異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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本来の姿ゆえ

 私、陽炎による再度の分霊により、長門さんから太陽の姫に対する忠誠心が取り除かれた。これで長門さんも改めて艦娘として鎮守府に加わることになる。戦艦という戦力が増えるのはとてもありがたく、それを特に喜んでいたのは、長門さんの艤装姉妹である陸奥さんである。

 

「姉さんと戦えるなんて、感慨深いわね。最初は()()()だったのに」

「蒸し返さないでくれ。今の心境で思い返すと恐ろしく恥ずかしい」

「あら、黒歴史ってやつ?」

 

 忠誠心から生まれる敵対心も全て取り除かれたおかげか、陸奥さんとの会話も本当の姉妹のようになっていた。最初を知っていると大きく変化したことがわかる。構われるだけで嫌な顔をしていたのが嘘のようだった。

 治療が終わった後、すぐに食堂に向かって間宮さんと伊良湖さんに話をしたところ、ほんの少しだけ寂しそうにしたものの、復帰を心から喜んでくれた。そして、とんでもないことを言い出す。

 

「なら、長門さんの特訓は私と伊良湖ちゃんで見ましょうか」

「そうですね、それがいいです。空いてる時間を使って鍛えましょう」

 

 間宮さんと伊良湖さんといえば、たった5分の最高戦力。給糧艦という本来戦闘に参加出来ない艦種でありながら、体力を前借りするような形で誰よりも強い戦力となる。深海棲艦化した私達を止めてくれたのも、鎮守府に接近する太陽の姫を食い止めたのもこの2人だ。代わりにその後の3日間は食堂が開けないほどにダウンしてしまうが。

 その2人が、直々に長門さんを鍛え上げると言い出した。それなら短時間で飛躍的に戦力が上昇するかもしれない。むしろ誰もが羨むような環境である。今までずっと食堂を手伝ってきた長門さんだからこそ、2人が最後まで付き合おうと考えたようだ。

 

「日頃から筋トレくらいはしてるもの。長門さんなら即戦力よ」

「そうか……なら、よろしく頼む。私も食堂の手伝いは欠かさない」

「ふふ、3人で給糧艦ですもんね」

「私は給糧艦では無いのだが……」

 

 ここはもうそういう組み合わせとして認識するのが良さそうである。戦艦兼給糧艦とか、ちょっと艦種がとっ散らかりすぎなのでは。

 

「姉さんのことだし、私も参加させてもらいたいわ」

「どうぞどうぞ。では、長門さんと一緒に一斉射の底上げをしてしまいましょう。しっかり強くなって、最終決戦に臨みましょうね」

 

 陸奥さんもあれ以上に強くなるらしい。2人でのコンビネーションが出来るようになれば、今度は霧島さんがフリーになれるので、より柔軟な動きが出来るようになる。そのためにも、この2人には頑張ってもらうことになるだろう。

 戦艦の艤装姉妹による渾身の一斉射、果たしてどうなるか。ネルソンタッチを超える技に昇華されるだろうか。

 

 

 

 長門さんが艦娘としての道を進むことが決まり、続いては村雨のターン。村雨だって治療によって忠誠心が取り払われ、一緒に戦っていく決意をしている。そのため、まずは艤装のチェックから始まっていた。

 

 しかし、早速躓くことになる。

 

「この艤装、D型なんだよね。でも、村雨は今はM型に戻ってるから、装備出来ないみたい」

 

 ちらりと工廠に様子を見に行くと、夕張さんが困った顔で説明していた。それを聞いていたのは村雨の他には夕立。本当に仲のいい姉妹になったものである。

 

 私の治療により、魂を出来る限り白く戻した結果、村雨は本来のM型異端児に戻っていた。同期値としては沖波よりも高く4000台。もしかしたら、本来はM型異端児側の夕立並みの値だったのかもしれない。魂を真っ白にしたらそこまで持っていけるかも。

 それはとても喜ばしいことなのだが、そのせいで元々ある艤装が装備出来なくなってしまっていたのだ。M型異端児にD型艤装は扱えないというのが普通。村雨も例外では無かった。本来の姿に戻れたが故に、村雨は戦う力を失ってしまったのだ。

 

「じゃあ、むーさんは戦えないってことっぽい!?」

「艤装が無かったら攻撃も防御も出来ないし、そもそも海にも出られないよ。だから、今すぐってわけにはいかないね」

 

 出鼻を挫かれてションボリしている村雨。罪悪感を抱えながらも前を向く決意が出来たというのに、こんな些細なことで道を閉ざされるとは思わなかった。

 

 ここで夕立が私が工廠に来たことに気付き、何か思い付いたように駆け寄ってくる。夕張さんが何か話そうとしていたが、夕立はそれに気付いていない。

 

「ゲロ様、分霊って()()()()()()()っぽい!?」

 

 何を言い出すかと思えば、そんな無茶苦茶が通るわけが無いだろう。確かに私は、D型になっていた沖波や村雨を治療しM型に戻したが、それは相手が人間だからこそ出来ること。分霊は私の力を注ぎ込む手段ではあるが、流石に無機物相手に通用するものでは無い。そもそも、指が刺さらない。

 

「無茶言わないでよ。流石にそれは……」

「試すだけ、試すだけでいいから!」

 

 腕を引っ張られ、艤装に無理矢理手を置かれる。あまりにも押しが強かったので、渋々だが夕立の望み通り、村雨の艤装に分霊を施そうとしてみる。これには夕張さんも苦笑である。

 

「とりあえずやってみるけど……夕張さん何か言うことあったんじゃないの?」

「いや、とりあえずやってみてよ。それで型が変わるなんてことがあったら、こっちの手間も省けるし」

 

 それくらいしか言うことは無いようである。

 

 艤装に触れ、指先を基部に添える。そしてそのまま、人間の魂を見る時のように指を押し込んでいった。

 が、勿論進まない。冷たく硬い金属の感触が指先に拡がるだけだった。やってあげたいのは山々だが、これ以上はちょっと無理。

 このまま注ごうとしても、うんともすんとも言わない。それが当然であり、私の力は艤装には通用しないということがよくわかった。私の艤装が特別。あれは女神(母さん)の力があってこその奇跡。

 

「うん、無理。いくらこれが原初の艤装でも、私が触れるのは魂なわけだし」

「むぅ……ゲロ様の艤装が意思持ってるみたいに言うこと聞くって言うから、むーさんの艤装ももしかしたらって思ったんだけどなぁ」

 

 そういう意味では私は特殊過ぎる。世界に選ばれた、太陽の姫の対となる者だから起きているだけ。多分同じ(ことわり)で考えてはいけない。自分でもよくわからないし。

 

「まぁこの艤装をM型艤装に改造することは出来るんだけどね。すぐってわけにはいかないけど、ちょっと時間貰えれば」

「そんなこと出来るの!?」

「内部構造を取っ替えれば、ガワはD型だけどM型ってことには出来るんだよ。というか、結構そういう艤装は多いからね」

 

 海底からサルベージした艤装なら、外見は正常でも中身がグチャグチャなんてこともあり得る。当然その逆も。パーツ取りなんてことすら。その場合、工廠で整備班が手を加えて動くようにするのだとか。

 M型だD型だというのは、全ては艦娘との接続部分だけでの区分である。見た目は何も関係ない。とはいえ、そういう改造をせずにそのまま扱った方が動きはいいのだとか。手を加えていない最初の状態というのが、艤装にとっては最善の状態なのである。

 

「そういうことは早く言ってほしいっぽい!」

「言おうとしたら夕立が聞かずに陽炎を連れてきたんでしょうが!」

 

 あの時に話そうとしていたのはこのことのようである。もしダメなら、中身を替えてどうにか出来ると。夕立がもう少し落ち着いていたら、私が無茶な分霊をしろだなんて言われなかったかもしれない。

 

「でも、ちょっと時間かかるんだよね。艤装の改造だし。これを一回バラして、D型な部分を取っ払って、接続出来るパーツ持ってきて……って感じ」

「そうなんだ……簡単には進まないのね」

「頑張ってすぐに終わらせるよ。こうなるかもしれないって予想はされてて、昨日のうちから準備だけはしてたんだ。午後の間にはスタート出来るように努力する」

 

 私の治療によって、本来のM型異端児に戻る可能性は最初から示唆されていたそうだ。だが、そうならない可能性も無いわけではなかったため、準備だけはして着手をしていなかったとのこと。始めてしまえばそれなりに早めの時間でM型艤装に改造は可能である。

 その改造の前に、まずは空城司令から許可を貰うところから始まるらしい。流石に無断で改造はよろしくない。しかも今回はD型をM型に変えてしまおうという改造だ。特に話をしておく必要があるだろう。

 

 それは夕張さんの方でやっておくということで、村雨は途端にフリーになってしまった。どうもやる気が空回りさせられている気がする。何というか、運がない。

 

 

 

 出鼻を挫かれたことで、工廠からトボトボと出ていくことになった村雨と夕立。本来だったら艤装を装備して、今からでも海上移動訓練に入っていたのだが、そのやる気が霧散させられてしまった。

 午後イチに出来るとしても、この今の時間がフワフワしてしまった。この空白の時間が一番辛い。

 

「はぁ……ままならないなぁ」

 

 すっかり落ち込んでしまった村雨。ようやく回復したのに、前に進むことを環境が阻害してくるというのはなかなか堪える。

 

「なら、今は体力作りっぽい。艦娘はフィジカルも大事だからね」

「そうだね。私達はみんな通ってきた道だよ」

 

 艤装が無くても出来ることはある。私達が改二になるためにやってきた訓練がその1つだ。筋トレ、持久走、遠泳と出来ることはまだまだ沢山ある。特に筋トレは結構大事。今後やる海上移動訓練にも影響があるはずだ。

 長く深海棲艦をやらされていたとしても、人間に戻ったら練度1。あれだけやれていた海上移動は出来なくなり、砲撃の精度もあって無いようなもの。村雨(『雲』)に至っては、海上ではあのクッション型の艤装に腰掛けていたくらいだし、その足での移動は得意では無いのかもしれない。

 

「そう、よね。うん、こんなことで挫けてたら、罪滅ぼしなんて出来ないもの。やろうって決めたんだから、やらなくちゃ」

 

 すぐに気を取り直して、次の道を拾う。前向きに生きていくためにも、こんなところで挫けるわけにはいかなかった。

 

「私も付き合うよ。下半身強化は必要だからね」

「ぽい! 夕立も一緒にやる!」

 

 私もその辺りのトレーニングは必要。『蜃気楼』の連続使用のために出来ることはちゃんとやっておかなくては。夕立はそういうことではなく、ただ一緒にいたいだけ。

 

 そういうところを鍛えるために一番手っ取り早いのは、昨日体験してもらった海防艦とのお遊びなのだが、今日はあちらが対潜訓練中。せっかく五十鈴さんと龍田さんがまだいてくれるのだからと、対潜部隊もやれることを進めていく。

 相手をするのは潜水艦隊。最終決戦ではまた沈没船に近付いてもらう必要があるのだから、より強くなる必要がある。前回ではイヨしか近付くことができなかったが、次は依代の破壊のためにも2人以上は近付いてもらいたい。

 

「速吸さんが空いてたらプラン作ってもらおう。そうでなくても持久走くらいなら誰もいなくても出来るからさ」

「手始めに鎮守府1周行っとくっぽい? 行っとくっぽい?」

「何が一番いいかは私にはわからないから、その辺りは任せるわ。先輩方の通ってきた道を、私も今から急ピッチで進まないとね」

 

 落ち込んでいたものの、次の道が見つかったことですぐにやる気を取り戻した村雨。罪を償いたいという気持ちで、今だけは何処までも前向きになっていた。

 

「むーさん、やる気満々っぽい。夕立も気合入ってきたっぽーい!」

「あはは……だって、せっかく許してもらえたんだもの。本当なら殺されても文句言えないくらいのことをしているのに、私は仲間として扱ってもらえてるんだから、その思いに応えなくちゃね」

 

 小さく微笑む村雨。まだまだ折れていない。むしろ、最初にボッキリ折れていたからこそ、芯が強くなっているのかもしれない。

 

 

 

 みんなが強くなろうとしているところで、村雨だけ置いてけぼりを喰らいそうだったが、これは今日中になんとかなりそうだった。こんな状況に陥っても、村雨自身のやる気が衰えていないのは良いこと。

 

 それなら私達も協力しよう。村雨のやる気を消すわけにはいかない。

 




沖波がD型にされていた時、やろうと思えば艤装をD型に変えることも出来ましたが、あの時は治療の余地も考えて保留にしていました。何をやっても戻れなかったら、改造されていたでしょうね。
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