異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
赤い海に足を踏み入れた艦娘への治療は全て終わったため、今の状況は大本営に報告されることになった。ここで行なわれていることを秘密にすることの方が問題になるため、むしろ直球で包み隠さず伝える方向になっている。
これで大本営が何かしら動きを見せたら、その時に今までの調査結果をぶつけるなどして、真相に近付くとのこと。
そちらの問題は司令達がどうにかしてくれるということで、艦娘は太陽の姫への対抗策として、とにかく鍛え上げることが優先された。特に重要なM型異端児、その中でもド新人である村雨の訓練は急務となった。
これに関しては、今のところ赤い海のせいで出撃が憚られているD型異端児が猛特訓すると宣言していた。特に夕立は、自分の艤装姉妹が今回の戦いの決め手になるということで、やる気満々だった。私、陽炎も出来る限り手伝いたいところ。
「むーさんの艤装、出来たっぽい? 出来たっぽい?」
午後イチに夕張さんを突撃。村雨の艤装の改造は夕張さんが引き受けているのだが、最初に話した時には午後の間には訓練がスタート出来る様に努力すると言ってくれていたが、さすがに午前中に全部終わらせるというのは難しいのではなかろうか。
「もうちょい! もうちょいだから待ってて! これ以上無いくらいに調子がいいんだけど、午前中では流石に終わらなかったんだよ」
「私はまだまだ終わってないと思ってたから、こんなに早く終わるなんて思ってなかったわ……」
私も、今日中と言いつつも、なんやかんやで夕方くらいになり、まず艤装が動かせるかどうか見る程度で今日は終わってしまうと思っていた。信用していないわけではなく、艤装の中身を丸ごと入れ替えるようなものなのだから、それだけ時間がかかるものかと。
「実はさ、村雨の艤装、ちょっと変わった造りに出来そうなんだよ」
「どういうこと?」
「艦娘との接続部はM型だけど、中身の一部はD型のままで動かせそうなんだ。だから、改造部分を少し少なめにして、十全の力を発揮出来るようにしてんの。クセはあるかもしれないけど、気にならない程度だと思うから」
まともに動かせる上に、改造時間も短縮出来るという荒技。それで村雨が戦う力を得られるのなら充分過ぎる。誰も否定しないし、むしろそのまま頼むと全員から言われるレベル。
「最初からそれを使うならクセとかよくわからないから、私用のチューンナップってことで」
「だね。しっかり整備しておくから、もうちょっとだけ待っててね」
艤装の改造も順調。村雨が力を得るまで、艦娘として動くことが出来るようになるまで、あと僅かである。
「ああ、村雨もそろそろ始まるのか」
私達が村雨の艤装を見に来たところに現れたのは、同じく艦娘としての第一歩を歩き出している長門さん。食堂の片付けを終わらせたようで、今度は艦娘としての訓練に入った様子。
今まで見てきた長門さんは、ほとんど給糧艦と同じスタイルだったので、常にラフなシャツとズボン姿だった。あとは食堂らしくエプロンを身につけていた程度。
しかし、今は艦娘としての制服に身を包んでいる。何処となく陸奥さんの妙に露出度が高い制服と似たようなもの。戦艦だからか、動きやすさ重視なのだろうか。とはいえ、今までとのギャップがなかなかのもの。
「わぁ、ながもんさん見違えたっぽい!」
「艦娘としての長門だ。陸奥もやたら騒いでいたな」
その陸奥さんは後ろで満面の笑みである。ようやくこういう関係になれたということが嬉しくて仕方ないようだ。
萩風のように、復帰してすぐに艦娘としての活動をするかと思いきや、残ってしまった忠誠心のせいで今日まで足止めを喰らっていたのだ。そういう意味でも喜びはひとしお。
「姉さんスタイルがいいから何着ても似合うのよね。これ、私が改二になる前の制服なのよ。やっと姉妹らしくなったわ」
「すまなかったな。だが、陽炎のおかげでこの地点に立つことが出来た。感謝している」
長々と苦しんでいた長門さんが解放出来たのは本当に良かった。こんなに前向きにいられるのは、元々の性格からだろうか。
今までは残された忠誠心のせいで性格にも影響が出てしまっていたようだが、二度目の治療が完了したおかげで、長門さんは心身共に本来の姿を取り戻したわけだ。
「でも、姉さん意外と制服に抵抗無かったわよね。肌モロ出しだから、少し嫌がるかと思ってたけど」
「いや、まぁ……スカートとか殆ど穿いたことが無いから、少し新鮮というのはあるがな」
確かに、私達駆逐艦も含めて、ここまで肌を見せる制服を使っている艦娘はなかなかいない。言ってしまえば、潜水艦並み。極端な話、ウェットスーツ状の水着を使っているウィーやユーと比べたら、長門さんの方が肌が見えているレベル。
それを普段着と言われたら、多少なり抵抗があってもおかしくは無いだろう。私も例えばあの深海棲艦化させられたときの衣装が普段着ですと言われたら、流石に抵抗がある。潜水艦には申し訳ないが。
「……私はほら、深海棲艦だった頃…… 長いこと服を着ない生活をさせられていたから、な」
「ああ、痴女」
「真正面から言われると辛いぞ。自分でもそう思えるが」
南方棲戦姫は、いわゆるパンイチ。肌を出すのが当たり前。普段が殆ど全裸という痴女だった。それの影響が地味に残ってしまっているのかも。夕立や磯波と同じような
それは忠誠心のような穢れや魂への侵食とは違うところにあるため、私の治療は通用しない。これを身につけていないと落ち着かないという夕立と磯波とは逆に、
「そんなことはどうでもいいことだ。村雨、君も一緒に戦う決意をしてくれたのは、私としてもとても嬉しい。共に鍛えよう」
「うん、私もすぐにみんなに追い付かなくちゃ」
「姉さんはまず海の上で動けるようになりましょうね」
やはりそこからのようである。長門さんは中に水着を着ていないようだが、村雨は着ておいた方がいいだろう。今のうちに万全の準備をしておいて、いざ訓練が開始出来るとなったらすぐに開始出来るようにしておこう。
それから小一時間ほどして、本当に艤装の改造が完了した。いい仕事したといい笑顔の夕張さんと、ついに村雨が戦えるようになるんだと喜びニコニコな夕立。
夕立はそのまま訓練に入れると考えて既に艤装を装備している。気が早いかもしれないが、夕張さんが呼びつけたということは、この改造は上手く行ったものだと考えていい。
「よし、じゃあ装備してもらおうかな」
「うん、オッケー」
言われるがままに艤装を装備していく村雨。前回はそれでも持ち上げることが出来ず、接続出来ずということで終わっていたが、今回は果たして。
「お、行けてる行けてる。ちゃんと接続出来てるよ」
数値上ではリンク出来ているようだ。今までとは少し違う改造という話だったが、村雨にはそれでもちゃんとリンクし、自分の力としているようだ。その時間も、夕立と同じように1分もかからずで終了。やはり選ばれし者、M型異端児の夕立と言っても過言ではない。
「よーし、リンク完了。もう動けるよ」
「じゃあ、動くわね」
言われた通り、艤装を接続した状態で一歩踏み出したところ、前とは違ってちゃんと動くことが出来た。その一歩が、艦娘としての一歩になったわけだ。
「ふぅ、これで村雨も艦娘だね。改造も上手くいって良かった良かった」
「ありがとうございました。これで私も、みんなと戦えるわ」
夕張さんにお辞儀した途端、夕立が村雨の腕を引っ張る。
「じゃあ、海上移動訓練っぽい! 時間は全然無いからね。すぐやるっぽーい!」
「ちょっ、まだ心の準備が」
「あっちでながもんさんもやってるから、むーさんも一緒にやればいいっぽい。今日中に出来るようになってもらうから」
村雨のことなど考えてもいないように、夕立がぐいぐい引っ張って訓練に入っていった。正直私は置いてけぼりを喰らったわけなのだが、夕立がそれだけ熱心に教えたいという気持ちもわかるし、村雨も本当に嫌なら引っ張られても拒むだろう。
村雨だってやる気はあるのだ。心の準備がどうのこうの言っているものの、艤装を装備することが出来たらすぐにでも訓練に入るのだと、意気込みも充分だった。
「よかったよ。村雨が前に進めて」
「だね。私も整備士冥利に尽きるってもんよ」
今度は私の艤装も用意してくれる。村雨の訓練には異端児駆逐艦全員が全力で協力し、基礎から応用までガッツリ叩き込む予定のため、今からの海上移動訓練には私も参加する予定。
もし何らかの手段を使って赤い海にD型異端児が入れるようになったとしても、村雨はM型異端児の時点で戦場に出ない理由が無い。ただでさえM型異端児の攻撃しか効かない可能性が高いのだ。手数を増やすためにも村雨は必須。そのためにも、限られた時間でやれることを叩き込む。
「陽炎の艤装も出来る限り整備しておいたよ。殆ど謎の艤装みたいなものだけど、私達は全員構造を頭に入れてるからね」
「ありがとう。助かる」
「陽炎は今回の決め手だからね。全部が万全で無いと」
装備してみると、それこそ新品同様と言える程に動きが良かった。構造はもう通常の艤装とは一線を画しているらしいが、整備の仕方自体は何も変わっていないとのこと。
前回の戦いで殆ど傷がついていなかったとはいえ、使っている時点で内部は劣化していくもの。出撃したら無傷でも整備が必要にはなる。私の艤装は特に気を使われている。
「よし、じゃあ陽炎は村雨を見てあげて」
「了解。いつもありがとね」
「整備は私の仕事だからね。戦場に出るより、こっちの方が落ち着くくらいだからさ。裏方は任せて」
夕張さんには本当に感謝している。私達が出撃している間も鎮守府防衛に尽力してくれるし、帰ってきたら艤装を万全にしてくれる。整備は夕張さんだけでは無いが、二足の草鞋を履いて戦ってくれているのは夕張さんくらいだ。
本人はやりがいのある仕事と言うものの、作業量は普通では無い。その上で一緒に戦えるくらいに練度が高いのだから恐ろしいものだ。
ここからは村雨の猛特訓が始まる。長門さんと一緒に海上移動訓練を続けていき、何度も何度も水没しかけて身体に覚えさせられていった。
長門さんは深海棲艦時代もその足で移動していたが、村雨は艤装の力で自分の足を使わずに移動していたため、余計に苦戦してしまっている。
「コツ掴むまでに時間かかりそうね……」
「頑張るっぽい! 今日中にクリア出来れば、最速記録更新だよ」
現在の最速記録は萩風。確かに半日くらいで終わらせている。村雨はスタートが午後でもないので、今日中にクリア出来れば、その記録を追い越すことになるだろう。
夕立はそういうところ結構気にするので口に出すが、だからといって村雨がやる気になるかといえば。
「最速記録かぁ……ちょっと興味はあるかも」
意外とやる気だった。それで今日中にクリア出来るのなら万々歳だ。
「イメージだよイメージ。自分がスーッと動けてるところを思い浮かべれば、自然とやれるようになるからさ」
「簡単に言うけど……陽炎はどうやってクリアしたの?」
「私のは全く参考にならないよ。無意識になれば出来るからって、いきなり占守が艤装も付けずに飛び込んできた」
それ以外にも私が聞いてきたことを全部教える。今までの私の経験を、全て村雨に叩き込むように。
先達の敷いた道を歩いてきた私が、今度はその道を村雨に歩いてもらうというのは、なかなか感慨深いものである。
「イメージ、イメージだな。私の場合は、
長門さんはもうフラフラと動けるようになりつつある。やはり元々の経験が強い。萩風もその調子で最速記録を叩き出したのだろう。長門さんは萩風よりも長く深海棲艦をやらされていたため、ここの慣れも早いのかもしれない。
「私はイメージしづらいなぁ……。なんであんな艤装にされたんだろホント」
直立するので精一杯の村雨。ここからが大変なので、頑張ってもらうしかない。
結果、長門さんは今日中に海上移動を達成。村雨はまだプルプル震えているくらいで終わってしまった。流石に午後のみでクリアは出来なかった。
だが、やる気は失われていない。きっと明日からは戦闘訓練に入ることが出来るだろう。
長門並みに露出度が高い制服を使っているのは、空城鎮守府では阿賀野だけ。あとは天城だけど、ここの天城はあまり着物を脱がないのでそんな感じがしない。