異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
太陽の姫が本拠地としている赤い海に入った者は、M型異端児で無い限り、その時点で魂への侵食を受けるということが判明してしまった。さらにその赤い海は現在進行形でその範囲を拡げているという。
強行偵察の際にあの海域に入った者はそれなりにいる。ひとまず今回の哨戒部隊である青葉さんと初月はその場で治療を施したが、残りも早急に治療する必要があるだろう。
特にまずいのが、潜水艦隊とそれを沈没船に近付かせるために奮闘していた対潜部隊だ。あの中には、艦娘の中でも一番若いと言っても過言ではない海防艦が含まれている。松輪はM型異端児のため心配は無いのだが、占守と大東は影響を特に受けている可能性があるのだ。
哨戒部隊は青葉さんと初月の処置が終わったため、そのまま休憩に入ってもらう。私、陽炎は訓練している対潜部隊と潜水艦隊が戻ってくることを待つ。便乗していた夕立と村雨はこの治療にも付き合ってくれることになった。
空城司令も勿論この場に残るが、物部司令は今のうちに他の諜報部隊の面々、神州丸さんと秋雲にこのことを伝えておくと執務室へと戻っていった。治療がどういうものかを青葉さんのそれで見ているので、呉内司令の時のように少し居心地が悪くなったのだと思う。それに関しては申し訳ない。
「対潜部隊は今訓練中だったよね。外で見たよ」
「ああ、哨戒部隊が帰ってきたから、そろそろあちらも切り上げるだろうさ。最優先は海防艦、次が潜水艦隊だ。侵食されていなくても確認はした方がいい」
私にしか出来ない治療法。空城司令の指示で、私が1人ずつ確認し、魂に穢れがこびりついていた場合はそれを中和する。
だが、この治療には過剰な快楽を伴う。先程やったように青葉さんや初月くらいに身体が出来上がっているのならまだしも、占守と大東は本当に子供だ。凄まじい背徳感が付き纏う。
「何もなってないことを祈りたいなぁ」
「あの子達も艦娘だ。子供とはいえ、柔じゃないさ。信じてやりな」
そうであってほしい。負担はかかるが、死ぬ程ではないはずだ。そのままにしておくよりは確実にマシ。そう思って処置に当たろう。
そう話しているうちに、訓練を終えた対潜部隊と潜水艦隊が工廠に戻ってきた。見た目は至って普通。体調不良を訴えるようなことは今まで無かったようで何より。青葉さんや初月と同じように、無自覚なまま侵食されているようである。
「あ、陽炎おねーさんっしゅ!」
「お出迎えかしらね〜」
占守は龍田さんと、大東は五十鈴さんと手を繋いでここまで戻ってきた。強行偵察の際に随分と仲良くなった様子。松輪は相変わらず大鷹と一緒である。
この6人は松輪を除く5人が治療対象。相手がいくら援軍だとしても、これに関しては容赦なく行かなくてはいけない。
「もうマジで容赦無さすぎなんだけどぉ!」
「爆雷の音で耳がキンキン言ってるー」
同時に海中からも潜水艦隊の4人が浮上してきた。対潜部隊にボッコボコにされたらしい。その分さらなる成長もあったようで、練度はしっかり上がった様子。
そして残念ながらこの4人も治療対象。特にイヨは沈没船に一番近付いているため、もしかしたらこの中でも一番侵食が進んでいるかもしれない。対潜部隊と同様に、見た目と態度にはその影響は見当たらず。
「陽炎ねーちゃん、なんでここにいるんだ?」
「これについてはアタシが詳しく説明する。割と厄介な事態に陥っているから、心して聞いてもらいたい」
空城司令の深刻な表情に、戻ってきた10人も少し真剣な態度に。子供達も普通ではない空気に少し緊張している。
そもそも、村雨はさておき、夕立がこの状況で静かにしているというだけでも事態の深刻さがわかるというもの。冗談ではないということがヒシヒシと伝わってくるだろう。
「アンタ達は、太陽の姫がいる赤い海に足を踏み入れているね?」
「そうね。対潜部隊は全員がそこに入ってるわ。やたら重苦しい雰囲気だったから、嫌でも緊張感が走ったのを覚えてるわね」
「イヨ達も当然だね。踏み入れたっていうか、潜っていったけど。五十鈴さんの言う通り、こっちもなんか神妙な雰囲気感じたかな。本拠地のところだし、緊張しちゃってんのかなーって思ったけど」
青葉さんと同じような証言。海中でも同様の効果があるようである。
この2人の発言から、みんながそうだそうだと同意を示す。やはりあの場所で何かしら普通とは違う空気を感じ取っている。それが太陽の姫が撒き散らしている瘴気であることは当たり前だが気付いていないのだが。
「あの……まつわはそんなの……かんじなかった……です」
でもただ1人、松輪だけは瘴気を感じ取っていない。私と沖波だけならさておき、松輪までもがそう言うのだから、やはりM型異端児にだけは効かないということが確定。
「まつわ……みんなとなにか……ちがうんですか……?」
「いや、これは予想通りだよ。松輪だけがその空気を感じ取れなかったから、ほぼ確定だった予想が完全に確定した。陽炎や沖波でも感じ取れなかったんだからね。松輪は何もおかしくないよ」
「そ、そう、ですか……よかったです」
少し安心した様子。周りと自分だけが違うと言われたら、これくらいの年頃なら不安になるだろう。
むしろ、よく勇気を出して同調せずにいてくれた。嘘をついてでも仲間外れを嫌ってもおかしくないと思うが、そこはやはり艦娘ということか。虚偽の報告は仲間を危険に晒す可能性があるのだから、必ず嘘偽りない言葉を包み隠さずに話してくれる。
「あの場所に長くいると、魂を穢され、
シンと静まり返った。分霊ならばもうみんなわかっていることだが、空気感染だなんて話は今まで出ていない。私達だって初めての事態に驚いているわけだし。
「ちなみに、もう実例が出ている。諜報部隊としてあの海に足を踏み入れている青葉と初月が侵食されていることを陽炎が調査済みだ。アンタ達が戻る前に治療も終わらせているがね」
言葉だけなら絵空事と感じてもいいのだが、既に実例が存在し、治療すら終わっているとなると話が変わる。深海棲艦化の恐怖は私達が身を以て教えているのだから、そんなことにはなりたくないと感じるのが艦娘としては普通。
「陽炎さんなら治療出来るものでしたよね」
「ああ、例の分霊による中和で治療は出来る。だが、理解しているとは思うがその時に
大鷹の言葉に、空城司令が即座に返す。すぐに治療をしてしまえば、深海棲艦化どころか敵対の恐怖も無い。
しかし、その
「で、だ。いの一番に子供達の検査をしたい。身体が小さい分、侵食が速いなんて言われちゃ困るんでね」
「そうなるわよね〜。それがいいと思うわ」
「風邪とかも、子供達の方が悪化しやすいものね。その意見は賛成よ」
これはやはりみんな思うことだったようで、子供達の治療は早急ということで収まる。残りは順次。
「まさかとは思うが、治療を受けたくないなんていう奴はいないね?」
最後に念押し。少し脅すような感じになってしまっているが、ここで治療を拒むようなことがあった場合、その理由を問い詰めなければならない。既に侵食が酷いところまで進んでしまっているか、何らかの意思があるか。痴態を見せたくないというのであれば、ちゃんと個室を用意する。私と2人きりならまだマシだろう。
どんな理由があれど、裏切り行為に繋がってしまうのはよろしくない。これは拒否しないはず。
「姉貴、ダメだよ。いっくら自分でも体験してみたいとか思ってたとしても」
「い、イヨちゃん!?」
「妹だからそれくらいわかんだからね。姉貴、陽炎さんの例の動画見たときからちょっと拗らせぶべっ!?」
ヒトミがイヨの鳩尾に1発入れた。余計なことを言うんじゃないという渾身の一打により、イヨは蹲って黙らざるを得なくなった。
「大丈夫……大丈夫ですから……治療をお願いします……」
先に恥ずかしい思いをさせられたことで、治療による痴態なんてもう苦でも無いとでも言わんばかりに力強くお願いしてきた。さっきのは聞かなかったことにする。他人の趣味嗜好に口を出すのはナンセンス。
対潜部隊の方からも治療を拒否する者が出なかったため、そのまま治療に入ることになる。
「じゃあ、まずは艤装を下ろしてもらいたい。ついでに潜水艦隊は着替えてきておくれ。念のためだが、水着のままはよろしくない。アンタ達はそれ自体が艤装だからね」
「はい……戦う力は失った方がいいということですね……」
「そういうことさね。艤装を装備している状態で暴れられたらどうにも出来ない」
青葉さんの時にはその場でそのまま有無を言わさず治療をしたが、本来はある程度警戒が必要だ。信用していないわけではないが、一番近付いている上に海中にいたイヨに関しては、なるべく警戒したいところ。
「なら、潜水艦隊が着替えている間に、対潜部隊はさくっと終わらせましょ。その方がいいわよね?」
「ああ、すぐに処置を始めよう。艤装を下ろしたら医務室に来ておくれ。あと先にトイレに行っておくんだよ。訓練の後だから、全部スッキリしてから来な」
艤装を下ろすだけでいい海上艦の対潜部隊は先んじて治療をすることになるだろう。まずは海防艦の子供達をどうにかすると言っているのだから、その方がいい。
医務室には私と空城司令だけが入る。村雨と夕立には、念のため医務室の前で待機してもらうことにした。
これに関しては詳細な記録を残さない。青葉さんは自分自身が受けたので、その情報があれば充分だろう。ただ、治療を施されたということだけが報されるのみ。
「治療って何するんすか?」
「あれだろ? 陽炎ねーちゃんが指ズボーッてしてくるヤツ!」
「あー、あれっしゅね! 何だか楽しみっしゅ!」
楽しみにされても困る。子供にあの感覚が耐えられるかどうか。
この治療は対潜部隊全員に医務室に入ってもらって行なうことになった。子供だけでここにいるよりはいいだろう。先程工廠に戻ってきた組み合わせで保護者が出来上がっている。
「陽炎ちゃん、ちょっといいかしら〜」
「ん、なに?」
治療の前に龍田さんにちょいちょいと招き寄せられる。近寄った途端に内緒話のように顔を近付けられる。
「これ、ジッとしていないと処置出来ない感じかしら」
「なるべく動かないでもらいたい。私もある程度は集中するし、暴れられて手元が狂ったらまずい」
「そうなのね。じゃあ、くすぐって笑ってる間にちょちょいというわけにはいかないのね」
なるほど、別の感覚がある内に処置をしてしまえば、
龍田さんはそこまで考えていてくれたようだ。なるべく子供に負担がかからないようにしようとする思いやりはありがたい限り。
「陽炎おねーさん、占守からよろしくお願いするっしゅ!」
「ジャンケンで負けちまったーっ! シムが先でいいぜー」
あちらはあちらでこの治療を遊びか何かと勘違いしてそう。これからどうなるかも知らずに。
「じゃあ、動かないようにするわね。占守ちゃん、ちょっと我慢してちょうだい」
「はいっしゅ! 龍田おねーさん!」
素直に言うことを聞いてくれるのはありがたい。やんちゃな占守でもこういうところはしっかり従順。
龍田さんが押さえつけてくれている間に、占守の胸元に指先を突き入れた。
「ほ、ほあーっ、入ってる、入ってるっしゅ!」
「すげー! 手品みたいだぜー!」
騒がしくなるのは我慢せざるを得ない。これは子供達に我慢しろという方が難しいと思う。何も言わないにしても、松輪だって興味津々にこちらを見てきているくらいだし。
「……青葉さんよりも穢れが多いね。やっぱり子供だから侵食が速いのかもしれない」
「すぐに気付けてよかったじゃないか」
「だね。じゃあ占守、今から治療をするから、我慢してね」
「了解っす!」
意気込みは充分。ならすぐに終わらせてあげよう。慎重にやりすぎて長々とあの感覚を味わわせるのは酷というもの。もう一度や二度では無いくらいにこの処置をしているのだから、慎重かつ迅速に終わらせる。
穢れ自体は青葉さんよりも数倍大きかったが、包み込むとかそういう大きさでは無いため、処置の時間自体はおそらくすぐに終わる。青葉さんでもすぐだったわけだし、占守も速攻だ。
「ひゃんっ!?」
分霊を始めた瞬間、大きな声と震え。龍田さんが押さえ付けていなかったら、身体が大きく跳ねて手元が狂っていた。だが、固定してくれていた甲斐もあり、処置はすぐに終了。範囲が少し大きかろうが、この程度なら数秒で終わる。やはり直に打ち込まれているよりは簡単だ。
「はい、おしまい。よく我慢したね。えらいえらい」
「ふへ……お、終わったっしゅか……」
先程の騒がしさが嘘のようにしおらしくなっていた。少し涙目で、息も荒い。
この様子を見ていた大東まで静かになってしまった。占守の見たことのない姿を目の当たりにしたことで、唖然としているというか、驚きが強いというか。
「次、大東行くよ」
「お、おう! ばっちこーい!」
その意気込みも、治療の瞬間に変わり果て、占守と同じようにしおらしくなってしまう。くたっと力も抜けて、五十鈴さんにもたれかかっていた。
恐ろしいほどの背徳感。だが、治療しなければ深海棲艦化を免れないというのなら、心を鬼にして処置していこう。子供であろうが容赦なく、私の出来ることをしていかなくては。
心臓に負担がかかるようなものだからね。息は荒くなるし、涙目になるし、力が抜けちゃうのは仕方ないよね。事前に司令がトイレに行くように指示したのも、そりゃあねって感じ。