異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
物部司令も交えた、沈没船に関する調査結果の発表は終了。その内容は、普通では考えられないような内容ばかりだった。邪教崇拝に使われた客船、羽裏号があの沈没船の正体であり、それを潰すために乗客諸共沈められたのである。
大本営にはその揉み消された事件の関係者が間違いなくいる。それについてはまだ調査中ではあるのだが、その事件の真相を知られるまでに早急に揉み消したいが故に、私、陽炎の力で艦娘を増やして全てを終わらせようとしているのだと予測された。
また、その話の中で村雨の証言から、太陽の姫は沈没船に存在するという依代をどうにかしない限り、無限に蘇るということが判明。そしてその依代は、
未だに生きているのか、ただそこに在るだけなのかは定かではなく、その人間の素性すら一切不明。とはいえ、邪教崇拝者の虐殺に巻き込まれた結果、太陽の姫に成り果ててしまったのだとしたら、あんなでも被害者といえば被害者。
「では、今日1日だけよろしくお願いします」
「ああ、構わないよ。諜報部隊は撤収になるのかい?」
「ここまで来たら最後までお付き合いさせていただきます。と私が決めてしまうのも良くないと思うのですが……全員やる気満々のようで」
本来の諜報部隊の仕事は、沈没船の素性が判明した時点で終わったようなものである。神州丸さん筆頭にそれなりに長くこの鎮守府に出向してきている諜報部隊は、言ってしまえばお役御免。撤収という流れでも問題は無かった。
しかし、物部司令が言う通り、諜報部隊全員が最後までここにいると進言したらしい。元々は終了日程未定という状態でここに出向してきているようなので、太陽の姫との戦いが終わるまでここにいることも問題無し。
「乗り掛かった船であります。そもそもの人員が足りていないこともある故、我々の力も貸したいと思ったのでありますよ」
「調査と取材以外もやっておいた方がいいですからねぇ。敵が無限湧きとなると、これでも戦力少ないくらいですよぅ」
そう言ってもらえるのなら、お言葉に甘えて力を貸してもらうのがいいだろう。空城司令もそう言ってもらえるのならと快く受け入れていた。
青葉さんの言う通り、戦力が足りないのは顕著だ。太陽の姫だけならず、他の深海棲艦も無限に湧いてくるようなもの。全滅はさせられないにしても、『雲』との戦いの時のように足止めなどをしてもらう必要がある。
「私達も、提督にお願いしてもう少しここにいられるようにしてみますね〜」
アクィラさんもそう言ってくれる。元々の予定では今日合わせて後3日の滞在期間の予定だったが、決着までに時間がかかりそうならもう少しいてくれるとのこと。
呉内司令が管轄する鎮守府も領海が何やら騒がしいらしいので、緊急時はいつでも撤収の流れではあるが、そうでないのなら滞在してもらえる方向に持っていくようだ。
「なら、皆最後までよろしく頼むよ。攻略法をまず考えなくちゃいけないがね。あとは大本営との繋がりの部分かい」
「1日だけですが、私もここでお手伝いさせていただきます。今持っている情報を共有しましょう」
裏側は司令達に任せることになる。沈没船と大本営が何かしらの関係を持っているところまでは来たのだから、そこを詰めていくのだろう。というか、私達には触れられないところである。
実際それが決戦に繋がるかどうかはわからない。素性を知って弱点を見つけるというのが最初の目的だったのだが、依代という最大級の弱点の存在が判明した時点で深追いする必要は実際無い。
だが、余計な横槍は入らなくなるだろう。もしくは横槍が苛烈になるか。空城司令のことだから、後者のようにはならないように言いくるめるとは思うが。
あまりにも真っ黒な大本営の裏側は、ちゃんと知っておかないと後々面倒なことが起きそうである。そうならないようにするためにも、今から動いてくれるようだ。
「時が来るまで、普段通りに過ごしておくれ。あの強行偵察のとき以上の戦いになることは目に見えてるからね。哨戒任務も必要だろうし、せっかくだから演習をしてくれても構わないよ。艤装の修理は全員分終わっていると聞いているからね」
私達は出来る限りのことをするべきだ。せっかく増援がいてくれるのだから、演習を繰り返すことも出来る。というか
「じゃあ解散だ。各々、その時を待っていておくれよ」
改めての決戦の時は近い。それまでは普段の生活をしつつ、英気を養うことにしよう。心身共に完璧な状態で、最後の戦いに臨みたい。
「陽炎、少しいいだろうか」
会議が終わってみんながバラバラと部屋を出て行くとき、長門さんに声をかけられた。今までのことを考えると、やはり長門さんから話しかけられるというのは少し嬉しかったりする。
長門さんはとても真剣な表情だった。これは軽い話ではない。こちらも心を落ち着けて面と向かう。
「何かあった? 随分と神妙な面持ちだけど」
「頼みがある。私にもう一度分霊をしてもらえないだろうか」
突然何を言い出すのだ。私の分霊を受けることがどういうことかわかっているのに。
「いやいやいや、長門さんにはもう必要無いと思うんだけど」
「村雨の持っていた、あのお方……太陽の姫への忠誠心を討ち払うことが出来ただろう。それを、私にも施してもらいたいんだ」
長門さんは未だに太陽の姫への忠誠心が残ってしまっている。ようやく敵として認識出来るくらいにまでは回復し、協力者としていろいろと手を尽くしてくれるようになったのだが、手出しは出来ないと自分で言うくらいである。
それを完全に失うことが出来る手段があるのなら、そうしてもらいたいと望んでいるのだ。今この時でも、唯一太陽の姫サイドの感情を持ち合わせてしまっている長門さんの、最後の願い。
ただ、これは未だに諸刃の剣だ。村雨にはうまく行ったものの、長門さんにうまく行くとは限らない。太陽の姫直々の分霊である村雨と、巫女からの分霊である長門さんでは、分霊の質が違うからだ。
それに、長門さんの忠誠心は穢れから来る魂の変質とかではなく、長年の心酔で出来てしまった
それこそやってみなくちゃわからないが、うまく行ったとしても、長門さんから艦娘の力が失われたりする可能性すらあり得る。魂が黒ずんでいるからこそD型異端児の力を持っているだけで、それを綺麗にしてしまったら艦娘ですらなくなるかもしれないのだ。それは長門さんが望んでいる結末なのだろうか。
「……本当にいいの?」
「前に言ったろう。私も一矢報いたいと。皆が命をかけているとき、私だけは戦えないのが歯痒いんだ」
敵対心は生まれても、忠誠心のせいで拳を振り上げることが出来ないと語っていた。今もまだ、その感情は残ってしまっている。徐々に小さくなってはいるが、完治はいつになるかわからない。むしろ治るかもわからない。一生抱えていくことになる可能性もある。
「沖波への処置ではまだ確証が無かったが、村雨への処置で出来るということがわかったんだ。だから、頼まれてくれないか」
ここまで思えるようになったのだから、殆ど完治しているようなものな気はする。ここでの生活と、長門さん自身の心持ちが、ここまで道を拓いてくれたのだ。最後の忠誠心の壁は、ちょっとしたきっかけで打ち砕かれるのではないだろうか。
今からの分霊がそのきっかけになるかもしれない。だが、道を閉ざしてしまうかもしれない。なかなか悩ましい相談だった。
「それ、司令には」
「勿論話してある。許可は貰っているんだ」
だが、実際に処置をするのは私なので、最終的には私の意思を尊重するとのこと。司令としては、新人とはいえ戦力が増えることは願ってもないことだし、それが長門さんの立ち直る最後の一押しになるのなら尚更だと語ったという。
「……わかった。でも、万全の準備してね」
「すまない、恩に着る」
ならば、それに応えてあげたいというもの。私にしか出来ないことなのだから、私の意思で長門さんに手を差し伸べたい。
処置の場所は相変わらず医務室。流石にこの処置をするのだから空城司令としーちゃんは同伴。同期値の計測をしながらの処置がいいだろうということで、速吸さんにも付き添いをお願いしている。
そして、長門さんのことなのだからと今回は陸奥さんが便乗。仲のいい姉妹関係が継続出来ているようで何より。最初の大喧嘩はある意味いいきっかけになったようである。
「姉さんのあられもない姿が見られるかもしれないんでしょ? それはもう要チェックよね」
「陸奥……勘弁してくれないか」
苦笑しながら機材が接続されていく長門さん。大人の余裕というか、本来の冷静な性格がしっかり表に出てきているというか、そんな感じ。
「はい、これでオッケーです。陽炎ちゃん、処置をどうぞ」
「了解。じゃあ長門さん、あの時よりも酷いかもしれないけど、耐えてね?」
「ああ……覚悟の上だ」
魂に直接触れるのだから、上っ面を中和するのとは訳が違う感覚に襲われるだろう。村雨の時は眠っている状態で処置したというのに、ドッタンバッタン大変なことになっていた。意識がある状態でそれを受けるのだから、それ相応の痴態を晒す羽目になってもおかしくない。それでも覚悟の上だと言うのなら、躊躇う必要は無い。
早速長門さんの胸元に指を突き入れる。もう何度目かもわからない分霊治療のため、ここまでは慣れたものである。問題はこの先。
「っお……っ」
魂にまで指を突き入れた瞬間、長門さんが息を呑むのがわかった。そして歯を食いしばったのも。余程の感覚と見える。
「ところどころが黒ずんでる。真っ白にすることは出来ないかもだけど、なるべく綺麗にしていくよ」
そこから侵食を解き放つように分霊を始める。巫女による分霊だからか、太陽の姫の分霊と違い綺麗になる速度が段違いに早かった。そのため、より一層慎重にやらなくてはいけない。
「っく、くぅ……っ」
それすらもしっかり耐えている長門さんの胆力が恐ろしかった。握り締めた拳は震え、顔は真っ赤になっているが、それ以上の痴態は一切見せない。だが、普通とは違う反応ではあるので、陸奥さんはその光景をやたらニコニコしながら見ている。
「D型同期値、少し落ちました。50落ちて270」
「陽炎、これで今どれくらいだい」
「明らかに黒ずんでるってところは大体取れた感じ。やっぱり巫女の分霊はちょっと違うみたい」
太陽の姫と巫女は雲泥の差。劣化コピーと言っても良いほどだった。代わりに、蝕み方が違う。純然たる悪意によって魂を染め上げる太陽の姫の侵食に対し、
余計なことをすると侵食してしまいかねないため、黒ずみを取り除いたらそのままにしておく。まだ完全に白くなったわけではないが、おかしいと思える部分はこれで失われた。
「一度止める。段階踏んでやった方がいいと思う」
分霊を中断。指はまだ引き抜かないが、このままであれば長門さんにも余裕ができるはず。
「長門、大丈夫かい」
「……はぁ、はぁ……大丈夫だ。少しクラクラするが」
意思を持ったままの魂への分霊だ。思考を弄られるような感覚に襲われ続けただろう。それが痛みも苦しみもなく、ただただ
「恐ろしくもあるな……太陽の姫への忠誠心が殆ど無い……。だからといって、別に陽炎に対してそういう感情があるわけでも無い。頭がフワフワするが……思考能力に手を加えられたようなものか」
「言い方は悪いが、
確かに、催眠治療とはその通りかもしれない。悪い部分を取り除き、元に戻す催眠。過剰にやり過ぎるとまさしく洗脳になり得るだろうが、そこは私の力。束縛ではなく解放の力だ。そうはならないはず。
危惧していた、分霊をしても治らないという事態も避けられた。最後の忠誠心は、この魂の黒ずみが原因だったわけだ。取り払わなかったら最後まで残り続けたかもしれない。この治療は大正解だった。
「なら、これで終わりにしよう」
「おふっ」
指を引き抜いた。最後の衝撃で大きく身震いしていたが、それでおしまい。
「……すごいな。何というか、気分が晴れやかだ。罪悪感は無くならないが……奴への忠誠心はもうカケラも感じない」
「なら、姉さんも艦娘として戦えるわけね」
「ああ、今なら太陽の姫にも拳を振り下ろせる」
グッと拳を握って微笑む。今までずっと苛まれていた忠誠心は今ここに失われ、長門さんは真に人としての自分を取り戻したのだ。
「提督、かなり遅くなってしまったが……この長門を艦娘として使ってもらえないだろうか」
「アンタの意思が強いのなら、アタシは構わないよ。だが、間宮と伊良湖が何て言うかね」
「そ、そこを言われると、少し困るな。彼女らにも恩がある。正直な話、食堂の手伝いは今後も続けていきたい」
「どちらもやれるようならやってくれりゃいいさね。それはアンタの意思だ。アタシは尊重するよ」
確実に表情が明るくなっていた。罪悪感は残っていても、忠誠心が失われたことで、心は解放されている。
「歓迎する、戦艦長門。アンタの意思は、充分に受け取った」
「ああ、改めて、よろしく頼む」
ガッチリと握手して、長門さんは
戦艦長門復活。とはいえド新人になるので、村雨と一緒に基礎から猛特訓となることでしょう。決戦に間に合わせるのなら、そうなるよね。