異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
第二次実験部隊による出撃は、新たに加わる由良さんのためのインナーが完成してからになる。昨日の業務後半でそれが決まったばかりなので、それが出来るまでにはまだ時間があった。
実験部隊自体は前回とほぼ同じで、そこに由良さんが加わる7人での出撃とされた。小型な艦娘6人を航空戦が出来る6人で護衛するという手段でも、あの場所に長時間居座るというのはかなりキツかった。1人増えたからどうなるんだというところではあるが、多いに越したことは無い。由良さんは熟練の軽巡洋艦、心強い参戦者だ。
これに関しては朝の時間に全員に報告された。いつも通りの朝食の時間、全員が集まっているタイミングである。
「インナーは午前中に完成するだろう。昨日のように、午後から実験部隊は出撃してもらうからね」
菊月と初月の分を完成させたノウハウがあるため、完成までの時間が前回より短縮。今日の午前中、半日あれば1人分は余裕で作れるとのこと。よくて3人分くらいなのだとか。
最終的にはここにいる30人以上のインナーが必要になるのだから、それくらいの速さで作らなければタイムリミットまでに間に合わない。1日6着なら、1週間あれば全員分だ。
「それと菊月、アンタの進言、正直辛いところだが通すことにした。だが、何かあった場合はすぐに帰投すること。いいね」
「了解した。菊月も無理を言ったことは理解しているが、必要だと思ったのだ」
「言われてみればとアタシも思ったよ。そんな簡単なことが思い付かなかった辺り、内心切羽詰まっていたのかもしれないねぇ」
菊月はあの後に何か進言していたらしい。悩みどころだったようだが、後々確実に必要な実験項目。
「菊月、何を進言したの?」
「インナーの改造だ。あのタイプを潜水艦に着せるのはキツくないか」
言われてみれば確かに。あくまでもアレは海上で行動する上では全く気にならないが、海中ではいろいろ困ることもあるだろう。ただでさえ妨害が激しいこともわかっているのに、インナーのせいでまともに動けないとなったら困る。
そのため、潜水艦のために水着型のインナー、というかインナーと同じ加工がされた水着を作る方向に向かっているとのこと。昨日の段階で、胸だけしっかり覆っておけば大丈夫なのではという仮説も出来ているため、それを実験するようだ。海上と海中での影響度の違いはあるものの、海上で影響が無ければ海中でも影響は無い。
「それも上手くいけば、潜水艦隊全員にそれを身につけてもらうことになる。当然艤装としての加工もするから、作るのには時間がかかるだろう」
潜水艦は水着自体が艤装だ。アレが無ければ海中で戦うことは出来ない。対瘴気の加工を施された水着艤装という形で開発する必要があるため、インナーの量産をするよりは当然時間がかかるだろう。
「それなら……私が実験に参加します……ダメでしょうか……」
ここでヒトミが立候補。海上艦である菊月がやるよりは、潜水艦への影響度を確実に調べられる。
急な立候補でインナーが準備出来るかどうかはわからないが、半日で3着作ることが出来るのなら、作成時間がかかるにしても午後には完成していそうである。
「ふむ……なら、間に合うようなら頼めるかい」
「はい……大丈夫です……。ただ避けるだけなら……1人でも大丈夫だと思うので……」
沈没船に4人全員で近付くために、対潜部隊に手伝ってもらって練度を上げていたのだと、ヒトミが小さく胸を張る。訓練の成果を確認するためにも、実験部隊に志願したとのこと。
沈没船の近くだと防衛が堅すぎるくらいなのだが、防衛線付近ならまだマシらしい。今日の午後ならさらに赤い海は拡がっているため、もしかしたら防衛線まで行かなくてもいい程かもしれない。行ってみなくてはわからないが、可能性だけは頭の片隅に置いておこう。
「菊月のインナーの件もそのまま頼む。布地が少なくなれば、製作時間がさらに短くなるだろう」
「ああ、既に取り掛かってしまっているからね。菊月にもそちらで試してもらう」
布を少なくした結果、結局侵食を防げませんでしたとなる可能性が無いとは限らない。あくまでも胸だけでいいというのは憶測の域を出ないのだ。試せることは試しておきたいというのは正直なところ。
「いいかい、あくまでもこれは実験だ。結果的に戦いになるかもしれないが、何か問題が起こりそうならすぐにその場から離れること。通常のインナーの実用性は確認出来たが、布面積を小さくするということはその分侵食の危険性が高いからね」
「勿論だ。だからこそ陽炎にもついてきてもらっているのだからな」
「……肝に銘じておきます」
出来ることなら次の実験で終わりにしたいところだ。あの場所に何度も向かうのはやはり危険。第一次も、明確な成功例が出てくれたのは良かったものである。
「それじゃあ、今日も1日頼んだよ。護衛艦隊と実験部隊は、午後からまた昨日と同じように赤い海に向かってもらうからね」
そんなこんなで1日が始まった。万全の準備のため、みんなが一致団結して動き出す。
実験の準備をしている間はどうしても時間が空く。午前中の哨戒は別の部隊が向かっており、実験部隊と護衛艦隊とは別物。なので、例えば護衛艦隊に加わる速吸さんは今、いつもの医務室担当の仕事についているし、隼鷹さんや天城さんは絶賛演習中である。
そして私、陽炎はというと、村雨と長門さんの訓練を見学させてもらうことにした。一緒に実験部隊として出撃する沖波も一緒である。
今回の村雨のプランは、夕立にも聞いていたが雷撃訓練である。木曾さん指導の下、私達も通ってきた海面スレスレの的を狙う訓練をひたすら続けていた。
「思ったよりうまいもんだな。マジで夕立の最初を見てるみたいだぜ」
「そうかな。『雲』は魚雷を装備してなかったから、こういうのは感覚的にも初めてのことで」
思い返してみれば、確かに『雲』から雷撃を受けたことは一度も無かった。艤装もあの雲のクッションがやたら目立っていたが、魚雷発射管は何処にも見当たらなかった覚えがある。
だからか、逆に変なクセも出ずに教えられた通りにこなしているようだった。萩風は深海棲艦時代のクセを乗りこなすことで実戦に活かしていたが、村雨の場合は今とあの時があまりにも違うため、クセにすらならなかったらしい。
「秋雲、お前から見てどうだよ」
「いい具合に力が抜けてるねぇ。反動の軽減とか、直感的に出来てるのかな。確かに秋雲さんにも、むーさんはだっちゃんと似たような感じに見えるよ」
秋雲の目から見ても、村雨の上達速度は目覚ましいもののようだ。夕立と同じ直感タイプだからか、こなれてしまえばそのまま自分のモノ。
「むーさんいい感じっぽい! 夕立とおんなじとこに魚雷あるから説明しやすくていいね。脚をグッてやって、その辺でバババーッてやったら上手く行ったでしょ?」
「そうね、確かに脚をグッてやるのはわかるかも。でもバババーッじゃなくてズバッて感じじゃない?」
「むーさんはそっちの方が上手く行くっぽいね」
あの説明で理解出来るのか。というか会話がよくわからない。バババーッとかズバッとか、一体何を意味しているのか。木曾さんも秋雲も、2人の会話に首を傾げる一方である、
まぁ本人がそれで上達しているのだから、何も否定出来ないか。正しく説明出来なくても、ちゃんと命中しているのだからそれでよし。こういうところは結果が全てである。
「止まってる的には大分当てられるようになってきているな。んじゃあ、的動かすぞー」
止まっている的になら殆ど当てられるようになったことで、もう動いている的への訓練へ移行。おそらくここからがスパルタになる。当たるまで休憩無しでやらされるだろうし、当たったところで次が来る。結局は休む暇なく身体に叩き込まれるのだ。
それでも村雨はしっかりとついていけそう。本当に夕立が2人になったかのような錯覚を覚えた。
「今日中に全部当てられるようになってもらうぜ」
「キャプテン、めっちゃイジワルな動きしてくるっぽい。むーさん、的の動きを予測して」
「予測かぁ。砲撃の時にも似たようなことやったけど、勝手が全然違うのよね」
主砲を手で持って狙い撃つのと、太腿に備え付けられた魚雷発射管から放つのとでは、感覚がまるで違うらしい。どちらも艤装のアームに備え付けてやれる私にはわからない苦労だ。
「っし、ならこっちもすぐに慣れるわ」
「その調子っぽい! むーさん頑張れー!」
姉妹仲も目に見えて良好。このスパルタ訓練にも苦を感じずに取り組めているため、村雨はさらに強くなっていく。
対する長門さん。南方棲戦姫として活動させられていたからか、砲撃に関してはそこそこ慣れていたようで、反動によって命中率が損なわれるようなこともあまり無かったらしい。
ということで、今は昨日のうちから聞いていた神州丸さんを加えた格闘訓練である。いきなり戦い方というわけではなく、身体を作るための筋トレからではあるが。
恐ろしいことに、それを教えているのは神州丸と伊良湖さんである。陸戦最強の艦娘と時限式の鎮守府の守護者、2人の艦娘からの訓練は、あの分霊治療を嬌声を出さずに耐え切った長門さんでも顔を顰めるレベル。
「肉体強化は砲撃にも関わることであります。陸でも海でも同じことが出来るように鍛えましょう」
「筋トレは必須ですからね。幸いにも、艦娘はその成果がすぐに出ますから。全身を隈なく
神州丸さんはさておき、伊良湖さんも優しい顔して超スパルタである。短時間なら私の脱力回避にすら簡単に追いつく超高速戦闘が出来るようになるためには、全身を鍛え上げる必要があると説いていた。私から見ると伊良湖さんは別に筋肉質とかそういう感じには見えないのだが。
長門さんの訓練に付き合っている陸奥さんも、かなりキツそうにしていた。私達の筋トレに付き合ってもらった時は、こちらがゼエゼエ言っている時に涼しげな顔で同じことをやっていたが、今回は長門さんと同じ超スパルタメニューをこなしているので、いつもの倍に近い負荷がかけられている。
「鍛えられてる感じがして楽しいわね。辛いけど」
「陸奥はタフだな……」
「これでも鍛えてますから。戦艦なんだもの」
戦艦というのはそれが普通らしい。ここまではしないにしても、常日頃からしっかり鍛え、有事の時には最大の力を発揮する。そもそも部隊の華のような存在なのだ。戦艦の敗北は部隊の勝率を著しく下げることになる。
いろいろな重圧を背負って戦っているからこそ、この訓練にも耐えられると陸奥さんは長門さんに話していた。
「負けていられないな……!」
「ふふ、その意気よ姉さん。私は姉さんと並んで戦いたいんだから、こんなところでへばってもらっちゃ困るわね」
「勿論だ。せっかくここまでしてもらえたんだからな。皆に貢献したい」
長門さんもやる気満々。忠誠心が抜けた長門さんは、とても頼れる大人というイメージだ。
「ふふ、素晴らしいですね。私と間宮さんの力を引き継いでもらって、真の鎮守府の守護者となってもらいたいものです」
「本艦も手伝いましょう。まだまだ鍛え足りないでしょうからな」
その反応を見て、大喜びで訓練をハードにしていく2人である。陸奥さんすらヒーヒー言い出すのは時間の問題。長門さんが潰されなければいいのだが、多分その辺りはギリギリを調整していくのだと思う。
「なんか、2人とも凄かったね」
「急ピッチの訓練ってあそこまでになっちゃうんだね」
訓練を見終わり、私と沖波は感嘆の吐息を漏らす。村雨も長門さんも、今すぐ私達に追い付こうと必死に訓練していた。だが、それを苦とも思わず、むしろ楽しんで続けているように見えた。
「でも、頼もしい仲間だよ。実験が上手くいけば、あの2人だって戦場に出てくれるんだからさ」
「だね。私達も負けていられないよ」
あれだけ頑張っているところを見たら、こちらもやる気が出るというもの。実験部隊でもそうだが、最終決戦までに私達ももっと強くなりたいものだ。
深海雨雲姫は魚雷を装備しているのに雷撃をしてこないというよくわからないスペック。村雨にそこのところが引き継がれなくてよかったね。
先日、支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/88193119
MMD静画のアイキャッチ風陽炎。勇ましい表情ですね。