異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
事情を説明したことで、影野司令が協力してくれることになった。鎮守府運営の根底が空城司令と同じであることが良かったようで、言い切る前から協力を申し出てくれる程に力を貸してくれるようである。
その秘書艦である香取さんも苦笑しつつ賛同してくれたことで、今ここにいる者には不安の種が無くなったと思う。それを後ろからじっくり眺めていた物部司令も問題無いと判断したようで、若干緊張感があった空気も弛緩した。
私、陽炎としても、ここで協力者が増えてくれたのはとても嬉しい。ただでさえ前も後ろも敵みたいなもの。そんな中で光が見えたのだから、勝てる可能性はまた増えた。
「あ、でも協力すると言っても何をしたらいいんだろう。私達に出来ることなんて高が知れてるし……香取ちゃん、何か思いつくことある?」
「提督という立場なんですから、ちゃんと自分でも考えてくださいね」
どうも影野司令は上に立っている者としての威厳というかそういうものが感じられないが、これでも艦娘を束ねている鎮守府の長。指揮能力とかそういうところに光るものがあるのだろう。見た目や言動で決めつけてはいけない。
「うーん……ひとまず、五十鈴ちゃんと龍田ちゃんのことはよろしくお願いしますということで」
「ああ、よろしくされた。必ず無事に戻ってもらう。あの子達の対潜能力は目を見張るものがあるからね」
「あはは……お役に立てて光栄です。こちらの海に潜水艦が多いことが、ここで功を奏するとは思いませんでした」
影野司令の鎮守府は、領海の状況から対潜に力を入れていると聞いている。それがまさにここで噛み合ったわけだ。たった2人でも、大きな戦力となってくれている。子供達を引き連れて潜水艦達の道を拓いてくれているのだから、指導者としても相当なものだ。
「もし何かあったら、加勢してくれるだけでいい。事情を知っていて、賛同してくれるだけでも、充分に力になってくれているよ」
「そうですか……わかりました。何かやれそうなことがあったら言ってください。私達が力になります!」
飛び抜けて元気である。この人が艦娘だったら旗艦になれるくらいの力を持っていそう。全体を鼓舞して、秘めたる力を発揮させてくれそうな、そんな感じ。
そんな中、香取さんは少し考え事をしているようだった。先程の影野司令からの言葉を受けて、何かしら思いつくことを探しているようである。
「1ついいでしょうか。その沈没船を使ってミサを開いていたという邪教崇拝の輩……教団と称すればいいでしょうか。それの詳細はどれくらい判明しているのですか?」
「それは私から説明します。諜報部隊として調べた全てを伝えましょうか」
香取さんは、今の事情の説明ではさらりと流された邪教崇拝者の集まり、教団のことに触れたいという。確かにそこまで詳しく聞いていなかったと思う。
それに詳しいのは物部司令だ。あの沈没船の名前から、ある程度の詳細まで調べ上げてくれている。少し前の打ち合わせでそのことも話してくれていた。あれからまた時間が経っているので、より深いところまで調査が進んでいるかもしれない。
沈没船の詳細や大本営との繋がりもそうだが、沈められる理由となった教団についても知っておいた方がいいか。それが何かに繋がるかもしれないし。
物部司令から詳細を説明される内に何かに気付いたのか、香取さんのかけている眼鏡がキラリと光ったように見えた。まるで霧島さんのよう。
「提督、貴女のお爺様、昔政治家だったと言っていませんでしたか」
「ん? ああ、そうだね。あ、だからって私はそのコネで提督やってるわけじゃないよ!?」
「誰もそんなこと言っていないでしょう」
話の腰を折るような影野司令の発言を遮り、香取さんが何やらに気になることがあると話を続ける。
「その教団が秘密裏に政界に手を伸ばしていたと物部提督は仰いました。活動時期は12年前、その頃に提督のお爺様は現役だったのでは?」
「12年前……って、私まだ学生の時か。うん、確かにそのときは現役だった。引退したの5年前だし」
確かにそれは私も聞いた。ほんの少し話題に上がった程度だが、その教団は一般人に気付かれないように勢力を増やし、政界にまで手を伸ばしたと話していた。何処からそういう話を聞き出してくるのかは聞かないでおく。諜報部隊ならではの情報網とかあるのだろう。しーちゃんはもっと謎だが。
そこで、影野司令のお爺ちゃんがその時政界にいたということは、そのことを知っていてもおかしくないと考えたようだ。もしかしたら勧誘を受けていたかも知れないし。
「そっか、確かにちょっと知ってることがあるかもしれない。試しに聞いてみようか」
「ええ、もしかしたらいろいろと繋がるかもしれませんから」
タイムリミットがあるのだから、情報は早いところ欲しい。ということで、影野司令には今すぐ連絡をとってもらうことにした。そそくさと部屋から出て、さらりと電話をかけ始める。
これはプライベートとは違う仕事上の連絡にはなるのだが、親族に電話をするだけというのなら問題ないか。執務室にある電話ではなく、影野司令自身のプライベートな連絡手段で話をしてもらうことに。
「これで何か見つかったらえらいことだねぇ」
「あり得ないことでは無いですよ。当時の政界にいたということは、私では調査しきれない些細なことも知っているかもしれません」
「つっても、歳は大分行ってるんだろう。覚えてりゃありがたいが」
それがあることを祈るしかないか。実は教団の一員だったとかだと目も当てられないが。
影野司令が執務室から出て行ってそれなりに時間が経った後、電話を終えて戻ってきた。その顔にはいろいろな表情が入り交じっていた。
「すみません、ちょっと長話になってしまって。連絡取るの久しぶりだったから、本題に行くまでに長々と心配されてしまいました」
もしかしたら、影野司令の過保護な性格は血筋なのかもしれない。自分の孫娘が提督をやっていると知ったら、心配するのもわからなくもないが。
艦娘よりは安全な位置にいるかもしれないが、責任で精神的にダメージを負いかねない仕事だ。過保護ならば、聞き出せることは全部聞きたくもなるか。
で、その連絡の結果なのだが、なんだか引き攣った笑みで話し出した。
「えーっとですね……
「ってことは?」
「お爺ちゃ……コホン、祖父はその教団のこと知っていました。勧誘も受けたけど突っぱねたと」
まさかのドンピシャ。本当に教団の情報を持っていた。今知りたい情報かはわからないが、少なくとも繋がりが見えてきた。
「祖父の時代には政界では悪名高かったらしく、よく覚えていたようです。政治資金の横流しみたいなのまであったらしくて」
「えらいどころじゃないじゃないか。よくそこまでやって今まで存在がバレてこなかったね」
「まぁ……横流しした張本人は逮捕されてるらしいので。その横流し先が揉み消されたみたいですが」
影野司令のお爺ちゃんも、その辺りは知っていても公表はしなかった。いや、
その世界にはその世界なりに闇が深いのがよくわかる。余計なことを表に出そうとすると、自分どころか周りにまで害を及ぼす可能性すらあるのだから。家族を守るために苦渋の決断をしたのかもしれない。私には少し理解出来ないが。
「裏側では我々の知らないところで大惨事になっていたということですね。政界がそこまで踏み込んでいるのなら、簡単には済まない。なら、ミサそのものを破壊し、関係者を全て海の藻屑にしてしまうと考えるのも無理はないかもしれません」
「手が付けられないから、強行策に出たってことかい。考えられないことじゃあ無いね」
「それが決して最善の手段だったとは言いませんが」
そのまま放置していたら、世界は裏側から闇に包まれていたかもしれない。深海棲艦と戦うという状況以上に混沌を極めていた可能性だってある。
とはいえ、街がいくつも失われて、何人もの人生が破壊されていく現状はそれ以上ではなかろうか。力尽くで止めたら、それ以上の大惨事になったということだ。
「アンタの爺さんは、船を沈めたってことは知ってたのかい」
「いえ、それは知らなかったと。そういう騒ぎが収まったかと思ったら、その政治資金を横流ししていたような政治家が逮捕されて、なんやかんやうやむやになっていったと言ってましたから。むしろ船のことなんて微塵も知らなかったと」
「そうかい。だが、充分過ぎる情報だよ。12年前の真実がだんだん掴めてきたってもんだ」
あくまでも勧誘されただけということと、同業者が献金していたこと、あとは公表出来ないくらいに勢力を強めていたこと。これがわかればまた話が繋がっていく。
羽裏号を沈めた理由は、手が付けられないくらいに大きくなってしまった教団を止めるため、誰かが自らを犠牲にして実力行使に出たと考えるのが妥当。行き過ぎた正義感かもしれないが、そこまでしなくてはいけないレベルの事態に陥っていたのなら、そこに向かっていくのは仕方ないことなのかもしれない。容認は出来ないが。
今ですら公表されないのは、余計なことで世界に荒波を立てないようにするためだろうか。その教団が消え去ったとも限らないし、そんなことが裏側で起きていたとなったら、少なくともこの世の中が混沌の道を歩き始める。
「世界を乱さないための黙秘って考えりゃ、まぁ気持ちはわからんでもない。アタシだって陽炎の力のことは隠し続けたかったからね」
「それとこれは同じことなのかな」
「根幹は違うかもしれないが、公表したことで世論が動くって意味では似たようなもんだ。アンタのことは、知らないなら知らない方がいいようなもんだろうに」
確かに、私の力を公表したら、私の意思も他人の意思も関係なしに艦娘にしてくれと雪崩れ込んでくる可能性が高い。そうでなくても、大本営から圧がかけられているのだから、表沙汰になんて到底出来ない。
そういう意味では教団の件も同じだ。公表したら今までその存在を知らなかった者も入信する可能性だってある。せっかく秘密裏に動いてくれていたのだから、秘密裏のまま葬り去りたいと考えるのは理解出来る。
「とはいえ、やったことは鏖殺だ。許されることじゃあ無いね。結果的に深海棲艦が生まれ、世界は混沌としてるんだ。まぁ元はと言えばその教団とやらが全部悪いんだが」
「その時にはこうなるなんてわからないでしょうからね……許されることでは無いですが」
それで納得するしか無いのだろう。誰を恨めと言われれば、大本営ではなく教団とかいうカルト組織。その時の誰かは、その教団の侵食を食い止めるために尽力したとなれば、恨みの矛先からは変えられそう。許されることでは無いが。
「ならなんで大本営は早急に事を成したいと圧をかけてきたんですかね」
「そりゃあ、こんな面倒くさいことはとっとと終わらせたいだろうさ。長引けば長引くほど、その教団のことが表沙汰になりやすくなるってことだろう。少なくともアタシ達が嗅ぎつけちまったんだ」
だからといって人の意思を潰すM型異端児の量産は悪手ではある。どう言われようとその意見には乗らない。
「これはアタシも考えを改めなくちゃいけないかもしれないね。鎮守府を尻拭いのために使ってるって思ってたが、世の中を混乱させないようにわざと隠してるって考えれば多少は理解出来る。とはいえ真相はまだ闇の中だが」
ここまで話しているが、その全てがまだまだ憶測の域を出ない。真実を知るのは当事者だし、それこそ太陽の姫にしかわからないことかもしれない。だが、大本営にいるであろう羽裏号沈没の関係者には、公で無くてもいいから説明してもらいたいものである。
ここまで巻き込まれた私には知る権利くらいあるだろう。というか納得させてもらいたい。
「一旦ここで話はやめておこうか。頭が痛くなってきた」
「世界の深淵を覗いているような感覚ですよ。知らなくてもいい事を知っていくような」
「諜報部隊ってのはそれが仕事なんじゃないのかい」
「ここまでのものは初めてです。深海棲艦が生まれた原因を突き止めているようなものなんですから」
話しているだけで疲れるような内容だった。私はただ聞くだけだったが、それでも重苦しい話であることはわかる。このあとはちょっと癒されたい。
真相は闇の中。この世界に秘められた闇は、最終的にどこまでが白日の下に晒されることになるのだろうか。
重い重い話が続く。実は大本営は悪くないのではという仮説。でも船沈めてるのは変わりない。