異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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決意表明

 検査の結果、艤装との同期値に前例の無いマイナスという値が出てしまったことで、空城司令の目に留まった私。艦娘になれるかはわからないものの、その意味不明な値に興味を持たれ、手元に置いておきたいと鎮守府に雇われることとなった。もし艦娘となることが出来れば、晴れて私は正式に戦場を駆けることになる。

 

 検査に手間取ったというのもあるが、何も持っていないような状況で今から向かうようなことは流石に無く、私の都合を考えて翌朝に迎えに来てくれるということで、住所を渡して一時帰宅することになった。

 私の帰る場所はとある孤児院。私のような戦災孤児を受け入れ、中学を卒業出来る年齢までは養ってくれる本当にありがたい施設である。大怪我を負った後に何とか動けるようになった5歳児の私がここに引き取られ、今までずっと暮らしてきた我が家だ。

 今でも年に1人2人は受け入れるくらいに被害が出ているが、これでも戦況は良くなっているというのだから困ったものである。最初の数年は酷いものだったから確かにこれでもいい方なのかもしれない。

 

「ただいま、先生」

「お帰りなさい。ご飯の用意手伝ってもらえる?」

「はーい」

 

 迎え入れてくれるのは、この孤児院を切り盛りしている先生。私をここまで育ててくれた人と言っても過言では無い。

 戦災孤児には国から補助金が出るため、孤児院で食うに困ることは無いのだが、勉学に関してはどうしても難しくなってしまったため、私は先生に全て教わっている。結果的に小学校にすら通っていないものの、先生のお陰で年相応の知識は持っているつもりだ。この孤児院を出て行ったとしても、生活に困らないようにしてくれた。

 こんなご時世、被害者は数え切れないほど出てしまっているために、社会全体が優しくなっている。私みたいな境遇の人間も、ちゃんと知識を持っていれば社会に適合出来る。そうなるまで育ててくれた先生には感謝しかない。

 

「検査の結果は?」

「それがね、艦娘になれるかもしれないって」

 

 例のとんでもない数値に関しては口外しない方がいいと空城司令に言われていたため、今回の検査で同期値が0では無くなっていたとだけ話しておくことにした。値が小さいから絶対艦娘になれるとは限らないが、それでも雇ってもらえることになったという感じに。

 案の定というか、先生はとても驚いていた。でも声は荒げず、すぐに呼吸を整え、そのことを祝福してくれた。

 

「おめでとう。念願だったものね」

「うん。本当に突然体質が変わったりするんだね」

 

 毎年この時期になったら検査を受けては何も無いと項垂れてきたものだった。私が艦娘になりたがっているのは、先生もよく知っていることだし、私自身がずっと公言しているくらいだ。ここに引き取られた子達の家族の仇を討つんだと、常々言い続けてきている。その願いがようやく叶ったのだ。

 だが、どうしても複雑な表情にもなる。艦娘は死と隣り合わせの過酷な仕事。当たり前だが保険も無い。そんな戦場に送り出すことが気がかりなのだろう。私だって同じ立場なら同じ気持ちを持つと思う。

 

「ここからは何人も巣立って行ったけど、艦娘になるという理由で巣立つのは貴女が初めてよ」

「そうだね。私も何人も見送ってきたけど、基本的には就職とか親族に引き取られるとかだもんね」

 

 10年もここにいると、滞在者の入れ替わりは何度も見ることになる。幸い死に別れみたいなことは一度も無かったが、いい意味でここに住む必要が無くなって出ていく者は何人もいた。

 私もそれに近い1人になる。必要が無いわけではないが、鎮守府に行くのなら基本はそこで住み込みだ。

 

「年に一度くらいは顔を見せてくれるけど、貴女もそれくらいはしてちょうだいね。忙しいかもしれないけれど、生きてることを伝えてほしいわ」

「勿論。毎日とは言えないけど、なるべく手紙書くよ。写真とかも送れるといいなぁ。あ、でも機密とかあるから難しいかな。絶対に連絡するから」

 

 当たり前だが、死ぬなんてことは考えていない。命のやりとりをする仕事ではあるが、死ぬなんてあり得ない。死ぬくらいなら私は逃げる。

 

「いつ向かうの?」

「ちょっと早いけど、明日の朝。迎えに来てくれるって」

「そう。じゃあ、今晩は送別会になっちゃうわね」

 

 急に決まってしまって本当に申し訳ないと思う。献立だって前々から決めていたものだというのに、私の送別会だということで少しだけ豪華にしてくれた。補助金が出ているとはいえ、贅沢出来ない。豪華な夕食なんて、誕生日と年度の祝い事の時くらいだ。それを今出してくれる。

 

「絶対終わらせてくるからさ。絶対に生きて戻ってくるからさ。それまで、部屋を残しておいてもらってもいいかな」

「勿論。片付けるのも面倒だもの」

「あはは、違いないね」

 

 もう10年も続いている戦いではあるが、それを終わらせてここに戻ってくる。そのためには生きていなければならない。その誓いのためにも、ここにある私の部屋はそのままで置いておいてもらうことにした。出来るかわからないが、もし休日に戻ってくることが出来たりした時、部屋が無いなんてのも悲しいし。

 先生はおちゃらけて言ってくれたが、私の気持ちを汲み取ってくれたのかもしれない。もう何度も送別会を開いているのだから、去る者の気持ちは手に取るようにわかるのかも。そういう意味でも尊敬する。

 

「頑張ってらっしゃい。私達はここから応援してる」

「うん、ありがと」

 

 その日の夕食は、他の戦災孤児の弟妹達からおめでとうと喜ばれるわ離れたくないと泣き付かれるわで大変だった。なんだかんだで私もここの最古参に等しい存在。みんなに好かれていたようで少し嬉しかった。

 絶対にここに戻ろう。せっかく帰る場所を残しておいてくれるのだから。少し長めの休みが貰える度にここに戻ってくるくらいしてやる。艦娘にそういう休みがあるかはさておき。

 

 

 

 翌朝、みんなに見送られて出向。空城司令としーちゃんもこの孤児院と繋がりを持ち、頻繁に連絡させると約束してくれた。そういったところを保証してくれる辺り、空城司令は口と態度の割には優しいところがある。

 弟妹達との仲も悪くないようで、特にしーちゃんは私と年代が近しいからか、また来てと言われるほどであった。難しいかもしれないが、またここに来てもらいたい。

 

「このまま鎮守府に向かうが、何処か寄っておきたいところはあるかい」

「あーっと、うん、行きたいところある。道草食ってもいい?」

「ああ。一度鎮守府に入ったら、なかなか娑婆の空気は吸えなくなるからね。時間は作ってやりたいと思ってるが、しておきたいことがあれば今のうちにやっときな」

「なら、花屋に寄ってほしいかな。それくらいのお金なら持ってるから」

 

 空城司令もしーちゃんも私がやりたいことを察してくれたようで、何も疑問を持たず花屋に向かってくれた。それに、その後行きたいところに関しては私が説明しなくてもわかってくれたようである。

 

 到着したのは、この界隈では一番大きな墓地。私が買った花が仏花であるというのもあり、私がやりたいこと、家族の墓参りであることはすぐにわかってもらえた。

 空城司令もしーちゃんも待っているということで、私1人で目的の墓の前へ。そこはいつ来ても殆ど変わらず、以前に私が供えた仏花が枯れ果てた状態で置かれているのみ。

 

「変な時期に来ちゃったかな。いつもは月命日の時だけだもんね」

 

 ここには私の両親が眠っている。この墓を参りに来るのは、今や私だけになってしまっている。言ってしまえば私が末代だ。親族はもう誰もいない。そのため、花を供えるのも私だけ。私が来なければ花もこうなってしまう。だからこそ月に一度くらいは来ている。

 

 私は当時のことを全く思い出せないが、父も母も遺体は酷いことになっていたらしい。当人であると判別は出来たが、私を助けるために身を挺したためか、どこもかしこもズタズタにされていたそうだ。死にかけの私が側にいたから辛うじて身元が判明出来たレベルだったとのこと。

 正直、それを思い出せないのは良いことかもしれない。両親のそんな姿が脳裏に刻まれていたら、トラウマで立ち直れなかったと思う。

 

「次はなかなか来れないかもしれないんだ。ごめんね。代わりに今日はちょっと奮発しちゃった」

 

 柄杓で墓石に水をかけながら話しかける。返答が無くても、自分の決意を言葉にするだけで不思議と落ち着くものだった。

 一通り綺麗にしたら、花を供える。うん、綺麗。奮発した甲斐があるというものである。

 

「お父さん、お母さん、私、艦娘になれるかもしれないらしいよ。そしたら、仇討ち出来るかな」

 

 墓の前にしゃがみ、独りごちる。

 大怪我をした時の前後の記憶は無いが、それより前、3歳くらいの時の記憶は朧げながら残っている。父さんはいわゆる普通のサラリーマンで、母さんは専業主婦。家庭としては裕福とは言えなくても、全く不自由のない生活が送れるものだった。それがあの日、何もかも壊されてしまった。

 孤児院での生活は嫌なものではない。むしろ楽しかった。同じような子供達と一緒に遊び、学び、生活していくことに何の不自由も無かった。先生もいい人だったし、全員が同じ傷を持っているからこそ仲良くなれたようにも思えた。

 

 それでも、両親が侵略により殺されているという事実は、いつだって付き纏ってくる。私のようにその時の記憶を失っているわけではない子ばかりだ。夜になったら寂しさで泣き出す子だっている。そもそも1人でいられないほどのトラウマを抱えてしまっている子だっている。

 そんな現状を作り出した深海棲艦を、私はどうしても許すことができない。私の両親だけじゃない。あの孤児院で出来た弟妹達の両親の仇も討ちたいのだ。

 

 だからこそ、この機会は有意義に使いたいと思う。例え同期値がマイナスであろうとも、空城司令が言うように0ではないのだから何かしら出来るかもしれない。それこそ、艤装だって動かせるかもしれないのだ。それに賭ける。

 

「私だけじゃないよね。みんなの仇討ち。私があの孤児院の代表になって、やってくるよ。でも絶対に死なないから。お父さんとお母さんのところにはまだまだ行くつもりは無いよ」

 

 死なずに全てを終わらせられますようにと、願掛けするかのように拝む。

 いわばこれは私の決意表明だ。しっかりと仇討ちが出来るまでは死ぬわけにはいかない。終わったとしても死にたくはない。仇討ちが終わった後は、真っ当な人生を送るのだ。

 

「私、頑張るからさ、あっちで見ててよね。また来るよ」

 

 充分すぎるくらいに拝んで、そこから離れる。次にここに来るのはいつになるか。せめて数ヶ月後に来る祥月命日くらいには来たいものである。その時には、もっといい報告が出来ると嬉しい。

 

 

 

「もうよかったのかい」

「うん、ありがと。ちょっと長めに使っちゃった」

「構わないよ。ここだって次に来れるのはいつになるかわからないんだからね。悔いがないくらいに拝んでおきな」

 

 少し時間を使ってしまったと思ったが、そういうところは寛容。この人だって忙しいだろうに。

 

「親御さんかい」

「うん。10年前に」

「……ああ、そういえばアンタは最初の被害者だったんだね」

 

 その辺りの素性は調査済みのようだ。今から鎮守府の一員となる者が何者であるかくらいは事前に調べておくのは当然か。前科者とかは艦娘にするわけにはいかないだろうし、病気持ちなどには無理強い出来ない。

 私の場合は、深海棲艦が現れた時の一番最初の被害者という見解となる。事前知識の無いままに蹂躙された街の生き残り。

 

「志望動機は復讐ってことでいいのかい」

「その気持ちが無いとは言わない。親の仇討ちのつもりで考えてるから」

「あまりその気持ちに呑まれない方がいい」

 

 少し雰囲気が怖くなる。表情も態度も殆ど変わっていないのに、空気がピリついたような気がした。そのせいか、私はほんの少し震えてしまった。

 

「脅かすつもりは無いが、そういう輩が深追いして命を落とすところを何度も見てる。復讐心で突っ込むんじゃないよ」

「わかってる。私は死ぬつもりないから」

「ならいい。もし命懸けで事を成そうとしたら、アタシがぶん殴って止めてやるから肝に銘じときな。そもそも上司に逆らうなんてさせないがね」

 

 空城司令の考え方の一端がわかったような気がした。命の尊さを知り、被害者を出さないように戦う。これが芯にある。

 この人に逆らってまで命を懸けようだなんて思ってはいない。生きて終わらせることに意味がある。私だって死にたくない。

 

 この人の下なら、私は事を成すことが出来そうだ。この人に見初められてよかった。

 




主人公は15歳。10年前の深海棲艦初侵略の際に、当時5歳の彼女が大怪我を負っています。大本営の艦娘適応者調査の適齢は10歳から。ちょっと説明が足りなかったようなので、補足させていただきます。
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