異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
五十鈴さんと龍田さんから連絡を貰った結果、過保護な性格が災いして鎮守府にやってきてしまったあちらの司令官、影野司令。やってくるや否や、2人の安否を心配して部下に総ツッコミを受けるという、何というか酷い第一印象から始まった。
空城司令としては、この影野司令もこちら側に引き込みたいと話していたため、これは絶好の機会である。電話越しで全て説明するより、直に話した方が伝わりやすいだろう。沈没船のことは、信用できる者で共有したいところである。
「太陽の姫、深海日棲姫。一度だけ交戦しているが、得体の知れない力で被害甚大だった上に、あちらは無傷だ」
「そ、そんなにですか……今までの深海棲艦とは違うということですかね」
「ああ、だから、多種多様な方向から攻撃を考えている。その一環が、対潜部隊なんだ」
外での話はどうかと思うため、そのまま執務室に移動してもらっている。私、陽炎はその話に便乗することに。
五十鈴さんと龍田さんは用が済んだのでさらっと海防艦の子供達のところへと戻っていった。占守と大東は一晩で回復しているが、まだ少し心配ではあるらしい。その状態なら保護者は多い方がいいだろう。
今の執務室は諜報部隊が
「前回の戦いでは、対潜部隊に道を拓いてもらい、諜報部隊の潜水艦に本拠地を調査してもらうという作戦を使わせてもらった。五十鈴と龍田には、そこで実力を発揮してもらったよ。だが、そのせいで呪いを受けちまった」
「分霊とか、侵食とか、そういうものでしたよね。私、正直全く意味がわからなくて……」
「まぁそうだろうね。今までとは本質的に違う。深海棲艦を生み出している張本人みたいなもんだから、普通ではないことはわかる」
今まで戦ってきた深海棲艦とは根幹の部分が違うのだから、一鎮守府の長であっても意味がわからないと言ってもおかしくはないだろう。これに関しては否定もしない。だからここで知ってもらうのだ。勉強あるのみ。
「それを聞いて、アンタは五十鈴と龍田を連れ戻そうと思うかい? うちとしてはもう少し出向してもらえると助かるんだがね」
「勿論心配ですけど、あの子達なら必ず成し遂げてくれると思います。命懸けは誰だって同じですし、ここの方針は誰も死なないことを最優先にしているんですよね。私と同じです」
呉内司令からその辺りは聞いていたのだろう。艦娘の命を大切にしている。死ぬくらいなら逃げるが最優先事項だ。生きていればまた戦えるのだから、作戦は常に『いのちだいじに』である。海防艦の子供達にすら染み渡っている基本方針なのだ。
影野司令も同じ方針を掲げているとのこと。あれだけ自分の部下に過保護でいられるのだから、そういう方針で行くのは必然なのかも知れない。後ろに立つ香取さんもうんうんと頷いている。
「提督はこんなですが、艦娘のことを最優先で考えてくれていますので」
「香取ちゃん、こんなってのは失礼じゃないかな」
「自覚が無いのですか?」
というか、艦娘の命を顧みないような指揮を執る司令官なんているのだろうか。艦娘だって自分と同じ人間なのに。
敗北を許さないとか、そういう厳しい方針の鎮守府も無いとは言えないかもしれない。大人ならまだしも、子供がついていけるかはわからないが。
「ここでの戦いなら、命を落とすことが無いと思います。なので、あの子達が嫌だと言わない限りは使ってあげてください」
「了解した。なら、もう少しだけ預からせておくれ」
五十鈴さんと龍田さんの援軍延長が決まった瞬間である。また次の戦い、最終決戦でも、対潜部隊には働いてもらわなくてはいけない可能性が高いのだ。この鎮守府にいる対潜部隊が心許ないというわけでは無いのだが、やはり数が揃えられるのなら、多い方がいい。
「あ、でも連絡だけはさせてもらっていいでしょうか。やっぱり心配は心配なので……」
「呪いの件なら、今解決策を練っているところだ。それが完成し次第、全員に配布して出撃となる。無論、五十鈴と龍田の分もこちらで用意するから安心してほしい」
「そ、そうなんですね。わかりました。なら頻繁とは言わないので、たまに」
やはり過保護。一度ああいうことがあったのだから、不安になるのはわからないでもない。流石に空城司令もそれは許可した。自分の部下のことが心配になるのはわかるし、近況を都度知りたいという気持ちも理解出来る。
「私からも質問があるのですが」
そこで今度は香取さんからの質問。影野司令が聞かなそうな話題を補佐として切り込んでいくスタンス。
「深海日棲姫に勝てる見込みはあるのでしょうか。得体の知れない、オカルト要素ばかりが目立つ敵であることは嫌というほど聞いていますが、勝算については一切話題に上がらないので、ここでお聞かせ願えると」
痛いところをついてくる。ここで勝算は無く、気合と根性でどうにかするなんて言い出したら、いくらなんでも納得がいかないだろう。勝ち目は根性論でどうにか出来ることではない。
そもそも、今の私達には勝算らしい勝算があって無いようなもの。存在すると聞いている依代の破壊が唯一の勝ち筋ではあるのだが、それが出来るようになるためにはいくつもの難関を突破しなくてはいけない。
赤い海による侵食を回避出来るようにし、敵の防衛線を潜り抜け、謎の沈没船に極限まで近付き、依代を発見して破壊する。その全てをクリアすることで初めて勝利と言えるようになるのだ。その1つ1つが超難易度。1つの部隊でどうにか出来るようなものではない。
「今までなら勝算は0に近かった。だが、調査や準備でそれを確実に上げてきている。それでも、100%勝てるようには出来やしないだろう」
「そうですね。想定外というのはいつでも起こり得るものです。故に、慢心は大敵なのですから」
「弱点は判明している。情報提供者もいるからね」
それは間違いなく村雨のこと。沈没船の中を知る唯一の存在。村雨から依代のことを聞いていなければ、何度も蘇るという太陽の姫に翻弄され続けてジリ貧だっただろう。
「今はその攻略法を実現するための準備期間だ。タイムリミットはあるが、それまでにどうにかする」
「そうですか……そのタイムリミットの件はまだ聞いていませんでしたが」
「昨日大本営に報告したばかりだからね。アンタ達のところにはまだ連絡が来ていないんだろうさ」
このことを知っているのは協力者であり現時点でここにいる物部司令と、全てを知った上で支援艦隊を出向させてくれている呉内司令、そして昨日報告されたという大本営のみ。
影野司令は信用出来ると判断し、現況を詳細に伝えていく。赤い海は現在進行形で勢力を拡大していること。残り2週間前後で陸にまで辿り着いてしまうこと。五十鈴さんと龍田さんはその赤い海の影響で呪いを受けたこと。そして、M型異端児であればその影響を受けないこと。
詳細が紐解かれる毎に、影野司令の表情はコロコロ変わった。対策無しでは無いが、その対策が極端に難しいことは、嫌というほど理解してもらえたと思う。
「M型異端児……増やすことは可能なんですよね」
「可能だが、それはアンタも拒絶する方法だと思うがね」
やはりそこに行き着くのは定め。M型異端児が多ければ多いほど、今回の戦いは勝率が上がるだろう。しかし、それが取り返しのつかないことに繋がる可能性が高い。
そして、影野司令は過保護とも言える程に部下達を溺愛している。それならば、M型異端児増産の
「この子、陽炎ならM型異端児を増やすことが可能だ」
視線が私に向く。奇異なモノを見る目というか、期待と羨望が入り交じったかのような視線。正直、あまり好きではない。
「だが、それを試すことは絶対に出来ないししない。何故なら、それはあちら側、深海日棲姫と同じ力みたいなものだからだ」
「というと……?」
「施された者は、どれだけ意志が強かろうと陽炎の部下になる。人間性を失い、陽炎の命令に忠実に従う巫女となるだろうね」
その辺りは明確に知らなかったようで、目を見開いて驚いていた。私だってそんなことにはしたくないのだが、この力は
「例えば、アンタの部下である五十鈴や龍田を攻略隊に入れたいからとM型異端児に変えたとしよう。そうした場合、もうアンタの知る2人じゃ無くなる。陽炎に侍る
「それはダメ! 絶対にダメです! あの子達はあのままだからいいんです!」
影野司令が声を荒げた。事の重大さを理解してくれてありがたい。
「それを元に戻す手段は」
「無い。だからやらないんだ。勝つために人の心を壊すだなんて間違っているだろう」
「勿論です! 私は空城大将の意見に賛同します!」
勢い余って空城司令に詰め寄る影野司令。考え方自体は2人は同じだ。そういう形でも犠牲者を増やすというのはよろしくない。戦場で命を散らせることは当然ダメだが、心が壊れるというのは違う意味で死んでいるようなものだ。私はそんなことに加担したくない。
影野司令がちょっと興奮してきたので、香取さんが後ろから首根っこを掴んで元の位置に戻した。秘書艦というよりは制御係というイメージ。
「でも、大本営はやれって命令してきそうですよね」
「突っぱねるよ。そんな命令聞いてやる筋合いは無い」
「す、すごい……そこまでハッキリ言うだなんて」
だからこそ、私達は空城司令についていける。私達の命を保証してくれるというのが一番大きい。これは上司部下の信頼関係に繋がるだろう。
影野司令もノリはこんなだが、部下には愛されているように見えた。香取さんも嫌でこんなことをしているわけではなく、お互いの信頼があってこういう少し強めな表現をしてしまっているに過ぎない。友人感覚がいいことかはわからないが。
「それに、アタシは大本営をもう信用しちゃいない。陽炎がこの力に目覚めた時に、即座に自分のところに置こうとしたくらいだからね。深夜に電話なんてしてきやがって」
「それはまた……露骨というか何というか」
「陽炎を利用価値のある物としか思っていないような連中の命令なんて聞くわけないさね」
そういうことを言っていいものかと思ったものの、結局今から例の件を話すのなら問題ないか。今までの鎮守府の在り方を全部否定するような内容である。
「そこで、だ。アタシ達が掴んだ情報がある。アンタ達は信用出来ると考えて、このことを聞いてもらいたい。だが、これを知ったら後戻りは出来ないだろう。ちなみに五十鈴と龍田はもう知っちまってるがね」
「それなら私も知るべきことです。香取ちゃんもいいよね?」
「貴女だけでは不安ですので、私もご一緒しましょう。毒を食らわば皿までと言いますし」
「余計なこと言わなくていいの!」
本当に仲がいいようで。
で、ここからは沈没船と大本営の繋がりについての説明。赤い海のこと以上に深刻で、私達がやらされているのはただの尻拭いである可能性まで見えてきたことを知ると、ついには表情すら変わらなくなった。香取さんすらも驚きを隠せないでいた。
この時点で、この2人は大本営と本当に繋がっていないということがわかる。物部司令が相席しているのはそういうところを見定めるためでもあった。正直なところ、影野司令はいいとして香取さんが繋がっているのではないかという不安はあった。
何か知っている、もしくはスパイのようにこちらの状況を知るために動いているのなら、こんな驚き方はしない。そこまで見越して、諜報部隊の長が調査していたわけだ。そういう意味では一安心。
「そ、そんなの……えっ、私達すら利用されていたってことですか!?」
「正義感を利用して自分の汚点を消そうとしているわけだからね。まだ詳細は完全に掴めているわけでは無いが、可能性はかなり高い、十中八九と言えるくらいにまで突き詰めてる」
根底を覆されて言葉もない。知ってはいけないことを知ってしまったような感覚。
「ここまで話しておいてなんだが、アタシ達に協力してもらえないかい。出来ないと言ってくれても構わない。このことを大本営に話してくれても別にいい。だが、アタシ達は大本営と徹底抗戦する構えだ。何も言ってこないのなら好きにやる。言ってくるのなら迎え撃つ。この鎮守府に属する艦娘全員が同じ意志だ」
大本営のやり方は気に入らない。特に私は回り回って巻き込まれたタイプだ。太陽の姫は両親の仇だが、大本営はそれを生み出すきっかけを作ったいわば
「すぐに答えを出せなくてもいい。アンタは好きに……」
「協力させてください!」
先程香取さんに掴まれていたことを忘れたかのように、また詰め寄った。
「私だってみんなが楽しめる海を取り戻すためにこの戦いに身を投じたんです。なのに、実はなんかよくわからない思惑が蠢いてるとか、そんなの許容出来ません!」
「お、おう……」
「なので、私も一枚噛ませてください! いくらでも協力します!」
力強い言葉。後ろの香取さんも、影野司令の勢いに苦笑しながらも、小さく頷いていた。
これにより、新たな協力者が増えた。実情を知っても尚、私達の理念を否定せずに一緒に並び立ってくれる人がいるというのは嬉しいものである。
ちょっとしたおさらい回となりましたが、影野司令は無事協力者としてこちら側についてくれました。勢い余っているわけではなく、ちゃんと香取がブレーキかけてますからね。信用に値する、はず。