異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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表と裏の戦い

 潜水艦隊の治療も終わり、残りは神州丸さんと秋雲のみ。この2人の治療は、青葉さんの時のことを考えるとそこまで心配していないため、お昼前にさくっと終わらせる。

 今は諜報部隊の集めた情報を取りまとめるため、執務室で作業をしているはずだ。医務室での治療の場にいづらくなった物部司令が、2人にどういうものかを伝えられているはず。

 

 私、陽炎は、空城司令と共に執務室へ。夕立と村雨は先に戻っておいてもらう。この治療が終わったら食堂で合流するということにしておいた。

 

「おー、ついにうちらの番ですかー」

「大丈夫であります。いつでもどうぞ」

 

 私が執務室に入ったことで、秋雲が少し諦めたような表情を見せた。物部司令から治療の様子を教えられて、少し尻込みしている様子。秋雲は私が治療しているところだって見たことがある。しかし、見るのとやるのとでは感覚が全く違うだろう。

 対する神州丸さんは平然としている。この処置を受けなければ自分も深海棲艦と化してしまうと言われてしまえば、受けざるを得ない。どのような感覚が来てもしっかり耐えようと最初から覚悟していた様子。

 

「話が早くて助かる。陽炎、頼めるかい」

「了解。青葉さんと同じくらいだろうし、さっくり終わらせる」

 

 いろいろと話を進めるために、まずは2人の治療を終わらせてしまおう。ここに来るまでにもう10人近くの被害者を治療してきたのだ。治療はこなれたもの。

 まずは自分にと、神州丸さんが率先して前に出て来たので先に処置。幸いにも魂の穢れは青葉さんと同じように控えめだったおかげで、くぐもった声を出したものの大分耐えることが出来たようで、大きな声を上げることは無かった。

 対する大トリとなった秋雲だが、1発目にそれはもう大きな声を上げ、すぐに口を両手で押さえる。ビクンビクン震えるが、容赦なく分霊を注ぎ、治療完了。

 

「よし、これで赤い海に足を踏み入れたのは全員治療完了だね」

「すまないね陽炎。体力的には大丈夫かい」

「正直疲れてはいるけど、お風呂に入れば大丈夫なくらいかな。村雨に処置した時の方がよっぽど疲れたよ」

 

 魂そのものを解放するのには、穢れを無くしていくことの数倍は疲れた。神経も使うし、簡単にはいかないくらいに染み付いてしまっていたし。それを考えれば、今回の処置はまだまだ出来ると思えるほど軽い。

 

「これは実体験がネタに出来るなぁ……」

「アンタ懲りないねぇ」

「いやいや、これは確実に使わせてもらうよ。不可抗力とはいえせっかく体験出来たんだから」

 

 こんな体験をしても、それを漫画のネタにしようとしているのだから、秋雲は何というか強い。

 

「空城大将、この件も報告という形で良かったんでしょうか」

「まぁ仕方ないだろうね。このことは隠していることの方が問題が大きくなるだろうさ」

 

 治療が全て終わったということで、物部司令が空城司令に尋ねた。

 

 鎮守府の戦力は基本的には大本営に全て報告するというのが軍規にも定められている。どんなことがあったのか、攻略中の海域がどういうものなのか、敵の詳細などなど、鎮守府で発生したことというのは全て報告され、その状況が全鎮守府に報されることになる。

 深海棲艦化した艦娘がいるということも、大本営を始めこの戦いに参加している者は全て知っていること。そして、私がそれを治療出来るということも既に知られている。だから、私を寄越せという大本営からの電話が深夜なんかにかかってきた。

 

 そして、さらに先のこと。赤い海に侵入した者は、瘴気による侵食により深海棲艦化の危険が高いということが情報として加わる。赤い海の侵食を回避出来るのはM型異端児のみであること、その侵食は深海棲艦化と同じように私なら治療出来ることなども、要報告の内容である。

 本当にこれを今の大本営に伝えるべきなのかは悩ましいことなのだが、ここで隠していることの方が問題が大きくなる。それこそ隠蔽で罪に問われて何をされるかわからない。

 

「報告はこちらでもやるし、アンタにもしてもらう。それに、アクィラ経由で呉内の方にも連絡が行くだろう。五十鈴と龍田の上司にも連絡はやっておかないといけないだろうね」

「そうですね。今回の被害者は大事には至っていませんが、援軍全てに関わっています。被害を受け、治療されたという事実は報告する必要はあるでしょう」

「それで文句を言ってくる輩はいないと思いたいがね」

 

 少なくとも、物部司令は私の治療は肯定しているし、呉内司令もこの辺りは信用出来る。私のことも全て理解した上で協力してくれている。

 だが、五十鈴さんと龍田さんの司令は、顔も名前も知らない人だ。あの2人は信用に値することはわかっているのだが、その上司が信用出来るかはわからない。呉内司令とは顔見知りで、信用が置ける相手のはずなのだが、だからと言って確実に害がないかと言われれば答えはNOだ。そこから文句が出る可能性が無いとは言えない。

 

「まぁ、そこは五十鈴か龍田経由でアタシが直接話を付けるさね。出来ればこのままいい関係にしていきたいと思っているからね」

 

 大本営の方も注意が必要だが、あちらの上司となる司令の方ともそろそろ深い関係を持った方がいいだろう。せっかく援軍をくれたのだから、私達に協力しようという気持ちは少なからずあるわけだし、あの2人の活躍や今の行動を見ている限り、ただ手柄の一部を自分のものにするために参加させているわけでもなさそう。

 話せばわかってくれるような人なら、仲間としてさらに協力してもらいたい。

 

「今の問題は大本営だろうね。赤い海のことを伝えたら、まず確実に陽炎の力を使えと言ってくるだろうよ」

「M型異端児の増産……ですね」

 

 先程ヒトミが提案しようとした、M型異端児の増産。赤い海の侵食を受けることなく攻略出来るのはM型異端児のみなのだから、それを増やすことが出来るのならその方がいいだろう。そんなことはその処置が出来る私が一番理解している。

 だが、処置を受けた者が無事でいられる保証は何処にもないのだ。いくら束縛ではなく解放の力だとしても、その力に染め上げてしまうのだから、処置を受けた者は今までと全く違う者になってしまう可能性が非常に高い。それを私が望まない。

 

「人を人じゃ無くす可能性があることはやっちゃあいけない。それでもやれと言ってくるのなら、そいつは艦娘を人と思ってない連中だ。それこそ、邪教崇拝してる奴らを皆殺しにするのも厭わないような奴だろうね」

 

 つまり、ここでわざわざ鎮守府に圧力をかけてくる者が、沈没船を作り上げた張本人の可能性があるということか。

 大本営と沈没船の関係はまだまだ調査が必要かもしれないが、この件で炙り出しが出来るかもしれない。割と諸刃の剣な気がしないでも無いが。

 

「とはいえ、赤い海攻略は早急に終わらせなくちゃいけないことでもある。そのままにしておいたら、陸にまで拡がるかもしれないんだからね」

 

 そのまま拡がり続けて陸にまで到達してしまった場合、もう手が付けられなくなるだろう。極少数しかいないM型異端児だけではどうにもならない。そもそも艦娘自体が役に立たなくなる。

 本当にそうなってしまった場合、意を決して分霊しなくてはいけなくなるかもしれない。それまでに侵食を抑えられる装備とか出来ればいいのだが。

 

「今は出来ることをやっていくしか無いだろうね。調査と準備を並行して続けていく。なるべく早く、だが焦らず、確実に被害を減らす。これで行こうかね」

「ですね。微力ながらお手伝いさせていただきます」

「艦娘には負担をかけないように、大本営絡みのことは、アタシらが全部終わらせてやるさね」

 

 全員の治療が終わったのだから、ここからはまた通常運営だ。私は訓練やら何やらで力を蓄え、最後の決戦に備える。まだまだ勝ち目は見えないが、どうにか掴み取れるように準備していきたい。

 

 

 

 昼食は異端児駆逐艦で集まって。夕立と村雨は私と行動を共にしていたが、他の3人はずっと演習をこなしていた。おかげで練度も大分上がったらしい。

 

「じゃあ、戦いに行けるのって……ひーちゃんと、私と、村雨ちゃんだけ……ってことになるのかな」

「あと衣笠さんと松輪だね。村雨は艤装が用意出来てからになるけど」

 

 話題は専ら赤い海のこと。私達だけでなく、他のみんなもその話ばかりである。いつの間にか鎮守府中にこの話は行き渡ってしまっていたらしい。そりゃあ私が色々やっていたし、元気な子供達が揃って倒れてしまったのだからこうもなる。

 自分達が出撃出来ないというのはやはり悔しく、どうにかしてでも対策を練りたいとみんなで意見を出し合っているところだ。そもそもどれだけの時間その場にいても大丈夫なのかとかまで出始めているようで、長期戦じゃなければどうにかなるのではみたいな言葉まで聞こえる。

 

「夕立は出撃しちゃダメっぽい?」

「というか夕立が一番ダメだと思う。D型の同期値が大きければ大きいほど侵食が早いような気がするし」

「うー……自分の強さを呪うっぽい……」

 

 少なくとも夕立は確実にダメだ。私が分霊して深海棲艦化させた時も、段違いに早く完了していた。磯波も相当早かったが、夕立は比べ物にならない。D型同期値が深海の成分を身体に取り込んでいることで生まれた力なのだから、侵食の馴染み方が早くもなるだろう。

 そんな夕立が赤い海に足を踏み入れたら、それこそ沈没船に一番近付いたイヨと同じくらいで侵食を海上にもかかわらず受け、戦闘中に再び()()姿()に変えられてしまう可能性が非常に高い。というか、また夕立があんなことになったら、今度こそ手が付けられない。

 今ここに集まっている6人は、全員が全員、深海棲艦の姿を持っている。二度となりたくない、人生の汚点とも言える姿だ。戦いのために出向き、運が悪ければまたああなってしまうというのなら、私は確実にそれを避ける。

 

「じゃあ、戦えないってなったら、夕立の全部をむーさんに叩き込んで戦場で発揮してもらうっぽい」

「わ、私!?」

「そりゃそうでしょ。むーさんは赤い海にも入れるんだし、夕立のおねーちゃんなんだし。誰も追いつけないくらいにすぐに強くしたげるから、覚悟するっぽい」

 

 一番の新人に任せなくてはいけない状況は心苦しいのだが、数少ないM型異端児という今一番必要な戦力であることは間違いない。なんでも村雨には私達のような改二も用意されているとのことなので、数日のうちにそこまで行けるくらいのスパルタが待ち構えていると思われる。

 

「もし夕立達が入れるようになったとしても、むーさんには一緒に戦えるくらいになってもらうっぽい」

「お、お手柔らかに……」

「しませんね。私達の無念を晴らしてもらわなくてはいけないかもしれないんですから」

 

 この特訓の件は萩風も賛成のようで、夕立の言葉に自分の思いを乗せていく。ただ訓練で痛め付けたいだけじゃないだろうなと一瞬頭をよぎるが、萩風のことだからそんなことはしないと信じたい。

 

「陽炎様のあのインナーみたいなの……出来ればいいんだけどね。着てれば侵食受けないっていう服みたいな」

「だよね。というか、出来るんじゃないかな。ひーちゃんの魂の匂いを閉じ込める服だったんだから、例えば裏表ひっくり返せばあちらからのそういうのを身体に入れないようにしたり」

「確かに……沖波ちゃん賢い」

 

 沖波の言う通り、私の使っていた初月インナーをひっくり返して着れば効かないなんてことが無いだろうか。少なくとも初月自身には効いてしまっているので、その辺りのオカルトはちゃんと処置しないと効果が無いようだが。

 しかし、私の魂の匂いを封じ込めることが出来るくらいだし、同じようなことは出来ると思う。全員分を用意するのに時間はかかるかもしれないが、それさえあれば大丈夫となれば1つは安心出来る。

 

「そればっかりは実験しないといけないかもしれないね。異端児じゃない人に着てもらって、赤い海に入ってもらうっていうのが必要だよ。今すぐ効果がわかるわけじゃないし」

「深海棲艦化しなければ、私が治せるからね。すごい不安だけど」

「部隊全員が全身タイツになるっぽい?」

 

 聞こえが悪いが、つまりはそういうことか。なんだか凄い集団に見えてしまう。そうしないと侵食されるのだから仕方ないのだが。

 

「違う手段が作れるかもしれないから、そこはしーちゃんに任せよう。今は村雨の訓練でしょ」

「そうよね……私も頑張らないと。私は何も無くても出撃出来るんだし」

 

 グッと拳を握って気合を入れる村雨。ここでやる気が出せているのだから心配はいらない。あとの問題は時間だけだ。

 

 

 

 なかなか難しい話になってきたが、勝たなければどうにもならない戦いだ。出来ることは全てやっていかなくては。

 




部隊全員が初月インナーという可能性が出てきました。そう考えると凄い集団だな。
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