異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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魂の本質

 目覚めた元『雲』改め村雨だったが、10年間という長い年月を太陽の姫の巫女として過ごしてきた後遺症として、身体は人間に戻っているのに考え方は『雲』のままとなっていた。そのため、目が覚めた後でも鎮守府の仲間達を全員敵と見做しており、最終的にはしーちゃんを人質にして艤装を得ようとまでしてしまった。

 今は呉内司令の手により気絶させられた後、担ぎ上げられて医務室に運ばれている。分霊による治療もしやすくなったし、周囲に危険が及ぶことも無くなったわけだが、正直気の毒にも思えてしまう。

 

「しー、大丈夫だったかい」

「けほっ、はい、何事もなく。かなり力を入れられましたが、すぐに終わりましたので」

 

 息が詰まったので少し咳き込むものの、何事もなく無傷。少し撫でていたものの、首にもダメージは無かったようだ。

 

「……酷い後遺症だ。私のものよりも数倍は酷い」

 

 長門さんが呟く。未だに太陽の姫への忠誠心は残ったままだが、私達の仲間である自覚はちゃんと持っているし、奴への敵対心も芽生えているのだから、まだマシ。私達を攻撃しようとも考えたことは無かった。

 しかし、村雨は隠しもしない敵対心と嫌悪感と共に、真っ先に一番戦力として考えられないところを狙ってきている。残っているものが深すぎて、あの瞬間は、人間としての感情は殆ど消えてしまっているようにさえ思えた。

 

「姉さんの分霊である程度治るんでしょうか」

「……正直、わからない。沖波は大分緩和されたけど、あの子の場合は深海棲艦化してるのがかなり短い時間だったし……」

 

 ここまでのものだと、完治させることはまず出来ないと思う。ひとまずは魂を見てみなくては。

 

 

 

 医務室に到着し、村雨がベッドに寝かされた。本当は拘束したいくらいなのだが、ここには何人も用意されている状態。治療中に暴れ出すようだったら、無理矢理にでも取り押さえてもらう。というか、最初から押さえてもらった方がいいだろう。

 速吸さんが手早く機材を接続して、同期値を計測。考えるまでもなく、D型同期値の値が測定不可能になっていた。M型同期値も勿論0である。今まで救出した者達と、値は全く同じ。

 

「じゃあ、まずは魂を見てみる」

 

 ここからは私、陽炎の仕事だ。この中で私にしか出来ない、敵と同じ力である分霊。その前に、この指先で村雨の魂がどうなっているのかを確認する必要がある。

 呉内司令はこの治療を見るのは当然初めて。他のみんなは何度か見たことがあるものの、何度見ても意味がわからないと首を傾げる。

 

 眠っている村雨の胸元に指を突き入れ、ゆっくりと進めていく。すぐに私の指先は魂に触れたのだが、その酷さに思わず顔を顰めてしまった。

 

「何……これ……」

 

 正直、そうとしか言えなかった。村雨の魂が、とんでもなく()()()()()()()()からだ。

 

 魂の周囲に穢れがへばりついているようなのが今までのものだった。まるでドブに落ちたことでヘドロで汚れたボールのようなもの。穢れを私の分霊で中和していけば、元々の綺麗な魂が表に出てくる。これで治療はおしまい。

 太陽の姫から直に分霊を受けた沖波の魂は、それとはまた違った酷さはあった。魂そのものを昏く染めてしまい、澱み方が尋常では無かった。結果的に魂に染み付いてしまった穢れを小さく削るようにして分霊を埋めるくらいまでしている。

 

 しかし、村雨の魂はその沖波の時のものを数倍にも濃くしたもの。そもそも中和出来るであろう穢れが魂を包み込んでしまっているため、これを取り除くところから始めなければならない。

 当然それだけでも村雨には負荷がかかる。眠っているにしても、酷いことになるのは目に見えていた。

 

「まずは穢れを中和するところから始めるよ。誰か身体を押さえておいてもらっていいかな」

「ならば、腕は私が押さえよう」

「ならアタシが脚を押さえておく。一思いにやっちまってくれ」

 

 上半身は長門さん、下半身は空城司令が押さえつけた状態で、ついに分霊を開始。ここまで澱んでいるのなら、最初はある程度雑にやってもいいくらいだろう。大きく無くしてから、その後細かく調整していく方が良さそうだ。

 

「ぅ……っ」

 

 眠っていても村雨は反応してしまっていた。とはいえ、他のみんなよりはやはり反応は薄い。眠っている間にやってやれば、こうまで捗るか。ビクンと震えても、2人がかりで押さえつけられていれば、そこまで酷いことにはならない。

 一番酷いのは、治療中に目を覚ますこと。今のところその前兆も無いようなので、少し安心しつつもなるべく早く終わらせる方向でやっていく。だからといって最初以外は雑にしてはいけない。

 

「これ、穢れが強すぎ……!」

「そんなに酷いのかい」

「酷いなんてものじゃないよ。穢れに()が出来ちゃってる。長門さんの時とは雲泥の差」

 

 長年の蓄積のせいで、中和自体にも時間がかかる。使い込んだ換気扇の洗浄をしているような、頑固な汚れを剥がしている感覚。一度にガリガリ剥がれてくれればいいのだが、年輪のように刻まれているため、蓄積分を丁寧に中和していく。

 これだけでも今まで以上の時間がかかりそうだった。まだまだD型同期値は計測不能のままだし、そもそも魂の詳細すら私には見えていない。穢れの奥の魂が、未だに判断出来ない。どれだけ酷いことになっているのだ。

 

 これを丁寧に丁寧に繰り返すしていくうちに、ようやく魂が見え始めた。村雨もこの頃には汗をかく程に反応していたが、まだ目を覚まさないのはありがたかった。

 しかし、その魂を見てまた私は驚くことになる。

 

「うそ……何これ。()()()……」

 

 魂に白さがまるで無かった。上から下まで全てが黒に染まった、取り返しのつかないものになっていた。

 

 太陽の姫の言い分からして、村雨も元はM型異端児のはずだ。その同期値がどれほどのものかはわからないが最初に選ばれたくらいだし、私のような対となる者ではないにしろ相応な値を持っていたのだと思う。それこそ沖波の値2000以上の同期値が。

 そうだとしたら、今の沖波のような真っ白な綺麗な魂が、元の村雨の魂のはずだ。なのに、その面影すらどこにも見当たらない黒さである。削って分霊で埋めるとか不可能。

 

「ひ、ひとまず穢れだけは取り払う」

 

 魂にへばりついた穢れを綺麗に剥がし取り、一片残らず中和した。本来ならこれで綺麗な魂が現れて一安心しておしまいとなるはずなのだが、こんな状態ではおしまいとは言えない。

 

「速吸さん、同期値は?」

「M型同期値は依然0のままです。D型同期値は5000くらいですね。夕立ちゃんより小さいけどD型異端児のままという感じです」

 

 なら、この魂の黒ずみが同期値に影響を与えてしまっているわけだ。真っ白を真っ黒に変えてしまう程の侵食のせいで、本来の村雨の性質は全く戻ってきていない。

 流石に魂が真っ白になるほど分霊するのは躊躇われる。削って埋めることが出来るのならまだ可能性があるが、削ることが出来る部分自体が1つも無いのだ。本当に隙間なく黒。

 

 そうなると、これを治療出来る可能性があるのは、()()()()()()()になるだろう。そして、そんなことをしてしまうと、太陽の姫の巫女から陽炎の巫女に転身することになりかねない。やってみなくてはわからないが、やった結果取り返しのつかないことになる可能性が高いのなら試せない。

 

「一度ここで終わらせる。もう後は魂しかない。ここに注いだら、村雨が別方面で壊れちゃうと思う」

 

 指を引き抜く。眠ったままとはいえ、村雨の息は荒い。反応も言葉に言い表せないようなものだった。

 この状況を記録している諜報部隊は顔を赤らめており、唯一の男性である呉内司令は顔を背けて耳を塞いでいてくれている。

 

「これはネタに出来ないや。生々しすぎて」

「秋雲、やったら引っ叩くよ」

「この秋雲さんでも自重しますとも。これは流石にダメ」

 

 何でも漫画のネタにしたがる秋雲すらもドン引き。ネタにも出来ない大惨事である。不謹慎とかそういうことではなく、あまりにも生々しすぎて描くことが躊躇われるとのこと。

 しかしながら、元深海棲艦の治療風景ということで諜報部隊の資料として映像は残されることになるだろう。それがどのように上に報告されるかはさておき、(つまび)らかにしなくてはいけないという軍規があるのなら、ある程度は伝えられてしまうことになる。私達の深海棲艦化の痴態以上のモノになりそうなので不安しかない。

 

「いつ見ても酷いもんだ」

「私もそう思う」

 

 処置している私がそう思うのだから間違いない。もう少し見た目にも優しいものになってもらいたいものである。

 だが、一番敏感であろう魂そのものに触れているのだから、こうなっても仕方ないのかもしれない。痛みじゃないだけマシであると考えざるを得ない。

 

「穢れだけは取り除いたから、少しは緩和されていてくれると嬉しいんだけど」

 

 空城司令と長門さんも村雨の身体から離れる。次第に村雨の息は安定していき、ただ眠るだけの状態になった。これだけのことをしたので、着衣の乱れやらが酷いため、機材を外しながら新しい検査着に着替えさせていった。その時は流石に呉内司令には退場してもらっている。

 見た目だけは治療後で安定した姿なのだが、目を覚まさなければ()()がどうなっているかわからない。これだけやっても魂が真っ黒のままなのだから、心への影響がそのままの可能性だってある。

 

「魂は黒ずんだままと言っていたね」

「うん、他の魂も見せてもらったから断言出来る。あの黒さは普通じゃなかった。萩風や長門さんも分霊の影響で黒ずんじゃってたけど、これはそもそもの質が違う。沖波の魂で見た黒ずみ方だね……」

 

 村雨の魂と比べてしまうと、2人の黒ずみ方は黒というより灰に見えるくらいだ。それだけ村雨の魂は重症である。

 心を歪めるだけでは飽き足らず、()()()()自体を黒く暗く昏く染め抜いてしまっている。在り方そのものを歪めてしまっているようなものだ。だから人間に戻れたとしても私達への敵対心は消えない。

 

「少し考えなくちゃいけないね。まずは村雨が目を覚ますのを待つしか無い。それでもあの態度が変わっていないのなら……処分を下さなくちゃいけなくなる」

 

 村雨はしーちゃんを人質に取り鎮守府を破壊しようとする凶行に及んでいる。それだけでも罪を問われて然るべき。それが敵に植え付けられた思考回路による犯行だとしても、実際にやったという事実が残ってしまっている。これまでに何度かあったただの喧嘩とは違う。

 

「アタシとしては、この子だって救ってやりたいさ。今の治療で心まで治療されていて、さっきの行動を後悔するくらいになっているのなら、アタシらはいくらでも力になる。だがね、目を覚ましてまたあんなことをされたら堪ったもんじゃない」

 

 明確な殺意でこちらに害を成そうとしてきたのは、言い逃れのできない事実だ。普通ならそれだけでも捕まるような行為。幸い全員無傷だったとはいえ、村雨がやったのは殺人未遂のようなもの。

 最初の犯行は空城司令が無理にでも無かったことにするが、同じことをもう一度やるようなら罰を与えなくてはいけない。それこそ警察沙汰。鎮守府で起きたことなのだから、軍規に則って処分することになる。

 

「せっかく人間に戻れたのに……そんなの酷すぎるよ」

「救われない時の最後の手段だ。だがね陽炎、野放しにして鎮守府の誰かが害を被ったら、それこそ責任が取れない。艤装を装備していなきゃ、艦娘だって殆どただの人間だ。不意打ちでナイフで刺されるなんてことがあったら、簡単に死んじまう。それくらいわかるだろう」

 

 勿論理解している。選ばれし者として力を得た私だって、例えば突然村雨が起き上がって、その辺のもので殴られたら怪我をする。死ぬ可能性だってある。そして今の村雨は、それをやりかねない存在なのだ。鎮守府が爆弾を抱えているようなもの。太陽の姫のためなら、犯罪だろうが何だろうが一切厭わない。

 今の治療により、そこに抵抗が生まれてくれているのならまだマシ。しかし、そこが全く治っていないというのならもうダメだ。

 

「経過観察はする。その後に、処遇を決める。すまないが、陽炎には酷なことを言うかもしれない」

「私に?」

「ああ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、空城司令が私を見据えた。

 

「今の大本営はあまり信用出来ない。村雨を渡すのはまずい気がする。だが、このままいるのも良くない。それなら、()()()()()()()()()()()、幸せに生きることが出来るかもしれない」

「……分霊しろってこと?」

「可能性もあるってことだ。アタシは絶対にやれとは言わない」

 

 ただし、その覚悟だけはしておいてほしいと念を押された。私としては、絶対にやりたくないことだ。

 

 

 

 まずは目を覚ましてもらわなくてはいけない。これで治療されていることを祈るしかない。

 




呉内司令居心地悪そう。
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