異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
私、陽炎による、赤い海に足を踏み入れた者に対する治療が続く。一番の鬼門であった海防艦の子供達への治療をいの一番に終わらせたのだが、やはりその時の感覚があまりよろしくなかったか、いつもやんちゃな占守と大東も大人しくなってしまっていた。
治療で受ける過剰な快楽は、
とはいえ、この治療により危惧されている深海棲艦化の心配が一切無くなるのだ。これに関しては耐えてもらうしかない。
占守と大東は少しベッドに寝てもらい、2人は松輪に見てもらっておいて、その間に残り3人の治療も済ませる。案の定、3人とも魂には穢れが僅かにこびりついていたが、子供2人よりは症状は軽め。そのため、サクッと治療を終えた。
五十鈴さんは顔を顰めつつ少し震えたがそれくらい。龍田さんは声すらも上げず平然とクリアという無反応。そして大鷹は、こちらが見ていても少し恥ずかしくなるくらいに悶えた。声は上げずとも、その仕草はちょっと人には見せられない。松輪がここにいたが、龍田さんがしっかりガードしてくれている。
「こ、ここまで凄まじいとは……思いませんでした」
「ね。龍田が平然としてたのがおかしいのよ」
「あら〜、私だって感じるものはあったわよ〜?」
どうなるかは事前に知っていたのに、ここまで耐えられるのはもう才能だと思う。あの長門さんですらかなり辛そうにしていたというのに。
「みんな……なおったんですか……?」
「うん、これで大丈夫。心配いらないよ」
「よかった……」
不安そうに尋ねてきた松輪を安心させるように頭を撫でた。念のため松輪の魂も見ておいたが、一切の穢れが無いM型異端児の魂だったのは確認出来ている。ここにいる6人はこれでもう安心だ。
「この子達は部屋に運ぶわ。午後も訓練の予定だったけど、お休みにした方がいいわね」
「なら、お昼寝の時間にしておきます。回復は必要ですし」
「そうね。そうしてあげて。明日には回復してるでしょう」
子供達は午後はお休みということに。一時的な熱のようなものなので、今からぐっすり眠ればスッキリするだろう。大鷹もついていてくれるし、身の安全も心配ない。
「じゃあ、治療は終わりってことでいいかしらね」
「うん、大丈夫。これで何も心配ないから、ゆっくり休んで」
「そうさせてもらうわね〜。じゃあ、運ぶわ〜」
占守は龍田さんが、大東は五十鈴さんが抱え上げ、医務室から退室。治療に対して心配だった子供達の処置が何事も無く終われたのは良かった。今は熱っぽくなってしまったものの、一過性のものなのだから心配はない。
次は治療以前の問題。最も沈没船に近付いたイヨに対しての治療だ。少なくともつい先程までは正常だった。受け答えには何の違和感も無かったし、外見への影響も何も無い。だが、魂への侵食は見てみないことにはわからない。
対潜部隊が出て行って少しして、潜水艦隊の4人が医務室に来てくれた。撤収しつつ呼んできてくれたらしい。
ここに来た直後以外は基本的に水着姿しか見ていなかったので、全員検査着姿になっているのは少し新鮮だった。
「海防艦の子達、なんだかぐったりしてたね。治療受けたせい?」
「子供にはちょっと影響力強くてね。アンタには大丈夫でしょ。イヨ、最初に治療受けてもらうから」
「はいはーい。なんかそうなんじゃないかなって思ってたよ」
イヨが椅子に座った途端、ヒトミが後ろから羽交い締めにした。ここからどうなるかわかっている動きである。頼む前にやってもらえたのはありがたい。イヨもこうなると思っていたようで受け入れているようだし。
私達の痴態を知っているのだから、今から何をされ、自分がどうなってしまうのかは理解しているはず。だからか、イヨも少し恥ずかしげな笑顔を見せる。
「いやぁ、実際にされると思うとちょっと緊張するねぇ」
「それくらいが丁度いいよ。結構激しいから」
イヨの胸元に指を突き入れる。直に見るのは全員当然初めてなので、待機していたウィーとユーがわざわざ近付いてマジマジと見てくる。
「うわ、うわぁ、何これ何これ」
「
かなり近いが、治療に支障は無いのでそのまま続行。イヨの魂にまで指が届く。
「……うわ」
「ちょっ、その声は怖いんだけど!?」
占守や大東よりも侵食が酷い。おそらく強行偵察から帰投した時点で、他より穢れがかなり強めに付いていたのだと思う。
やはり沈没船に近付いたことが大きいのだろう。海上よりも海中。もっと長く沈没船の近くで活動していたら、この侵食は最後まで進んでいたかもしれない。最悪な場合、浮上すら待たずして深海棲艦化していた可能性すらある。
「これは結構重症。直に分霊受けて途中で止められたくらいになってる」
「一時期の由良や菊月くらいってことかい」
「うん、それくらい。分霊喰らってないのにこれって、相当ヤバいよ」
深海棲艦化を体験していないものに限れば、ここまで穢れがこびり付いているのは、分霊未遂を喰らった由良さんと菊月くらいだ。というか、症状自体は巫女からの分霊と殆ど同じ。
太陽の姫の瘴気にやられたとしても、直に分霊されているわけでは無いため、巫女になることは無いようである。どうであれ、深海棲艦化とか最悪以外の何ものでも無いのだが。
「放っておいたらダメだったね。2〜3日で染まり切っちゃってたかも。あ、今も穢れが増えてる」
指先にそれを感じるレベルだった。僅かにだが侵食の範囲が拡がっている。なるほどこうやって侵食しているのか。奴の分霊は束縛の力だから、じわじわと陣地を拡げて魂を包み込み、内側まで染め上げていくような感じである。
それを見ると、私の解放の力が効くのが何となく実感出来た。包み込むのを解き剥がす、束縛を解放する感覚。より強くイメージ出来るようになったので、治療も今まで以上に出来るだろう。
「陽炎さん……強引にやっちゃってもいいので……」
「姉貴!? ちょっと根に持ちすぎじゃない!?」
「イヨちゃんは……お姉ちゃんのこと考えなすぎだから……少し痛い目を見た方がいい」
「見てるじゃんさ! さっき、物理的に!」
小さな姉妹喧嘩が起きているが、嫌でも痛い目を見ることになるから安心してほしい。
「じゃあ、早いところ治療するよ」
「う、うっす、よろしくどうぞ」
覚悟が出来たようなので、早速分霊。先程イメージした、束縛を解き剥がす感じに、イヨの魂にこびり付いた穢れを中和していく。これだけ大きく拡がっていても、中和しづらいとかそういうのは無く、いつもと同じように出来るようだ。
「ちょっ、これ、ヤバい!? にゃあっ!?」
当然ながら、分霊開始とともに悲鳴とも取れない声が上がる。今まで治療をしてきた面々と違い、ただの嬌声ではなく実況までしてくれた。これはもしかして、余裕があるのでは。
「イヨちゃん……どんな感じ……?」
「ひっ、こ、こんなのっ、初めてでぇっ!?」
ビクンビクン震えているが、ヒトミが力業で押さえ付けてくれているので、治療に支障はない。むしろ声が大きいからそっちの方が何かしらの支障になりそう。集中力が途切れてしまいかねない。だからといって口を押さえるわけにもいかず、私が頑張るしか無い。
「うわぁ……乱れまくってるねぇ」
「……後から……ユー達もこうなる……ですよ」
「あ、そっか。なんか嫌だなぁ。頑張って耐えてみようかなぁ」
ただ見ているだけのウィーとユーは、この後自分がこうなるということに気付いて戦々恐々。痴態を晒すことは知っていたとしても、ここまでとは思わなくてもおかしくない。
「イヨ、もう少し声抑える努力して」
「そんなっ、ことおぉっ、言われてもおっ!?」
涙目で首を振りながら中和の快楽を必死に耐えようとしているが、声は全く抑えられていない。抑えるつもりが無かった夕立や磯波よりも下手したら声が大きいかも。
「範囲が広いから、それなりに時間かけるよ。一気にやって勢い余ったら、それこそイヨが壊れるから」
「はっ、早くっ、早く終わらせてぇええっ!?」
結局最後まで声は抑えられず、私が治療してきた中で一番喧しい処置となった。
処置終了。穢れ1つも無い綺麗な魂に持っていくことが出来た。これで再び侵食されるようなことは無いだろう。明日念のため全員再チェックをした方がいいとは思うが、ひとまずは安心。
処置を受けたイヨは、最初から最後まで騒ぎっぱなしだったこともあり、息も絶え絶えである。それでもヒトミがしっかり固定してくれていたおかげで、処置をスムーズに終わらせることは出来た。
「はぁー……はぁー……こんなに酷いとは……思わなかったなぁ……」
「ちゃんと綺麗さっぱりに治療したから安心しなよ。あそこまで叫ばれるとは思わなかったけど。私が悪いことしてるみたいに思われるから勘弁して」
「あれ耐えられないって! 耐えられる人がいたら化け物だよ!?」
さっきの龍田さんを見せてあげたいくらいである。
「イヨちゃん……放すね」
「っとと……フラついちゃう」
拘束していたヒトミが放した途端に体勢が崩れる。あれだけのことがあれば、疲れやら何やらで力が抜けるのもわからなくはない。
「全員終わるまで横になってなよ」
「そうするー……ああしんど」
イヨにはそのままベッドで横になってもらい、治療を続けていくことにする。出来る限り沈没船に近付いた順ということにした方がいいと思うので、潜水艦隊にこれ以降の順番を決めてもらって処置をしていった。
魂の穢れは全員が海防艦以上。これを見る限り、海上よりも海中の方がまずいということがよくわかる。子供の方が侵食されやすいが、現地に近い方が大きく侵食されるというのは実にわかりやすい。
「はい、お疲れ。これで全員だね」
ヒトミ、ウィー、ユーの順に処置をし、それが全て終わる。全員ぐったりしているのは仕方ないこと。快楽の奔流というのは嫌でも疲れを伴う。今までもそうだったのだから、例外は龍田さんくらいしかいない。
だが、その甲斐あって誰もが安心出来るくらいになった。全員綺麗な魂になっている。再調査は予定しているものの、処置した私としては再発は無いと断定出来るくらいであった。一番侵食が酷かったイヨが綺麗に出来たのだから、他の3人も問題無い。
「全員相当だったよ。これ多分、海の上よりも依代に近いからだよね」
「ああ、アタシもそう思う。だがこいつは厄介なことになったよ。依代をどうにかするためには、潜水艦の力が必要不可欠だ。だが、近付けばこれだけ侵食を受けちまう」
ここまで処置を終えたことで今後のことを考える。潜水艦の受けた穢れのことを考えると、太陽の姫撃破はさらに難しいと思われる。
村雨の証言から、依代がある限り無限によみがえる太陽の姫。そしてその依代は沈没船の中。しかし、依代に近付けるのは潜水艦のみであり、少し近付いて確認しただけでも分霊を受ける並みに魂が侵食される。依代に触れられる程に近付いたら、おそらく深海棲艦化してしまうだろう。
つまり、今回必要なのは、赤い海の影響を受けることがない
「M型異端児が沈没船に近付けない海上艦しかいないのが辛いところだ。どうにか出来る手段を考えなきゃいけないね」
「私が使ってた初月インナーみたいなこと出来ないかな。侵食の影響を受けないように出来る装備みたいなのが作れれば」
「打診中だよ。今しーが頑張ってくれている」
オカルトにはオカルトをぶつけるという名目の下、しーちゃんが作ってくれた初月インナー。太陽の力には月の力という冗談めいた理論が、魂の匂いにはしっかり効いてくれた。侵食にも同じような効果が現れればいいのだが。
「……M型異端児しか……ダメなんですよね……」
ここで少し疲れが取れたヒトミが話に入ってくる。
「そうだね。でも、潜水艦にはいないからさ」
「……陽炎さんは……M型異端児を
「作れるだろうけど、やらないよ。人格を壊す可能性があるから、私は絶対にやらない」
ヒトミが言いたいことがわかった。だから先にその案を却下する。少し残念そうにするヒトミだったが、そこはわかってほしい。
「装備でどうにか出来るように考えるさね。ただ、時間はあまり用意されていないがね」
今もあの赤い海が拡がっているというのだから、時間は限られているだろう。あちらの拡げられる限界というのもあるかもしれないが、それでも今より大きくされたら、沈没船に近付くことも出来ずに全員おしまいになる可能性が高いのだ。
ひとまず治療は残り2人、神州丸さんと秋雲のみ。そちらの治療もサクッと終わらせ、太陽の姫の対策を練らなければ。
その前に村雨と長門さんの訓練もあるし、やることはまだまだ山積みである。
ヒトミは静かだけどイヨは喧しいってイメージはありますよね。一切我慢をしなかった夕立や磯波とは別次元の喧しさを発揮したイヨでした。