惑ヲカケチャウカモシレナイワネ……」

 

 ふっと小さく苦笑して、そのまま目を瞑った。そしてそのまま指先から塵になっていく。

 

 その頃には、私、陽炎の菊月への治療も終了。さんざん時間をかけてしまったものの、この戦場のど真ん中でも慎重にやった甲斐があり、菊月の魂には穢れの一切ない綺麗なものへと戻すことに成功した。

 代わりに、時間をかけたことで菊月への負担はそれ相応に大きく、立ち上がれなくはないものの、少しフラついてしまっていた。菊月自身も言っていたが、以降の戦いは参加が難しいだろう。

 

「大分キツかった……皆この感覚を味わっていたのか」

「そうだね。夕立と磯波は声すら抑えなかったけど、よく我慢出来たね」

「危うい時は何度もあったが、どうにか出来た」

 

 少し顔が赤いが、これは仕方ないものとする。ただでさえ分霊未遂で高熱が出ていたような状態だったのだから、まだ余波が残っていてもおかしくない。それ以上は詮索もしない方がいいだろうし。

 

「っ……私も……限界が来ているかもしれません……」

「萩風も今は休みなよ」

 

『雲』の最期を見届けていた萩風も、不意にフラついて膝をついた。最後の動きは今の萩風の限界を超えた動きをしていたようで、戦いが終わった今になって全ての負担が襲いかかってきたようだった。

 回避の瞬間を狙う一撃や、そこからの追撃は、駆逐水鬼の時を彷彿とさせる動きを見せていた。それは艦娘のフィジカルを優に超える負荷を孕んでいる。

 

 結果的に、今動けるのは私と沖波、磯波、そして由良さんの4人。五月雨も怪我を負っているし、衣笠さんはさらに深い。菊月と萩風は消耗が激しく、ここから先に行くのは難しいだろう。

 さらにはここで『雲』が人間へと戻ったら、それを鎮守府まで運ぶ必要まで出てくる。流石にこのまま進むわけにはいかない。

 

「退路は……まだ難しいかな」

 

 私達はこの戦場に辿り着くまでに仲間達の力を借りて突き抜けてきた。そしてその戦いはまだ終わっていない。ここに来るのに無理矢理押し倒してきたのなら、ここから戻るのにも同じ手段を使わなくてはいけないのだ。

 大分佳境に入っているようだが、今この状態で突っ切るのは自殺行為に等しい。上手く行ったとしても、仲間達に迷惑をかけることになってしまうだろう。

 

 ならば、やれることは2つ。1つ目は全員でここに待機。2つ目は諜報部隊と合流。特に後者は、太陽の姫により近付いての調査だ。ここよりも危険な可能性は非常に高く、さらにはこちらよりも人数が少ない。せめて数人は迎えに行くくらいはした方がいいと思う。

 

「陽炎ちゃん、由良はここに残るから、諜報部隊の方に向かってもらっていいかな」

 

 同じことを考えたか、由良さんがまず提案してくれる。全員で諜報部隊のところに向かうのは流石に難しいだろうし、全員でここに残るのはそれはそれで不安になる。

 

「あ、なら私も残ります。陽炎様と沖波ちゃんで、諜報部隊を迎えに行ってあげてください」

 

 磯波もここに残ると言い出した。人数は多い方がいいと思うが、1人で諜報部隊の方に行くのも心許無い。結果、まだ戦える4人を半々にするのが得策だろう。

 で、一応M型異端児が向かう方が安全ではないかという考えで、磯波がここで怪我人を守ることに決めた。由良さんもD型異端児なので、あちら側は少し危険かもしれない。

 

「わかった。沖波、私達で諜報部隊を迎えに行こう。調査が何処まで進んだかはわからないけど、『雲』を倒したことは伝えておかないと」

「そうだね。じゃあ、私とひーちゃんで諜報部隊の方に向かいます。みんなをよろしくお願いします」

「うん。みんなを運ばなくちゃいけないから、無事に戻ってきてね。ねっ」

 

 由良さんと磯波は怪我人の応急処置と、消耗した者の護衛を任せることになる。衣笠さんの怪我の処置は最優先事項、ここで出来ることは高が知れているかもしれないが、やらないよりはマシだ。

 というわけで、私と沖波は手早く用を終わらせるために急いで諜報部隊の元へと向かった。調査が終わっていればすぐに撤収準備ということで。

 

 

 

 沖波と2人で進んでいくうちに、海の色が少しずつ()()()()()()()()。アクィラさんが色がおかしいと言っていたが、ここまでおかしいのは想定していなかった。まるで錆のようなくすんだ赤。

 どうしてこんな色になってしまっているのだろうと思ったが、太陽の姫が原因としか思えない。オカルトもここまで来たら驚きも無くなってきた。

 

「沖波、大丈夫? 気分悪くない?」

「大丈夫だよ。色が違うだけで普通の海みたいだし」

 

 自分達の周囲がこんな色をしていると気持ち悪くなりそうだが、沖波の言う通り、色以外は別に普通の海である。何か嫌な匂いがするとか、海水が違う質になっているとか、そういうところは見受けられない。

 

「あ、いたいた。おーい!」

 

 遠目に諜報部隊と対潜部隊の姿が見えたため、大きく叫んで手を振る。幸いにも敵がいるようには見えず、順調に調査を進めることが出来ているようだった。対潜部隊がここまで来ることが出来ているということは、海中の潜水艦隊もいいところまで来れていると考えられる。絶賛対潜攻撃中でこちらに反応する余裕は無いようだが。

 私達の声に気付いたか、護衛のために付き添っていた初月がすぐに反応してこちらに手を振り返してくれた。ここでも少し手持ち無沙汰になっていたことに苦笑する。

 

「2人が来たということは、『雲』は倒したのか!」

「うん、でも怪我人とか消耗してる子がそれなりにいて、残りは現場で待機してもらってる。調査が終わってるなら、そのまま撤収がいいんじゃないかと思うんだけどどうかな」

 

 もう足下は真っ赤な海。そして、話に聞いていた通り、すぐそこには渦潮がある。近付きすぎると引きずり込まれるため、少し離れた位置にいるのだが、その渦潮のサイズが今まで見てきたものとは段違いだった。

 巣を破壊するとそこには渦潮が出来上がっていたが、ここにあるものは壊れてもいないのにその数倍の大きさのものがある。おそらくあの渦の中心に太陽の姫の本拠地である沈没船が眠っているのだろう。

 

「調査が難航しているのであります。あの渦潮のせいでソナーの感度があまりよろしくない。海水の確保はして、撮影出来る場所は全て押さえているものの」

「偵察機で上から見ても、あまり芳しくないですねぇ。真っ赤な海の真ん中の渦潮という感じで終わっちゃいますぅ」

「まぁ海の真ん中にこれと言った特徴を求める方が間違ってんのかもしんないけど。いやまぁこれだけ赤いと、おかしいって誰でもわかるけどさ」

 

 諜報部隊からは三者三様の反応。とにかく、海上からの調査は難しいということだ。あくまでも本命は全て海底であり、この真っ赤な海水と渦潮がそれをも妨害していると見ていい。それだけ太陽の姫には沈没船が必要不可欠な存在なのだろう。

 一応対潜部隊に頼んで、爆雷を渦潮の中心部に投げ込んでもらったらしいが、海底にまで辿り着くどころか、少し沈んだ時点で爆発してしまったそうだ。爆雷でもそれなら、艦娘が巻き込まれたら目も当てられない状態になるだろう。

 結果、海上から沈没船をどうにかするのは殆ど不可能という考えに至っている。

 

 そうなると、頼りになるのは海中、潜水艦隊。今頃どうなっているのかはわからないが、沈没船に近付けていたらありがたい。渦潮を見る限り、海上は警戒しているが、海底までには届いていないことがわかる。

 しかし、その分敵潜水艦の数も尋常ではないはずだ。そもそも対潜部隊が未だに休息出来ていないところを見る限り、あちらは無尽蔵に潜水艦が湧き出ているのだろう。

 

「そちらの状況はどうか!」

「イヨが沈没船に近付けた! でも抵抗がとんでもないらしいわ!」

 

 五十鈴さんは潜水艦隊とも状況を通信出来る状態にあるので、海中の現状は逐一更新されている。その五十鈴さんからイヨの沈没船接近の報を受けたことで、海中の調査は海上よりも効果的に進んでいることがわかる。

 やはり潜水艦隊の強化は間違ってはいなかった。2人ではここまで来れなかっただろうし、対潜部隊がいなければ尚難しかっただろう。

 

「これ以上は難しいわ〜。イヨちゃんがダメになっちゃうもの」

「そうね。本格的にまずいみたい。諜報部隊、対潜部隊と潜水艦隊から撤退を進言するわ」

「うむ、皆の者、撤収準備!」

 

 ここまで来れたことで、一時撤退。これ以上は難しいと判断し、この場から離れることを優先することにした。だが、見たいものはある程度見ることが出来たとも思う。少なくとも予定通り1人は沈没船に近付けたのだから、今回の任務は勝利である。

 

 

 

 大急ぎでみんなで纏めて撤退し、待機してもらっていた本隊の仲間達と合流。衣笠さんは由良さんの手により応急処置を施されていたが、大分キツそうではある。艦娘の身体で無かったら、痛みにのたうちまわっていることになっただろう。

 

「『雲』はどうなった?」

「無事、人間に戻りました……今は磯波さんが沈まないように支えてくれています。艤装も一応そのままです」

 

 少し休憩をしたおかげで、萩風も立ち上がれる程にまでは回復している。しかし、人を支えられるほどでは無いみたいだ。

 磯波が支えている元『雲』は、今まで見てきた通り人間の姿に戻っていた。面影は『雲』に近いが、大分血色は良くなっている。身体が溶けていたのが少し不安だったが、人間に戻ったらその辺りの影響は無いと言ってもいいだろう。綺麗な身体だ。

 

「本当に人間に戻るのね……」

「直に見ると信じるしか無いわよね〜」

 

 これを初めて見る五十鈴さんと龍田さんは、素直に感心していた。こんなこと言いながらもしっかり対潜攻撃は欠かしていないのは流石だ。

 

「あの『雲』の時よりもなんで胸が大きくなってるのかな……」

 

 沖波の悲哀の呟きが聞こえたが、それは聞こえないふりをしておく。

 

「今すぐ撤退であります。怪我人は我々も手伝う故、早急にここから離れるぞ」

 

 これだけ人数がいれば、撤退も難しくないだろう。未だに激戦続く退路ではあるが、撤退しながら全員に伝えていけば、そのまま全員での撤退が出来るだろう。

 あちらはあちらで怪我人が出ていそうなので、これから鎮守府がてんやわんやになりそうだが、誰も死なずに今回の件を終わらせることが出来たのは大きい。

 

 

 

 諜報部隊との強行偵察任務はこれで終了となる。『雲』の撃破も含めれば、大きな戦果を得られたと考えていいだろう。ここまでやって太陽の姫が表に出てこなかった理由はわからないが、出てこないなら早々に撤退させてもらおう。

 

 本当の決着はまた後日。次は必ず全て終わらせる。

 




『雲』は人間に戻り、沈没船の調査はある程度出来ました。次回以降、いろいろと進むことでしょう。
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