異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
無限に現れる防衛線の中でそれなりの時間戦い続け、撤退間際で敵の砲撃の衝撃でインナーの一部を破損してしまったのだが、それでも瘴気による魂への侵食は確認されなかったため、この装備は対策として良質のものとして判定されることとなった。
これにより実験は無事終了とし、鎮守府にまで撤退。衝撃を受けた菊月と初月は少し消耗していたが、特に大きなダメージもなく、そのままお風呂に行くのみで大丈夫とされた。
他の者達はすぐにお風呂の方に向かったが、私、陽炎は先に空城司令に実験結果の報告をする。本来なら実験部隊の旗艦である衣笠さんの仕事かもしれないが、これの判定をすることが出来るのが私しかいないため、私からしか説明が出来ない。
護衛艦隊からの報告も今回は省略。赤い海が予想通り拡がっていたことを伝えればそれで済んだため、工廠に居残ったのは私だけ。
「侵食はどうだった」
「見た感じ、穢れが魂にへばりついてなかったよ。侵食は無かったみたい」
その場で調べた感じでは、菊月も初月も綺麗な魂のままだった。この2人は私が一度治療しているから、前の状態はわかっている。その時から変わったようには見えなかったため、そもそも侵食を受けていないと判断した。
「それなら、あのインナーは効果的ということだね」
「うん、それでいいと思う。ただ、ちょっとわからないことがあって」
それが、一部破れていても効果が発揮されたということ。少しでも隙間があったらそこから侵食される恐れがあると、鼻から下まで隠すようにしたのだが、腕や脚なら晒していてもOKというのはどういうことだろうか。最後の最後だってので、侵食する隙も与えなかったかもしれないが。
「ふむ……それは確かに不可解だね。もしかしたら、全身を包み込まなくても問題が無いのかもしれない。そもそも顔の半分は外に出ていたんだ。それで侵食を受けなかったんなら、ある程度は猶予があるんだろう」
「まぁ余計なことをするくらいならあのインナーのままがいいとは思うけどね」
「そこはまた後から菊月にも聞いてみようか。実戦に使ったんだ。着心地とかもわかるだろう」
私もしばらくの間使っていたが、何か文句があるかと言われれば無いというのがあのインナーだ。使っていて違和感がないことが怖いくらい。
だがそれは私の主観だ。普段使っている初月はともかく、菊月はああいうものを着ること自体が初めてのはず。あれだけ戦って違和感があれば、この後何かしら話してくれるはず。
私もこの後お風呂に行かせてもらい、出撃していたメンバーは全員休息完了。私、菊月、初月の3人は改めて空城司令に話をするために執務室へ。実験をした対策インナーの使い心地について、使った本人の口で説明してもらう。
流石に今はあのインナーは身に着けていない。初月は普段使いの方に戻している。破損したインナー自体は、妖精さんが持っていってしまったようだ。繕った後にまた使うことになるか、それとも何かしらの加工をして次に回すか。
「僕は相変わらず違和感は無かった。違う加工がされているとはいえ、僕は同じものを普段使いしているからな」
「そういう意味でなら、菊月は少し新鮮ではあった。馴染んでいたおかげで戦闘に支障は無かったからな。強いて言うなら、手も包んでいるから主砲のグリップがいつもと違うという程度だ」
2人とも、使用感は良好。菊月は普段素手で戦っているところにインナーが加わったことで、いつもとは少し違う感覚があったらしいが、これなら使い続けてもいいと言える程に違和感を覚えていないようである。
「あの赤い海の上に立った時の得体の知れない空気を感じなかったんだ。僕としては効果も抜群だと思った」
「菊月にはその辺りはわからないのだが、別に体調に関わるようなことは無かったな」
魂を見た時点で侵食が無いことはわかっているのだが、本人への影響も何一つ無かったらしい。お風呂の中で改めて確認させてもらったが、時間経過で改めて穢れが現れ出すようなことも無かった。
あのインナーが瘴気を完全にシャットアウト出来ていることがこれで実証出来たわけだ。サイズが本人にピッタリでなければいけないこと以外は、問題点は何も無い。人によっては使い心地に思うところは出てくるかもしれないが。
「少し破れてしまったのだが、それでも侵食が無かったのは何故だろうか。あの程度では関係無いということか」
菊月もこれに関しては疑問に思っていたらしい。肌を晒すことが侵食の原因となると思っていたのだが、そうではなさそうと誰もが感じ始めている。
「そこは私が説明します。憶測の域ではありますが」
ここにしーちゃんが入ってくる。インナーの原案はしーちゃんなのだから、その辺りは少し詳しいのかもしれない。
「瘴気の侵食は分霊に近いと陽炎さんは話していましたよね」
「そうだね。穢れのへばりつき方が殆ど同じだった」
これはイヨの魂を確認したところでわかったこと。直に分霊を受けているわけでもないのに、穢れのへばりつき方が分霊を途中で止められたような状態だった。以前分霊を中断された由良さんと菊月が似たような魂の穢れを持っていたが、分霊されていないのに同じ症状。
つまり、瘴気は
「分霊をするためには、胸に指を突き立てる必要があるんですよね」
「そうだね。少なくとも私はそう。魂に触れられるのは胸からだけっぽいから」
太陽の姫もそうだったし、巫女として動いていた『雲』もそうだ。指を突き立てるのは決まって胸。今の私でもそうやって治療を施している。
おそらくこれは、魂に一番近いのがそこだからだ。他のところから指を入れたところで、魂に触れることは出来ないと思う。試したことが無いからまだわからないが。
「なら、胸だけしっかり隠しておけば、瘴気の影響を受けないのでは無いでしょうか。直接やるならまだしも、瘴気という遠隔操作での分霊では、魂に触れられるほどではないのでは」
私の指はインナー越しでも突き入れることが出来たので、直接ならこのインナーは関係無いのだろう。しかし、瘴気という形のないものでの分霊は、魂に触れることが極めて難しいのだろう。
普通の服なら瘴気で肌に触れ、魂に僅かに影響を与えることが出来るのだろうが、今回のインナーはピッチリと胸を包み込み、さらにはよくわからない加工により太陽の姫対策が施されている。そうなればもう大丈夫。
「菊月は腕が破れてしまったが、それでも胸の奥の魂にまでは届かなかったということか」
「そうなのではないかと。あくまでも陽炎さんが指を突き立てる場所周辺が包まれていれば、支障が無いのではないでしょうか」
なるほど、胸さえガード出来れば、後は肌を見せていても瘴気から回避出来るのではないかと。分霊と同じだとすれば、その形状がどうであろうが効果は発揮する。破れたのに侵食されなかったことで、それが証明されたようなもの。
「陽炎、菊月で確かめてくれ。本当に胸からしか魂には触れられないのか」
「だね。司令、ちょっとやってみるよ」
「ああ、そうしておくれ」
菊月がここでも立候補してきたので、すぐに確認してみる。胸からはいつもやっていることなので、試しに背中からとか、さっきインナーが破れてしまった腕とか、思い付く場所には大体指を突き入れた。
夕立にせがまれて艤装に対して分霊をしようとした時は、指が入っていく気配すらなかったが、相手が人間である場合は何処に突き入れても指は入っていく。その結果、魂に触れられる場所はやはり胸だけであることが確認出来た。一番魂に近いであろう胸と真反対に位置する背中から入れた時も、魂を認識することが出来なかったくらいだ。
「胸だけだね」
よくよく考えてみれば、『雲』との戦いで菊月が分霊未遂を喰らったとき、海中から奇襲した時に背中から刺そうと思えば刺せたにもかかわらず、真横に現れた後にわざわざ胸に突き入れていた。
やはり、魂に触れるには手順というか、法則性があるようだ。真正面から、胸元に向けて、指を突き入れる。これ以外で魂に触れる方法は無いと考えてもいい。
「なら、全身を包むインナーで無くとも上半身だけ、いや、胴体だけでもいいのかもしれませんね。腕は晒していても侵食されないことは実証されているわけですし」
言ってしまえば、首から下、腹より上がこのインナーの素材で包まれていれば、おそらく侵食は受けない。
「とはいえ、オカルト要素は薄れてしまうので何とも言えませんが。あくまでも
確かに、太陽の姫に対抗するという意味合いで初月のインナーを使うことになった。その形状自体が侵食の耐性に影響を与えているのなら、余計な手を加えない方がいいだろう。
オカルト要素が強い太陽の姫を相手にする場合は、こういう
「菊月もその名だけならば月だ。それも何かあるだろうか」
「可能性としてゼロでは無いかと。とはいえ、初月さんにも瘴気が効いている前例があるので、なんだかんだインナーへの加工も必要なのは間違いないわけですが」
いろいろ考えた結果、形状を変えることなくあのままで行く方向になりそうだった。事実、あれを着たことで侵食を受けなくなったのは確かだ。
「とにかく、今回の実験は成功と見ることにしよう。で、だ。アンタ達が実験で出撃している間に、また立候補者が来たんだ」
今回は菊月と初月の立候補により実験が出来たが、この件を知ったことでさらに立候補する者がいたらしい。
「誰がこれに?」
「由良だ。D型異端児にも効果的かどうかを知りたいだろうと、自分から執務室に来てね」
確かに、菊月も初月も一般的な艦娘。だからこそ今回の結果が出たのかもしれない。瘴気の影響をより強く受けるであろうD型異端児では、インナーを身に着けていたとしても侵食を受ける可能性があるのだ。
そうだった場合、出撃出来る者がまた限られる。それこそついに戦線に参加出来るようになった長門さんが空回りになってしまうのだ。出来ることなら全員が部隊に入る候補になってもらいたい。
「アタシゃ無理をするなとは言ったんだが、是非やらせてほしいと言われてね。押し切られちまった。今頃、由良専用のインナーも作られている頃だろう」
「そうなんだ……でも何でそんなに」
「由良も分霊の苦しさを知っているからだろうね。優しい子だよあの子は」
分霊未遂を受けているからこそ、他の誰にもあの感覚を味わってほしくないと実験台に立候補してきたようだ。
「確かにD型異端児への有用性は知っておきたいところだろう。だが正直抵抗はあった。侵食の受けやすさは普通の艦娘と比べ物にならないだろうからね」
「だね……これでインナーがD型異端児には効かないってなったら、由良さんは……」
「すぐに撤収すれば深海棲艦化は無いだろうが、あの治療を受けることになるね。それも覚悟の上だそうだ」
自己犠牲というわけでは無いだろうが、大分身体を張っている。
「第二次はまた後日だ。明日か明後日という程度だね」
「了解。それで由良さんに侵食が無かったら、インナーは完成ってことになるのかな」
「ああ、そうなる。そうしたら全員分量産して、最終決戦だ」
実験はもう少しだけ続く。第一次が殆ど上手く行ったようなものなのだから、第二次も上手く行ってくれるだろう。
とか言い過ぎると失敗するフラグになりかねないので、なるべくなら軽い気持ちで次に進めたい。由良さんに何事も無いことを祈る。
第一次実験は成功とみなし、次はD型異端児を使った第二次実験へ。全身タイツ由良さんとか確実にもう。