異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
影野司令への説明はここで終了。いろいろと協力してもらえたことで、調査がさらに進んだ。例の邪教崇拝の教団は、政界にまで手を伸ばしており、政治資金の横流しまで受けていたというのだ。考えている以上に組織が肥大化しているが故に、闇に葬られたという可能性が出てきた。
この世界を滅茶苦茶にしないために皆殺しというとんでもない手段に出られたわけだが、そこまでしなくては止まらないところまで来てしまったのかもしれない。どういう意図でそういうことをしたのかは、未だに闇の中である。
とはいえ巻き込まれた私、陽炎としては、大本営が悪かろうが教団が悪かろうが堪ったものでは無かった。結果的に太陽の姫は生まれてしまい、私は世界に選ばれ、そして街は滅ぼされてしまった。
両親を失い、人生が壊されたのは全てその世界の裏側で行なわれたいざこざの流れ弾。納得しろと言われても納得出来やしない。
「アンタにゃ辛い話だったかい」
「んー……まぁ嬉しい話では無かったかな。私はどっちを恨めばいいんだろうね。どっちもがいいか」
「恨むなっていう方が難しいだろうからね……許してやれなんて絶対に言えない。アンタは恨み言を言っても許される人間だ」
その保証はいいのか悪いのか。まぁ私としては多少は自重するので、ちょくちょく愚痴ることくらいはあるが、大っぴらに文句を言うことはないと思う。張本人が現れたらそんな気持ち吹っ飛ぶかもしれないが。
この言葉により影野司令が私に興味をもっていた。そういえば、私の人となりってあまり知られていないのか。M型異端児を増産出来るという分霊の能力ばかりが先行していて、私自身のことは意外にも誰も知らないのかもしれない。鎮守府に入る時に、空城司令は私の素性とかを調べていたが、その内容は他の鎮守府には行っていないようである。
「陽炎ちゃんは、その、結構ワケあり? 分霊とか呪いを解くとか出来ちゃうくらいだからいろいろあったんだと思うけど」
「あー……これって話していいことなのかな」
「アンタが嫌じゃなけりゃ、話してやってもいいと思う。というか、大本営の連中も陽炎の境遇を知らないからああいうことが言えるんじゃないかね。知ればみんな同情すると思う」
ということで、影野司令にも私がどういう経緯で艦娘になったかを話した。物部司令すら、その辺りはまだふわっている部分があるようで、話せば話すほど表情が暗くなっていく。
それだけ私の境遇は不幸一色であり、完全にただ巻き込まれてしまっただけの存在であることを知ってもらえた。そんな私がキーパーソンとして据えられ、さらには大本営に圧をかけられているというのも不幸の一因だ。
とはいえ、私は今は楽しく生きていられる。艦娘として仲間を増やし、艤装姉妹とはいえ妹も出来た。嫌われていることもなく、好かれているのなら全然マシ。
しかし、話した直後、影野司令は突然号泣しながら私に詰め寄ってきた。
「苦労してるんだねぇ! ただ巻き込まれただけなのにこんな仕打ち、酷すぎるよね!」
「え、あ、うん」
「何かあったらお姉さんに頼るんだよ! 必ず力になってあげるからね!」
圧が強すぎて逆に引いてしまった。私は情に訴えかけるつもりで話したつもりは無かったのだが、影野司令には深く突き刺さってしまったようである。
力になってもらえるのは嬉しい。そこに同情が含まれていたとしても、影野司令は心底私のことを思ってこの言葉を紡いでくれたのはわかる。
「陽炎さんが困ってますから、あんまり激しく出ないこと」
そんな影野司令を香取さんが引き剥がしてくれた。そして懐からハンカチを出して涙を拭っている。
さっきの説明のときのリアクションからそうだったが、影野司令は感情の表現がとても大きい。喜怒哀楽が激しいというか、自分のテンションを抑え切れないイメージ。夕立と同じタイプかも知れない。
話し合いが終わったもののまだ時間ならあるということで、この鎮守府がどういうところかを教えてほしいと時間ギリギリまでは見学をすることになった。
ここからは協力関係。こちらの持つものは全部知っておいてもらう方がいいだろう。せっかくここまで遠路遥々来てくれたわけだし、視察みたいになっているが見てもらえばいいと思う。
「私達の鎮守府とはやっぱり少し違うね」
「そうもなるでしょう。環境が違いますし」
影野司令の鎮守府がどういうところかは知らないが、少なくともこの鎮守府よりは新しいとのこと。本人曰く、まだまだ新人なのだとか。それで五十鈴さんと龍田さんがあの練度だというのなら、それはそれで凄まじいものに思える。
「あ、新人もいるんですね。海上移動訓練、最初の難関」
「ああ、そちらにも連絡が行っていると思うが、あの子はつい最近救出した子だ。村雨というんだが、艦娘として活動すると決めたんでね、新人として訓練中なんだよ」
工廠に差し掛かったところで、どうしても目に留まるのが岸でやっている海上移動訓練。
長門さんは昨日のうちにクリアしたことで、今はもう砲撃訓練に移っているが、村雨はまだまだ苦戦中。イメージの力を強くするため、成功している自分を身体に染み込ませるように、夕立に補助されながら滑る感覚を身につけていた。手押し車とかに見えるが、あの方法なら覚えやすいかもしれない。
「助言とかして大丈夫です?」
「構わないが」
ニコニコしながら村雨に近付く影野司令。香取さんも小さく溜息を吐いた後、その後ろをついていく。訓練風景を少し見ただけで何かわかったのだろうか。私と空城司令は少し首を傾げつつも、さらにその後ろをついていく。
村雨が元々深海棲艦であるとわかっても、一切の偏見が無いのはありがたい。そんな素振りも見せなかった。香取さんもである。
「やぁやぁどうもどうも」
「ぽい? どちら様っぽい?」
「五十鈴ちゃんと龍田ちゃんの上司って言えばいいかな。影野ゆりあと言います」
抑えきれないテンションが後ろから見ても溢れ出ている感じ。
「えーっと、そっちの子、村雨ちゃんだっけ。遠目から見てだけど、海上移動にかなり苦戦してる感じじゃないかな」
「えっ、まぁそうですけども……」
「ちょっとした助言があるんだけど」
影野司令の圧に少し引き気味な村雨だが、タイムリミットが設けられてしまったことと、長門さんが早々と終わらせたことで少し焦りも出てきているのか、影野司令の助言という言葉に過敏に反応していた。まだ始めて1日経っていないのだが、もう既に藁にもすがる思いだったのかも。
「目を瞑ってでもその場に立っていられる?」
「それは多分……出来ると思う」
夕立から手を離し、影野司令に言われた通りに目を瞑って静止。岸の方とはいえ、波自体はあるためそれなりにバランス感覚は必要。それでも、その場に留まり静止するくらいは出来るようになっている。プルプル震えることもない。
「そこから、滑っていこうと思わないで、歩いてみなよ。地に足つけて歩ける人間なんだから、一回艦娘であること忘れて、ただただ歩いてみるの。出来るなら走ってもいいよ」
「歩く……こう、かな」
そのままの姿勢で前に行こうとするから、妙に力んでしまって足だけ先行してしまったりするのだから、まずは普通に人間のように、平らな面を歩行してみる。海の上で静止出来るのだから、それこそ陸を歩いているかの如く歩けるはずと。
今までとは違い、滑るのではなく歩くことに重点を置いた動き。脚を持ち上げ、一歩前へ。それなら村雨にも出来た。しかも、何もバランスを崩すわけでもなく、当たり前のように海上を
「まずは歩く。次は走る。そして最後は滑る。これでやってみて。目を瞑ってやれば、海って意識しないでやれるでしょ」
「そうかも……陸を歩いてる感覚に思えるかも知れない」
「村雨ちゃんだっけ? 君は人間なんだからさ、まずは人間のやれる範囲でやっていけばいいんだよ。いきなり自分は艦娘だって意識しても力んじゃうから」
人間なのだから陸を歩くことが出来る。それを海の上でもやるだけ。艦娘にはその力があるのだから、当たり前のことは当たり前のように出来る。そうやって教えていた。
結果、村雨は今までどうやっても上手く行かなかった海上移動がどんどん出来るようになっていった。歩き、走り、そして滑る、滑るのは流石に簡単には行かなかったが、前のような横転は無かった。
「すごいっぽい! むーさん出来てるっぽいよ!」
「まだ不格好だけどね。感覚、わかってきたかも」
「艤装を装備してると、そういうところメキメキ上達していくんだよね。海の上も陸と同じって身体が覚えていくんだ。だから、まずは陸を意識する。少しずつ海に入っていけばいいんだよ。滑る感覚がそれで身につけば、自然と出来るようになるからさ」
今の村雨には一番的確な教え方なのかもしれない。あれだけ苦戦していたものが、ちょっとした助言でどんどん出来るようになっていく。これには流石の空城司令も驚いていた。
私の時は木曾さんから教えられた通り、艦娘は船であるというイメージと、人間であるというイメージを両立させることでいろいろとこなしてきた。最後は無意識を引っ張り出されることで無理矢理身体に教え込まれたが。
今の影野司令の考え方とはそこからして違っていた。艦娘はあくまでも人間の延長線上である。それを拡張していくイメージだ。結果的に村雨にはそれの方が合っていた。
「こりゃ凄い。アタシにゃそうやって教える力は無いからね」
「いやぁ、私実は元々艦娘志望だったんですよ。なので、この辺りはちょっと勉強してまして。なんだかんだそっち側の才が無くてこっち側にいるんですけどね」
「提督業の方が難しいんだがね……アンタはそういうタイプの人間だったってことかねぇ」
自分がなりたかったものにはなれず、それを導く側に抜擢されたのだから、教えるのも上手いし、過保護にもなると。いや、後者は影野司令特有の性質か。
選手としては鳴かず飛ばずでも、監督になったら超一流みたいな逸材。それが影野司令だったというわけだ。そういう意味では司令官になって然るべきな人なのかもしれない。艦娘のことをよく知り、いいところも悪いところも理解して、すぐに結果に出す。
「あとは威厳さえあれば、完璧な提督になると思うのですが」
「香取ちゃん酷いよねその言い方!?」
「御自覚もお有りでしょうに」
「あるけども!」
自覚していても直すつもりが無いのなら、もうそのまま突き通すしかあるまい。影野司令はむしろ、その状態が一番力を発揮出来る人なのかも。威厳が無いという言い方はアレだが、裏を返せば威圧感も無いので近寄りやすい。大人もいれば子供もいる艦娘と仲良くなるのには最適なのでは。
「一度慣れちゃえば、本当に身体が覚えてくれるのね。バランスも取れるわ」
そして村雨は海上移動訓練を無事クリア。先程までの苦戦が嘘のように上達した。艦娘としてのスタート地点に立てたことで、村雨も少しだけ自信を取り戻したようだった。
「ありがとう、影野提督。さっきまでは正直ドン底だったけど、貴女の助言でここまで出来ました」
「いやいや、それは村雨ちゃんの実力だからさ。私はちょっと後ろから押してあげただけだよ」
こういうところも司令官としての器なのだろう。艦娘を立て、自分は後ろから導いてあげるだけ。まるで学校の先生である。
「じゃあもう砲撃訓練行けるっぽい? ぽい?」
「ここまで動けるようになるなら、やってもいいと思うよ。早く成長したいっていうなら、休んでる暇なんてないだろうからね」
「むーさん、それじゃあ次っぽい! 夕立が手取り足取り教えたげるから!」
村雨は次の段階へ。これならタイムリミットまでに相当強くなれるはずだ。海上移動訓練は個人の問題な部分が大きいが、ここからは鎮守府の艦娘総出でスパルタ訓練になるはずだ。身体が嫌でも覚えていく。
「助かったよ。村雨も次の戦いではキーパーソンになる。リミットがある状態でどこまで行けるかとは思っていたが、これなら戦闘訓練にも入れるだろう」
「あ、この子もM型異端児なんですね。それなら力になれて良かったです」
ニッコリ笑う影野司令。影野司令が司令たる部分が見えた気がした。
この人が協力者となってくれて本当によかったと思う。こういう人なら、艦娘もついていくだろう。過保護すぎるのは考えものだが。
監督になった途端に才能が見出される選手とかっていますよね。影野司令はそのタイプです。過保護かもしれないけど良き指導者。