異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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唯一の妥協点

 村雨を導いた後も鎮守府内をある程度見て回り、その都度所属している艦娘と何かしらの関係を持っていった影野司令。今だけの協力者になるかもしれないが、いい関係が持てるというのはそれだけでもいいこと。

 特にいい関係になったのは、五十鈴さんと龍田さんが参加している対潜部隊である。子供達とも仲良くしており、すぐに懐かれていた。あの松輪もしっかりと本質を見抜いており、遠くから見ているものの拒絶はしていない。それは香取さん相手にもだった。そういう意味では、確実に敵対はあり得ないということがわかる。

 

「いやぁ、いい鎮守府でした。私もこんな感じにしていきたいですねぇ」

「そう言ってもらえるとありがたいね。まだ誰も命を落としてないのも誇りだ。アンタもそのつもりだろう?」

「勿論! 誰も死んじゃダメですからね。命懸けかもしれませんけど、命を賭けちゃダメです」

 

 信念からしてうちの司令と同じなのだから、仲良くなれるに決まっているのだ。それがわかったのだから、艦娘も全員が影野司令を受け入れていた。

 良くも悪くも嘘がつけないような性格をしているので、表に出ているこの表情が影野司令の全てだと思う。

 

「今回はうちが助けてもらってんだ。アンタ達がヤバイと思ったらうちにも声をかけておくれ。必ず手助けすると約束しよう」

「その時はよろしくお願いします!」

 

 ニッコリ笑って握手。いい関係が続くのなら嬉しいものだ。仲間は多いに限る。

 

「あ、提督、ここでしたか」

 

 ある程度回ったところで、空城司令を探していたのかしーちゃんが駆け寄ってきた。見た感じ、別に悪いことで探していたわけでは無さそう。

 

「どうかしたかい」

()()()()、試作品が出来ました。午後からでも実験が可能です」

「おお、そうかい。ならまず見せてもらおうかね」

 

 例の装備といえば、勿論赤い海攻略のための装備だ。侵食を防ぐための装備であり、想定では私、陽炎が使っていた初月インナー、いわゆる全身タイツ的な物。

 今回は立候補した菊月と初月専用に作られており、それを使用して赤い海への突入をする。それで魂への侵食が無ければ正式採用。されているのなら次の案へと繋ぐ。

 

「影野、アンタも見ていくかい」

「是非とも! 侵食というのをどう回避するのか、私気になります!」

 

 この方法次第では、影野司令も考えを変えてしまうかもしれない。そうなった時は諦めるしかないだろう。

 

 

 

 用意されているのは再び工廠。今回は哨戒部隊に入れられていなかった立候補者(被験者)2人が、すでにその新装備を装着して待ち構えていた。

 

「試験型装備01、対深海日棲姫用インナーです。今回は沖波さんからの提案を基に、陽炎さんの使用していた魂の匂いを封殺することが出来るインナーの裏表を逆転させた加工にしてあります」

 

 初月の方は基本いつも通りであるため、何も変わったようには見えなかった。元が初月インナーであるため、初月で違和感を覚えるわけが無かった。

 逆に菊月はというと、元々が殆ど露出していない上に、普段から長袖の黒のセーラー服を身につけているため、色合い的なものに殆ど違和感が無い。強いて言えば、普段とは違う手の指先まで覆う黒と、首まで伸びるインナーの黒がある程度。

 

「僕はおおよそ普段通りだから何も違和感は無いが、菊月はどうだ」

「正直、怖くなるほどに馴染んでいる。肌触りがやたらいい上に、突っ張ることもない。動きやすくて助かるな」

 

 手をグーパーさせたり屈伸したりしながら、感触を確かめている。私も体感しているのだが、やたら馴染むのがちょっと怖い。真っ黒な薄い皮膚が追加されたような感じになっている。

 これは今までに訓練してきた戦闘技術に支障が出ないようにされた配慮だとは思う。事実、使い始めてから深海棲艦化を経て今のM型に生まれ変わるまでに使い倒してきたが、インナーが邪魔だと感じたことは一度も無かった。むしろ今もサポーター効果のために下だけは使っているが、それすらも違和感が無い程である。

 

「陽炎さんの物とは違って、下半身にサポーター効果はありません」

「僕はそれでいい。陽炎のような無茶な動きはしないからな」

「菊月にも不要だ。これで充分だろう」

 

 あれは私専用の仕様ということで、しっかりオミットされているようである。脚に負担がかかるような行動をするのは、私の他にはいない。沖波の『空』の回避は極端に負担を減らす仕様なので負担は考えなくていいし、村雨の『雲』の回避はもう出来ないと見ていい。なら、私専用の装備となるだろう。

 そもそもサポーターが必要な動きが出来る者は全員M型異端児であり、このインナーは要らないのだ。だったら最初から不要。

 

「代わりに、念のため鼻や口も隠せるようにしておきました。首元から引き上げてみてもらえますか」

「こうか」

 

 2人がしーちゃんに言われた通りに布地を引っ張り上げ顔の半分を隠すと、全く隙間が無い状態で顔に貼り付いた。口の形とかがわかるほどに貼り付いているわけではないが、少し陰影が見える程度にはなっている。見た目はまるで漫画とかで出てくる忍者である。

 肌が見えているところから侵食してくるというのなら、顔が外に出ている時点でアウトな気がする。それを極限まで抑えるため、せめてと呼吸出来る穴を隠しておくという算段。それでも目やら頭皮やらは外に出ているのだから、それが原因で侵食という可能性は充分あり得るわけだが。

 

「息苦しくないですか?」

「ああ、呼吸も出来るし話も出来る」

「話すのも難儀ではないしな。菊月としてはデザインも嫌いではない」

 

 見た目に反して、普通のマスクを着けているときよりも呼吸や会話に全く影響がないとのこと。これが妖精さんクオリティ。

 見えている目が少しキラキラしている辺り、菊月の琴線に触れているのだろう。それこそ漫画のキャラのようなデザイン。厨二気質な菊月には、この特別感は喜ばしいもののようである。

 

「なら、午後からは哨戒を兼ねて突入実験を始めよう。タイムリミットは刻一刻と迫ってきているからね」

「了解した。この菊月に任せてもらおう」

「ああ、僕も貢献しよう。何かあっても、陽炎がいれば問題ない」

 

 そこまで頼りにされても困る。万が一が無いわけではないのだから、ちょっと入ってすぐに離脱し、安全な場所で魂を確認する方向で行くのがベスト。

 哨戒部隊とは別に、いわゆる()()()()みたいなものを並行して出撃させることになるのだろう。連合艦隊で哨戒とか普通はありえないのだが、今回は別件。

 

「これがあれば侵食を受けないんです?」

 

 流石に半信半疑な影野司令。服を着たら効かなくなると言われても、そう簡単には信じられないだろう。

 だが、魂の匂いを封じ込める実績があるのだから、今回も信用度はそれなりに高い。

 

「この装備に関しては、少し違うが実績はある。とはいえ、100%とは言えないから、それを確かめてみなくちゃいけないんだ。その実験を午後にやる。侵食を受けたとしても、陽炎がすぐに治療することでどうにかする」

「なるほど……でも、この2人は実験台になってしまうってことですよね」

 

 やはりそこに若干引っ掛かるところがあるのだろう。空城司令もさんざん悩んだ挙句、2人が立候補してくれたことによって実験に踏み出すことになれた。そうで無ければまだ実行するか悩んでいたかもしれない。

 同じ思想を持っているからこそ、部下を実験台に使うというこの手段に難色を示すのは仕方ないことだ。優しければ優しいほど、この実験には抵抗が出る。

 

 それに対しては、空城司令が口に出す前に菊月と初月が反応した。

 

「別に我々は実験台で構わない。我々が試したことで、仲間達があの海域に向かえるようになるというのなら喜ばしいことだ」

「むしろ、遅かれ早かれ誰かが調べなくてはいけないことだ。なら、僕や菊月のように一度侵食を受けた者が実験台になる方がいい。それに、この実験台の件は僕達が直接提督に願い出たものだからな」

「自己犠牲とかではないからな。これが最善と考えた結果だ。それでもダメだろうか」

 

 司令官には艦娘の意見を突っぱねられる権利があるが、過保護な程に艦娘を溺愛している影野司令にとっては、艦娘の話も聞いてあげたいと考えるはずだ。

 個人的に艦娘にやらせたくないことを艦娘自らが望んだと言われれば、判断に困るだろう。危険な作戦、しかも実験という名目なのがさらに困る。

 

「どうしよう香取ちゃん、すごく判断に困る!」

「貴女ならこの現状をどう突破するか考えてみればいいでしょう。それで対立意見が出るのなら、それをぶつければいいんですから」

 

 こういう時は香取さんも意見を出さない。司令官としてどういう判断を下すか、これも勉強だと言わんばかりに後ろから見ているだけ。

 しばらく頭を捻り、うんうん唸りながら天を仰ぎ見たり、頭を抱えたり、わちゃわちゃ動き出したりしていたが、納得が出来る結論には至ることが出来なかったようで、私達がむしろ心配しそうになった辺りで目をカッと開いた。

 

「私でも同じ選択しちゃう! 放置してたら呑み込まれてどうにもならなくなるけど、治療出来る見込みがある上で実験出来る装備もあるのなら、それが本当に大丈夫か調べると思うし!」

 

 結論は同じところに行ったようである。納得は出来ないが、妥協は出来るところには来たようだ。

 

 空城司令も同じように考え、苦渋の選択で実験という結論に達したが、立候補者が出るまでは悩み続けていたのだ。おそらく今でもこの実験に関しては納得出来ていない。だが、やらなければ話が進まないのも確かである。それこそ、私の分霊でM型異端児を増やすしか無くなってしまう。艦娘の意思を吹っ飛ばして。

 おそらくこの実験が最善の手段なのだと思う。悩みすぎた結果タイムリミットを迎え、取り返しのつかないことになるくらいなら、治療出来ることが確定している実験台を用意して確かめる方が犠牲者は少ない。それに犠牲者にするつもりも毛頭無い。

 

「確実に全員ダメになることと、もしかしたら数人ダメになるかもしれないこと、どっちがいいか決めろったら言われたら、やっぱり後の方を選ぶべきだもんね。どっちも回避出来る3つ目の選択肢が無いわけだし」

 

 難しい問題ではあるが、そういう解釈をしてくれるのならありがたい。全員が幸せになれる画期的な方法が無いのなら、被害を受ける可能性が限りなく小さい方を選択するしか無いのだ。

 私だってこれは妥協だと思う。空城司令も間違いなくそう思っているはず。だが、これが一番被害者が少ない道であるのなら、それを選ばざるを得ない。

 

「ごめんなさい空城大将、多分大将もモヤモヤしてるんだと思います。でも、これをやらないと被害がもっと大きくなっちゃうんですよね」

「ああ……これが唯一の妥協点だと思っている」

「だったら、これが一番いい方法なんだと思います。何も無いことを祈るしか無いですよね」

 

 そこで終わらせてくれるのならありがたい。そういう意味では賛同者が増えたことで、実験を推し進めることが出来るようにもなる。少なくともこのインナーは回避出来る可能性が高いのだから、最悪な状態になることはまず無いはずだ。そのための実験ではあるが。

 

「菊月ちゃんと初月ちゃんだったね。実験、頑張って。おかしなことにならないように、私も祈ってるよ」

「ああ、そんなことにはならない。この菊月、奴の瘴気などに屈しはしない。一度直の分霊も受けているしな」

「勿論僕もだ。屈する前にその場から逃げる」

 

 2人ともやる気満々。立候補しただけある。その反応に、影野司令もいろいろと納得してくれたようだ。

 

「私は見届けられないですけど、いい結果が出ると信じてます」

「ああ、そうしておくれ。これがうまく行ったら、五十鈴と龍田の分も作ることになるからね」

「あ、そうですね。対潜部隊として突っ込むなら、あの子達の分も必要になるんだ。はー……なるほど。このインナーをあの子達が……」

 

 今更ながら、菊月の姿を上から下まで舐めるように眺める。ねっとりとした視線だったのか、菊月が一歩引いたのがわかった。

 

「なんか途端にえっちく見え」

「おバカ」

 

 全部口走る前に香取さんが影野司令を引っ叩く。なんだかこの関係、ヒトミとイヨの関係性に見えてきた。

 

 

 

 とにかく、実験は午後から開始することに。このインナーで突破出来るのなら、全員を戦場に送り出すことが出来る。上手く行ってくれればいいのだが。

 




初月はまだしも、菊月まで真っ黒全身タイツ状態に。でも菊月って元々が殆ど露出してないし、結構違和感無いかも。
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