異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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新たな経験

 丸一日貰えた休日で充分に休むことが出来た私、陽炎。歓迎会の時にくらいしか話すことが出来なかった仲間達の一部と交流出来たのも良かったし、その中でも海防艦の子供達が懐いてくれたのは特に良かった。怖がられるより全然マシ。朝イチに夕立が占守と大東の手により大変なことになっていたが、それは忘れることにする。

 自分の部屋では無いところから1日が始まるのは初めてのこと。また別の人の部屋にお泊りなんてのも良いなと思えた。異端児駆逐艦でパジャマパーティーというのもいいかも。夕立にはいろいろと自重させて。

 

 次の日からは砲撃訓練ではない訓練が開始されることとなった。手持ちでも備え付けでも動いている的に当てられないのだが、実戦訓練に入る前にもっと経験を積んだ方がいいという判断をされたからである。

 そしてその初日。今日経験するのは魚雷。いわゆる雷撃訓練というものである。初日に沖波がハードだったと話していたことで、砲撃より緊張しながら準備を始めることに。

 

「雷撃訓練っつったら俺だからな。ビシビシ鍛えてやるから覚悟しておけよ」

「よろしくお願いしまーす」

 

 案の定、この訓練を見てくれるのは木曾さん。そして一緒にやってくれるのは沖波。今回は初心者の私が参加するということで、そこまで激しい訓練はしないということを前置きされ、早速訓練を開始すると海に出る。

 私の艤装のマジックアームには、魚雷を発射する装置、発射管が接続されていた。放てる魚雷は勿論殺傷力の無いダミー。前使っていた主砲とは逆のアームを使ってるということは、主砲と併用も視野に入れているということだろう。最初からこちら側にセッティングすることを前提にした訓練のようだ。

 

「魚雷は駆逐艦のメイン武装だ。主砲よりも大事になってくる場面が多い。なんでかわかるか?」

「うーん、初心者目線で考えてだけど、主砲よりもでっかいから?」

「概ね正解。主砲の弾より確実にデカいダメージが与えられるからだ。主砲でぶち抜けないくらい硬い装甲だろうが、魚雷なら吹っ飛ばせる。そいつは一撃が戦艦の主砲並みに火力が出るからな」

 

 それは確かに重要だ。駆逐艦の主砲だって大事な武器だろうが、本当に硬い敵を相手にした場合は意味をなさない場合も考えられる。そういう時こそ魚雷を使ってその硬いところをぶち破るというわけだ。

 

「と言っても、陽炎は今日が雷撃初めてだな。まずはしっかり的に当てるところから始めるぞ」

「魚雷も的当てなんだ」

「ああ。主砲とは操作性が変わってくるからな。まずは確実に当てられるようになってから、今度は自走式の的に当ててもらう」

 

 主砲の場合は撃ったらかなり早いタイミングで的に当たるが、魚雷は着水してから自走するというタイムラグがあるとのこと。主砲よりもタイミングを図るのが難しいようだ。

 主砲で動いているものに当てられない私としては、余計に苦戦しそうである。まぁまずは止まっている的に当てられるようにして、魚雷がどういうものかを知っておく必要がある。

 その的はさくっと沖波が用意してくれた。主砲の訓練の時とはまるで違う位置。やたら低いところにあるのがわかる。

 

「頑張ってね、陽炎ちゃん。私はそういう形式の魚雷じゃないから、助言出来るかはわからないけど」

「一緒にいてくれるだけでも心強いよ」

 

 沖波の発射管は太腿にセットしたもののため、私とは感覚が大分違うようだ。さすがに発射は艤装側に接続しているため、イメージで引き金を引く、さらに言えば木曾さんも同じ形式のものと、艤装備え付けの発射管の重装備。備え付けと言っても、私のマジックアームとは違う接続の仕方。

 何でも木曾さんは普通の艦種ではなく、重雷装巡洋艦という特別なものらしく、魚雷のスペシャリストだそうだ。そんな人なら教えるのも上手いだろう。

 

「じゃあ、早速撃ってみるか。やってみなきゃ始まらないからな」

「よぉし、じゃあ、イメージ!」

 

 多分これも主砲と同じで、的に向けて真っ直ぐに向けるべきなのだと思う。主砲よりも大きなそれは、私が狙いを定めると同時にガシャンガシャンと音を立てて動く。

 

「身体を横にした方が狙いやすいぞ。ボールを投げたことくらいはあるだろ。それと同じだ」

 

 なるほど、その方がイメージしやすいか。発射管は私から見て左側のマジックアームに接続されているのだから、身体の左側を前に向けて構える。どうせなら狙いを定めやすい方がいいから、左手で的を指差した。あそこに向かえと指示するように。

 

「じゃあ撃つよ!」

 

 魚雷を発射するイメージというのは難しいが、主砲と同じように引き金を引くように考える。

 すると、主砲とは違う反動と共に、発射管から魚雷が4本放たれた。ズボッと筒から大きなものが抜け出るような感覚がする。そして放たれた魚雷は着水直後、速度を上げて的に一気に向かった。一直線に脇目も振らず、私の思った通りの場所に進んでいき、綺麗に的に直撃。

 

「うわっ、すごい音!」

 

 ガインと金属同士が強くぶつかった音が鳴り響く。4本同時に一直線だったため、的に当たったのは1本だけ。とはいえ、点の攻撃である主砲とは違う線の攻撃なため、どれかが当たれば大ダメージという結構大味な一撃だ。むしろどれかが当たればいいくらいなので、正直主砲より狙いやすいまである。

 そんな私を見て、木曾さんは少しだけ驚いていた。

 

「当たった当たった!」

「全然ブレなかったな。普通なら初めてやった時は発射の反動で少なからず身体がブレるはずなんだが」

 

 確かに重たいものがズルンと抜け出したのだから、主砲とは違った重たい反動が身体に伝わってきた。だが、撃った時の姿勢が良かったというのと、主砲の時の反動を知っていたおかげで、あれくらいなら耐えられる。

 いきなり魚雷から始めていたら、あの反動ですっ転んでいたかもしれない。他の知識はこういうところで活かされるものである。

 

「陽炎、もう一回やってみろ」

「おっけー。もう1発ね」

 

 今と同じように構えて、同じようにイメージ。そうするだけで、1回目と同じように魚雷が放たれ、同じように的に向かって進み、同じような大きな音を立てた。

 ブレのことを言っていたが、今回も反動は抑え込めていた。勿論何も感じなかったわけではない。しっかりと身体に伝わってきている。だが、来ることが分かっているのだからキッチリと支えたというイメージ。

 

「お前、艤装経由なら大概が思い通りに行くんだっけか?」

「主砲の時はそうだったね」

「初めてでここまで反動軽減出来てるのは流石だな。いくら砲撃訓練の後と言っても、ここまで簡単に行くもんじゃないぞ」

 

 初めての発射で的にしっかり当てているのは、なかなかいないらしい。

 今一緒にやっている沖波も、今でこそ止まってる的には確実に当てられるが、太腿から発射するせいで安定性が最初は全く無く、放つたびに身体がブレブレだったそうだ。4本同時に放ってもあらぬ方向に向かっていくのがデフォルト。

 やはり主砲と同じで、艤装に直接セット出来る恩恵は計り知れない。特に私の場合はそれが如実に表れている。艤装に接続されているのなら、発射の挙動すら()()()()。完全にイメージ通り。

 

「陽炎、試してみたいことがある。()()()()()()()()を的に当ててみろ」

「え、指定? りょ、りょーかい。4本撃てばいいの?」

「ああ、出来るならその魚雷だけでもいい」

 

 少し訝しげな顔をしたが、私のやりたいようにやれということなので、右側1本だけの発射にチャレンジ。

 

 4本のうちの1本だけを放つイメージ。人差し指だけを動かす感じに集中し、そして放つ。魚雷は私のイメージ通り、そして指示通り一番右側に格納されている魚雷だけが放たれ、真っ直ぐ的に向かっていき、そして直撃した。止まってる的には命中率100%。備え付けの主砲と同じだ。

 木曾さんが目を見開いていた。沖波も手を止めて私の魚雷発射を見届けている。口が半開きになってるが大丈夫か。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

「……え?」

「撃つときはオールオアナッシングなんだよ。4本全部撃つか、1本も撃たないかのな」

 

 艦娘の扱う魚雷発射管の仕様というのがそういうものなのだそうだ。むしろ魚雷を1本だけ放つとか、命中率などを加味してもやる必要が無い技。線の攻撃をわざわざ点にして、しかも主砲と違って海の上に上げられないような一撃を放つとか意味がない。

 当てられる確率を極限まで上げる一撃必殺が魚雷の強みだ。それを捨てるこの行動は、やれてもやらないのが吉。

 

「艤装に接続してるからか。武装までお前の思い通りだ。本来やれないことまでやれちまった。マジで暴君だな」

「それ誰から聞いたの」

「夕立から。陽炎は女王様だって言ってたぞ」

 

 アイツめ。次に会ったら苦言を呈しておこう。

 

「じゃあ、後はお前の腕しかないな。艤装は言う通りに動いてくれてんだ。指揮官が無能だと意味がない」

「う」

「動いてる的に当てられない。そもそも艤装に接続されてない主砲がまともに扱えない。それはお前の腕が足りないからだ。理由は簡単だな。経験が足りなすぎる」

 

 経験に関しては当然のこと。それ故に、あらゆることをやっていき、どんどん身につけていくことで経験とする。今回の件も、先に主砲をやっていたから上手くいった部分が大きい。経験が身になっていると思える。

 

「今日は丸一日雷撃訓練って決まってるからな。いや、まさかこんなに早々に次の段階に行けるとは思わなかった。暴君様々だ」

「暴君って呼ぶのやめてくれない……?」

「いいじゃないか。カッコいいと思うぞ。菊月辺りは確実に食いつくな」

 

 厨二センスはよくわからない。私には暴君という呼び名は蔑称以外の何物でもないと思うのだが。それを喜ぶ者もいるかもしれないが。

 

「沖波と同じ訓練に移るか。自走する的に当てろ、以上」

「あ、やっぱりそうなっちゃう」

「当然だろ。敵は止まっちゃくれないぞ」

 

 ごもっともである。沖波も苦笑していた。

 

 そこからは動いている的への雷撃。あの的、ラジコン式で木曾さんが操作出来るらしい。なんとコントローラー付き。夕張さん手製だそうだ。

 準備が出来たということで早速スイッチオン。すると、それなりの速度で的が動き出した。木曾さんが動かしているからか、割と不規則な動き。あれは一応深海棲艦らしい動きを再現しているとのこと。

 

「ヤツらは知性がある。普通に魚雷を避けようとするからな」

「あんなバケモノみたいなヤツでも?」

「本能なんだろうよ。どんなヤツでも死にたくはない」

 

 確かに。私達だって死にたくないから避ける。頭が良かろうが悪かろうが、命の危険が及ぶことは、避けられるものなら避けるだろう。わざわざ直撃を受けたがるとか何処のドMか。

 そういう意味ではヤツらも私達と同じで生物なのだと実感出来る。そんなヤツらが侵略しに来ているかと思うと気分が悪いが。

 

「よし、じゃあやるぞ。沖波、手本見せてやれ」

「はい」

 

 私にはイメージの力を培う必要があると、まずは上手くいっている場面を見せてくれる。

 動き回る的に沖波自身も動きながら狙いを定め、的よりも少し離れた前方辺りに発射。的は急ブレーキをかけるが、そのせいで4本の魚雷のど真ん中で立ち止まることとなり、回避不能となって1本が直撃した。

 

「まぁこれがレベル1ってところだ。不規則だがズルい動きはしていない」

「なるほど……少し前の方を撃つってわけね」

「進行方向を予測するんだ。それに俺達もそうだが、深海棲艦は急に止まらない。ブレーキかけて次の進行方向を考える時間ってのがある。今はこうやったが、急加速して擦り抜けるなんてヤツもいるからな」

 

 沖波がうんざりした顔を見せていた。この前ハードだったと言っていたのは、このレベルが高いものに当てるというヤツだ。不規則且つズルい動きでちょこまか動く的に命中させると。

 

「頑張って。木曾さん結構ズルい動きさせてくるから」

「うん、さっきの口ぶりからして何となくわかる」

「おいおい、俺はお前らに育ってほしいだけだぜ?」

 

 ケラケラ笑うが、この訓練が過酷なものになるのは既に想像がついていた。

 

 結果的に、午前も午後も動く的を追いかけ回して魚雷を当てるという訓練で敷き詰められる。当てたらレベルアップして、より小狡い動きを足していくという感じ。

 沖波がハードと言っていたのがよくわかった。当たるまで終わらない。そして当てさせる気が一切無い。訓練が長引くのは仕方ない。

 

 それでも強くなっていくのが理解出来る。私の艦娘人生は充実しているだろう。

 




陽炎の魚雷発射モーションはアーケード準拠。指差した先に魚雷を飛ばす感じがとても可愛い。
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