異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
早速艦娘としての訓練を始めていこうとした村雨だったが、艤装が装備出来なかったため、思い切り出鼻を挫かれてしまった。艤装が改造され、M型異端児でも装備出来るようになってからが本番ということで、今は速吸さんに組んでもらったプランで体力作りから始めている。
今日のプランは海上移動を見越したバランス能力と、下半身の強化を目的とした体幹トレーニング。ただし、普通以上に身体を酷使していくのには変わらず、子供達と遊ぶ以上に疲れるのは言うまでもない。
私、陽炎は夕立と共に便乗。多少は慣れているため、ペースメーカーとして一緒にいてあげるのはアリかなと思う。夕立はそういうのお構い無しにやっていくので、私が引っ張っていく感じに。そういう意味では、夕立はサポーターに向いていない。
「た、立てない……脚が……」
それでも村雨はガタガタになっていた。なるべくペースを落とし、それでもプラン通りに鍛えられるように進めてきたと思うのだが、それでも初心者の村雨には相当キツいことになってしまったらしい。
私はまだ余裕あり。夕立は息すら切れていない。それなりの時間を戦ってきた甲斐があるというもの。
「まだまだ新人だしね。これは仕方ないよ」
「みんなはこんなこと、いつもしてるわけ……?」
「いつもじゃないけど、それなりにはね。演習はこれ以上にしんどいからさ」
外で訓練していたため、海の方を指差す。そこでは、相変わらず霧島さんとサウスダコタさんが激しい演習を繰り広げていた。今回は霧島さんが若干優勢。前回負けているため、ここで勝っておきたいという執念じみたものを感じる。
太陽の姫を撃破するためには、またあの激しい防衛線を潜り抜ける必要があるため、より長く戦うためにも強くなる必要がある。個人技も当然必要なため、ああいう1対1の演習も幾度となく繰り広げられている。
勿論部隊としての演習もやっている。しかも今回は相手側が支援部隊というわけではなく、全ての艦娘からランダムに選んだ6対6。チームプレイの訓練も兼ねているため、あまり組んだことがない相手と連携をすることになる。今ここにいない異端児駆逐艦3人は、そちら側に参加しているところだ。
「あそこに私も参加するのね……」
「そのうちね。すぐには無理でしょ。海の上に立つことも出来ないのに」
「艤装が装備出来るようになってからよね。今日中に出来るのかしら」
そこは今、裏側で夕張さんがいろいろやってくれている。午後のうちに全てが解決し、村雨も海の上に立つことが出来るようになるはずだ。問題は、まともに移動出来るようになるまでにどれだけの時間がかかるかということ。
「むーさんならすぐ出来るっぽい。夕立がちゃんと教えたげるっぽい」
「ありがと、夕立。すぐにでも戦いたいもの。すぐにマスターするわ」
「焦ったら酷い目に遭うから、落ち着いてね」
多分最初は水浸しになるだろう。それは誰もが通る道。一発でうまく行くことはまず無い。村雨に至っては、『雲』の時にその足で海上移動していたわけでも無いので、感覚すらもないど素人。夕立や他の人達がうまく導いてあげられればいいのだが。
「あ、哨戒部隊も戻ってきたね」
村雨の疲れを取るべく軽めのマッサージをしていると、演習よりも向こう側に戻ってくる哨戒部隊の姿が見えた。午前の部も終わりが近いということで、村雨の訓練も一旦終了。お風呂に入って午後の部に備えてもらわなくては。
お風呂に入ったことで、村雨も回復。まだ多少は疲れが残っているようだが、歩くのに支障が出ないくらいにはなっていた。
一応艤装の改造具合を聞こうと工廠に向かったところ、哨戒部隊が司令2人と話をしていた。ひとまず艤装を下ろしたが、何やら急ぎで話さなくてはいけないような事態が発生したらしい。
「ふぅむ……それは本当かい?」
「アクィラさんが言うから、多分間違いないと思うよ。あたしにゃよくわからなかったけど、鷲の目だからねぇ」
哨戒部隊旗艦である加古さんが、少し困った顔で説明していた。というか、部隊の全員が戸惑った表情。
近海の哨戒ではあるものの、また太陽の姫の本拠地周辺にまで近付くコースを通るため、念のためとアクィラさんがその部隊に便乗している。旗艦加古さん、随伴がアクィラさん、プリンツさん、青葉さん、菊月、初月。
そして、そのアクィラさんがその海域で何かを発見したらしい。加古さんが言うには、海上ではピンと来なかったが、鷲の目だからこそそれがわかったのではないかと。
「多分だけれど、あの色がおかしい海域あったわよね。あそこ、
太陽の姫が本拠地としている沈没船の上、渦潮が発生しているあの場所は、海が真っ赤に変色していた。あの戦場にいるときからアクィラさんが忠告してくれていたことであり、諜報部隊と対潜部隊、そして私と沖波は、その真っ赤な海の上に立っている。
渦潮を中心にそれなりに大きな範囲が染まっていたが、アクィラさんは、その範囲があの時より大きくなっているのだと言う。
「戦闘中だったから大体の位置でしか覚えていないし、正確にどれだけ拡がったかは何とも言えないけど、前より早い段階でおかしい色が確認出来たの。なら、拡がってるわよね」
拡がっているか、
「神州丸がその場所の海水を確保してきてくれましたが、無色透明でした。現場を見ていない私には、色が変わっているというのは実感出来ませんでしたね」
「青葉が映像に収めていなければ、多分誰も信じませんよぅ」
ここに持って帰られた海水は、何も変わらないただの海水だったという。成分分析とかが出来たのかはわからないが、とにかくそういうのなら間違いはない。
つまり、あの赤さは海水そのものが染まっているわけではなく、何かしらの影響で赤く見えるだけということ。
「おや村雨、いいところに来てくれたね」
交渉に訪れた私達を見て、ちょうどいいと空城司令が手招き。拒否する理由もないので、村雨に便乗して私達もその話の中へ。
「村雨、あの赤い海はどういう理由でああなっているか知っているかい」
やはり太陽の姫について一番詳しいのは村雨だ。本拠地の沈没船のことを知っているのなら、あの変色した海域についても多少なりとも知っていてもおかしくはない。
「赤い海……太陽の姫の力が届く範囲が、視覚的に表れちゃってるところのことね」
「力ねぇ。奴が持っている力がどういうものかはまだよくわかっちゃいないんだが」
「
私や沖波があの海域に侵入したときは、何も感じなかった。それは深海棲艦ではなかったからだろう。あの赤い海も、色が違うだけのただの海という認識だった。
だが、深海棲艦にとっては心地良い空気を感じると。いるだけで昂揚する空気、村雨は瘴気と表現したが、そういうのが立ち込めているというのなら、あの赤い海の上での戦闘は危険なのかもしれない。
「あー、確かに。青葉はあの場所、何と言うか
「僕もだ。何か得体の知れない空気を感じた。あの色合いから感じただけだと思っていたが……」
ここで青葉さんと初月が気になる発言。私は何も感じなかったのに、青葉さんは違う空気を感じたと言う。
この差は何だと考えたものの、そんなことすぐにわかった。あの場所で何も感じなかったのは私と沖波、M型異端児。対する青葉さんは異端児ではなく普通の艦娘だ。
M型異端児には効かず、普通の艦娘や深海棲艦には何かしらの影響を与えるということは、その瘴気というのはまさか。
「陽炎、アンタはあの海域に入ったんだったね?」
「うん。でも、私は何も感じなかった。沖波もそう言ってたよ」
「ということは、だ。その瘴気とやらは、陽炎の言う『魂の穢れ』ってのが大気中に拡がってるってことになるんじゃないのかい」
私も同じことを考えた。穢れは分霊の結果、魂に纏わり付くようなものだ。太陽の姫から直に分霊を受けるのは別として、そうで無ければM型異端児には一切効かない。それは実証済み。だが、他の艦娘にはモロに影響を与える代物である。
あの場所に長い時間いるだけで、分霊に近い効果があるのだとしたら一大事だ。特にD型異端児。分霊の速度が普通より早いため、最悪の場合、赤い海に入った瞬間に深海棲艦化の可能性すらある。
「陽炎、まずは青葉の魂を確認してもらえるかい」
「だよね、うん、そう来ると思った」
「あ、青葉ですか!?」
少し後退りする青葉さんだったが、最悪の事態になる前にチェックだけはしておくべきである。
それに気付いたからか、物凄い笑みを浮かべたアクィラさんが青葉さんを羽交い締めにした。
「ちょっ、アクィラさん!?」
「アオバ、万が一のことがあったらダメでしょう?」
「そ、そうですけどぉ、心の準備が」
「見るだけなら何も感じないから安心して」
アクィラさんが動きを止めていてくれたので、すぐにでも魂を見ることが出来た。青葉さんの胸元に指を突き入れ、魂に触れる。
「う、うわぁ、本当に何も感じない……見るのとやられるのでは全然違いますねぇ……」
秋雲にはやっているが青葉さんには初めてだ。治療以外ならば何の影響も与えず、ただ内側を見るだけ。それだけで今回の件はわかるはず。
そして、青葉さんの魂に触れた。おそらく青葉さんは普通の艦娘な上、扱っている艤装はM型。異端児程ではないが、真っ白な魂である。
しかし、
「あ、これ……ほんの少し穢れがある」
その魂に小さな小さな穢れらしきものが確認出来た。深海棲艦化から復帰することが出来た者よりは格段に少なく、それこそ
これをそのままにしておいた場合、穢れが拡がって最後は……となってしまいかねない。あの場所に居続けたらより早くなり、離れてもジワジワと蝕むような呪い。
「青葉さん、ちょっと我慢して」
「我慢ってもしかしおっほうっ!?」
そのままにしておくわけにもいかないので、手早く中和。奇声は聞かなかったことにする。
これで青葉さんの魂からは穢れが失われて、また綺麗な真っ白に戻った。深海棲艦化の恐れは無いと言っても過言では無い。
「この感覚はあまり何度も感じたいものではありませんねぇ……ジャーナリストとして自分で体験出来たのは良しとしますけどぉ」
「ごめんごめん。でもそのままにしてたら青葉さん、私達みたいになってたかもしれないんだから」
「なんですかその酷く説得力がある言葉」
あの赤い海に行って、今日で2日。ずっと体内で燻り続けてあの程度の大きさなら、あの穢れが魂を侵食しきるまでにはそれなりに時間が必要なのだろう。だが、赤い海の上にいる状態なら、その速さはわからなくなる。それこそ戦闘中に深海棲艦化なんてことも無いとは言えない。
「赤い海が拡がってるってことは、太陽の姫に辿り着くまでに瘴気を浴び続けるってことになるわけだ。いざ戦い始めたら手遅れって可能性まで出てきちまった」
調査のためにあの場所に居座った時間はそこまで長くない。1時間もいなかったくらいだ。それでこの程度の穢れの蓄積。あの海域に行くまでに赤い海を通らなくてはいけないとなったら、より大きくなる。
さらには、深海棲艦を昂揚させる効果があるということは、その分強化している可能性もある。太陽の姫に辿り着く前に戦闘をさせられ、時間を稼がれていざ辿り着いたら穢れは大きくなりすぎているなんてことまで考えられる。
「巫女がいなくなったから、見境が無くなったのね……。近付く者を全部取り込んで……」
艦娘だからこの程度で済んだのかもしれない。ただの人間が赤い海に触れた場合、即座に深海棲艦化という可能性すらあり得る。
今までは『雲』という抑制装置的なものがあったからここまでしてこなかったが、それが無くなり、たった1人になったことにより、強硬手段に出てきた。
「アクィラ、午後からも調査を頼んでいいかい。どれくらいのスピードで拡がっているかは知っておきたい」
「
「あと、D型異端児は哨戒から外そう。今回はいなかったからいいが、もし足を踏み入れたら最悪なことになりかねない」
太陽の姫への対抗策もそうだが、赤い海の侵食についても考えなくてはならなくなった。ただでさえ厄介なのに、さらに厄介なことに。
「……ちょっと待て。あの赤い海に入ったのは、諜報部隊だけじゃないだろう。青葉がコレだったんだ。全員に陽炎の検査を受けてもらう必要がある」
「僕も中和をお願いしたい」
「すぐにやるよ」
ここにいる者では後は初月。これはすぐにでも終わらせられる。だが、あの場にいた他のメンバーを思い返していた時、空城司令の顔が歪んだ。
「あとは……まずい、
それは本当にまずい。松輪はM型異端児なので心配はいらないが、占守と大東はそうではない。侵食をモロに受けている可能性がある。昨日までは正常だったとしても、今はおかしくなっているかもしれないのだ。
違う方向でてんやわんやになってきた。この呪いだけは早急にどうにかしなければ。
海防艦の深海棲艦っていないんですよね。出てきたところでってところはあるかもしれませんけど。潜水艦でしか最短ルート通れないのに、ボスが海防艦の姫とかだったら笑うしかない。