異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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敵か味方か

 午後の部の哨戒部隊が調査した結果、太陽の姫の侵食である赤い海は今も徐々に拡がっており、推定で2週間前後で陸にまで辿り着いてしまうと計算された。つまり、太陽の姫への対策を練れる時間はそれだけということに。それなりにあるようで、あまり無いタイムリミットが設けられた。

 その間にやるべきことは、村雨と長門さんの猛特訓による改二実装と、赤い海の攻略法である装備を完成させ、実験によりそれが効果的であるかどうかを調べることである。

 前者はやる気満々な監督官がいっぱいいるので今は置いておいて、問題は後者。人体実験というあまりよろしくない手段でしか、効果的かどうかは判定が出来ない。しかしながら、その実験台として菊月と初月が名乗り出たことにより、その辺りは進められることになっている。

 

 私、陽炎は、村雨の特訓と攻略のための実験、どちらにも参加することになる。

 前者は私が今までやってきたことを叩き込むわけで、私以外にも鎮守府のあらゆる人達が協力してくれるだろう。

 そして後者は、赤い海に何もせず入れるため、実験中に装備が通用しなかった場合などの時にその場で治療出来るように便乗する。

 

「ひーちゃん、なんだか大変だねぇ」

「まぁこればっかりは仕方ないよ。私しか治療出来ないわけだしさ」

 

 夜、今後のことを私の部屋で話していた。夕立は相変わらず村雨の部屋。五月雨も呼び付けているようで、すっかり姉妹での団欒で落ち着いている。

 

「それにしても、赤い海攻略の装備のこと、本当に進言したんだ」

「うん、一応ね。そしたらしーちゃんさんが結構乗り気で」

 

 赤い海攻略の装備を発案したのは沖波。今と同じようにみんなで話している時にボソッと話した、私が使っている初月インナーを裏返しにしてみたらどうだという意見をそのまましーちゃんに伝えたらしい。そうしたら、それがそのまま採用されたとのこと。

 何事もやってみなくてはわからないというのもあるが、可能性があるものは試してみなくては話にならないだろう。私の魂の匂いを封じ込めることが出来たアレなら、外部からの瘴気の侵入も防いでくれるはず。

 

「頭の部分は丸出しだよね……そこから侵食されちゃうかも。私、陽炎様が初めてインナー着たときに匂いのチェックさせてもらったけど、顔とか首筋とかからは薄く匂いはしたんだ」

「その辺りは……うーん、何とも言えないかな。流石に顔を覆うのはどうかと思うし。それこそ実験で確かめてもらうしか」

 

 身体のあらゆる場所から瘴気が入ってきて侵食してくるとなると、それはもう防ぎようが無い気がする。だが、それを防ぐ手段も考えなくてはいけないため、実験は必要不可欠。そもそもインナーだけで大丈夫かどうかも確認しておかなくてはいけないし。

 

「菊月さんと初月さんは、最悪何度も治療を受ける羽目に……」

「なるかもね。だから司令も物凄く抵抗があったみたいで。本人達の立候補が無かったら、誰かを犠牲にするっていう選択だったわけだし」

「それは……辛いですね。M型異端児だとそもそも効果がわからず、D型異端児だと失敗していた場合に取り返しのつかないことになるかもしれないですし」

 

 こんなことを話しながらも、萩風は私のベッド側。今日も添い寝を勝ち取ったらしい。何でも、私のベッドに入れるのは今日の演習で一番いい成績を残した者と勝手に決めていたようである。私に許可無しで。

 このメンバーの中で好成績を残せたというのだから、萩風ももう充分主力と言える。D型異端児で無ければ、確実に実験艦隊に組み込まれていただろう。

 

「とにかく、指示があるまでは村雨の特訓とかを続けるよ。で、準備が出来たら赤い海での実験だね」

「私は実験に便乗かな。M型異端児だし」

「多分そうなるよ。どんな感じになるかは司令次第ってことで」

 

 実験の出撃には私の他に沖波は確実に組み込まれるだろう。とはいえ、私達に決定権は無い。意見こそ出すことは出来るが、最終的な決断は全て司令である。どんな部隊で出撃するかは任せるしかない。

 

「まぁ今は何事もなく進められることを祈るしかないね」

「だね。もし実験が難航したらM型異端児だけで太陽の姫と戦わなくちゃいけなくなるかもだし、私は今より強くならなくちゃ」

 

 やる気満々の沖波。そこには恨み辛みも入っているのが嫌でも見て取れた。そこには触れない。同じ感情を私も持っているのだから。

 

 

 

 翌日、突然の来客が決まったとのことで、朝食後にバタバタし始めていた。まさか大本営が乗り込んできたからと考えたが、それとは違うとのことなので少しだけ安心。

 その来客相手に私も来てほしいと言われ、首を傾げながら言われた通りについていく。そこには五十鈴さんと龍田さんも来ていた。その時点で来客が何者かがピンと来た。

 

「私達の提督が直に会いたいって言うのよ〜」

 

 困った顔で話す龍田さん。五十鈴さんも頭を抱えていた。私達は顔も知らない協力者である司令が、わざわざこの鎮守府に訪れるというのだ。

 理由はとても簡単なことである。昨日のうちに、五十鈴さんと龍田さんの治療をしたことを電話越しに伝えたら、顔が見たいと言い出したとのこと。ただただ対潜のために駆り出されたというのなら心配はいらなかったが、得体の知れない呪いをかけられ、それがすぐに治療されましたと言われれば、すぐには納得が出来ないだろう。

 

「ホント過保護なんだから。援軍に五十鈴達を任命しておいて、送り出すときにやたらと心配してきたし」

「昨日の電話でもとっても焦ってたものね〜。大丈夫だと言ったのに、何度も何度も別状が無いかって聞いてきたし〜」

 

 2人がここまで言うのだから、相当なのだと思う。なら何故援軍を出してくれたのだろう。過保護でお人好しな人だったりするのだろうか。

 

「まぁ直に話をしたいってのはアタシとしてもあった。向こうから来てくれるのなら万々歳だよ。ここでちょいと深く関係を持っておこうかね。五十鈴と龍田には再三聞いているが、アンタ達の上司は大本営との深い繋がりは無いんだね?」

「ええ。少なくともそんな感じには見えなかったわ。五十鈴達はここでいろいろと実情知っちゃったけど、うちの提督にそういったところが関わってるようには見えない」

「そういうことを隠せるような人には見えないものね〜。ここの鎮守府を助けたい一心で呉内提督の依頼を聞いちゃったくらいの人だもの〜」

 

 これは信用されているのかされていないのかわからない。一体どういう人が来るのだろう。

 五十鈴さんも龍田さんもこういうことを言っているが、物凄く頭が回る人で、部下にもそういう態度を見せないような()()()人かもしれない。警戒だけは怠らないようにしなくては。

 

「噂をすれば影と言いますか、到着したようですよ」

 

 そんな話をしていると、しーちゃんが鎮守府入り口の方を向く。確かに少しだけ騒がしくなり、そこから見知らぬ女性がこちらに向かってきていた。

 艦娘かと思ったが、うちの司令と同じような軍服に身を包んでいるところから、艦娘ではなく司令官であることが窺える。それくらい若い人だった。艦娘だったら戦艦か空母かというくらい。

 

「五十鈴ちゃん、龍田ちゃん、大丈夫だった!? 怪我はない!? 熱っぽいとか風邪気味とかじゃない!?」

 

 そして第一声がこれである。五十鈴さんが過保護と言った意味がよくわかった。ピンピンしている2人に対してもこの行動。上から下まで舐めるように見ては、無事であることを喜び、だが体内のことはわからないのでまた心配しつつ、2人にベタベタと触れる。

 この様子に当事者である2人はともかく、空城司令もしーちゃんも呆気に取られていた。私も驚きが隠せない。まるで嵐のような人である。

 

「五十鈴達は無事だから、まずは空城司令に挨拶くらいしなさいよ恥ずかしい」

「提督〜? 私達に恥をかかせないでくださいね〜?」

 

 龍田さんがその頭を鷲掴みにして突き放す。結構な力が入っているらしく、痛い痛いと言いながらもその元気っぷりを喜んでいるようだ。

 

「はいはい、礼儀がなっていませんよ」

 

 そして今度はその秘書艦であろう艦娘が後ろから引き剥がす。なんというか上下関係が逆転している感じがしないでもない。

 

「うちの提督が申し訳ございません。私、秘書艦の練習巡洋艦香取と申します。そしてこちらが、残念ながら私達の上司である影野(カゲノ)ゆりあ提督になります」

「残念ながらって何さ。私は自分の部下が得体の知れない敵の術にかかったみたいなことを聞いて心配で心配で」

「無事であることが見られたのだからいいでしょう。相手方の提督の前ですよ」

 

 なんだかよくわからない影野司令と、その秘書艦香取さん。初めて聞く艦種だったが、巡洋艦というのだなら軽巡洋艦や重巡洋艦のお仲間なのだと思う。少し特殊な巡洋艦はうちにも兵装実験軽巡洋艦の夕張さんがいるし、防空巡洋艦のアトランタさんもいるので、そういう特殊なモノなのだろう。

 

「く、空城大将! この度は私の部下を使っていただいてありがとうございます!」

「わかったから少しは落ち着きな。確かに呪いだの聞いたら焦るのはわかるが、上に立つ者がそんなことで動じてどうするんだい」

「ご、ごもっとも、です。深呼吸、深呼吸〜」

 

 スーハーと息を整えて、心を落ち着けている。その後ろで溜息を吐く香取さんを見る限り、影野司令はこういうことが多いようである。

 

「はい、落ち着きました。改めて、影野ゆりあ大佐です。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく。こちらとしてもすまないね。敵の攻撃手段が明確にわかっていない段階で対潜部隊に組み込んだせいで、2人を危険な目に遭わせちまった」

「い、いえいえ、治療していただけていると聞いているので、大丈夫です。心配でしたが」

 

 ようやく落ち着いてきたようで、改めてご挨拶。影野司令は司令官の中ではまだ新人に近いようだが、呉内司令が信頼の置ける相手として選んだくらいなのだから、かなりのやり手なのだろう。

 

「えっと、貴女が()()陽炎ちゃんかな?」

 

 挨拶するだけして、今度は私の方へ。呉内司令が知っていたくらいだし、ここに来たばかりの五十鈴さんと龍田さんも私のことは話として聞いていたくらいなのだから、影野司令も知っていてもおかしくはない。

 ちょっと緊張したものの、私に対して敵意を持っているようには見えない。興味は持っているようだが。

 

「うちの五十鈴ちゃんと龍田ちゃんを治療したのも貴女なんだよね」

「うん、太陽の姫の呪いを解くことが出来るのは私だけだから」

「ありがとうね。おかげで、大切な部下を失わずに済んだよ。というか命は大事。死ぬとか絶対あり得ない」

 

 手を取られ、ブンブンと振られる。感謝の気持ちが激しい。だが、本当に自分の部下である艦娘が大切なのだということはわかる。

 こういう人なら、私達のやりたいことも理解してくれそうだ。そういうところも加味して、呉内司令はこの戦いの援軍として選び取ったのかもしれない。

 

「呉内が一目置いているような奴だ。この2人が大事だから心配しすぎてここに来ただけじゃあ無いんだろう?」

「8割方は心配だから居ても立ってもいられなくなったからというのが本音ですよ」

 

 香取さんがすかさず口を挟む。このテンションを見る限り、後先考えずに2人の状態を確認しに来たと言われても全く疑いようが無い。この人は上に立つ者として大丈夫なのだろうか。

 

「でも、ここまで介入したなら話は聞きたいと思ったのは正直なところです。昨日、五十鈴ちゃんと龍田ちゃんのことを聞いて、得体の知れない敵のことは知っておかなくちゃいけないかなと思いまして」

「良い心掛けだと思うよ。アタシとしても協力者は多ければ多い方がいい。むしろ、アンタのことは引き込もうと思っていたくらいだからね」

 

 言い方は悪いが、今回のことについて協力してくれる人が多い方が、いろいろと動きやすいだろう。大本営に黒い部分が見え始めている今、別口で支援が頼める場所が増やせることはいいことである。

 

「影野、時間はあるかい」

「はい、大丈夫です。話を聞くつもりでここに来ていますので」

「ここで起きていること、全て説明しよう。それを踏まえて、この2人をもう少し貸してもらえるか決めてもらいたいからね」

 

 ここで大本営のことまで話すかは知らないが、影野司令がこちら側に立ってくれることを祈ろう。実は大本営側でしたと言われたら目も当てられないが、それはそれで何かあるからここで話をするのだと思うし。

 

 

 

 突然の来客である影野司令は、敵か味方か。出来れば味方であってもらいたい。




新たな司令官、影野司令。艦娘やれそうなくらい若い司令官ですが、残念ながら艤装同期値は両方0。その代わり、指導者としての才能があったようです。
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