異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
村雨への二度目の分霊が終わり、真っ黒な魂をある程度白く戻すことには成功した。しかし、眠った状態の村雨に処置を施したので、この分霊の影響がどのように出るかは、目を覚ましてからでないとわからない。そこは速吸さんが投与した睡眠薬の効果が切れるまで待つことになる。
目を覚まして頭痛が無くなっていたら治療は半分成功。太陽の姫への忠誠心が薄れたことを意味する。しかし、分霊が効きすぎて今度は私、陽炎への忠誠心が生まれてしまっていたら、それは失敗と言えるだろう。
とはいえ、私の力は束縛ではなく解放の力。村雨に自由に生きてもらうために、その呪いを解くように処置しているため、そこまで心配はしていない。必ず救うという信念による処置なのだから、失敗は無いと自負している。
私が村雨の処置をしている間に、支援艦隊全員の入渠が終わっていたため、予定通り呉内司令は一旦鎮守府に戻ることになった。支援艦隊はそのまま残留で、あと数日は増援として一緒に戦ってくれる。もしかしたら、このままの流れで太陽の姫との戦いがあるかもしれない。
「それじゃあ、俺は一度戻らせてもらう。またコイツらを迎えに来させてもらうぜ」
「それまで部隊を借り受けるよ。予定では今日から3日だったね」
「ああ、そうなっている。前回と違って、こちらの海も少し騒がしくてな。俺だけは鎮守府に戻っておきたい」
深海棲艦はこちらの海にしかいないわけではない。当然、呉内司令が管理する鎮守府の領海でも深海棲艦が出現することはある。今でこそ艦娘だけの運営で何とかなっているみたいだが、そういう状況下で空け続けるのは流石によろしくないだろう。
支援艦隊として来てくれているメンバーは凄まじい戦闘力を持っているが、鎮守府に残っているメンバーも負けず劣らずらしい。そこに司令が加われば、より敵無しとなるだろう。
「じゃあ、任せた。村雨の件、また連絡してくれ。ここまで関わったら結果は気になる」
「勿論だ。アンタももう逃がしゃしないよ」
「おお怖い怖い。あとは沈没船の件もな」
入渠待ちももう殆どいなくなったため、調査任務の結果もそろそろ全員に発表されるだろう。沈没船に一番近付くことが出来たイヨの入渠は既に終わっているため、司令2人にはある程度詳細は伝わっているとは思うが。
流石に裏側では物部提督に調査結果が報告されているだろう。大本営に関係している可能性がある以上、秘密裏にいろいろと調査を進めなくてはいけないし、なるべく早いところ解決に向かいたいというのもある。
「アクィラ、艦隊のこと頼んだぞ」
「
旗艦はネルソンさんでも、任されるのはアクィラさん。そういうところが秘書艦との信頼関係だろう。
「それじゃあ、また」
「ああ」
呉内司令とはまだ縁が続く。この戦いが終わるまでは、頻繁に会うことになるだろう。残されているのはラスボスのみだが、また力を借りることはあるだろう。
昼食後、そろそろ目を覚ますのではないかということで、異端児駆逐艦全員で村雨の部屋に押しかけていた。睡眠薬はガッツリ効いているため、まだグッスリ眠っている状態ではあったが、あの処置から数時間は経過しているので起きてもおかしくない。
空城司令はしーちゃんと共に沈没船のことについて先んじて調査を進めてくれている。そのため、村雨に関しては私達異端児駆逐艦に委任された。
「まだダメそうなら、夕立お願いね」
「ぽい。押さえ付けるのは夕立のお仕事っぽい」
目を覚ましてもまた暴れる可能性だってある。その時は夕立に任せることにしよう。このメンバーであれば、私もそこに加勢することだって出来るはずだ。
あの処置をしたことで忠誠心と頭痛の両方が薄まっているはずなので、暴れる要因はもう無いだろう。それでも錯乱するようなことがあるとしたら、罪悪感。
「……萩風ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫……です。割り切らなくちゃいけないことですし……謝るつもりはあるみたいですから……」
磯波が萩風のことを心配しているが、当人はまだ複雑な表情をしていた。夕立しか聞いていない村雨の本心である謝罪の言葉。それを萩風に対しても言うかは、この時点ではわからない。
あれだけのことがあっても、萩風は一応は割り切ろうとしてくれている。口ではこう言っているが、そう簡単にはいけないだろう。そこは私が支えていきたい。
「ひーちゃんは大丈夫? あの時、疲れ切ってたけど」
「大丈夫大丈夫。お風呂入ったらちゃんと疲れが取れたからね。あれだけガッツリ分霊するには体力使うみたい」
私は私で沖波に心配された。午前中の分霊ではフラつく程にまで消耗してしまったが、あの後お風呂に入ったらその疲れもすっかり完治してくれた。今ではもう一度やれと言われればやれるくらいに回復している。
実際、もう一度という可能性だってあり得るのだ。真っ黒な魂を白寄りの灰色にまで浄化出来ているわけだが、それでもまだ忠誠心が抜け切れていなかったりしたら、さらに白くしていく必要はある。そうした場合、また私の体力を使って分霊をしなくてはいけない。
「村雨は結局D型異端児っぽい?」
「あ、そういえば……穢れの中和した時、速吸さんに聞いてなかった。夕立的には匂いはどう感じる?」
「んー、ゲロ様みたいな匂いはするね。染み付いちゃってるから。でも、ゲロ様のほど落ち着ける匂いじゃないっぽい」
夕立の言葉に、磯波も力強く首を縦に振る。魂の匂いに敏感な2人がそう言うのだから、それはそういうものと考えるしかない。私や沖波にはその感覚がわからないし。
2人からしてみたら、私の魂の匂いというのは嗅いでいるだけで落ち着ける、母親のような匂いらしい。沖波は巫女であったタイミングはあってもすぐに治療されたので匂いは残っていないとのこと。
そして村雨なのだが、私よりも少し弱めな匂いではあるが落ち着けるようなものではないらしい。やはり完全に治療し切れているわけではないため、同期値だけでいえばM型異端児までは持っていけていないのかもしれない。
「起きたら同期値は測ってもらおう」
「ぽい。それがいいっぽいね」
そこは艦娘としての進退に関わるので、ちゃんと測ってもらうべきだ。村雨が艦娘として生きていくかはさておき。
「ん、んん……」
そうこうしている内に、村雨が目を覚ます前兆を見せ始めた。私達が周りで話しているせいで起こしてしまった可能性も無くはない。そうだったとしたら申し訳ない限りである。
呻き声が聞こえたことで、私達は一斉に静まり返った。特に萩風は身体が強張ったようにも見えた。磯波がついてくれているので、緊急時は部屋の外に連れ出してもらう手筈になっている。
「んぅ……」
ゆっくりと目を開き、ぼんやりとこちらを見てきた。前回はここで私の顔を見た時点で顔が歪んだ。あらゆる負の感情が入り交じったような複雑な表情を浮かべ、苛立ちを隠さず、そして頭痛を訴えた。
だが、今回は少し違う。敵意らしきものはあまり感じない。だが、辛そうな顔はする。痛みで顔を顰めたわけではなく、ただただ感情的に表情を変えた。
「頭痛、まだ残ってる?」
「……ううん、痛くない。また……陽炎が何かしてくれたの?」
「うん。また寝てる間にやっちゃったけど、もう一度分霊をさせてもらった。太陽の姫の
前と違って普通に会話が出来ている。私の顔を見て話すことが出来ているだけでも、大きな変化だ。ここまで来ると、先程までとは別人とまで思えてしまう程。これが本来の村雨なのだろうか。
この調子なら、太陽の姫への忠誠心は大分薄れていると考えていいだろう。私を殺すべき相手として認識していたら、こんな態度は取らない。思ったより感情を隠さず直情的に突っ掛かってくるような子だから、今不満があるのなら真っ直ぐ伝えてくるはず。
「さっきも聞いたことだけど、あえてもう一度聞かせてもらうね。まだ私達に敵対心とかある?」
直接ぶつけたところ、目を逸らした。やはり、反応が雲泥の差。
「……残ってないと言ったら、嘘になるかもしれない。違和感があるというか……モヤモヤするの」
これは沖波の時にもあったことだ。治療した後も、私への嫌悪感が全て拭えたわけではなかった。多少の
長年の間、太陽の姫の巫女として活動していたのだ。私達は太陽の姫の敵。それに対する嫌悪感と、自分の命を奪ったという嫌悪感が、治療後に僅かに残っていてもおかしくない。
「こんな気持ち……持っちゃいけないのにね……。全部私が悪いのに……陽炎達に嫌な気持ちを持つなんて……」
だが、忠誠心が薄れたことで、
頭痛が無くなっただけでも大分良くなってはいるが、激しい罪悪感で前を向けなくなっているのは確かだ。萩風や長門さんと違って、村雨は街をいくつも滅ぼしているという大きすぎる罪を持たされているのだ。それを開き直れというのは難しすぎる。
「……あの、さ。さっきの子……いる?」
「萩風のこと?」
「私を引っ叩いてくれた子……」
震える声で萩風のことを呼んだ。萩風自身、それを聞いてビクンと震えたものの、自分の求める言葉が貰える可能性を信じて歩み出る。
私の隣に立って、村雨の顔を覗き込む。萩風の姿が視界に入った瞬間、村雨の目が明らかに澱んだ。ただでさえ頭を駆け巡っていた罪悪感が、萩風の顔を見たことによって
「ごめんなさい……ごめんなさい……貴女の全てを奪っちゃった……。太陽の姫の言う通りに……何もかもを壊すために……踏み躙っちゃった……」
やっと聞けた本心。『雲』としては、萩風がどうなろうと知ったことではないというのが本心だったのだろう。太陽の姫が望んだことなのだから、むしろ光栄に思えとすら考えていたのでは無かろうか。分霊までされた選ばれし者なわけだし。
しかし、村雨としてはそんなこと思うわけもない。同じ人間なのだから、虐げられていいはずがない。一切罪のない人間である萩風が突然滅ぼされる謂れは無い。
「ごめんなさい……私は言いなりだったとはいえ許されないことをしたわ……。許してくれなんて言えないし、言わない……。ずっと恨んでいてくれて構わない……。どうすればこの罪が償えるのかわからないけど……償い切れない罪だけど……私はこれを背負って生きていくから……」
涙ながらに萩風に宣言する。もう逃げることはせず、罪悪感を背負って生きていくと。許してほしいとも言わない。
それに対して萩風は、ぐっと拳を握り締めた後、大きく息を吐いた。ここに来てようやく、村雨の本当の気持ちを聞くことが出来たことで、萩風としても少しだけ受け入れることが出来そうになっている。
落ち着くためだろう、私の手を握ってきた。それでクールダウン出来るのならいくらでもやってくれて構わない。
「償うつもりがあるのなら、私達と一緒に戦ってください。艦娘として、太陽の姫を貴女の手で討つ覚悟で。ここで引き篭もっていられても困りますから」
言葉は刺々しいものの、割り切ろうとしているのは誰にだってわかる。私の手を握っている萩風の手が震えているのは私にだけ伝わっている。それがどんな感情から来るものかはわからないが、萩風も必死なのはわかる。
「……ええ……。私も太陽の姫に……全て奪われてるもの……。私に出来ることは全部やらせてもらうわ……」
涙を拭って、萩風にその気持ちを示した。村雨も振り回されている者。罪悪感を振り払うことは一生出来ないだろうが、せめて前を向こうと決意した。
おそらくここから村雨の苦難の日々が始まる。それでも、この鎮守府には仲間達がいるのだ。私だって支えてあげたい。
これにより、村雨が正式に仲間になった。まだ精神的には不安定だろうが、一緒に歩いていけるのなら、それもそのうち払拭出来るだろう。
まだガタガタではありますが、村雨が仲間入り。確執を解決していくのには時間がかかりそうですが、ようやくスタート地点に立てたかなというところに。