異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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着実に

 第一次実験が無事終了し、次は第二次実験の予定が立てられた。新たな立候補者である由良さんを現場に連れて行き、D型異端児でも侵食を受けないことを確認するためである。これで由良さんに何事も無ければ、インナー自体は完成と見なすということになった。そのため、今は由良さんのためのインナーが製作されている。

 次の実験が上手く行けば、実験のための出撃は終わり、最終決戦に向けての準備が始まる。M型異端児を除いた全員分のインナーを作り、あの本拠地へもう一度攻め込むのだ。

 

 実験終了で一段落ついたことで、今まで滞在してくれていた物部司令は帰投することとなった。本来なら午前中には撤収する予定だったのだが、急遽影野司令が訪れることになったため、調査した結果を共有するためなどで帰投の時間を延長してくれていたのだが、そろそろ限界とのこと。

 もう夕暮れだし、今から帰ったらもう真夜中だと思うが、それでも司令官として鎮守府には戻っておく必要はあるようである。

 

「それでは、私の部下達をよろしくお願いします」

「ああ、任せておくれ。悪いようにはしないし、必ず無事に終わらせる」

 

 諜報部隊はそのまま出向したままとなる。ここまで来たら最後まで見届けるというのと、単純に今回の敵についての調査資料を纏めるため。最終決戦にも戦力として参加してくれることが決まっている。

 

「神州丸、頼んだよ」

「了解であります。諜報部隊は決着がつくまでここに滞在し、全てを見届けるであります」

 

 ビシッと敬礼をして、帰投する物部司令を見送っていた。物部司令も、少し名残惜しそうではあったが、自分の鎮守府のために少し足早に去っていった。

 

 その背中が見えなくなったところで、神州丸さんは空城司令に向き直る。

 

「提督殿、我々は諜報部隊として、この戦いの結末をこの目に収めたいと思います。もう調査自体は必要なくとも、我々が見たということが重要になるかと」

「ああ、アンタ達には期待しているよ。それに、ヒトミとイヨにはまた沈没船に近付いてもらわなくちゃいけないからね」

 

 諜報部隊は相変わらず最終決戦でも重要な立ち位置にいる。戦力としてもそうだが、諜報部隊がそれを確認したという事実が、今後影響しかねない。さらに潜水艦は、存在を確認した依代を破壊するという責任重大な任務を任されることになるかもしれないのだ。

 

「教団と大本営の繋がりに関しては、こちらで調査をしていく。アンタ達は戦力として、明日からは訓練や演習で過ごしてもらえるかい」

「了解であります。うちの潜水艦は一足先に対潜部隊の訓練の手伝いをしていましたが、我々も他の訓練に加わることにいたしましょう」

 

 今までは執務室に篭って調査資料を作ったりしていた神州丸さんも、ここからは戦力として訓練に参加してくれるそうだ。陸戦最強と言える神州丸さんの技能の中には、海の上でも使えるようなものだってある。それを訓練で教えてもらえれば、より戦力増強に繋がるだろう。

 なんでも、余裕が出来たら長門さんの訓練に参加してもらいたいという要望が給糧艦コンビからあったらしい。神州丸さんの技能が長門さんに受け継がれるとなれば、もう手が付けられなくなるのでは無いだろうか。

 

 

 

 夜、やることを全て終わらせて後は寝るだけ。相変わらず夕立は五月雨と共に村雨の部屋で姉妹の団欒に勤しんでいる。

 で、私の部屋はというと、いつものメンバーに加えて一仕事終えた表情の秋雲が襲来。秋雲も調査資料の作成で部屋に篭っていることが多かった。私もあまり話が出来なかったため、こういうところでしっかり交流しておきたい。せっかくの艤装姉妹なんだし。

 

「つーことで、秋雲さんも訓練に参加させてもらいますわ。むーさんを急ピッチで育て上げなくちゃいけないんでしょ?」

「だね。あと1週間そこらで改二まで行ってもらいたいくらいだからね」

 

 その秋雲も、神州丸さんと同じように訓練に参加表明。こちらは同じ駆逐艦ということで村雨を鍛えようと考えているようである。

 秋雲だって改二であり、駆逐艦としては実力者。ここに滞在している中で、一緒に背中を合わせて戦ったことは少ないのだが、それでも私よりは経験が長いのはわかっている。訓練にもいい感じに力を貸してもらえそうだ。

 

「結構スパルタでやってるらしいけど、どんな感じなんだろ。萩風知ってる?」

「はい、今日は私も村雨さんの訓練に参加しましたから」

 

 思うところがある萩風だが、打倒太陽の姫のためには村雨の力が必要不可欠であることは理解している。その複雑な感情から、より強めのスパルタになっていないか心配ではあったが、そういうところに公私混同はしていないとは本人の談。

 実際、磯波もちょろっとそれを見たらしいが、私怨の混じった()()()()()はしていなかったと話す。萩風は少し心外であると膨れっ面になるものの、少し頭を撫でてあげたらすぐに機嫌を直していた。

 

「今日で砲撃の命中精度はかなり上がりました。『雲』の時とは勝手が大きく違うみたいなので苦戦していましたが、夕立さんがしっかりコツを教えていましたよ」

「あの夕立が……?」

「説明はかなりわかりづらかったんですけど、村雨さんも比較的直感型みたいで。なんて言うんですか、擬音ばかりの説明なのにちゃんと理解しているというか」

 

 艤装姉妹なだけあって、装備の使い勝手は殆ど同じようなもの。夕立が一番村雨の成長に貢献出来るのだろう。馬鹿にしているわけではないが、夕立は説明が上手く出来るようには思っていなかった。だが、村雨はそれでも理解し、自分の力に変えているようである。

 それだけではなく、夕立の戦い方をどんどん吸収しているようで、まだ1日だけだというのに砲撃は殆どマスターしたようなものなのだとか。そういうところも夕立と近しいようである。

 

「M型の同期値もとんでもない値だったし、村雨と夕立は似た者同士なのかな」

「かもしれないね……艤装姉妹だし。確か、数字的にも連番だったよね」

「夕立ちゃんは4番艦で、村雨ちゃんは3番艦だったかな。何処か似てる子を選び取ってたりして」

 

 その辺りはさらに謎である。夕立と村雨が似ているのは本当にたまたま。村雨は1()0()()()()()()とはいえ、全くの赤の他人であることはお互いにわかっていることである。

 偶然にしては出来過ぎな感じがしないでもないが、そういう運命だったと思うしか無い。

 

「とはいえ、スタミナが全然足りないです。こればっかりは日々の鍛錬だと思うので」

「それは仕方ないよ。スパルタでどうにかなる問題じゃない」

 

 体力に関してはもう仕方ない。私達だって改二になる時とかに目一杯しごかれたことで今の体力を手に入れている。ただでさえ足りないところに、訓練で限界まで鍛えられたら倒れるのも当たり前だった。今この時でも、村雨は自分の部屋で夕立と五月雨に介抱されているようなもの。

 古い考えかもしれないが、艦娘はガッツリ倒れるほど鍛えた方が身に付きやすい。私もそうだったし、ここにいる全員がそれを体感している。えぐい距離の遠泳とか、汗だくになった筋トレとか。村雨には申し訳ないが、急ピッチで強くなるためには避けては通れぬ道である。

 

「第二のだっちゃんになるんだよねぇ。むーさんも狂犬になるのかね」

「いやぁ、それは無いと思うけどなぁ。性格的には夕立とは違うでしょ村雨って」

「わかんないよ? だっちゃんに手取り足取り教わってて、その気質まで受け継いじゃったら……」

 

 今は罪悪感で表に出すことが出来ないだけで、実は相当奔放な性格だったとしたら、今回のこの訓練でそれが表に出せるようになるかもしれない。そしてさらには夕立が妹として懐いた挙句、先輩として一から十まで教え込んでいるのだから、そうなってもおかしくないのか。

 夕立のように感情表現が激しく、ただひたすらに好戦的で、仲間に対しては愛玩犬みたいな態度の村雨。あまり想像が出来ない。

 

「まぁそこは明日を楽しみにすっかなー。たった数日で何処まで行ってるかね」

「余裕があったら私も見てみよ」

 

 村雨の成長は私も気になるところだ。確認出来るのなら私も確認してみよう。そのうち演習とかで相手にするときも来るだろうし。

 

「で、秋雲さんとしてはめっちゃ気になることがあんだけど」

「何?」

「ゲロ姉、いつもそんな感じなん?」

 

 何を言い出したかと思ったが、おそらく今の状況のことを言っているのだと思う。

 部屋に秋雲含めて5人が入って一夜を過ごすことになるわけだが、今日は磯波が私のベッドの上。何かしらのことで添い寝の権利を勝ち取った様子。相変わらず私の与り知らぬところで。

 

「まぁそうだね。D型異端児には私の魂の匂いが落ち着けるみたいで」

「それはそれでいいんだけど、いや、文学系で大人しそうな磯波氏が、そんなベッタベタでデレッデレなのはあまり見ないから」

 

 そこはあまり触れないであげてほしい。

 

「ゲロ姉ハーレムだ。ちょっとデッサンさせて」

「断る。私よりも磯波のために断る」

 

 ここは念を押しておかないと。とはいえ秋雲には瞬間記憶があるから、後から部屋で描き倒している気がする。

 

 

 

 翌朝、気持ちのいい目覚め。最近は悪夢を見るようなこともなく、むしろいい夢を見て朝を迎えることの方が多い。それは他のみんなも同じらしく、特に私が添い寝をしている磯波は、いつもとは違う癒された寝顔を見せていた。音が聞こえる程に匂いを嗅がれるのはあまりよろしくないと思うが。

 

「おはよっぽーい」

 

 そして相変わらず元気いっぱいの夕立の突撃で朝が始まる。私達と寝ている時は低血圧なのではと思えるほどに寝起きが酷かったが、村雨と寝るようになってからは規則正しい生活になっているようだった。

 私の匂いが安眠に繋がるとか何とか言っていた気がするが、そういうの関係無しに朝はシャンとした方がいいと思う。

 

「今日も今日とてむーさんの訓練っぽい! 砲撃はいい感じだから、今日はキャプテンと雷撃訓練っぽい!」

 

 村雨の日程は夕立が握っているようだ。五月雨もそれに関しては文句が無いようで、空城司令も夕立に一任しているそうだ。夕立のやる気に押されたとも言う。

 とはいえ、村雨は明確に成長しているようだから、この采配は間違っていないように見えた。ただただ2人の相性がかなり良いということなのだと思う。相性が良いもの同士で組ませれば、お互いに成長出来て大変よろしい。

 

「順調だね。村雨、調子はどうなの?」

「そうね、夕立のお陰で自分が強くなれてることがわかるわ。ただ、私ホントに体力無いみたいで……」

「夕立についていこうとすると痛い目見るからやめた方がいいよ。海防艦の子供達くらい体力が無尽蔵になりつつあるから」

 

 それを聞いたら苦笑するしか無かったようである。夕立はいろんな意味で規格外な部分もあるし、お手本にすると酷い目に遭うと思う。

 

「秋雲さんも訓練に参加すっから、よろしくねー」

「あ、うん、よろしく」

「まぁやれることなんて第三者の目から指摘することくらいだけどね。基本はだっちゃんの言うこと聞いときゃいいから」

 

 あくまでも諜報部隊としての目で訓練をサポートするとのこと。瞬間記憶とかはさぞかし役に立つだろう。村雨はここからさらに強くなる。

 

 

 

 タイムリミットは迫ってきているが、今は有意義な1日を過ごせているだろう。実験も上手くいっている方だし、準備は着実に一歩ずつ進んでいる。

 




神州丸の陸戦能力まで与えられたら、長門はとんでもない化け物になるかもしれない。鎮守府の守護者の力を受け継いだビッグセブン。これは凄まじい。
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