異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
翌朝、スッキリした目覚め。私、陽炎にしっかりと抱きついて就寝した萩風も、この朝は艶々な顔で目を覚ましていた。昨日の疲れとストレスはすっかり抜け落ち、それはもう満面の笑みで朝を迎えることに。私の匂いで随分といい夢が見れたらしい、
「おはよっぽーい」
「おはようございまーす」
こちらが準備している間に、夕立が村雨と五月雨を引き連れて私の部屋に突撃してきた。いつも寝起きがあまりよろしくない夕立も、五月雨の前では関係無しに起こされた模様。村雨も五月雨とは昨晩のうちに打ち解けたようである。
「村雨、大丈夫だった?」
「すっごい嫌な夢を見たみたいだけど、夕立とサミーでどうにかしたっぽい」
「こればっかりは仕方ないことだよね。ちゃんと私もサポートするよ」
五月雨も村雨のことは艤装姉妹として気にかけていた様子。案の定、夜中に目を覚ますことになってしまったようだが、今までの経験から完璧な対処をしたそうだ。五月雨としてはそういうことは初めてに近いので、夕立が率先して動くという快挙。
夕立もそういうところは私で慣れているものである。酷い夢もキャンセルしてくれるので、後を引かないからありがたい。
「しばらくは私と夕立ちゃんが一緒に寝ることにするよ。毎日嫌な夢見る可能性もあるんだよね」
「あるね。私は毎日ってことは無かったけど、1日置きとかはあったよ」
「なら、艤装姉妹として、村雨ちゃんを支えるよ」
五月雨がいるのなら殊更に安心である。そういう時にドジさえしなければ。
「サミー、夕立の時は姉妹って扱ってくれなかったのに、むーさんにはするっぽいね」
「夕立ちゃん、お姉さんって感じじゃないし……」
「不服っぽい!」
何やら姉妹喧嘩みたいになってしまっているものの、微笑ましい光景ではあった。それを後ろから見ている村雨も、それを全く心配していないあたり、似たような言い争いを昨日もしたのだろう。
そんな村雨も、こちらの顔が見えたら小さく笑みを浮かべた。昨日1日で大分打ち解けたと思う。このペースでみんなと歩いて行ってもらいたいものだ。
今日は朝から全員が会議室に集められる。今回は資料を全員で見ながらの打ち合わせのため、この大人数が一堂に会した。
この頃には物部司令も鎮守府に到着。諜報部隊との再会を喜ぶのもそこそこに、この会議のためにあちら側でも調査していた内容を全て持ってきてくれていた。
「わかっていると思うが、今日からは最終決戦の準備に取り掛かる。太陽の姫、深海日棲姫の撃破だ。だがその前に、奴の本拠地についての調査報告をしておく」
これはあの場所にあるという沈没船のことだ。私達にはその存在すらわからず、潜水艦隊が遠目で見ている程度だったものを、強行偵察中にイヨが接近するところまで漕ぎ着けた。
「イヨ、本当にお手柄だよ。まさか名前まで盗み見てくるとはね」
「ああいう船って、思いっきり書いてあったりするでしょ? だから、優先してそれを確認したんだ。大正解だったね。いぇい!」
船の名前がわかれば、素性もすぐにわかるだろう。それが全て揉み消されていたとしても、物部司令やしーちゃんまで含めた情報網の前には丸裸も同然。
「沈没船の名前は『
ここからの説明は物部司令から。沈没船の名前から、その素性を調べ上げていた。当然ながらその存在自体が記録から抹消されていたらしいが、そんなことお構い無しに全てが記載されている。何処でどうやって造られたかまで。
実際その客船は、本来の仕事である旅をする目的で使われていたわけでは無く、ある意味人を運ぶという理由だけで使われていたらしい。
「近くには行けたけど、中を見ることは出来なかったんだよね。船室の窓みたいなところからちょっと見えたけど、沈んで時間が経ってたせいでグッチャグチャだったし」
「12年も経てばそうもなるだろうね。原型がある程度残っていただけでも充分さね」
確かに、どんな造りの船かは知らないが、海底にずっとあるのに朽ち果てていないというのは運が良かったのかもしれない。それこそ、太陽の姫が拠点にしてくれていたおかげで残っていてくれた可能性もアリ。
「で、その沈没船は何故沈んだんだい」
「それがですね……正直目を疑いました。
私達が耳を疑う番だった。
魂への侵食だとか、世界に選ばれし者の攻撃が弱点だとか、確かに太陽の姫はオカルト要素がやたら多いとは思っていた。海を染め上げ、渦潮を巻き起こす、天変地異を起こすような奴だし、見た目も邪神そのもの。
だからといって、そもそもがそういう宗教的なものが関わってくるというのは殆ど頭に無かった。ならどうして深海棲艦なんてものが生まれたのかと言われたら何とも言えないのだが。
「それはまた……突飛なところに行ったね」
「社会の裏側で動いていたような組織で、表沙汰にもならなかったようなのですが……構成員はそれなりの数がいたようです」
12年前となると、私は当時3歳。実際はもっと前になるか。そんな宗教が拡まっているなんて当然知らない。そしてそれは、ここにいる面々の誰もが知らないことだった。おそらくこの場にいる中で一番歳上であろう空城司令も、そんな話を聞いても全くピンと来なかったようだ。
あの船、羽裏号だったかがあの海域にいた理由は、それこそ邪教崇拝の一環らしい。細かいところまでは流石にわからなかったようだが、その崇拝対象が海系のモノのようである。
で、あの場所でミサでも開いていたのでないかというのが今のところの辿り着いた答え。そうでも無ければ、誰にも見つからずにあんな場所に行けやしない。まず出港したこと自体が有耶無耶にされている。
「沈んだ理由は……その客船を使ったミサを潰すためでしょう。何でも、その宗教団体は一般人に気付かれないように規模を大きくしていて、政界にまでその手を伸ばしていたようですので」
「なんだいそりゃ……それで船ごと沈めたってのかい」
「はい。痕跡は見つからないでしょうが、おそらく内部で工作員が動いて、そのままエンジン部分を破壊したのだと思います」
その辺りはまだ憶測の域を出ないのだが、船体の残り方から考えて、どう考えても内部で皆殺しにした挙句に船の一部を破壊して沈めたとしか思えない。
「私からもいいでしょうか。工場長経由でそれに近しい話をいただきました」
しーちゃんが挙手。裏側で自分の使える限りのコネを使って情報を掻き集めた結果、私達もよく知る工場長からの情報により宗教関係の内容は手に入れていたらしい。
なんでも工場長が聞いた話というのは、とある人の友人が知らない宗教にハマり込んでしまったことで縁を切ったのだが、それからしばらくして音信不通になったという話だそうだ。沈没船に繋がる話では無いのだが、時期が近しいということで念のため伝えたとのことだが、物部司令の話からしてドンピシャの可能性が高い。
「あと、
あの工場長、今でこそ海沿いの工場で鎮守府の協力をしているが、今の職場の前は造船業に携わっていたらしい。何に使われているかは知らず、ただ依頼通りに船を造り上げる仕事だったようで、当時は何の疑いも無かったようだ。今になって羽裏号の話が出てくるとは思っても見なかったと驚いていたのだとか。まさかこんな形で使われていただなんて思わなかっただろう。
「なんでこれを大本営が早急に対処したがっているかだが……まぁ概ね見当はつくね」
「はい。大本営の誰かがその宗教の関係者、もしくは船を沈めた工作員に指示を出した者でしょう。情報の揉み消しが可能なくらいですし、最悪、
尻拭いという考え方は、あながち間違っていないのではないか。その宗教団体を始末したことで太陽の姫が生まれてしまったから、自分が上に立って何も知らない正義の心を持つ者達を集めて対処しようとしているとなれば、いろいろと辻褄があう。邪教崇拝を潰すためとはいえ、やったことは倫理を無視した大量虐殺。上に立つ者としては汚点になるだろう。
目覚めたばかりの時の村雨の言葉、太陽の姫は
「……太陽の姫は、
ここでボソリと村雨が呟いた。一番の側近として働いていた村雨の言葉に、全員が注目した。おそらく村雨は、あの沈没船の中のことも知っている。太陽の姫の巫女なのだから、傍に立つためにも巣の中に入ったことはあるはず。
「根拠があるのかい」
「あの船の中に
依代、つまり私のような選ばれた者が、あの海底に存在しているということか。
いや、そうでもない。依代という言葉を使ったくらいなのだ。太陽の姫の在り方は、私達とは少し違うのかもしれない。
「太陽の姫は、私達とは違う。私達の前に出てきているのは、依代から離れた……いわば影みたいなモノ。あの姫を倒したところで、依代がいる限り蘇るわ」
確かに、太陽の姫は人間とは違った異形だった。下半身が無く、深海棲艦だというのに海面に足をつけることなく
それが依代の影だと言われれば納得出来てしまう。だが、影からの分霊で深海棲艦に変えられていたとするのなら、本体はどうなっているのだろうか。その辺りはよくわからない。
「まさか……沈んだ羽裏号の中に生存者がいたということですか!?」
「そこまでは私にはわからないけれど……『雲』として10年働いていた私に言えるのは、あの船の奥に依代がいるってことだけ」
とにかく、あの船には依代がいる。それがいる限り、あの太陽の姫は倒れない。倒れたところで蘇る。逆に言えば、依代がいなくなれば、太陽の姫は終わる。その依代が沈没船の内部にいるから、あの異常過ぎる防衛線が張られているのだろう。それを聞いてしまっては、あの戦術というかやり方も理解出来る。
湧いて出てくる深海棲艦達も似たような存在なら、そっちも辻褄が合う。依代は無いかもしれないが、倒したところでまた生まれる。強行偵察の時に見た無限の防衛線だ。それを攻めに使ってこないだけマシかもしれない。使えないという可能性もあるが。
「オカルト要素ばかりだと思ってはいたが、敵は完全に
お手上げとは言わないが、撃破が困難であることは間違いない。依代という弱点がわかったとはいえ、あちらはそれを守るために必死になっているのだから、一筋縄ではいかない。
「そりゃ陽炎を欲しがるだろうよ。自分の汚点を早急に消したいから、戦力を増やして沈没船を全部潰すって考えるのも無理はない。汚点を消したい割には自分の手を汚さないなんてクソみたいな考えだがね」
「もしかしたら、自分がM型異端児になりたいなんて考えも……」
「無いね。断言出来る。だったら最初から艦娘なんて作らずに自分を実験台にして対策を練る。それをしていない時点で、自分は命を張ろうと考えてない証拠だ」
あくまでも自分の地位を守ったまま、自分の汚点だけを消したいという、力を持った既得権益者ならではの思考。巻き込まれるこちらとしては堪ったものでは無い。
特に私は、回り回って世界に選ばれるという巻き込まれ方をしているのだ。本を正せば、その邪教崇拝だかなんだかを穏便な手段で止められなかった当時の連中が全て悪い。関係者全員がこの戦いの原因である。
「なら、その依代っていうのも邪教崇拝してたってことなのかしら」
当然の疑問を陸奥さんがぶつけた。確かに、その依代も同じく崇拝者だと考えるのが妥当。あの船に乗っていたということは、そういうことに他ならない。
宗教にのめり込んだ結果、あの船の中で虐殺の現場に遭遇したものの何故か生き残ってしまったようだが、その信仰心から太陽の姫の依代となっていると考えられる。
「それに関しては申し訳ないですが調査中としか言えません。あの船にどれだけ乗っていたかなどは、流石にすぐにはわかりませんでしたから」
「そうよねぇ。そもそも出港自体が揉み消されてるのに、乗っていたのが何処の何奴かなんて簡単にはわからないか」
とはいえ、あの船が何かはよくわかった。大本営との繋がりも殆ど見えたようなものである。
ここからは、それを踏まえた対策を練る必要があるだろう。私が使っていた初月インナーのように、オカルト要素盛り盛りの武装などが用意される可能性が出てきてしまった。
そもそも海の亡霊みたいな深海棲艦なのだから、オカルト要素が付いて回ってもおかしくないでしょう。