異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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明るい道

 村雨への治療は無事成功。太陽の姫への忠誠心は取り払われ、頭痛は失われた。萩風との確執が無くなったわけでは無いものの、本人の前で謝罪の言葉が出せるほどに精神状態も変化している。罪悪感に押し潰されそうではあるものの、萩風から一緒に戦えと言われたことで少しだけでも前向きになっていた。

 

 村雨が目を覚まし、治療の甲斐あってようやくスタートラインに立てたことを空城司令に報告しに行こうと思い立った私、陽炎。しかし、すぐに向かおうとしたところを夕立に止められた。

 

「どうせなら、元気な姿を見せてあげるといいっぽい。一緒に提督さんのとこ行こう」

「え……い、いいのかしら……」

「悪いことじゃ無いでしょ。自分の口で伝えた方がいいよ」

 

 まだ目覚めたばかりではあるものの、村雨自身は動ける状態ではある。身体の治療は入渠で済んでいるし、分霊の後とはいえグッスリ眠った後なので体力も回復済み。

 それに、治療の具合はどうであれ、ここに所属する手続きは既に終わっていたりする。本人が嫌がったところで行くあてが無いのだから、ここにいてもらわなければ違う意味で危険に晒されるだろうし。

 結果、既に着替えまで用意されていた。夕立の艤装姉妹ということで、改二になる前の夕立と同じデザインの制服がクローゼットの中にしっかり詰め込まれている。勿論サイズもピッタリ。

 

「そ、それじゃあ……お言葉に甘えて……」

 

 太陽の姫への忠誠心が残っていた時とは打って変わって消極的な態度の村雨。あの時は大きすぎるくらいの敵対心もあったため、恐ろしく強気に突っかかってきたが、今はそれが払拭された代わりに罪悪感が酷いことになっている。

 それを少しでも緩和出来るように、長門さんのように率先して人間関係を作っていってほしい。まずはここの長である空城司令から。

 

「こうやって見ると、夕立ちゃんの姉妹って感じがするかも」

「ぽい。おねーちゃんだもんね」

「そ、そうなの? ちょっとよくわからないんだけど……」

 

 用意されていた制服に身を包んだ村雨を見て、磯波が笑顔で語る。同じ制服というのもあるが、たまたまだろうが体格とかまで結構似通っている。胸の大きさまで近しいため沖波からハイライトが消えかけているが、そっとしておくことにした。

 村雨も巫女にされたという御多分に漏れず、私や沖波と同じように髪にメッシュが入ってしまっているものの、差異はその程度であり、『雲』の時と違って今は髪を下ろしているのでそういうところも夕立に近い。

 

「……なんかスースーする」

「そっか、『雲』はスパッツ穿いてたもんね。夕立の貸すっぽい?」

「ううん、やめておく。あっち側を思い出しちゃうから……これで慣れていくことにするわ」

 

 夕立や磯波はある意味後遺症のようなもので深海棲艦の時の姿を模そうとしてしまっているが、村雨にとってはそれは嫌な過去を思い出す行為に他ならないため、控えるようだ。長年の慣れが無くなって違和感があるようだが、時間経過で何とかなるだろう。

 

「えっと……私は村雨でいいんだっけ」

「そう、ここでは本名禁止だからね。艤装からとって村雨だってさ」

「……私が新しく歩き出すための名前……なのね」

 

 最初は実感が湧かないとは思うが、前向きになるために与えられた名前だと考えてもらえればいいだろう。ここではその名前でしか呼ばれないだろうから、自然と慣れるはずだ。

 

「そうだ、リボン2本あるかな……髪を結んでおきたいんだけど」

「多分用意されてるよ。ほら」

 

 クローゼットの引き出しから沖波がリボンを取り出して手渡す。『雲』のようにするわけでは無いが、髪を2つに括って村雨として完成。これは別に深海棲艦の時の名残というわけではなく、人間の時からこういう髪型だったからとのこと。こうなると夕立とはまた違った印象になる。

 

「おねーちゃんって呼んだ方がいいっぽい?」

「そこまでしなくていいわ……艤装は姉妹かもしれないけれど……」

「んー、じゃあ、村雨……村雨……さめ……シャーク、シャークさんで」

 

 磯波破裂。相変わらず渾名の付け方が無茶苦茶。それは流石におかしいだろと総ツッコミ。既に定着してしまっている私のゲロ呼ばわりも最初はこんなだったとしみじみ思う。

 これには流石の萩風も顔を伏せて笑いを堪えていた。村雨も複雑な表情ではあるものの苦笑している。夕立がきっかけになって、確執が少しずつでも解消される可能性が見えてきた気がする。

 

「じゃあ、むーさん、むーさんにするっぽい。おねーちゃんだし、敬意を払うっぽい」

「まだそっちの方がいいかな……敬意は要らないけど」

 

 磯波が復帰するまで少し時間は掛かったが、滑り出しは順調かもしれない。

 

 

 

 異端児駆逐艦6人でゾロゾロと執務室へ。中では諜報部隊も含めて情報整理中である。これに関してはある程度纏まったところで全員に公表されることになるだろう。潜水艦隊が決死の覚悟で立ち向かったあの沈没船のことなども、そこで全て知ることになるはずだ。

 このことはかなり難しい内容だ。正直、政治的な部分にすら繋がる危険な情報。最悪、私達に何も知らされることなく、裏側で全て処理をする可能性すらある。正直それでもいいとは思うが、太陽の姫の弱点に繋がる何かがあれば、そこは公表してもらいたい。

 

 中に結構な人数がいたため、ひとまず私だけが中に入る。秋雲が小さく手を振ってきたので、こちらも小さく振り返しておいた。

 

「村雨が起きたのかい?」

「うん。ついでだから、ここに連れてきたよ。元気な姿を見せた方がいいって夕立が」

「そりゃありがたいね」

 

 司令の言葉は中に入れてもいいという許可の言葉だと勝手に解釈し、夕立が執務室に押し込むように村雨を司令の前に立たせた。

 ここには諜報部隊もいるので結構な人数の目に入ることになるため途端に俯いてしまうが、意を決したように司令と向き合う。

 

「ご、ご迷惑……おかけしました」

「アタシゃ迷惑だなんて思っちゃいない。アンタは救われて然るべきの子なんだからね」

 

 相変わらずの司令。席から立ち上がり、村雨に近寄る。正直、結構な威圧感。

 

「長いこと巫女をやらされてきたせいで、その記憶に振り回されて辛いだろう。愚痴でも何でもいい。言いたいことがあったらアタシに言いな。相談くらいならいくらでも乗ってやるさね。罪悪感は拭えないだろうが、口に出せば多少はスッキリするだろうからね」

 

 そして、ガシガシと頭を撫で回した。少しでも緊張が無くなるようにと、司令の心遣いが見て取れる。実際、村雨も少し救われたかのように表情が柔らかくなる感じがした。

 

「話せるようならいろいろと聞きたいことがあるんだが、構わないかい?」

「はい……罪滅ぼしのためにも……太陽の姫のことを」

「すまないね。起き抜けでいきなり聞いても、アンタのためにならないだろう。今日は鎮守府に慣れることに使っておくれ。心の準備が出来たら、話してくれりゃいい」

 

 太陽の姫のことを一番知っているのは間違いなく村雨だろう。1回目の目覚めの時に言っていた、『太陽の姫は人間に作られたようなもの』という言葉の真相は特に聞いておきたいところ。それ以外にも、攻略のヒントになり得る情報を持っていてくれるのなら嬉しい。

 

「あ……貴女も、ごめんなさい。私は貴女も殺そうと……」

 

 執務室なのだから、当然しーちゃんもいる。村雨は太陽の姫に報いるためと、しーちゃんを人質に行動しようとした。それが罪悪感を刺激している。『雲』の時ではなく、村雨として戻ってきた後にしでかしたことなので、最も近しい大きな罪とも言えるだろう。

 

「いえいえ、気にしないでください。あの時の貴女は、敵に操られていたようなもの。貴女であって貴女ではありません。それに私は無傷ですから、戯れくらいに思っていますよ」

 

 司令も司令なら、しーちゃんもしーちゃんである。やはりここにいる人達はみんな、こういうことに対してはとても寛容。

 

「失われた戸籍の方はこちらでちゃんと用意しておきますから、新しい人生を踏み出したと思って、前向きになってくださいね。過去を捨てろとは言いませんし、振り向くなとも言いませんが、みんなと一緒に歩いていくくらいはしていいんですから」

 

 相変わらずこの戸籍を用意しておくというのは不思議である。どういう権限があってそんなことが出来るのだろう。問いただすのは怖くて出来ないので、そっとしておくのが一番。

 

「……はい、はい、よろしく……お願いします」

 

 また涙目になってしまったが、司令やしーちゃんに認められたのなら、誰ももう疑いようのないくらいに鎮守府の一員だ。誰だって受け入れてくれる。割り切るかどうかは本人次第ではあるが、ここから出て行けとは誰も言わないはずだ。

 

 

 

 その足で今度は食堂へ。ここには村雨が会わなくてはいけない人がいる。

 

「あ、貴女は……」

「よかった、ちゃんと治療されたんだな」

 

 その人は勿論、長門さんである。萩風と同様、『雲』によって全てを奪われてしまった被害者の1人だ。

 回復した村雨の姿を見て、長門さんは大いに喜んだ。最初から割り切っているような顔である。そういうところは大人。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……私は……」

「過ぎてしまったことは仕方のないことだ。真の敵は君ではない。それを指示した太陽の姫であることは、私もちゃんと理解している。まだ忠誠心は拭い切れていないがな」

 

 少し微笑み、村雨に視線を合わせる。

 

「気にしていないといえば嘘になる。『雲』は私の全てを奪った。それは疑いようのない事実だ。だが、それは君であって君ではない。それは同じ状態になっていた私だから痛いほどわかる」

 

 同じように深海棲艦にされていたのだから、長門さんも理解出来ると話す。やってきたことが雲泥の差であれど、存在としては全く同じ。全てを奪われ、最愛の者を自らの手で殺し、太陽の姫のために長い年月を過ごす羽目になった。本来の意思は奪われ、都合の良いように変えられ、終わった後でも悪夢として刻まれてしまう。

 村雨は今から、長きに渡って苦しみ続けることになる。自分の意思ではないことを自分の意思のように振る舞わされたことを、ずっとずっとだ。なら、現実で活動している今くらいは、明るく楽しく生きていてほしい。長門さんはそう願った。

 

「私としては、解放されたことを受け入れてもらいたい。いつまでも下を向いていられると、私も悲しいからな」

「ながもんさんも最初は酷かったっぽい」

「それを言われると何も言い返せないな」

 

 夕立の軽口にも笑って返せるくらい、長門さんはもう回復している。自分の過去の行いを口に出せるくらいには、現状を受け入れることが出来ている。

 村雨も時間をかければここまで行けるはずだ。

 

「せっかくここに来たんだ。甘いものでも食べていくか? 特に村雨は、今まで何も食べていないだろう」

「……うん、いただきます……」

「待っていてくれ。すぐに用意しよう」

 

 そう言って、長門さんは食堂の奥へと引っ込んでいった。奥にいた間宮さんと伊良湖さんもそちらにいたのだが、慈悲深い笑みでこの光景を眺めていたようだ。長門さんの回復を喜びつつ、村雨がここに訪れたことも快く感じていた様子。

 

「みんな……優しいのね。こんな私なのに、すぐに受け入れてくれて……」

「これだけじゃ終わらないよ。ここにはコミュ力が化け物な海防艦もいるしね」

 

 それこそ海防艦だけでは収まらない。ここにいる人達は全員が全員、空城司令のようにすぐにでも受け入れてくれる人達ばかりだろう。おそらく何処にいても誰かしらが付き纏ってくるくらいに。

 今でこそ食堂には誰もいなかったが、誰かいたら即座に絡まれていたはずだ。大人だろうが子供だろうが、そのスタンスは誰も彼もが同じ。『雲』にはいろいろあっても、村雨とは初対面なのだから、まずは関係を持とうとみんなが躍起になってくる。

 こういう場所で暮らすのだから、人間関係は良い方がいいに決まっている。だから仲違いはすぐにみんなで解決しようとする。私と沖波の件や、長門さんと陸奥さんの件が顕著だった。

 

「俯いている方が失礼ですから」

 

 素っ気ないものの、萩風だって受け入れようと努力している。長門さんの態度を見て、その辺りはさらに考えるようになったようだ。

 

「……そうね。私も前を向く。前を向いて、今までやらされてきたことを償えるように、必死に生きることにするわ」

「それがいいっぽい! 夕立達と一緒に戦おうね。太陽の姫をギッタギタのケチョンケチョンにして、全部終わらせるっぽい!」

 

 夕立に抱きつかれてあたふたする村雨は、今までよりも前を向けているようにも見えた。

 

 

 

 人と関係を持てば持つほど、明るい道が拓けていくだろう。その道を舗装していくのは、間違いなく私達だ。

 




被害者の1人である長門も、最初のガタガタっぷりから考えると大きく進歩しました。食堂手伝いというのは、相当効くようです。いざとなったら村雨にも入ってもらおうか。
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