異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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瘴気漂う海で

 赤い海への突入実験が開始された。航空戦力のみで構成された護衛艦隊の空爆を皮切りにし、実験部隊で防衛線に突撃することで、赤い海のど真ん中に立とうという作戦である。実験部隊の周囲を空爆によって蹴散らし、残党を実験部隊自身で始末し、なるべく長く居座ることが目的だ。

 6人がかり、300機を超える艦載機が水平線の向こうに向かうのを追うように、実験部隊は駆ける。どうしても海防艦という艦種のため松輪は出遅れてしまうが、そこは私、陽炎と沖波でサポートしつつ直進。

 

「うっわ、すごいねアレ」

「本当に赤いな」

 

 そろそろ防衛線にぶつかるというタイミングで、海が爆発したかのように空爆が炸裂した。何機もの艦載機が敵に撃ち墜とされてはいたものの、敵陣を纏めて薙ぎ払う程の火力は有していた。

 そのおかげで、まるで防衛線に大穴が空いたかのように敵が吹き飛んでおり、その下に隠れていた海が変色していることが嫌というほどわかった。

 赤く染まった海を知らない衣笠さんと菊月は、その色を見たことでとても驚いていた。あれは驚いても仕方ない。

 

 本当に赤い海が前の場所から拡がっていた。私もあのとき『雲』と戦っているが、そこは赤く染まっていなかったわけで、その場所はここよりももっと先だ。

 数日のうちにここまで進んでいるということは、青葉さんが言っていた計算上2週間前後で陸に辿り着いてしまうというのもあながち間違いでは無さそうである。

 

「突入!」

 

 勢いそのままに赤い海に侵入。もう足下は赤く染まっており、いつもの海とは全く別のところに入ったと感じるほどに。すぐそこに通常の青い海があるというのに、それが別世界に見える程の異界である。

 一度赤い海に立っているにもかかわらず、今のこの海がおかしいと明確にわかるほどだった。自分に侵食してきている感覚はないのだが、一応念のため、後からM型異端児もチェックしておいた方が良さそうだ。何せ、M型異端児ですら分霊してしまう太陽の姫が撒き散らす瘴気なのだから、何も悪影響が無いとは限らない。

 

「全員、何か感じることある? 衣笠さんは何も感じないよ!」

「私も平気。前に赤い海に入った時と同じかな」

「私もです! 松輪ちゃんは?」

「まつわも……なにもない……です!」

 

 話しながらも周辺に湧いてくる深海棲艦を次から次へと沈めていく。あれだけの爆撃を決めても、この防衛線は無限に湧いてくるという酷い仕様だ。私達がこの場にいても、定期的に爆撃はされるだろう。

 そこまで恨み辛みが溜まったものであり、太陽の姫の影響を強すぎるほどに受けているからこそ、ここまでの海域になってしまっているのかもしれないが、攻略する側からしてみれば堪ったものではない。

 

「菊月、初月、そっちは!」

「あの時に感じた得体の知れない空気は感じない。普通の海に思える」

「菊月には前回がわからないが、何も感じないぞ」

 

 菊月はともかく、初月は一度赤い海の瘴気を体感しているため、その差は感じ取れる。今回は前回と違って海がおかしいと自覚した状態からのスタートのため感じ取り方は違うかも知れないが、少なくとも今この場で空気が重いとか気持ち悪いとかが無いというのは大きなこと。

 だが、これが時間経過によって深刻な侵食になりかねない。耐えられるだけこの場で耐え、侵食が何処まで抑えられるかを確認しなければならない。無症状で侵食されていると言われたら目も当てられないが、それなら少なくとも何かしらの影響は出てくるはずだ。

 

「おねぇちゃん、せんすいかん、きてます……!」

 

 今回の防衛線は潜水艦もいるらしい。前回は4人の潜水艦隊を海中から攻め込ませたことで、海上にまで潜水艦の攻撃が来ることは無かったが、今回はそれが無いため余裕を持ってこちらに雷撃が来ている。

 それを見逃さないのが我らが海防艦だ。私達以上の対潜攻撃の練度で、すかさず爆雷を海中に放っていく。占守と大東にも後押しされた選ばれし者として、力強く奮闘してくれていた。少し涙目ではあったが、恐怖を押し殺し戦う様は、まさに艦娘である。

 

「ホント数減らないねココは!」

「倒しても倒してもキリがない!」

 

 一番薄いところから攻め込んでいるため、姫級のような対処に困る輩はまだこちらの方には来ていない。そのうち来かねないため警戒は常に必要ではあるが、今はこのままでも大丈夫だ。

 だが、戦艦や空母は当たり前のように群がってくる。私や沖波は回避の面では心配要らないが、他の面々はそうはいかない。

 

「くそ、割と狙ってくるな……!」

「強化されてるって聞いてるけど、こんなに変わるもんなの!?」

 

 瘴気のせいで敵は1ランクはスペックアップしている。そのため、同じ見た目でも火力や命中精度が格段に上がっていた。耐久力も本来以上になっているように思える。普段は1発撃ち込めばどうにかなるものが、2発3発と撃ち込まなければ倒せないものばかり。戦艦や空母はより硬くなっているため、嫌でも苦戦を強いられる。

 そんな中でも菊月がやたら狙われていた。小柄だからか、妙な格好をしているからか、初月よりも狙われやすいように思える。

 

「菊月、大丈夫!?」

「正直キツイが、まだ避けられる。この菊月の『心眼』があればな」

 

 かなり必死に見えるが、本人の言う通りキッチリ全てを回避している。全てを動体視力のみで判断し、四方八方からの攻撃を見極めているのは凄まじい。相変わらず真似出来ない力だ。私の脱力回避まで見抜いてくるだけある。だが、その分消耗は激しそうだった。私から見ても汗ばんでいるのがわかる。

 合間合間に潜水艦による横槍も入るが、そこは松輪が即座に対処した。いくら菊月と言えど、()()()()()には『心眼』が通用しない。潜水艦はその筆頭である。それを処理していく松輪は、覚醒していると言っても過言では無かった。

 

「全員、散らばれ! 空襲がもう一度来るぞ!」

 

 敵陣のど真ん中でも防空に徹していた初月が叫んだ瞬間、そこで突然空が暗くなった。見上げてみると、私達の知っている艦載機の一群が空を埋め尽くしていた。戦いの火蓋を切る一撃となった空襲が、再度行なわれるという合図。それくらいやらなければ、この無限の敵勢はどうにもならない。

 今までも空爆で私達の周りの敵を沈めてくれていたが、ここでもう一度一掃しようとしている。私達なら回避出来ると信じて、お構い無しにぶちかましてくる。

 

「松輪、こっち!」

「はっ、はいっ」

 

 回避に関しては手伝ってあげた方がいい。すぐに手を伸ばし、松輪を引っ張るようにその場から離れる。なるべくその後に動きやすいように、奥に行くのではなく手前、本来の青い海に向かうように移動した。

 他の者達も一目散にその場から撤退。私と同じように、赤い海を奥に進むのではなく、青い海へ。

 

 全員が撤退した瞬間、再びあの空爆が、今度は間近で繰り出された。殆ど回避不能とも言える爆弾の豪雨が敵を呑み込み、次々と沈めていく。それこそ、文字通りの絨毯爆撃と言えるくらいに面の範囲で一掃された。

 敵が強化されていようが、あそこまでの攻撃ならばひとたまりもない。いくら回避能力に秀でていても、回避するルートが見当たらないのだから避けようが無いのだ。その場からいなくなる私ならギリギリ行けるかもしれないが、紙一重で避ける沖波にもアレは無理。

 

「さっきより火力が減ってる。大分墜とされてるからなぁ」

 

 一掃されたらまた赤い海に入り、先程と同じように掃討していく。無限に湧くため出来る限りの撃破なのだが、衣笠さんが言う通り最初の空爆の時よりは敵の減りが少なくなっていた。こうやって戦っている間にも、艦載機が次々と撃墜されているのだから、空母の攻撃力が減っていくのは仕方ない。

 

「これはそろそろ限界が近いかもね。菊月、初月、体調は!」

「最初と変わらない。疲れがあるだけだ」

「僕もだ。あの時の空気は今も感じていない」

 

 申告では瘴気は感じていないと見える。インナーが大分効いているようだ。だがまだ安心は出来ない。

 

「あ、ヤバイ。姫が来た!」

 

 そうこうしている内に、湧いてくる敵に戦艦の姫が現れる。見た目は綺麗なお姉さんなのだが、その背後には全く綺麗ではない化け物のような艤装が鎮座している。並の火力ではないそれは、掠っただけでも致命傷。直撃しようものなら、いくら身体能力が強化されている艦娘でも消し炭になりかねない。戦艦同士ならわからないが、私達駆逐艦や松輪のような海防艦は面と向かうことすら難しい相手だ。

 だから強行偵察の時は別働隊と支援艦隊に対処をお願いしたのだ。陸奥さんと霧島さん、そしてネルソンタッチが加わることで姫をどうにか出来たにすぎない。今のこのメンバーでは荷が重いとかそういう問題では無くなる。

 

「2体目来たぞ!」

「ダメだね、これは撤退! 実験は充分出来たから、ここで終わりにするよ!」

 

 姫の2体目が現れたことで、衣笠さんの指揮の下、実験はこれで終了。赤い海にいた時間は、体感1時間も無い。強行偵察のときよりは確実に短い時間ではあるが、私達だけで耐えるのは無理と判断した。

 ここからは確実な撤退戦。もう赤い海の中で耐えるということもせず、被害を受けずにこの場から離れる。こちらの意思を察してくれたのか、護衛艦隊から飛んでくる艦載機も、私達の撤退を手伝ってくれるかのように近くの敵から片付けてくれていた。

 

 しかし、そう簡単に逃がしてはくれない。現れた2体の戦艦の姫が同時に激しい砲撃を繰り出してきた。仲間のことなど一切考えない、私達が沈められればそれでいいと言わんばかりの砲撃。2人がかりなのでどうしても陸奥さんの一斉射を思い出してしまうが、それに近いくらいの密度の砲撃だった。

 

「ぐっ……!?」

「くそっ、掠ってもいないのにこれか……!」

 

 その砲撃の余波にやられたのが、今一番重要な菊月と初月。直撃どころか掠ってもいないのに、制服やその下のインナーに傷を与える程の火力。菊月は腕の、初月は脚の生地が裂け、小さくだが肌が見えるようになってしまった。

 その隙間から侵食される可能性が高いため、テストとしての体裁が取れなくなる。2人ともまだ赤い海の上だ。このままだとまずい。

 

「3回目来た! 菊月、初月!」

「わかっている!」

 

 ここで大掛かりな空襲3回目。殲滅のためではなく、撤退のための一撃で、退路を阻む敵が一気に失われる。それでも姫は残っているものの、攻撃の手は確実に緩んだ。

 

「今だ、撤退!」

 

 この空爆のおかげで菊月と初月も赤い海から抜け出ることに成功。そうなるとあちらは赤い海を出てまで追ってくるということはしなかった。砲撃自体は飛んでくるが、離れれば避けやすくなるので問題無い。

 あちらもその辺りは理解しているようで、防衛線から離れて行動することは考えていないようである。それに、本来の目的である本拠地の防衛は既に済んでいる。

 

「っし、撤退完了かな?」

 

 そのままの勢いで赤い海から離れて、護衛艦隊と合流するところまで来ることができた。この時にはもう砲撃も飛んでくることはなくなり、安全と言える状況に。

 無事に戻ってきた私達が見えたことで、アクィラさん達もホッと一安心したようだ。艦載機からこちらを見ていたとしても、実物を見るまでは油断出来ないというのもあるだろう。

 

「くそ……最後の最後に破れてしまった。これのせいで実験失敗になり得るというのに」

 

 初月が悔しそうに脚に触れていた。最後の撤退の時に激しく動いたせいで、小さかった生地の傷が、それなりに大きく拡がってしまっている。菊月も同じように腕の生地が裂け、肌が見えるようになっていた。

 

「ここが安全なら今すぐ見ようか」

「ああ、頼む。自分のことだ、結果は早く知りたい」

 

 初月の希望もあり、侵食されているかは確認しておく。最後の最後で生地が破れるという想定外のことが起きてしまっているが故に、たったそれだけでも魂に穢れがへばりついていてもおかしくはない。治療は帰投してからの方がいいかもしれないが、確認だけはすぐの方がいいだろう。

 早速初月の胸に指を突き入れ、魂を確認。前に見た時は初月も穢れに侵食されていたが、その穢れはちゃんと取り払っている。今は果たして。

 

「……あれ?」

「どうした。あまり僕を不安にさせないでくれ」

「いや、穢れが無いみたいだよ」

 

 その魂は、前に中和した時の最後に見たものと同じ、綺麗なものだった。

 

「陽炎、菊月にも頼む。こちらも腕の生地が破れてしまっている」

「オッケー」

 

 初月の確認を終えた後、すかさず菊月の確認。菊月も一度治療しており、その時に穢れを全て取り払った綺麗なものにしている。

 

「こっちにも無い。前見たままの綺麗なものだよ」

 

 そして菊月の方にも穢れは見当たらなかった。

 

 つまり、インナーは効果アリであることが証明されたわけだ。最後の最後で生地が破れたのに大丈夫だったことは気になるものの、とにかく2人とも何事もなく赤い海に入り、出てくることも出来たのだ。

 

 

 

 対策として最高の結果が出てくれた。あとはこれを量産し、全員分が用意出来れば最終決戦に臨める。

 




対策インナーの効果は上々。つまり、M型異端児以外は全員全身タイツ部隊になることがほぼ決まったようなものです。でも腕や脚に傷がついても大丈夫だったのは何故か。
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