異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
太陽の姫の瘴気に対抗するための試作品が完成した。予定通り立候補者の菊月と初月専用のものとして仕立てられ、午後からその実験のため、哨戒部隊とは別に赤い海へと向かうことになる。私、陽炎もその部隊に便乗し、万が一の時に即座に治療出来るように待機する。
「赤い海まで実験部隊を押し通すため、哨戒部隊の航空戦力を強くするよ。こうなると哨戒というよりは護衛艦隊だね。アクィラ、旗艦を頼めるかい」
「
「ああ、それでいい。航空火力で道を拓いてもらいたい」
少し急ではあったが、昼食前に午後からの実験部隊が組まれた。影野司令と香取さんも、その段取りを最後に見ていくということで打ち合わせに参加している。昼食後、私達が出発後に帰るとのこと。
まずは一緒に向かう哨戒部隊もとい護衛艦隊なのだが、実験部隊を赤い海に突入させるための部隊として、本来の目的である赤い海の拡がり方の確認に加えて、そこに入らずとも敵を一掃出来るような部隊が組まれた。
それが航空戦力に尖った部隊。今この鎮守府には、支援艦隊も含めて空母は5人。さらに速吸さんまでもをそちら側に据える。
天城さんがD型異端児のため慎重に行かなくてはいけないものの、絶対に赤い海に入らない方針で動くので、そこは問題無しと判断された。目の前で拡がったとしてもすぐに退く。
「実験部隊はM型異端児をメインに組む。村雨はさすがにまだ早いから、訓練に励んでもらうがね」
「それは私も自覚してるので」
「ぽい! むーさんはどんどん鍛えていくっぽい!」
M型異端児を主軸にしており、旗艦は衣笠さん、随伴として私と沖波と松輪、そして実験台として菊月と初月である。松輪には重荷かもしれないが、私達では手が回らない対潜に特化してもらえるのはありがたい。潜水艦がいないようなら、回避に専念してもらえばいいだろう。
村雨はどうしても経験が足りなすぎるため、最終決戦のために鍛え続けてもらう。夕立もそうだが、他にも続々と訓練を見てくれる人が殺到しているため、スパルタの中頑張ってもらおう。
「衣笠が旗艦、陽炎、沖波、松輪でサポート。そして、菊月と初月には突入後、侵食がないことを確認して戻ってもらう。出来ることなら赤い海の中で少し長居をしてほしい」
「了解した。初月、あの時はどれくらい赤い海にいたんだ」
「小一時間程度か。調査の護衛でいただけだが」
そこまでの長居が出来るかはわからないが、どれだけいても侵食を受けないことを確認したいのだから、なるべく長くいるというのが目的となる。防衛線があるのなら道を拓いてもらい、そこを突き抜けた後にそこに立ち、そして何事もなく撤収。
「まつわ……いっていいんですか……?」
「ああ、今あの場所に行けるのは松輪しかいない。自信を持っておくれ」
「は、はい……おねぇちゃんたちと、がんばります……!」
最初は少し怖がっていたが、自分が選ばれた者であるということも自覚出来ており、やる気も出てきている。大鷹も哨戒部隊とはいえ一緒に参加するため、保護者も完備されている辺り準備も万端。それに、私や沖波もついている。
「松輪、頑張るっすよ!」
「あたいらの分まで頼むぜぇ! 本番は一緒に行くんだからな!」
「う、うん、がんばる……!」
海防艦から唯一選ばれた松輪に、占守と大東も大盛り上がりだ。本来こんな作戦には選ばれないのだから、仲間が選出されたことを素直に喜んでいた。これなら松輪も引け目を感じないだろう。
「じゃあ、午後からよろしく頼むよ」
これで午後からの動きは決まった。この実験が上手くいけば、タイムリミットまでには充分な余裕が得られる。インナーを全員分準備することも出来るだろう。1つ目の試作品でどうにか出来れば御の字すぎる。
もしこれで失敗した場合はまた考えなくてはいけないが、そちらにしても時間はあるのだ。早いところ知っておきたいことばかりである。
昼食後、選ばれた護衛艦隊と実験部隊が工廠に揃った。目的が本来と違う連合艦隊なので、今までとは違った緊張感。
私はサポート兼万が一の治療係としての出撃となるが、防衛線を抜けるために戦闘を行なう可能性もあるので、いつも通りの完全武装。むしろ武装無しで行くようなことは無い。
「空母全員で出撃ってまたすごいね」
「1つの部隊に固めるのは初めてだよ。アクィラピッドは頼もしいねぇ」
ケラケラ笑いながら部隊を見回す隼鷹さん。戦艦を使わず空母のみで押し込むというのは初めてにもなるだろう。そもそも鎮守府には空母が部隊を埋められるほどいない。速吸さんまで動員してまで航空戦に特化すること自体が基本的には無いやり方だ。
そこに支援艦隊から2人の空母が追加されたのだから、それはもう圧巻である。これ、現場でどれくらい艦載機が飛んでいくのだろう。それはそれでちょっと楽しみだったりする。
「天城、アンタは特に気をつけるんだよ」
「かしこまりました、D型の侵食の速さは理解しております」
「ああ、足を踏み入れた瞬間にやられることはないだろうが、それくらいのつもりで考えて行動するべきだからね」
天城さんはギリギリまでチェックを繰り返されていた。この部隊唯一のD型異端児。最初は控えるべきとされていたものの、航空戦となったら話は変わる。危険である海域に踏み入ることなく攻撃出来るのだから、危険度は他のD型異端児よりは大分下がるだろう。
「部隊としては別になるので、松輪ちゃんは陽炎さんに任せていいですか?」
「うん、大丈夫。松輪、それでいいかな」
「はい……かげろうおねぇちゃん、よろしくおねがいします」
ギリギリまでは大鷹を保護者として動くが、現場に到着してからは私が保護者。赤い海には実験部隊で纏めて突入することになるため、嫌でも大鷹とは離れることになる。そうなったら、松輪の安全は私が守ろう。
「菊月、初月、違和感を覚えたらすぐに赤い海から出ることだよ。いくら治療が出来るからといっても、無理はしちゃあいけない」
「ああ、わかっている。菊月だって深海棲艦化は避けたい。そういうのは漫画やアニメだけでいいんだ」
「菊月の言う通りだ。本人を前に言うのも何だが、僕もアレだけは避けたい。敵対は困る」
今回ばかりは空城司令も過保護になっていた。深海棲艦化の心配がある場所に行くのだから、こうなっても仕方ない。ギリギリまで悩んだ上に、今もモヤモヤしている状態なのだ。2人のことを心配するのは当然のことだった。
菊月も初月も元々の性格から飄々としているが、緊張感はこのメンバーの中では随一だろう。一歩間違えば侵食を受けることになり、あの治療を受ける羽目になるのだ。私だってそれは避けたい。
「みんな、頑張ってね。私達も成功を祈ってるから!」
これを見送ってから自分の鎮守府に帰投するという影野司令からも声援が飛んできた。私達が戻ってきたらもういないため、この部隊としてはこれが最後の顔合わせ。
手を振る影野司令に対して、部隊のみんなが手を振りかえす。敬礼とかの方が良かったかもしれないが、その方が緊張感が増しそうだったので、今回は少し軽く。
「じゃあ、行きましょっか。実験部隊、旗艦衣笠、出撃よ!」
「護衛艦隊、旗艦アクィラ、抜錨しまーす」
これより先は、戦いではなく、戦うための準備をする出撃。こういう出撃は、今回限りで終わってほしいものだ。
鎮守府から出てしばらく航行を続け、強行偵察のときも休憩地点として使った、元南方棲戦姫の巣の場所に到着。さすがにまだここでは赤い海を確認することは出来ない。
昨日の報告では、防衛線から見えるくらいにまで拡がっていたと聞いている。なら、今日は防衛線のところまで拡がっているくらいが妥当か。
「防衛線が真っ赤に染まってるわ。また拡がってるわねぇ」
確認したアクィラさんが苦笑しながら報告。防衛線自体は常に同じ位置で展開されているらしいのだが、赤い海自体が拡がってしまっているせいで、防衛線が赤い海の中に入ってしまっている状態となっているとのこと。
赤い海の効果は、M型異端児以外を侵食するだけではなく、深海棲艦を昂揚させる効果も持っている。つまり、あの防衛線は前回戦った時よりも強化されているというわけだ。
あの時ですら鎮守府の艦娘総動員で対処したくらいなのに、それがさらに強化されているというのなら、今のこの戦力ではかなり厳しい。
「一歩踏み入れられればいいってわけじゃないのよね?」
「出来れば長くいたい、かな。赤い海をタッチしただけで侵食が来るかどうかはわからないし」
最終決戦は、あの赤い海で長く戦うことになるだろう。その時には今以上に拡がっているだろうから、そもそもここに来るまでにも侵食が発生する。長ければ半日以上を赤い海の上で過ごすことになるかもしれない。
数秒もなくタッチしただけで侵食具合を見るのは危険だ。しばらくあの場所にいるからこそ侵食が進んだとも考えられるし。
「それなら、この12人で敵陣に突っ込んで、しばらく戦ったら撤退って感じになるかな。今回は本拠地の真上まで行く必要は無いんだし」
「そうねぇ。それが出来るならその方がいいわよねぇ。こっちは赤い海には入れないけど」
「全力の空襲を続けてもらって、そのど真ん中を突っ切るしか無いよね」
そういう意味では、防衛線が一番薄いところを見極めることが先決である。真正面から突っ込むのは流石にあり得ない。
「ピッド、その辺りは確認出来る?」
「Ah.
イントレピッドさんの圧倒的な搭載数を活用して、幅広く防衛線を観察していく。隼鷹さんと天城さんの搭載数の合計に近い数を1人で取り回しているというのが相変わらず恐ろしい。
「もう少し向こう側が真正面よりは薄いかな? このまま突っ込んだら姫とかいるけど、向こう側はそういうのがいないから」
「なら移動しましょっか」
このまま突っ込むのは強行偵察でもやったこと。防衛線が前回より厚くされていてもおかしくはない。ならば薄いところを見定めて、そこから突入する。
「実験部隊のみんな、今のうちに補給しておきましょう。護衛艦隊はここから動かず空襲だけですけど、そちらは肉薄するわけですし」
移動しながら速吸さんが洋上補給の準備もしてくれた。最善の状態で任務にあたるため、出来ることは全てやる。
そういう意味では前回の強行偵察とは違った。補給艦の重要性がここでよくわかる。戦力として見るとどうしても他より劣る部分が多いかもしれないが、唯一無二のこの回復があるのが大きい。
そのまま一番防衛線が薄い位置まで移動完了。このまま強行偵察と同じように突入し、赤い海の上で無限に現れる敵戦力を延々と処理をし続ける。
「僕らも準備しよう」
「ああ」
突撃準備ということで首元のインナーを引き上げ、鼻と口を隠す初月と菊月。このスタイルでしばらくは戦うことになるのだが、午前中に確認した通り息苦しさを感じていない様子。こんな状態でも普段通りに戦えるようだ。
このスタイルを初めて見たみんなは、自分達もこれを使うことになるのかと感心している。特に大きく反応していたのは、自分の国にはあまりそういうのが無いのかイントレピッドさんである。しきりにNinjaと興奮していた。
「護衛艦隊、空襲を始めるわ。実験部隊、突入お願いね」
「了解。突撃準備!」
衣笠さんを先頭に、いわゆる単縦陣というヤツで突撃準備。衣笠さんの後ろに初月と菊月が陣取る。早いところ赤い海に入るためになるべく前へ。
「松輪、大丈夫だからね。私達がついてるから」
「私とひーちゃんで松輪ちゃんを守るから」
「は、はい、がんばります……! かげろうおねぇちゃん、おきなみおねぇちゃん、よろしく、おねがいします」
松輪の前後を私と沖波が務め、後ろへ。あの混戦の中に潜水艦が出てこられたらかなり厳しい。そこは私達も松輪に任せ切ることになるだろう。そのためにも、この3人で組んで行動し続ける。
「それじゃあ、攻撃隊各機、カタパルトへ!」
護衛艦隊が空襲準備。
「艦載機隊、発進!」
そして、300機を超える艦載機が一斉に飛び立った。今の鎮守府で出来る最大の航空戦力が同時に飛び立つその光景はまさに圧巻。
「こっちも行くよ! 突撃ぃ!」
それが合図となり、私達実験部隊も一気に最大戦速まで加速して防衛線に突っ込んだ。
決死の実験が今始まる。誰もが上手く行くことを願っているのだ。何事もなく終わらせたい。
アクィラ:66機
イントレピッド:112機
隼鷹:66機
天城:69機
大鷹:39機
速吸:10機
合計:362機の全力空襲。ボーキが吹っ飛ぶ。