異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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受け入れられた村雨

 村雨が目を覚ましたことはすぐに鎮守府中に知れ渡り、食堂で長門さんと話した後はすぐさまいろいろな面々が顔を合わせに来ていた。鎮守府所属の艦娘どころか、諜報部隊や支援艦隊の面々まで。誰もが優しく接してくれることに少し戸惑っていた村雨ではあるものの、前を向いて生きていくと決意したことから、少しずつでも心を開いていく。

 というか、開かざるを得ないくらいに世話を焼いてきたり話をしてきたりする。あれだけのことがあってもお構いなし。『雲』に恨みを持っていた由良さんだって、村雨相手にはいつもの優しいお姉さんだし、『雲』の弱点を看破した菊月だって、村雨に対しては厨二トーク全開だった。

 そしてやっぱりと言うべきか、海防艦の子供達は容赦なく懐いてきた。松輪も村雨の本質をしっかりと感じ取ったのか、怯えるようなことは無い。これはこのまま遊ぶことになるフラグ。夕立もついていてくれるようなので、今日は倒れるまで遊んできてもらいたい。

 

「何というか、洗礼を受けた感じだね。復帰したばかりで体力無い村雨には相当しんどいかもしれないけど」

「慣れてる私達でも結構キツイもんね」

「まぁ最初の訓練としてはいい方かもしれないね」

 

 無尽蔵の体力を常にMAXパワーで振り回す子供達と遊ぶのは、楽しいものの体力が追いつかない。その分鍛えられていい訓練になるが。

 艦娘としてやっていくのなら体力は必要であるというのは本当に実感した。私、陽炎も未だにフィジカルの面で不足している部分が見当たるくらいだ。もう相当強いのにもかかわらず、筋トレを続けている戦艦組もそういうことなのだとわかる。

 

 艦娘も日々鍛錬。全てが終わるその時まで、訓練は欠かすことが出来ない。

 

 

 

 これで『雲』の件は全て終了となり、明日からは最後に残った太陽の姫の攻略に向けて全員が駆け抜けていくことになる。その筆頭として、あの沈没船についての調査を完了させることが優先されていた。

 今この時でも、空城司令と諜報部隊が集めた情報を照らし合わせているところ。村雨の報告のためにちょろっと入ったが、執務室は大忙しという様相だった。

 

「いやぁまぁ全部整理するのには時間かかるよねって感じ」

 

 ようやく作業に一段落ついたようで、少し疲れた顔の秋雲が私達のいる食堂にやってきた。他の面々も各々休息に入っているとのこと。秋雲は私の匂いを嗅ぎ付けてここに来たらしい。

 諜報部隊以外は各々自由時間ということで、思い思いの場所で休息なり筋トレなりしているのだが、私達は一旦私の部屋で適当に過ごした後、甘いもので心を落ち着けるために、残った異端児駆逐艦でお茶会みたいなものを開いていた。

 

「お疲れ様。明日から動けそうなの?」

「その辺はバッチリよ。あの沈没船の素性もわかったしね」

 

 それはまたすごいことだ。イヨが近付いていろいろと見付け出したようで、それが今までの調査内容と次々と組み合わさっていった結果、いくつかの答えが出てきたらしい。

 私達には何のこっちゃという情報が多いらしく、説明は明日ざっくり執り行われるとのこと。秋雲にも守秘義務とかそういう件であまり大っぴらに出来ない内容が多いらしい。

 

「そこからどう進めていくかは、うちらにゃ決めらんないのよ。最終的には司令の指示を仰がなくちゃね。だから、うちの司令も明日ここに来るってさ」

 

 随分と大事になってきたのがわかる。物部司令までこちらに来なくてはいけないようなことということは、今回の一件は相当根深いことだ。

 

「ま、この鎮守府がどうのこうのとかは無いでしょ。ここ潰したら、太陽の姫の対策が出来なくなるからね」

「最前線だもんね」

「そそ。それに、研究のためにゲロ姉欲しがってる大本営の輩も黙るでしょ。そもそもゲロ姉がここから離れたらおしまいだし」

 

 太陽の姫の対となる者として、この戦いのキーパーソンにされているのは間違いない。M型異端児は全員が鍵になるのだが、私は奴直々の分霊すら効かない唯一の存在だ。戦いの中心に置かれるのは当然のこと。

 そんな私を研究したいからと言って鎮守府から持っていこうだなんて、私がそもそも許さないし、鎮守府全体が反発するだろう。おそらく空城司令もそういう形で文句を言って突っぱねたはず。

 

「ひーちゃんがいないと戦いにならないかもだしね」

「そうだね……陽炎様ありきだよね最後の戦いは」

 

 なんだかこう言われると恥ずかしくなる。沖波だってM型異端児なのだから鍵だし、磯波だって半分くらいはM型異端児なのだから部隊には入れられるはずだ。この2人だって頼りにしている。

 

「姉さんをいいように扱うとか許せませんからね」

「ハギ姉、なんか言い方に他意無い?」

「ご想像にお任せします」

 

 私も研究のためとか言っていろいろされるのは嫌だ。しかも同じ人間からとか、普通に人間不信になるレベルである。

 

「とにかく、艦娘側にはあんまり酷いことにならないように進められるはずだから安心してちょーだいな」

「秋雲は言い方が軽いから安心しきれないんだよなぁ」

「それはこの秋雲さんのキャラをディスっていると見てよろしいか」

 

 こういうおちゃらけた話し方が出来るから、私達は余計な心配をせずに済む。そういう意味では、秋雲のこの軽さはすごく助かるというものだ。むしろ秋雲が深刻になったときが一番怖い。笑ってられない状況って、鎮守府存亡の危機くらいになりかねない。

 

「ところでさ、新人の村雨氏はどったの。早速みんなにたらい回しにされてる?」

「たらい回しにされた挙句、今は夕立と一緒に海防艦の遊びに付き合ってるところだと思う。そろそろ帰ってくるんじゃない?」

 

 なんて噂をしていたら、夕立と村雨が海防艦共々食堂に入ってきた。相変わらずの外でのお遊びで消耗したのだろう。飲み物欲しさにみんなで纏まってここへ。

 

「夕立ねーちゃんマジで強ぇ! あたいら結構頑張ったんだけど!」

「占守もあんなにすぐに捕まるなんて思って無かったっしゅ!」

「ふふん、ダイもシムもまだまだ甘いね。夕立も日々進化しているっぽい!」

 

 この悪ガキ3人は遊び倒してもピンピンしているようである。そう考えると夕立も相当。天才は何をやらせても卒なくこなす。体力の問題までしっかりクリアしてくるのはとんでもないが。

 

「村雨さん大丈夫ですか……?」

「大丈夫じゃ、ない、かな、これ、毎日やってるの……?」

「まぁ、そうですね。おおよそ毎日」

 

 それに対して初めて海防艦の遊びに付き合ったほぼ一般人である村雨は、顔色が悪くなっているほどに消耗していた。大鷹が心配そうに声をかけるが、息も絶え絶えといった様相である。

 大鷹も疲れていたが、それでもまだ普通に子供達を連れてこられるくらい。松輪すらも村雨を心配しているレベル。松輪も可愛い顔してスタミナ無限大なので、占守や大東と同じようにピンピンしているわけだが。

 

「むらさめおねぇちゃん……おみずのんでください……」

「あ、ありがとね、助かる……」

 

 お風呂に行く前にここに来たのは、おそらく村雨のため。疲れの前に喉を潤すことを最優先にされたからである。

 こうなることを予測していたであろう夕立に助言されたか、ちゃんと運動着に着替えているわけだが、見てわかる程に汗だくで遊び続けただろうから確実に水分不足。ちなみに運動着は夕立とお揃い。

 

「す、すごいわね、ここの子達は……」

「村雨さんにもああなってもらいます」

「もっと、時間を、ちょうだい……」

 

 萩風に茶化されるが、無理と言わない辺り村雨も前向きである。やはり、自分が一番罪悪感を持ってる者達から受け入れられたというのは、明るい道を切り開くための第一歩だったわけだ。

 それに、萩風もいい具合に砕けた態度を取ることが出来ていた。もう親しい私達相手にも丁寧なイメージだったのだが、村雨にだけはこういう口も叩く。まだ割り切ることが難しいのだとは思うのだが、それがあるからこそ逆に近しい関係になれている気がした。

 

「こりゃあこのままお風呂行って回復した方がいいね。私らも付き合おうか」

「ぽい! みんなでお風呂行くぞー」

「秋雲さんもついていきましょうかねぇ。もう肩がこっちゃったよ」

 

 そのままみんなでお風呂へ。村雨はフラフラだったが、お風呂に入ればちゃんと回復した。その中でも回復の余波であられも無い声を出してしまったり、子供達に胸を弄られたりで大変なことになっていたが、そこは触れないことにする。

 裸の付き合いでみんながまた仲良くなれたことは言うまでもない。そういう恥ずかしいところを見せてしまったことで、村雨はさらに心を開くことになったのも間違いなかった。罪悪感に苛まれつつも、最後は小さく笑みを見せるほどになっていた。

 

 

 

 夜、あとは寝るだけという状態になり、いつものように異端児駆逐艦が私の部屋に集合。

 

「せっま」

「6人だもんね……」

 

 今回から村雨も参加するものの、流石に1人の部屋に6人も入ると狭い。寝る時には私のベッドに夕立が潜り込み、磯波も自分を隠さずに正面から入ってくるため、なんだかんだで2人分のスペースが確保出来ていれば良かったのだが、3人目の参入は流石に無理。

 夜が更けるまではお喋りでいいかもしれないが、寝るとなるともう部屋を別けた方がいいだろう。

 

「なら、夕立とむーさんは今日は違う部屋行くっぽい。姉妹仲睦まじくイチャイチャするっぽい」

「イチャイチャでは無いと思うけど……」

 

 ここで夕立が率先してここから離れるのは少し想定外。一番私の匂いを堪能しようとしていた夕立が、艤装姉妹の姉が出来たことでそちらにお熱。

 同じ姉妹である五月雨にはそんなことしないのに今ここまでやっているのは、やはりこうなる経緯があまりにも複雑で不憫だからだろうか。同じ異端児であるというのも重要かもしれない。

 

「サミーも呼んで、姉妹3人で寝るのもいいね。その方がむーさんも落ち着けるっぽい」

「五月雨も私を気にかけてくれたからね……」

 

 五月雨も村雨とは話をしており、艤装姉妹というのもありすぐに仲良くなっている。何かあったら力になると力強く宣言した直後に素っ転んでいたのは、もう五月雨の優しいドジっ子な部分を全て表現しているとしか言えない。

 村雨としては五月雨に対しても負い目があった。しかし、五月雨はそんなことを忘れてしまっているかのように構ってくる。それにより、心を開くことは出来ていた。

 

「ということで、夕立とむーさんはお部屋に戻るっぽい! ゲロ様、また明日ね」

「うん。夕立もあんまり村雨困らせないようにね」

「ふふん、先輩であるこの夕立が、むーさんをしっかり導いてあげるっぽい」

 

 ニコニコしながら村雨を引っ張って部屋から出て行った。最初から最後まで振り回されている村雨は、困った表情をしながらも何処か楽しそうではあった。

 

「……多分、今日の夜は酷いことになるよね」

「うん、絶対に悪夢を見るからね。でも夕立が一緒なら大丈夫だよ。私の時もそうだったし」

 

 それが一番心配ではある。今までの悪行を夢で省みることになり、それで睡眠不足になる可能性も無くはない。

 夕立ならその辺りをうまく対処してくれるだろう。酷い夢を見ている時に敏感に反応して起こしてくれたし、その後の処置も完璧だった。

 

「村雨のことは夕立に任せておけばいいね」

「ですね。なので今日は夕立さんの場所が空いている、ということになりますね」

 

 言うが早いか、萩風がベッドに潜り込んできた。今までここまでの積極性を出してくることは無かったので流石に驚く。

 しかし、理由は何となくわかった。村雨のことを割り切れていない萩風だ。前を向いて歩こうと思っても、どうしてもストレスが溜まる。それを解消するために、今日は私を堪能しようとしているわけだ。

 

「ごめんなさい姉さん、今日はちょっと甘えさせてください」

「はいはい。よく頑張ったね萩風」

 

 匂いを堪能するために胸に顔を押し付けてきたため、それを受け入れてやるように頭を撫でた。何度か震えていたが、萩風も生活している時はこれも日常茶飯事なので慣れたもの。

 

「今日は萩風ちゃんに譲るね……陽炎様独り占め」

「そうだね。ひーちゃんの匂い、私にはよくわからないけど、それで落ち着けるなら今日はたっぷり堪能してもらった方がいいね」

 

 磯波と沖波の許可も得た事で、萩風がより一層身体を近づけてきた。ここまでしてくるのは初めてかもしれない。今日は好きにしたらいいと思う。

 

 

 

 明日からは本格的に事を進めていくことになるだろう。のんびりとするのは、今日で最後になるかもしれない。改めての決戦の日は近い。

 




もう村雨は完全に鎮守府の一員として認識されました。一緒に戦う仲間として、これからはみんなと歩いていく事でしょう。とはいえ新人ではありますがね。
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